閑話 国境の木
オロール国の西
国境近くに大樹のある都市がある。
幹も葉も黄金色に輝く大樹である。
大きさも巨大で、大樹の外周は大きな家以上あり、
大樹から伸びる枝は都市全体をすっぽり覆うほどあった。
この大樹、
都市が出来る以前よりこの場所にあり、旅人を癒してきた。
大樹の傍で休んだ旅人の前に大樹から蔓が下がり、
その先には一つの果実が実る。
大樹は旅人に恵みを与えのだ。
この恵みは旅人が休んだ時だけに与えられた。
その上、与えられた果実には奇跡が宿っていたのだ。
疲れた者を癒すだけでなく、怪我をした者の体まで直す。
不治の病の治療を求めて旅する病人の治療する。
この大樹が行った奇跡は数えきれないぐらいあった。
この奇跡を起こす大樹の周りには何時しか人が集まるようになった。
人が集まると、家が建ち、村が出来る。
不思議な事にこの大樹の恵は旅人だけに与えられ、
大樹の近く住み着いた村人に与えられることはなかった。
それでもいつしか村は大きくなり町と呼べる大きさになる。
だがある時、邪な男がこの大樹を独占しようと画策した。
国の貴族や兵を使い旅人に与えられる大樹の恵みを横取りして大儲けを考えたのだ。
他の者が近づかない様、大樹の周りを屈強な兵士たちで囲む。
大樹の恵みを自分一人が受け取るように画策したのだ。
だが、大樹はこの男に果実を与えることはなかった。
男は手下を旅人に扮装させるが果実は手に入らない。
大樹に偽装工作は通じなかったのだ。
一向に大樹の恵みが手に入らない事に業を煮やした男は、
実際の旅人から果実を取り上げることを考える。
果実を受け取った男に法外な金銭を要求し、
払えない男から果実を巻き上げたのだ。
だが、大樹の恵みといえる果実は受け取った旅人以外の物の手に渡るとすぐに腐り落ちた。
男は果実を手に入れようと様々なことを企むが何一つ成功しない。
その内、その男の姿は見られなくなった。
”夜中に蔓に巻かれる男の姿を見た”とか”男の悲鳴を聞いた”と言う話があったが、
真実のほどは定かではない。
その後も何人か、この大樹を独占しようとするものが現れたが、ことごとく行方不明になった。
大樹の周りの囲いは取り外され、
旅人が大樹の恵みである果実を自由に手にする事が出来るようになった頃
南の国や西の国と交易が盛んになるにつれ、この場所の重要性が増していった。
それ以外にも当時の領主が政策として、
大樹の恵みを自由に受け取れることにしたのが大きかったのだろう。
徐々に人が集まり、町が都市に変わる。
いつしかこの都市は黄金色に輝く大樹の都市と言う意味で
黄金樹と呼ばれるようになった。




