最悪なのはあの世に行っている場合か
報告書が正しければ、
最近の二、三年、魔導帝国から来た者はいないという事になる。
魔導帝国に行った者も何らかの理由で帰れないのだろうか?
僕は報告書を読み進める。
オロール王国自体も密偵を送っているとある。
が、成果は芳しくない様だ。
その状況を打破する為、冒険者としての僕たちに白羽の矢が立ったという事の様だ。
ゼフィールもスカディ先生の依頼書を見ている。
「いきなり危険度の高い魔導帝国ですか!」
その声に呼応してミハイルが
「困難な任務!強大な敵!莫大な財宝!助け出されるヒロイン!」
「・・・、燃える展開ですね!!」
ミハイルとゼフィールは困難な依頼に意気投合している。
いやいや、君たち財宝も無いし、ヒロインとかいないから。
強大な敵もいない方がいいよ。
「しかし、ここの報告書の内容だと魔導帝国は今でも戦争中という事なのか?」
一攫千金を狙う商人が密偵に間違えられ足止めされるのはよくある事だ。
それは足止めされるだけで、入国が許可が下りなければ戻ってくるだろう。
戻ってこないのは許可されたが帰って来られないか、
道中盗賊に襲われもう既にあの世に旅立っているかのどちらかだろう。
「最悪なのはあの世に行っている場合か・・・。
一攫千金を狙う商人が通りそうなルートはどこだ?」
僕は地図を広げ確認する。
地図といっても町や村をつなぐ道を書いているだけの物で
精度のいいものでは無い。
ここに載っている以外の道、裏道があるかもしれない。
「裏道を使うと早いかもしれないけれど、
今回は遅くても大きな街道を通りましょう。」
ジュリアが地図に太い線で描かれた道を指差した。
「盗賊のことを考えれば大きな街道の方が安全だな。
道が広いし、開けているので視界が通る。
これなら余程のことがない限り奇襲を受ける事はないでしょう。
僕達は商人に偽装しますから盗賊の奇襲も考えなくては・・・。
王国内はそれで良いとして、帝国内はどうします?」
「帝国内はこの道が帝都に繋がっています。
この道を使いましょう。」
「この道ですか。
と言う事は前日は国境の街ハロで宿泊ですね。」
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王国内の主な道は石材で舗装されている。
国境の街ハロを過ぎ、国境の砦を越えると道が悪くなり、
馬車の揺れがひどくなる。
魔導帝国への道は人が通らない為、舗装されていないのだ。
僕たちは舗装されていない道を大型の馬車、所謂、幌馬車で移動していた。
いつものジュリアやミハイルの他、シオリやマロリオン、西風商会のゼフィール、
猫型獣人族のキョウカ、狐型獣人族カエデが乗っていた。
しばらく進むとキョウカが手を挙げ馬車を止めた。
地面に何かの跡を見つけたらしい。
斥候としての目で極わずかな違いも見分ける事ができる。
キョウカは地面に顔を近づけ更に詳しく調べている。
「見てみいな、ここに轍の跡があるで。
この深さからすると、二月ほど前に通った様やな。」
残念ながら彼女が指差す轍の跡は僕には判らなかった。
報告書で確認すると、二月ほど前に商人のレッジが砦を通った記録がある。
キョウカが見つけた轍はレッジの荷馬車の物だろう。
その荷馬車の轍の跡は先へと続いているようだ。
僕達は少し速度を落としながら、馬車を進めた。
この辺りは開けていて見通しが良いが周囲への警戒も怠らない。
その日は轍の跡を発見したぐらいで特に問題は起こらなかった。
翌日、早朝から出発する。
昨日ゆっくり進んだ分今日は朝早くの出発だ。
この分だと明日の昼ぐらいには魔導帝国の街に着くだろう。
しかし、それよりも早く問題は発生した。
国境の峠の道
その脇に少し古びた馬車が停められているのを発見したのだ。
一つでは無い。
少なくとも3台の馬車が目にとまる。
“少なくとも”と言ったのは、馬車に見える物が3台という事だ。
崩れて原形をとどめていない物を含めると、倍近くになるのでは無いだろうか?
「全員警戒。ニコラ、頼めるかしら?」
ジュリアが仲間に注意を促し、僕に馬車の調査を頼んできた。
と、言っても直接見るわけでは無い。
ギフトの“収納”を使い馬車の様子を調べるのだ。
僕は銀の盾を扇状に変化させ前の方に展開する。
「馬車の周囲に生きている人は居ません。」
僕のギフトである“収納“は銀の円盤がその入り口になっている。
その円盤に入らない物を対象に設定して、入れようとした時に反発する。
反発時の力は円盤に入れようとした時の力が元に返るのだ。
力の一部は僕自身にも伝わる。
僕はそれを利用して、少し遠くの対象を調べる事ができた。
今回の対象は生きている人だ。
続いて別の対象を収納しようと試みる。
「周囲に死体は・・・」
その時、帰ってきた反応に僕は思わず大声を上げた。
「死体の反応があります!数は不明!
いや、数えきれない!」
今いる所からだと見えないが、馬車の後ろ、
魔導帝国側にかなりの数の死体が転がっているようだ。




