神官長は講義をした。
趣味は昼寝。特技は睡眠。
そんなラブラシア第一王女シェーラはこう見えても癒やしの魔法が使えたり……
「しません」
バッサリと神官長は言った。白髪の、厳しい顔をした老女である。
王さまの命により、現在シェーラに集中講義中だ。
「簿記検定じゃないんですから、徹夜で勉強したところでどうにかなるもんじゃありません。どうにかなるようだったら、医者も神官も葬儀屋も要りません」
「わたくしも、そうおもっては居るのよ? だから毎晩早く寝て、お昼前には起きるようにしているの」
「姫さまは寝すぎですけどね」
「そんな! 旅立つことが決定してから、わたくし昼寝の時間を一回に減らして頑張ってると言うのに!」
パシーンとブルーナのツッコミが入る。
「ともかく、このままではどうしようもありません。魔王退治はおろか、旅立たせるのも不安です」
「全くだわ。アナタからもお父さまに言ってやってちょうだい。もう、わたくしの言葉なんて聞いてくれなくて……」
「しかし、王の仰る事も最もです。率先して王族が旅立つのは理にかなってると言えるでしょう。そして、現在一番暇な王族は間違いなくシェーラ王女、アナタです」
「があああん」
びしいと教鞭でもって示す神官長。それに頷くブルーナ。
「姫さまはタダ飯食らいでした」と、ブルーナが頷く。
外では小鳥が歌い、ネズミが横切った。
「わ、わたくしだって羊の番という大役を毎日こなしていましたのにぃ」
「その仕事は既に城下の子どもたちに回しました」
「さ、皿洗いもしていましてよ」
「宮廷魔術師たちが全自動食器洗い乾燥機の開発に成功しました」
「うう……わたくしのお仕事……」
完全に失業してしまった。
シェーラに残るのはあとは王女という身分だけ。
「と、言うわけで早速ですが王女殿下には裏山を目指してもらうことにします」