第五話・ナンパの撃退法?
少し中途半端ですが第五話です。
うーん、ごくごく普通のお話ですね。
再リメイク版に差し替え、内容的にはまだあまり変わってませんが……
僕たちが向かったのは近所のスーパー、特に話題の商品やブランド品などのある店ではないが、たいていの品物がお手頃価格で手に入る良心的なお店だ。
まあ家を出るまでにあれから一時間、みっちり「女の子の準備」とやらで待ちぼうけを食ってしまったけど。
まあお化粧から髪のお手入れ、着替えのチョイスと色々大変なんだろう、化粧までしてるかどうかは知らないけど。
「お待たせ♪」
「お、おう!」
出てきたシエリは群青色の髪をアップにくるくるとまとめ、クリーム色の上品なロングコートに黒いミニタイトスカートといった装い。足には白のオーバーニーソに愛用の黒いロングブーツ、一月だからまだ寒いしね。
「お外はちょっと風が強そう……かな?」
一人呟き部屋へと戻ると、今度は赤い手袋なんて着けてきていたり。
女の子のファッションって大変なんだね。
「それじゃ、れっつごーっ!」
「いや、それ英語になってないぞ?」
とか突っ込んではみるけど、無邪気にはしゃぐシエリはやっぱりかわいい。かわいいからまあいいか、なんて思ってしまうのはやっぱり兄の贔屓目なのだろうか?
とにかく、変な奴に捕まらないためにも明るいうちに買い物を済ませてしまおう!
「えーっ、こここんな物しかないのぉ?」
「ディスカウントスーパーだからこんなものさ!」
「ブルーマウンテンのドリップコーヒーないかなぁ?」
「贅沢は敵ですっ!」
「お兄ちゃん、いつの時代の人なのよぉ?」
「ほっとけよっ!」
とかなんとかボケツッコミやりつつも、ひとまず差し障りの無い食材を買っていく僕。父さんと二人きりの生活が長かったせいか、この買物もすっかり板についちゃったなあ……って?
「おい、何をやってる?」
「お菓子買い込んでるんだけど?」
気がつくと僕の抱えている買い物カゴの中には、僕の放り込んだ肉や野菜の倍をはるかに超えるスナック菓子の山。
頼むからやめて! そんなに買い込んでると明日から水とお菓子だけ食べて生活しなきゃならないから!
「ううっ……!」
「どうした?」
「これ、全部返さないとダメ?」
返して来いと命令すると、何故かシエリはうるうるとした眼差しでジーっと僕を見つめてくる。
も、萌えそうになるけど、ここは心を鬼にしてガマンガマン! そしてじろり! と睨み、僕は聞く耳持ちませんの態度を示す。
「ううっ、けちぃ……」
半べそになりながらスナック菓子を両手に抱え、妹がとぼとぼと棚に返していくのをじっと見つめる。ちょっとだけ冷たすぎたかな? せめて二つか三つくらいは買ってやっても良かったかもしれないね。
思い直してそっと手招き、まるで小さな子供のようにとてとてと駆け寄り、不思議そうに僕を見つめてくるシエリがいる。
「食べたいやつがあったら三つまで買ってやるから」
「ホント!?」
途端にキラキラモードになり、満面の笑み。やばいよこれ、僕じゃなかったらとっくの昔に萌え死んでるって!
「じゃあ……これとこれと、これ♪」
チョコにポテチにクッキーと色々買い込んだけど、よく見たらどれも高カロリーなお菓子じゃないか、コーヒーはブラックで飲むくせに太るぞ?
もうご機嫌そのもの! と言った表情で僕に腕を絡ませ、終始笑顔のシエリ。その彼女に感化されたのか、すれ違う主婦たちも妙に嬉しそうだ。
大人しくしてる限りはひたすらかわいいのも確かだしね!
「さてと、今日はこんなところかな?」
「ブルーマウンテン……グスッ」
いや、まだ少し不満は残ってたか。仕方ない、父さんが仕送り送ってきたら一パックくらいは買ってやるか。
「やあ君たち、ちょっといいかな?」
「ダメです!」
「そこをなんとか!」
「無理なものは無理!」
「無理を曲げてお願い!」
「絶対にイヤだっ! あんたなんて大っ嫌いっ!」
「ガーン!」
「分かった? 分かったら二度と来ないでっ!」
なに? 今の会話は僕とぽっちゃりしたお兄さんとのやり取りだけど?
にしても中学生くらいからこういうのしょっちゅうあったから、撃退もお手のものだね!
「……」
「シエリ? どうかしたのか?」
「お、お兄ちゃん凄いかも……!」
「どこが?」
「ナンパ撃退であそこまで冷酷に返すなんて、普通の女の子じゃできないよ?」
「僕は男だからな、男と付き合う気はこれっぽっちも無いんだよっ!」
「つまり……告白して来た人ってみんな男の人だったんだ、だから振るのが得意なのね♪」
「頼むからそれ言わないでくれよぉ!」
くっそーっ、また思い出しちまったよ。僕の暗黒史に終止符を打つつもりだったのに!
レジを済ませ、手早く荷造り。こういうときこそ便利でお得なマイバッグ! いや、つまらない宣伝でした……
「今夜のご飯は何かなぁ?」
「カレーライスだよ、少し多めに作るから明日も、だけどな」
「あたしカレー大好き! だからお兄ちゃんも大好き♪」
「ありがとさん」
そんな話をしながら店から出ると
「ねえねえ彼女、僕たちと一緒に遊ばない?」
「いや、僕と真面目に付き合って!」
「君には僕がお似合いだぜ!」
ずらりと待ち構えていたナンパ男たち。その数総勢二十人、といったところ?
「生憎だけど間に合ってますっ!」
「いや、吊り目のボーイッシュな君も悪くないけど、今一番用があるのは隣の君! メアド交換しようよ!」
「え? あたし? やだよぉ! ママから知らない人と付き合っちゃいけませんって言われてるもん!」
イケメンナンパ野郎の誘いにもじもじしながら、やんわり拒否するシエリ。フムフム、これが女の子の……じゃないっ! 僕は男だ! 女の断り方なんて参考にしちゃダメなんだーっ!
「じゃあ今からお知り合いになろうよ! そうしたら知らない人じゃないからさ!」
「やだよぉ、だってお兄ちゃんと一緒じゃなきゃ怖いもん!」
なんて言いながら僕の方をジーっと見るシエリ。だから僕の意志は何言われたって変わらないんだから!
その強い意思表示をするために、僕はわざとそのイケメンをこれでもかというほど睨みつける。
「お、お兄ちゃん? お姉ちゃんの間違いじゃ、な、ないのかな?」
たじっとしながらシエリに聞き返しているイケメン。他の連中は僕のことを何か腫れ物にでも触れるようにこわごわ遠巻きに見ているだけ。
「こんなかわいい子が男なんて……」
「あ、ありえないよなあ、ははは……」
いや、乾いた笑い声はやめてくれ。僕が虚しくなるから。
「お、お兄ちゃんは……お姉ちゃんだもの……」
「……は?」
次の台詞できょとん、としたのは僕。いや、だからお兄ちゃん=お姉ちゃんという理論が理解できないんだよ。
ナンパグループともどもシエリの次の言葉をじっと待つ。
「だって、ゴスロリドレス着て、私を襲ってきた悪者たちを泣かしたの、お兄ちゃんだよね? 女の子に変身して」
「な、ななな何言ってるんだよっ! それ、昨夜見たっていう夢のお話だろ? 僕は変身とか、ゴスロリドレスとかそういうのしないって!」
妹の発言を必死に否定する僕だけど、ナンパグループたちはジト目で僕を怪訝そうに睨んでいる。
みんなの目が「こんなかわいい子が言うんだからそうなんだろ? そうだと言えよ! そして変身してみせろよ!」って訴えている。
「だーかーら、違うってばっ! 全部こいつの勘違い!」
ってかシエリ、僕が変身したときは気絶してたじゃないか! なんでそのこと知ってるんだよ?
ジロッと横目で睨むと、てへっ♪ と舌を出して悪戯っぽく笑うシエリがいる。そして……
「「「も、萌ええぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」」」
何故か一斉に籠絡されるナンパグループ。妹のやつ、わかっててわざとやってるな?
あと……昨夜も気絶したふりして僕のことを観察していたに違いない!
ううっ、恥ずかしいぞお兄ちゃんはっ! 愛してやまない妹にあんな姿を見られるなんてっ!
ともかく、そのナンパグループに丁重にお引取り願うのにかなりの時間がかかったのは確かなんだけどさ。
おとなしめのお話ですが、とりあえず出だしなのでね。
お読みいただき、ありがとうございました。