第四話・実は料理が?
だんだん僕の妹の本性が明らかに。
うーん、僕の妹は一体何なんだろう?
「あちゃー……」
帰宅した妹の第一声は、いかにも残念そうな嘆息。
せっかく買ったもみじ饅頭のうち一箱が、あの誘拐未遂事件で綺麗さっぱり潰れていたんだ。
「これ、食べられないね?」
「さすがに無理そうだなあ」
見事なくらい綺麗に潰れ、フィルム包装の中でもぐちゃぐちゃな様相を見せている。味くらいなら分からないこともないだろうけど、見た目がアレなので食欲なんて期待できないね。
まあ二人とも何とか無事だったんだから、この際目をつぶるべき些細な出来事と見た方がいいのかも。
「けど……」
僕を見つめるなり途端に無口になるシエリ。見るとアメジストの瞳がひどくうるうるしていて……
「お兄ちゃんのバカッ!」
叫びながらいきなり僕に抱き着くシエリ。想いの丈を大量の涙で表わし、縋るような眼差しを僕に注ぐ。
「あたし、心配したんだからねっ! すっごくすっごく怖かったんだからねっ!」
「ごめん……」
「お兄ちゃんが無事だったから許してあげるけど……」
目を真っ赤にして上目使いに僕を見つめ、涙という宝石を惜し気もなく僕の胸に浴びせ続けるシエリ。だ、ダメだよ、そんなかわいい顔で見つめられたら、僕の理性ががが!
「……もうあんな無茶したら、あたし許さないんだからっ!」
「それもごめん」
「けど、ホントありがとう。お兄ちゃん、あたしを守るために頑張ってくれて。やっぱりお兄ちゃん、大好き♪」
やさしい笑みを涙で飾り、妙に艶っぽく訴えるシエリは、思った通り破壊力抜群だったわけで……
「シエリぃっ!」
「あ、ダメッ! あたしたち兄妹なんだよっ!?」
……あっ! やばいやばい、ここは精神統一、ヒッヒッフウッ……
「それ、ラマーズ法! 女の子が出産するときの呼吸法だよ?」
「あれ? そうだっけ?」
完全に舞い上がっててそこまで頭が回らなかったよ!
「うふふっ」
「あはは」
体を離して少し笑い合うと、あの怖かった一部始終が夢のように思えてくる。
よしっ、決めた! 僕頑張るよ! このシエリの笑顔のためには何だって……女装だってしてみせるっ!
「でも疲れ過ぎちゃったかな? お腹すかないね?」
「ああ、じゃあお風呂だけ入って寝るか?」
「うん、でもその前に」
そこで僕の顔を訝しむようにじっと見つめたシエリに、思わず僕は姿勢を正す。
「お風呂覗いたりしたらあたし、お兄ちゃんのこと嫌いになるからねっ!」
「りょ、了解っ!」
うわあ、ジト目で睨まれちゃったよ! こいつけっこう怖いかも?
も、もももちろん覗きなんてしなかったからなっ! 脱ぎたての下着以外……あっ! ダメダメッ! 白い下着だったなんてばらしちゃダメだってばっ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
チチチ……
小鳥たちの囀りにまどろみタイムを邪魔され、少しだけ不機嫌になる僕がいる。
もちろん昨夜はとっても健全な夜を別々の部屋で満喫したから! お陰で僕の下半身は今、とんでもなく立派になってるけどさ。
……ボンッ!
「きゃあっ!」
えっ? 今のはシエリの悲鳴じゃあ……!
慌てて飛び起き、パジャマのまま声のした方へ向かう。確かに一階のキッチンから聞こえたはず!
「シエリ! 大丈夫……!?」
「グスッ、お兄ちゃん……!」
見るとそこには煤けた顔でへたり込み、今にも泣きそうな顔で僕を見つめているシエリがいた。
IHクッキングヒーターの上に置かれたフライパンからは真っ黒い煙、彼女をこんな姿にした犯人は、どうやらこいつらしい。
ピッ
スイッチを切って中を覗くと、そこには真っ黒に炭化した……これは?
「これ、何?」
「目玉焼きぃ……」
う、嘘だよな? 目玉焼きといえば料理では初歩の初歩、難しいものではないはずだけど。
「ホントに目玉焼きか?」
「うん……」
涙をぽろぽろこぼしながら頷くシエリ、確かに形は目玉焼きのように見えないこともない。
「グスッ、せっかくお兄ちゃんのために頑張ってたのにぃっ!」
しゃくり上げながらも訴えているシエリに、僕は返す言葉が見つからない。
「うええええんっ! あたし、もうこんなのヤダーっ!」
おいおい、泣くことないだろ? まあその顔もすごくかわいいんだけどさ!
「よしっ、あとは任せろっ!」
お兄ちゃん、ヤル気……じゃなくてやる気出ちゃったからねっ!
「……心の声、ダダ漏れだけど……?」
「えっ!?」
先程の姿勢のまま、今度はジト目で僕を睨んでいるシエリ。
群青色の髪を後ろでポニーテールに纏め、上はラフな白いTシャツにグレーのミニ丈プリーツスカート、ボーダー柄のオーバーニーソ、あらわになった絶対領域がすごく眩しいですっ!
ゴクリ……
「お・に・い・ちゃ・ん!」
「は、はははいっ!」
「お兄ちゃんのえっちっ! 大っ嫌いっ!」
ガーン!
シエリから大嫌いなんて言われちゃったよ! この先僕は何を支えに生きていけばいいんだよっ!?
「うわああぁんっ!」
「お兄ちゃん!?」
思わず膝をついて泣き出した僕に、あからさまに動揺しているシエリ。何かを探すような、それでいて救いを求めるかのような目線を宙に泳がせ
「ごめっ! 今の嘘っ! あたしお兄ちゃんのこと大好き! うん、大好きだから、ねっ? だから泣かないでよっ!」
「クスン……ほんとに?」
「うんっ! ホントだよ?」
「ホントのほんとに?」
「ホントだってばっ! だから……」
意を決したようににじり寄ると、僕の頬に手を添え
チュッ!
僕の唇に軽いキス!
「わああっ!」
「ねっ? あたしもう怒ってないから! だからお兄ちゃんも……ねっ♪」
甘ったるい笑みを顔いっぱいに広げ、やさしく囁きかけるシエリ。ダメだっ! そんな顔されたら萌えてしまうってばっ!
「……でも、やっぱりお兄ちゃんってえっちなんだあ!」
「え……?」
言われて初めて気づく。妹の視線が僕の猛烈に元気な煩悩に注がれていることに!
「男の子って、適度に発散しなきゃダメなんでしょ? お兄ちゃんなら、その、あたしをオカズにしても許して……」
「わーっ、待て待てっ! お前何言ってるんだっ!?」
「何って、オ○……」
「言うなーっ!」
いきなりなんてこと言い出すんだよっ! これ以上言ったら公開禁止に……じゃなくて! イケない関係になっちゃうじゃないかっ!
「と、とにかくっ! しばらく料理は僕が作るからっ! お前はとりあえずダイニングテーブル拭いて皿並べといてくれ!」
「そうだね、お兄ちゃんがそういうなら……」
にしても目玉焼きって、そんな難しい料理だったかな?
疑問に思いつつ自分でチャレンジ、スライスハムの上に卵をポンッ、蓋をして蒸らすことしばし……
香ばしい香りを漂わせつつ、あっさりできる二つのハムエッグ。
うーん、どこで失敗したんだろ?
「お兄ちゃんすごい!」
「どこが?」
「目玉焼きがハムエッグになってるっ!」
「いや、普通そうしない?」
「そうするものなの?」
あっさり普通に答える僕に、いちいち驚嘆しているシエリがいる。もしかしてこいつ、アメリカじゃ料理したことないとか?
うーん、ママと一緒に住んでたんだし、ないこともないと思うけど……
「お前、向こうで料理習ってた?」
「習ってないよ?」
「……だよなあ、習ってたらこれくらい出来……って、習ってないぃっ!?」
「そうだけど?」
逆に驚愕している僕に小首を傾げ、不思議そうに見つめてくるシエリ。いや、それ普通有り得ないだろ?
「いったい向こうで何やってた?」
「えと……ファッションモデル?」
「え……!?」
それじゃ、家事は一体誰がしていたんだ?
ママは超多忙なモデルだし……
「向こうじゃお手伝いさん雇ってたなぁ、ママも私も超忙しかったから」
「マジかよ!?」
それじゃあ日本で慎ましく暮らしてた僕と親父って、一体何なんだ?
家だってあまり立派なものじゃないし、家事も父子交代でこなしてたし……
「まぁ、この世の不条理ってことで♪」
「ちょっと待て、なんで僕の思ってたことがすべてわかるんだよ?」
「なぜって、ずっとブツブツ呟いてたよ?」
「そ、そんな……!」
がーん! これじゃ僕たち、何のために苦労してたんだよぉ!
「とにかく……食べよ? ハムエッグ冷めちゃうよ?」
「あ、ああ……」
食パンをレンジで温め、バターを付けて、と。飲み物はコーヒーでいいよな?
僕は甘党だ。コーヒーにはクリーミングパウダーと砂糖が欠かせない。
「ちょっと待っ! あちゃあぁぁぁ……」
「どうかしたのか?」
「砂糖入れちゃった……シクシク……」
「コーヒーに砂糖って普通じゃないか?」
「糖分の摂り過ぎは太るんだよぉ! パンもハムエッグもカロリー高いし!」
「これくらい良くない?」
「やだっ! 太ったらモデルできなくなっちゃうっ!」
男なら「これくらい」と思うことでも女ってのは気になるんだなあ。仕方ないのでシエリのために淹れたコーヒーを捨て、好きなように作らせようとすると
「あっれえぇぇ? お兄ちゃん、ブルーマウンテンコーヒーないの? ドリップするやつ!」
「うちにあるのはその粉末コーヒーだけだが?」
「うっそーっ!? 信じられないっ!」
悪かったね、うちは貧乏だから三本でいくらとかいう超安売りインスタントコーヒーしか買ってないんだよっ!
なおもブツブツ不平を言ってるシエリを無視し、僕はそそくさとパンとハムエッグを口に流しこむ。
「ごちそうさま!」
「え? あたしまだ何も食べてないのにっ!」
「拘ってたらいつまで経っても飯食えないぞ?」
「ううっ……」
半分べそをかきながらインスタントコーヒーをブラックで淹れ、シエリは顔をしかめながらパンとハムエッグを口に運ぶ。
いや、不味そうな顔しなくてもコーヒーが不味いのはよく知ってるからさ。
「ううっ、ごちそうさまですぅ……」
「おそまつさん!」
「せっかくハムエッグ美味しかったのにぃっ! コーヒーで台無しだよぉ!」
「そりゃどーも!」
なおもグズるシエリを無視して自室に戻り、手早く着替えを済ませる僕。まあ今日は普通にお出かけだからラフなジャンパーにジーンズだけど。
「どこか行くの?」
「お買い物!」
「え? なになに? 何買うのっ!?」
「晩飯の食材だよ」
「じゃあ……あたしも行っていい?」
甘えた子猫のような表情を浮かべ、シエリが紫水晶の瞳をうるうるさせて上目遣いに僕を見る。
いや、いいけど、いいんだけど、その眼差しは萌えてしまうってばっ!
「いいけど、早く準備しろよな!」
「やたっ! お兄ちゃん大好きっ♪」
今思えばこれが新たな事件のキッカケだったのかも知れないな。
さて次回のスピカさんは!
「えと、シエリです。なんか本編では散々言われてるけど、あたしだって女の子なんだよ? だからあんなことやこんなこと、果てはあーんなこともできちゃうんだからっ!」
「シオンですっ! だからやめろ! その言い方は読者が変な誤解するだろ!?」
ではお後がよろしいようで♪
再リメイク版に差し替え済み。
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