第一話・水色メイドの女装戦士?
再リメイク版・一応正式版にする予定の第一話です。
ここでメインキャラのシオンくんより伝言
「こんな格好して、こんなことまでやってる僕だけど、変態なんかじゃないんです、だからみんな……白い目で見ないでっ!」
だそうです。
男は歩いていた。
薄暗くなった街の裏路地を。
木枯らしが強く吹いているにも関わらず、筋骨逞しいその男が身に着けているのは、黒いビキニ風スイムパンツただ一つ。そして顔には、ファンシーでかわいらしい白ネコのお面。そして……その腕の中にはけたたましい警報を鳴らし続ける巨大な金庫!
「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」
前後を取り囲んだ数人の警察官は、既に拳銃を構えて何時でも撃てる体勢だ。しかし男はたじろぐどころか真っ直ぐ警察官の方に向かって来るではないか!
「いいぜ、撃てるものなら撃ってみろよ?」
挑発的な男の言葉に、逆上した一人の警察官がつい手に力を込める。
パァンッ!
乾いた音とともに撃ちだされた鉛の弾は狙い違わず、まともに男の胸を捉えていたのだが……
カンッ!
次の瞬間には硬い音を発して潰れ、力なく地面に落ちた。
「なんだこいつ、化け物かっ!?」
「とにかく撃てっ! 撃ちまくれっ!」
恐怖に駆られた警察官たちは、狂ったように拳銃を撃ち続ける。が、弾は男にかすり傷ひとつ追わせることもなく、ただ虚しく地面にこぼれ落ちるだけ。
「邪魔だ、そこをどけよ!」
恐怖のあまり弾を撃ち尽くしたことも忘れ、引き金を引き続けている警察官たち。それらをまるで石ころのように押しのけると、男は悠然とその場を立ち去っていった。
金庫の放つけたたましい警報音とともに……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「パトスが足りないわ! パトスをちょうだい!」
悲鳴に近い声で、そろそろ中年にかかろうかという長身マッチョが叫ぶ。
低く野太いオネエ言葉、彼の着ているのはここまでするか? と思うほどスカートの丈が短い、シンプルな空色のアリス風メイド服。
レトロな雰囲気のワンピースにフリルをあしらった白いエプロンの組み合わせは、熱血教師風の彼の角張った顔とオカッパ頭のボサボサ赤毛には全く似合ってない。それ以前に露わになった毛深い太ももを見た時点で、通行人達は苦悶の表情を浮かべてその目を背けているのだけど。
夕焼けに映える幹線道路、通勤車でごった返す道路をせき止めて対峙する、二人の長身マッチョ。
敵であるもう一人は黒いビキニ風スイムパンツにファンシーでかわいらしい白ネコのお面を被った一風変わったスポーツマン。幾分数が減っているとは言え、まだ数人の「漢」という字がでかでかと書かれた白覆面を着用したゴロツキどもを顎で使っている。
「どうしたのっ!? 早くパトスの補充お願いっ!」
「でも……みんなが見てます……グスン」
そう、春先の珍事に興味を持った通行人たちが鮨詰めギャラリーとなり、大小様々な声で僕たちに非難の罵詈雑言をがなり立てているんだ。ここであんな行為をしたら僕はもう、お嫁どころかお婿にすら行けなくなっちゃうよ!
「ゴスロリ・スピカ! あなた強くなりたいんでしょう? それともこれからも負け犬のように尻尾巻いて逃げ続けたいのっ!?」
アリスメイドの喝に僕ははっとする。そうだ! ここで逃げたら命より大切な僕の妹を守ることなんて出来ないのだと。
おずおずとフリルで飾りたてられた黒いミニスカートに手をかけ、覚悟を決めてガバッと裾を持ち上げる。僕のさらけ出したのは、女の子用のピンク色をしたキュートな下着、その中心ではこれでもかと言うほど自己主張をしている僕の煩悩!
色んな、そう、色んな意味でみんなの目線がすごく痛いです……ううっ……
「ぼ、僕のパトス、う、受け取って……下さいぃっ!」
悲鳴同然の叫びと共に起こした僕の行為に、ずざざっと引く野次馬たち、僕の瞳から溢れ出るのは、心の痛みを具現化したかのような滂沱の涙。
しかしアリスメイドは僕に向かって爽やかに笑い、サムズアップをしてがっしりとした胸を反らす。アリスメイドのミニスカートの前部分がむくむくと、再び変な盛り上がりを見せ始めている。だが本人はそれを少しでも気にしているんだろうか。
「受け取ったわ、あなたのパトス! あなたの犠牲は無駄にはしないわっ!」
「犠牲だなんて……ううっ……」
アリスメイドの感謝の言葉も、僕には何の慰めにもならない。もう落ちるところまで落ちてしまったんだ、割り切れば楽になるんだろうけど、生憎と僕にはその勇気すらないよ。
落ち込んでいる僕を尻目にアリスメイドは機敏な動きでゴロツキどもを沈め、いつの間にやらスイムパンツと一対一の睨み合いに入っている。
「あいつ、やっぱり男だったのか!」
「変態よ変態っ!」
「見た目はかわいいのにおつむは残念だな」
「キモいっ! 早くどっか行っちゃってよっ!」
「ねえママ、あのお姉ちゃんあそこがもっこりしてたよ? どうして?」
「こら! あんなもの見るんじゃありません! 変態が感染るでしょっ!」
「せっかく俺好みの女の子だったのに、男の娘だったなんて……」
周囲からの辛辣な罵声に力無くへたり込む僕。スカイブルーのロングウェーブの髪には白いフリルのカチューシャと太枠眼鏡、過剰なまでにフリルで飾られ、十字架をあしらった黒いミニ丈ワンピースにフリルのついた白いエプロン、ゴシックスタイルのお嬢様っぽいそれが僕の戦闘服だ。まあ今は戦っていないけど。
「ほぉら、ここがいいんでしょう?」
アリスメイドがスイムパンツのパンチをかいくぐり、背筋に指を這わせたと思うと、すうっとそれをなぞり上げる。スリスリと体にしなだれかかり、まるで愛しい相手に甘えるように。その影響で超ミニのスカートがめくれて極太の煩悩を隠す純白下着をさらけ出していたアリスメイドだが、へなへなと脱力して崩れ落ちたスイムパンツを認めると彼らの仮面を剥ぎ取り、声高らかに勝ち鬨の声を上げた。
「パトスは情熱! パトスこそ人間の活力! ゆえにパトスは正義なのよっ! オーッホッホッホ!」
決めポーズも決まり得意満面のアリスメイドだが、周囲の目線は全てが激しい怒気一色。
「うるさいっ! とっとと退けよ変態っ! うちに帰れねえだろうが!」
「変態! 二度と現れないでっ!」
「そうだそうだ! 目が腐ったらどう弁償してくれるんだっ!」
罵声と連動する数多のクラクションの響き、だがアリスメイドは意に介さず、たくましい顔にさわやかな笑みを浮かべて周囲に手を振っている。
「僕、もう帰っていいよね?」
変身が解けたらもっと恥ずかしいことになるし……と裏路地へ逃げ込もうとする僕の手をがっしりと捕らえる複数のごつい手。
「君、ちょっと署まで来てもらおうか!」
「は、はいぃ……シクシク……」
何人もの警察官に囲まれ、落胆の吐息を吐くしかない僕。
(シエリ、お兄ちゃんはまた一つ人の道を踏み外しました。これも全て、かわいいお前のためなんだからね……)
警察署に連行されながらも、僕はこれだけは譲れないと心に誓う。だけど……
「でもやっぱり嫌だよ、こんなヒーローっ……!」
神様っ! 僕に妹と二人だけで静かに生活出来る安住の地を下さい。でなければ、変身した時くらいかっこいい勇者か、それが無理ならせめてほんとの女の子にして下さいっ!
だって本物の女の子なら、ミニスカートから下着が見えても普通に恥ずかしい思いだけで済むのに……クスン……
そう、僕がこんな恥ずかしい姿を晒さなくてはならなくなったのは、去る一月のあれが直接の原因だったのかも知れない……
内容はあまり変わってないのに、かなり変態色が強くなっているような??
お読みいただき、ありがとうございました。