第二話・アメリカ帰りの美少女?
再リメイク版本編です。
ごく普通に再会シーンですけど、なにか?
「お兄ちゃん!」
聞こえてきたのはガラス細工の鈴のような、とても澄んだソプラノボイス。そして、駆け寄るなり僕の胸に飛び込む一人の少女。
キラキラと輝く明るい紫水晶の瞳に、雪のように染み一つなく白い肌。まだあどけなさは残るものの、神秘的なまでに美しくて、そして愛らしい乙女が僕の目の前にいたんだ!
「うわわっ!」
いきなり首に抱き着いてきた彼女は、思わずのけ反る僕にすうっと顔を寄せると
チュッ!
いきなり唇同士の軽いキス、僕は驚愕のあまりに完全に固まってしまい……
「い、い、いきなりっ、な、何するんですかっ!?」
「何って、ただいまのあいさつだけど?」
「あ、あれが、あいさつ? それに君は、誰っ!?」
寒さ厳しい冬休み末日の昼下がり。自動改札機が整然と並ぶ広い駅の構内で、身動きできずにいる僕と抱き着いたまま悪戯っほい笑顔を返す美少女。僕は今、この美し過ぎる天使に食べられてしまいそうです! 誰か、誰かヘルプ、ミー!
「って……お兄ちゃん、まさかあたしの顔忘れちゃったの?」
「え……マジで誰……?」
そう、僕は今日アメリカから帰国するはずの、たった一人の妹を迎えに広島駅まで来ていたんだった!
僕の妹、チンクシャ『シエリ』はどこにいるんだ?
キョロキョロ……
「お・に・い・ちゃ・ん……!」
「は、はははいっ!」
至近距離から僕をじっと睨むアメジストのつぶらな瞳、その透明感溢れる美しさに吸い込まれそうになりながらも、僕はようやく一つの記憶にたどり着く。
「その紫色の垂れ目って、まさかお前、シエリ!?」
「やっと気付いてくれたんだ……」
落胆したように肩を落とし、彼女はふうっ、と重い溜め息を漏らした。背の中程まであるツヤツヤ群青色のストレートヘアが、僕の目の前で寂しそうに俯いている。
まさか、まさかこれが三年前にアメリカに行った僕のチンクシャな妹だったなんて!?
「せっかく兄妹の涙の再会なのに、お兄ちゃん酷いよ!」
「ご、ごめん。まさかチンクシャだったお前がこんな大きくなってるなんて想像もつかなくてさ」
「ひっどーいっ! まだその呼び方するんだ! あたしもう十五だよ? 少しは大人になったんだよ?」
「あ、そっか! 今月は高校の入学試験だもんな!」
「そゆこと! 大人になってて当たり前でしょ? あたしはすぐにお兄ちゃんだって分かったのに、お兄ちゃんのイケずっ!」
「そうだな、あははは……」
妹のあまりの豹変振りに、渇いた笑いしか出ない僕。さすがに成長期の妹と三年会わなければ、こんなにも雰囲気変わるものなんだ!?
にしても化けたものだな、顔の造形なんて非の付けようもないほど完璧なんだから!
完全無欠の超絶美少女! 背は僕よりわずかに低く百六十ちょっと、僕同様に細身とは言えスタイルも悪くない。胸は……少し物足りないかもだがまだまだ立派になるよな?
白いジャケットにクリーム色のロングコート、短めのタイトなブラックレザーのスカートに黒いロングブーツとごくごくありふれた服なのに、なぜか周囲の目線が気になるような?
カシャッ!
カシャッ!
最近のデジカメは音にまでこだわってるんだなあ、って、デジカメ? それにフラッシュの嵐がなんで僕らに集まるんだ!?
「あっちゃーっ、気づかれちゃった!」
シエリはぺろりと舌を出して、小悪魔のように微笑むと
「ひとまず逃げよう!」
といきなり僕の手を取り人混みの中を駆け抜けて行く。
「なに? どうして? それにあいつら何なんだ?」
「あたしの追っ掛け、ずっと独身で通してたママの娘ってばれて以来、どこに行ってもあの調子なの!」
「マジかよ! お前、そんなに有名人になってたのか!?」
「アメリカでは人気ナンバーワンの美人中学生になってたり♪」
「まさか、嘘だろ?」
「ホントだってばっ!」
巨大な駅ビルの地下一階、店舗区画に入るとさすがに追っ掛けも僕たちを見失ったらしい。ほっと一息つくと、何やら隣からグウゥ、という音が。
「お腹すいちゃった♪」
「もうお昼過ぎだもんな、何か食べるか?」
「そうだね、広島といえばやっぱお好み焼き、かな♪」
「了解! ちょうどこの区画にもあるから寄ってみよう」
店内の大半を占める大きな鉄板のカウンター席に並んで座り、応対に出たおばさんに、二人で広島風でも定番の薄切り豚肉と中華そばの麺を挟んで薄焼き卵を載せた「肉そは玉」を頼む。おばさんが慣れた手つきで焼くお好み焼きの香ばしい香りが店内を包み込む。
店内は鉄板カウンター以外には小さな机と椅子がいくつかあるだけの狭いものだが、逆にそれは主人と客との親密度の証。主人夫婦や仲間たちと様々な雑談を楽しみながら店主のよどみない手際を観賞し、焼きたてのお好み焼きに特濃のお好み焼き専用ソースをかけて頬張るのが通の食べ方なんだ。
「お待ちどうさま!」
「お好み焼きって久しぶり! やっぱ広島といえばお好み焼きだね!」
「そうだな、近くにはお好み焼き専門店だけでできた店舗区画もあったりするからな」
「おやおや? 広島は久しぶりなのかい? それじゃあお姉ちゃんにしっかり案内してもらいんさい、まだまだいとこがあるけいね!」
「お、お姉ちゃん……!」
「あれ? 違うんね? 二人ともよう似とるけい姉妹じゃ思うたんじゃけど?」
「僕はお兄ちゃんです!」
「あーっ、ごめん堪忍してね! あんまり綺麗な顔しとるけん女の子じゃ思うてしもうたんよ!」
「あはは! やっぱりお兄ちゃん、相変わらず女の子に間違われてるんだ! ただでさえスカイブルーで目立つのに、ロングウェーブの編みこみヘアなんて紛らわしい髪型してるからだよ!」
「ほっといてくれよ! 僕はくせ毛がひどいから垂らしたら鬱陶しいし、短くしたら跳ねてみっともないんだよっ!」
「二人とも仲がいいんじゃねえ、これからも仲ようするんよ」
「そうそう! これからよろしくね、お・ね・え・ちゃ・ん♪」
「この服装のどこがお姉ちゃんなんだよっ! 怒るぞ!」
「お兄ちゃんったらぷんぷんしちゃって、かわいいんだからっ♪」
これでも僕は普通にチェックシャツにオーバーコート、ジーパンといった男の格好なんだけどなあ。
いや、マジでご機嫌斜めなんだから笑いながら頬っぺたツンツンはやめてくれ!
ちなみに広島風お好み焼きの美味しさは、やはりシャキシャキのキャベツと絡むこってりソースに好みの麺と具! やはりこのソースがないと広島風とは呼べない! というほど定着した感があるね!
「あれ? お前青海苔かけないのか? うまいのに」
「だって歯についてると目立つもん、おいしいのは知ってるけど」
「へええ、そういうものなんだ」
「女の子の常識だよ? お兄ちゃん!」
「そいつは悪うございましたっ!」
とまあ少し時間がズレてたお陰でゆったりお好み焼きも堪能できた僕たちは、ついでに駅前のちょっとおしゃれなデパートにも足を延ばしてみる。
「ここに来るのも久しぶりだね、コスメやバッグも悪くはないんだけど、荷物増えちゃうのがねぇ……」
そう、何故かこういうデパートといえば一階は化粧品やブティックといった上品でおしゃれな店が多い。やはり買い物客のメインは女性だからなのだろうか。
「どこに行く?」
「うーん、やっぱり服とか買うとかさばるから、いっそお土産でお菓子の方がいいかな? となるともみじ饅頭?」
「了解、けどお前は食べることばっかだな!」
「だって育ち盛りなんだもの! それにもみじ饅頭おいしいし!」
などと雑談しながらも、食品売り場の集まる地下街へ。やはり今夜の食材を買う主婦層が多いのか、どの店もそこそこ盛況だ。
ときおり若い男性などもいるが、大学生などの寮生活者たちが夜食の買い出しに来ているのだろうか。
「何味がいいかなあ、チョコとカスタードも捨て難いし……」
「定番の粒餡入りで良くないか?」
「同じのばっかりじゃ飽きるもん! やっぱ色々食べ比べしなきゃ♪」
などと店のカウンター前で詰め合わせの内容を相談していると
「すっげえ美人! あの子たちモデルか何かか?」
「アイドルタレントじゃない? けどあんな子見たかしら?」
「萌えぇ! まぢかわいい♪ 二人とも彼女にしたいっ!」
って、やっぱり周囲のみんなも注目してるらしい……あれ、今確か二人って?
「またお兄ちゃん女の子と間違われてるぅ!」
「うへえっ! いい加減にしてくれよ!」
「だって兄妹だから仕方ないじゃん。あたしも自分そっくりだからお兄ちゃんに気付けた訳だし」
驚愕している僕にしれっと言い放つシエリ。やめてくれ、僕の心の傷を広げないでくれよ!
「僕がシエリにそっくりだなんて、けっこう傷ついてるんだからなっ!」
「やっぱトラウマだったんだ? ならほんとにヘアスタイルだけでも俺は男だーっ! て感じにすればいいのに!」
「似合わなかったんだよ……ううっ……」
「あらら、泣いちゃったよ。お兄ちゃんってまだその泣き癖治ってなかったんだ? それじゃなおさら虐められちゃうね!」
「ほっといてくれよ! クスン……」
という訳で、僕は留崎シオン、十六歳。いつも女の子と間違われる内気な少年。今年は高校二年生なんだからもっとしっかりしないといけないんだけど。
そして妹、留崎シエリ、十五歳、高校入学のために本日アメリカより単身帰国。今日から我が家で一つ屋根に二人きりの家族となります。
というわけでシエリ、お帰りっ! これから一緒に頑張ろうな!
……でもこの時点では気付いてなかったけど、僕たちの出会いの一部始終を陰で見ていた人物は、確かにいたんだ。
うーん、再リメイクしたので大丈夫とは思うのですが、まだちょっと不満があるような……
とにかくっ、お読みいただきありがとうございましたっ!




