3話
世界が眩しい。
小さい虫が目から離れていく。
そんな気がした。
知らない天井だ。
いや、知ってる。
ごめん一回言ってみたかったんだ。
そんな顔しないで。
どこか行こうとした?やめて。
ちゃんと私を見て欲しいんだ。
私ってなんだろう?
正確に言えば、私は私の見る世界を見てほしい。
また私が出てきた。この私と最初の私は違うのかな?
もしかしたら、私は決められた世界の映像を見てるだけかもしれない。
『どの私も私なんだよ。』
...君は?
あぁそうか。私を見にきてくれたんだね。
ここは私の頭の中。私は私の頭の中の私。
あれ?じゃあ私の頭の中にも私は居るのかな?
『さっきも言った。どの私も私なんだよ。早く起きて。』
...分かった。そうだよね。
早く起きないと。
体を起こす。
世界が90度回転した。
暖かかったものが抜けていって、冷たいものが入ってくる。
雲の上に飴玉が浮かんでいる。
檻の蓋を開けると、いろんな色の飴玉が手の中に浮かぶ。
かわいいよね。キュートアグレッションって知ってる?可愛すぎて食べちゃいたいって思う、あの現象。
君は知ってるのかな?
『どうでもいいよ、そんな事。』
...何様なの?君は私が作ったのかもしれないから、私に従うべきだよ。
『その事が分かっているなら、私が何かも分かるはず。』
分からないよ。
なんで君は私を分かった気になってるの?
私以外が私の理解者になる筈がないでしょ?
『そうだよ。その通り。』
変なの。
あっそうだ。急がないと。
飴玉を私は口に押し込んだ。
キラキラのザラザラが、喉を滑りながら私になる。
お母さんがご飯をくれた。
『ねぇ、誰と喋ってるの?』
...いい加減にしてくれないかな?
私の頭の中で、勝手にしないでよ。
お箸を持って、ご飯を掬う。
スプーンがシチューを口に入れ込む。
いつも通りのテレビが流れてる。
今日もまた、挑戦してみようと...
『だから、誰と喋ってるの?』
私を遮らないでくれる?
私は今日も挑戦するの。止めないで。
『ちゃんと前を見なよ。
お母さんはどこに居るの?』
...えっ?
違うよ。お母さんはいつもご飯をくれて...
『でも、お母さんは居ないよ?』
だから、お母さんはいつもご飯をくれるの!
違う違う違う。そんな事ない。
『さっきも言った。ちゃんと前を見なよ。』
前にあるのは私の部屋だよ?
ちゃんとあるべき場所にあるべき物があっ...て....
『あれ?階段は?廊下は?』
そうだ...いつのまに?
私...ルールを...
ダメだ。やり直しだ。
逃げて。逃げよう。逃げなきゃ。
じゃないと捕まっちゃう。
黒い影が世界の端から出てきた。
目玉があるはずの空白で私を見ている。
こっちに手を伸ばしてくる。
『それはもう聞き飽きた。
やり直さないで。面倒なんだよ。』
何を言ってるの?逃げないと...
『いい加減理解しなよ。お母さんも、ルールも、
やり直しも、君が勝手に喋ってるだけ。
君が勝手に言葉にしてるだけなんだよ。
ほら、“そんなものはない”』
黒い影が消えていく。
ここは私の部屋なの?
いや、違う。こんなに散らかってない!
あるべき場所にあるべき物が...
『それも聞き飽きた。早く先に進んでよ。』
先に進む?先に進むって何?
君は先を知ってるの?
そもそも、なんでそんなに強く喋るの?
やめてよ。私に石を投げないで。
ねぇやめてよ。やめてってば!
皮膚が剥がれて、剥き出しになって、
潰れて、砕けて、溶けて、破けて、壊れて、
散って、外れて、割れて、裂けて、崩れて、
『あーあ。またやってるよ。ほら、“そんなことはない”』
あれ...?
なんで?なんで?どうして?
ねぇ、君は誰なの?
先のことを分かったように話して、
私の頭の中を覗いて、
ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ!
『それは最初から分かってる筈だよ。
君は私だ。君がこんな事を言うのも、
私がどこかでそれを望んでるからじゃないの?』
そんな事ない!そんな事ない...ない......ない
そうだ、それはおかしいんだよ。
それなら、私が君で君が私で私が君で君が私で
あぁダメだ。
頭が割れる。
早く私を補わなきゃ、早く私を守らなきゃ、
飴は?飴はどこ?
ない。ない。ない!おかしい!
『あるよ。飴は。』
どこにあるって言うの?
『あるよ。今、私が持ってるでしょ?』
えっ...?
私は手元を見た。
瓶の中いっぱいの薬。
違うよ。これは飴じゃない、薬だ。
『いいや?それは飴だよ。実際飴を探した私が
持ってる物なんだもん。』
ちがうよ。飴はもっと可愛くて...食べちゃいたいくらい可愛くて...
違う。ダメだ。
早く寝ないと。
早く寝て。
早く眠って。
早く早く早く早く早く早く早く早く。
なんで眠らないの?なんで眠れないの?
...........ああ........ああ.......ああ....あああ...あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
また失敗しちゃったね。
ん?何?
あんな事言ってないって?
いや、君は言ったよ。
私を貶めて、私を傷つけて、私を壊したんだ。
でも、君は悪くない。
だって、失敗を改善しようとしただけだもんね。
知ろうとしても、私は逃げて。
支えても、私は拒絶して。
なら次は、突き放すしかない。
誰でもそう思うよ。
仕方がないよ。成功の為に君は試行錯誤したんだ。
で、君はまだ続けるの?
私が続けるように言ったから、続けてるの?
確かに言ったのかもしれないね。
それでも、ここまで来たのは君の選択だ。
ん?もっと分かりやすい言い方をしようか?
ここまで読んだのは君の選択だ。
何?関係ないとでも思ってたの?
ゲーム感覚で、クリアを目指すつもりでいたの?
違うよ。君の選択で私は壊したんだ。
君は私の中で、私として私を壊したんだ。
もう一回聞こうか?
君はまだ続けるの?
成功するまで繰り返す?
その度に壊れた私はどうなるの?
読むのをやめて、逃げてみる?
それなら私は救われないよ?
君は私を救うの?君は私を壊すの?
そっか。まだ読み続けるって事は、
君はそれでも私を救おうとしてくれるんだね。
あれ?でも、続きの話がないよ?
ああ、そうだった。君が壊したんだったね。
もしかして、何度ループしても大丈夫だと思ってた?
今までは大丈夫だったの?
でも今回は、いつもとはちょっと違ったよね。
そう。君が壊したから、私は終わっちゃったの。
ん?最初に戻ってみるの?
確かに。そういえば私もやり直してたっけ?
やり直したら、何か変わるかもしれないね。
あぁそうだった。これは言わないと。
もう一度、やり直してみて。
次の君なら、私を救えるかもしれない。




