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1話

...ズッ...ズッ...ズッ


音が聞こえる。

目の前を地面が通り過ぎていく。


...ズッ...ズッ...ズッ


音が聞こえる。

上から、誰かが見ている気がする。

地面の色が変わった。

コンクリートの色から、灰色に。

灰色は横の木から伸びている。


あっちょっと待って。

灰色は違う、もっと濃い。じゃあ何色だろ。

これが灰色じゃないなら、コンクリートは灰色なのかな?


濃い色を踏んでみた。

誰かが見ている気持ちが逃げていく。


ははっ、私は勝ったんだ。


...ズッ...ズッ...ザッ


あっ...


目の前を見る。

足が、足の甲が、つま先が、


足ってなんだろう。

足は足で、足の甲は足の甲なら

つま先は足じゃないのかな?


何を言ってるのか分からない?

やめて、言葉にしないで。

言葉にしたら本当になっちゃう。


...ザッ......ザッ......


音が止まった。

なんで?いや、知ってる。


また、やり直しだ。


世界が眩しい。

小さい虫が目から離れていく。


そんな気がした。


知らない天井だ。

いや、知ってる。


ごめん一回言ってみたかったんだ。

そんな顔しないで。

どこか行こうとした?やめて。

ちゃんと私を見て欲しいんだ。


私ってなんだろう?

正確に言えば、私は私の見る世界を見てほしい。

また私が出てきた。この私と最初の私は違うのかな?

もしかしたら、私は決められた世界の映像を見てるだけかもしれない。


その場合、君はどうなるんだろう?


知ってるよ。私を見にきてくれたんでしょ?


ここは私の頭の中。私は私の頭の中の私。

あれ?じゃあ私の頭の中にも私は居るのかな?


ごめん。退屈だよね。

でも、仕方がないと思うんだ。

君は私が作ったのかもしれないから、私に従うべきでしょ?


体を起こす。

世界が90度回転した。

暖かかったものが抜けていって、冷たいものが入ってくる。


雲の上に飴玉が浮かんでいる。

檻の蓋を開けると、いろんな色の飴玉が手の中に浮かぶ。


かわいいよね。キュートアグレッションって知ってる?可愛すぎて食べちゃいたいって思う、あの現象。


君は知ってるのかな?


私は食べないとダメな物を可愛くしてるから、順序が逆だね。


あれ?なんで食べないとダメなんだっけ?


そうだった。お母さんに言われたんだ。


頭が回る。そうだ、急がないと。


飴玉を私は口に押し込んだ。


キラキラのギザギザが、喉を滑りながら私になる。


お母さんがご飯をくれた。


お箸を持って、ご飯を掬う。

スプーンがシチューを口に入れ込む。

いつも通りのテレビが流れてる。

今日もまた、挑戦してみようと思った。


階段を一段ずつ上がっていく。

2段飛ばしじゃないよ。一段ずつじゃないとダメ。


廊下の奥にある扉の奥が、私の部屋。

ここはちょっと走りながらじゃないとダメ。

足音は立てすぎないように。


どう?上手かったでしょ?


ドアに手をかける。

金属の冷たい感じがする。


ここが、私の部屋なんだ。

綺麗でしょ?そう思うよね。


何も触らないでね。物にはあるべき場所があって、そこにないとダメだから。


あれ?引き出しが閉まってる。

早く開けて。目を閉じてるから、開けたら言って。


早くしてよ。何も見えないのは怖いんだよ。


『なんで自分で開けないの?』


少しは自分で考えたらどうなの?


まぁ、仕方ないから教えてあげる。

見えないって事は、分からないって事なんだよ。


そこで何が起きているのか、起きたのか分からない。だから、常に認識してないといけない。

分からなくなっちゃうから。


早く家を出ないと、遅刻しちゃう。

服を着替えて...カバンを持って...


今日も挑戦しよう。


...ズッ...ズッ...ズッ


音が聞こえる。

目の前を地面が通り過ぎていく。


...ズッ...ズッ...ズッ


音が聞こえる。

一歩ずつ、一歩ずつ。


コンクリートから出たらダメ。


『なんで?』


土からは草が生えるでしょ?

もしかしたら、槍が生えるかもしれない。

コンクリートなら、草は生えない。


...ズッ...ズッ...ズッ


『なんでそんなにダメな事があるの?』


君は本当になんでばっかだよね。

少しは自分で考えたら...あっこれは言ったか。


そうやって考えもせず知ろうとするから同じ事を繰り返すんだよ。


まぁ、似たような事か。


さっき言ったでしょ。

物にはあるべき場所があって、そこにないとダメなの。


私は物じゃない。

そんな事言われなくても分かってるよ。

だから私はあるべき場所じゃなくて

するべき事をしてるの。


...ズッ...ズッ...ズッ


所で、今って何歩目?


えっ?数えてなかったの?

なんで?

数えてって言ったのに。


なんで?なんで?なんで?

そう言えば、今日はずっとおかしかったよね?


君は誰?君は違う。君は君じゃない。


なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?


どうして私を見るの?

やめてよ。見ないで。

どうしてみんなそんな目で私を見るの?


私が、ダメな子だからだ。

いや違う。そんな事ない。


それを言わないで。言葉にしたら本当になっちゃう。


『なんでジャージでゴミ箱を持っているの?

おかしいよ』


おかしい?いや、おかしくなんかないよ。


違う。君は違う。黙ってて。

いや待って。どこにも行かないで。


...ザッ...ザッ...ザッ


あっ。またやり直しだ。


逃げて。逃げよう。逃げなきゃ。


じゃないと捕まっちゃう。


黒い影が世界の端から出てきた。

目玉があるはずの空白で私を見ている。


こっちに手を伸ばしてくる。


黒い手が足を掴んで、腰を掴んで、手を掴んで、首を掴んで、顔に手が近付いてくる。

目に指が入る。人差し指か、中指か。


世界が黒くなった。


暗くて、怖くて、静かで、


...そもそも私が居なかったら。

何をしても、悪い方向へ行くんだし。

ほっといてよ。私のことなんか。


『でも、1人は嫌なんでしょ?』


そう。1人は嫌。何が悪いの?

私はみんなに私を伝えた。

みんな、分かってくれようともしないんだもん。


『あなたは分かってあげようとしたの?』


したよ。した。

したに決まってる。


また、挑戦しよう。

いや挑戦なんてしたくない。


違う。でも私はしたいと思ってる。

私じゃない、私がしたいんだ。


そうだ。これは悪夢なんだ。


起きて。起きて。起きテ。起kiて。おキテ。oキtE。


起きないと。


目をゆっくり開いた。

今度は眩しくない。


外を見る。世界はまだ眠っている。

今、何時だろ?


『時計を見ればいいんじゃない?』


君は誰かから言われた事を何も疑わずに信じるの?寝て居る間に時間を変えられてるかもしれないんだよ?


窓を開けてみた。

冷たい空気が頬を触る。

寒くないよ、冷たいだけ。


それより君...まだ居たんだ。

いや、それもそうか。気にしないで。

もう少し、一緒にいて欲しい気分だ。


寝ないと...いや、まだ眠くないな。

あと10年か100年か後の朝に起きられるなら、

今すぐ夢に戻るのにな。


月が光る。星が光る。


それか雲...雲もいいな。

見えないからこそ、見える部分がよく光る。


まぁ何が言いたいかって、私は脇役で引き立て役なの。少なくとも主役じゃない。


でもこの時間だけは、多分世界に私しかいない。

いや、君がいるか。まぁ大した違いはないよ。


『人生の主人公は自分だよ』


へぇキザな事言ってくれるね。


じゃあ私も質問。自分の1番の理解者は自分だと思う?


シンキングタイムは...はい終わり。

短いと思った?でもその間に即答出来なかったならそこまでなんだよ。


私も自分がなんなのか分からない。

でも、私以外が私の理解者だとも思えない。


人なんて所詮そんな自己中の塊なんだよ。

まぁこんな私がそう思ってるだけだから、正しいかは知らないけど。


何か音がする。

風船から空気が抜けるような。


虫?虫だ。


セミかな?ハチかな?ホタルかな?

ホタルだといいな。


窓を閉めないと、虫が入ってちゃう。

早く閉めて。じゃないと、虫が部屋を飛び回って、こっちを向いて、早くゆっくり耳に飛び込んでくる。


頭の中で暴れ回ってる。

うるさい五月蝿い五月蝿い。


羽が脳みそを叩く。

硬くて、脆くて、パリパリしてる。


寒い暑い熱い冷たい。


早く寝ないと。


目をゆっくり開いた。

眩しい。


体を起こす。

世界が90度回転した。

暖かかったものが抜けていって、冷たいものが入ってくる。


手の上に飴玉を乗せる。


さっきのは夢だったのかな?

いや、さっきのが現実でこっちが夢かもしれない。


飴玉を私は口に押し込んだ。

キラキラのギザギザが、喉を滑りながら私になる。


それは違うな。こっちが現実だ。

この感覚だけは、現実だ。


久しぶり。いや、初めましてかな?

そこに居るんでしょ?

分かってないとでも思った?

君は私を見ないといけない。私は私を見ないといけない。

逃げないで。お願い。逃げるな。


寂しいのはもう嫌なんだよ


この話に、それらしいハッピーエンドがあると思う?


こんなぐちゃぐちゃで、バラバラで、

思い通りにならない話。


君はここに来るのは何回目?初めてかな?2回目かな?

2回目の君はこの先を知ってるの?


ハッピーエンドなんて無いかもしれない。

少なくとも今回は、君は私を救えなかった。


いや、違うな。


私は私を救えなかった。


もう一度、やり直してみて。


次の君なら、私を救えるかもしれない。


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