31話 閑話 勇者パーティの苦悩と王女の予言
総合ポイント200突破記念! 閑話ですが1話更新させていただきます!
大したことはないですが、ここまで来れたのは読んでくださる皆様のおかげです! ありがとうございます!
勇者パーティのこと忘れていませんよね?
ケイタ→勇者 ハンナ→王女 イルサ→村娘
イーナ→ドジっ子ボインエルフ エマ→獣人奴隷
です。
王国の西の辺境、グエレテの街。
グエレテ大峡谷という巨大ダンジョンがあるが、大してその恩恵を受けるでもなく、街は静かだ。
だが、グエレテの街は今までにないほどに興奮に沸いていた。
「勇者パーティがグエレテ大峡谷を踏破したぞ!」
「今、勇者がこの街に滞在しておられるようだ!」
「本当か!? あの『ダンジョンを攻略したら、すぐに次の街に行く』と噂の勇者が!?」
住民たちの何人かは街で勇者パーティと遭遇して、涙を流すものやサインを求めるものがいた。
なにも興奮で沸いていたのは、住民だけではない。
「領主様! この街に来る観光客が過去最高に達しました! しかもまだまだ伸びております!」
「なにぃ!? 観光客の過去最高と言えば年間20人ではないか! 今はどのくらい来ているのだ?」
「はっ、現在の観光客は週間3000人です!」
「ひでぶっ!?」
「領主様!?」
思わず見えない力で椅子から吹っ飛んだ領主は、頭を抑えて起き上がる。
実感こそ湧かないものの、この街にまさに黄金時代が来たのだ。
「おい! いいか、なんとしてでも勇者様を引き止めろ。出て行こうとする動きがあれば是が非でも止めるんだ!」
「はっ!」
家臣が退出したあと、ひとりになった領主はすることもなく立ち上がった。
領主は窓から、急に活気づいた街を眺める。
(勇者様がこの街にいらしてからはや2週間。このまま1ヶ月も留まれば、ついにはここをホームに……)
鏡がないので気づこうはずもないが、この時領主の顔は気持ち悪いほどにやけていた。
常識的に考えてみたら、世界中のダンジョンを攻略しに行くのに、西の辺境をホームにする馬鹿などいようはずもないのだが………
実は結構まともなこの領主でさえ、そんなことを考えてしまうほどの異常事態であった。
……………
「しかし、どうしたものでしょうか………」
「うーん、ケイタらしくないですよね」
「どうしたんですかー。もう……」
「ん。ここ最近の話題、いつも一緒。ケイタのこと」
勇者パーティの女たちによる定例会(通称:妻会)は、今日も今日とて混迷していた。
ちなみにこの妻会は、奴隷身分の獣人エマを除いた3人を合わせて『三竦み』と、巷では呼ばれている。
エマを含めたハンナ、イルサ、イーナの4人で構成されるこの妻会は、普段なら勇者パーティの今後……という名目でケイタに1番ふさわしいのは誰かで白熱するのだが……。
最近に限っては街の活気とは真逆に勇者パーティはめちゃくちゃ重苦しい雰囲気に包まれていた。
「でも想像もしてませんでしたわ」
「ん。それは私も」
「そうですよね」
「ホントですよー。もう」
4人は大きなため息をつく。そして
「ケイタ(様)(さん)があんなに我儘だったなんて……」
……………
「いやだいやだいやだ! 俺はこれ以上難しいダンジョンには行かないぞ!」
「そう言われても、私の国の民が困っているのです! お願いしますわケイタ様!」
話はグエレテのダンジョンをなんとか攻略し終わったあと、勇者が唐突に宿屋に引き篭もったことから始まった。
ベヒモスが余程の脅威だったのか、ケイタはこれ以上のダンジョンに行けば更なる恐ろしい魔物が現れるのを恐れている。
と、勇者パーティの4人は考えていた。
だがどうやら違うということに、4人は最近になって気付き出した。
「ケイタさん! 部屋から出てきてくださいよ!」
「いやだね! 俺はここでのんびり暮らす!」
領主の妄想したことが実現するかもしれない事態に、4人は慌てる。
思わずエルフのイーナが自分の身を切った。
「そ、そんなー。もう、どうしよう……。じゃ、じゃあ出てきたらこの私のカラダを……」
「んなもんいるか! この駄乳エロフ! 俺を動かしたかったら旨いポーション持ってこい!」
それもあえなく切り捨て、放ったケイタの言葉に全員が停止する。
「ポーションでございますか?」
「ポーションって……?」
「ん。ポーションって言った」
「だ、駄乳エロフ…… 〜〜〜ッ!」
「「「え?」」」
最後のひとりが何かおかしかった気がするが、なんだか触れてはいけないような気がした3人。
ドジっ子ボインエルフが、これ以上なんらかの属性を抱えてしまうと逆にダメなんじゃないのか。
そんなみんなの気持ちは虚空に消え、彼女らは本題を思い出す。
「そういえばケイタ様、ポーションを吐き出しておられましたね」
「まあ確かにアレは不味いけど……」
「ん。『アルベルから命は買える』」
アルベルとは、かつてリーデルという街を治めていた領主の名前である。
自分の楽しみのために市民を殺す理不尽な男であったが、金を出した市民は殺されることはなかった。
そこから転じて『大切なことのためには多少の損害はやむを得ない』という意味として使われる。
「ですが、ポーションですか……」
「ちょっと専門外だよね」
「私も無理」
ひとり悶絶している変態を除き、3人は対策を考える。
だが、妙案は浮かんでこなかった。
「最悪、このグエレテ大峡谷で連携の練習と自分たちの強化という案もありますが………」
ハンナは思案する。
以前であれば攻略したダンジョンはすぐにマッパーがやってきてマッピングされたのに、なぜか未だに地図は作られていなかった。
「辺境だからでしょうか………」
冒険者ギルドで貰ってきた、だいぶ昔に作られた地図を見る。
だが浅い層までしか書かれていない。
ベヒモスに苦戦したとはいえ、勇者パーティの強化を考えるならばもう少し深いところに行きたい所だ。
それでもだいぶ細かいことまで書いてあって、浅い層では楽ができたのだが。
その地図をペラリと裏返すと製作者の名があった。
「ヴァイス・ステッパーというお方ですか……一体どこにいらっしゃるのかしら……?」
……………
妻会が開かれてから数日後のこと、引き篭もったケイタはあることを思いついた。
「あ、そうか。ポーション作成組合に行ってポーションの作り方改革すればいいんだ」
唐突に部屋からとびだすと、直近の街の作成組合支部に突撃していった。
「いかに勇者様とはいえ、うちの組合のポーションについて、何か改善したいことがございましたら、組合に入っていただくしか……」
「じゃあ入ります!」
「では面接を……」
どこかの誰かと同様にこの時点で入れないことは決まっているのだが、ともかく面接を受けた。
そして落ちた。
「くっそ! こうなったら組合爆破してやろうか! あんのクソ組織が!」
「それだけはおやめください!」
「ケイタ。早まったら、ダメ」
「そうですよケイタさん!」
「そうですー。そ、それに罵るならワタシを……」
と、必死に止められケイタは踏みとどまった。
次の日のことである。
『毎日王国新聞』にて、大々的に報道された記事があった。
『ポーション作成組合爆破される!』
「「「「………。(ジーッ)」」」」
「俺じゃねえからなぁ!?」
爆破された組合の場所が遠すぎたので、そのときはケイタでないと分かったが、しばらく4人の疑いの目は晴れなかったという。
……………
さて、勇者パーティのメンバーのスキルというのはどれも特異なものが多い。
その中でも王女ハンナのスキルは特殊だった。
予言S。自分の生まれた国に関して、近い未来に起こる災厄を予知することができる。発動は自動。
ここ最近発動しなかったそのスキルが、グエレテで1ヶ月ほど過ごしたある日、急に発動した。
「おい! どうした! 何が起こる!?」
ケイタは引き篭もったといえど、なんだかんだ普通の善人である。
ハンナのスキルが災厄を予言するものである以上、ケイタもそれを防ぐために尽力するのだ。
「魔物大量発生が……!」
「「「「スタンピード!?」」」」
この王国において「スタンピード」と言えば、突然巨大な魔力溜まりが発生し、そこから大量の魔物が生み出され都市を襲うというものである。
「場所は? どこで起こる!?」
「フェ、フェーレンという街です………!」
「何日後か分かるか?」
「1ヶ月後、です」
グエレテからフェーレンまではおよそ3週間ほどはかかる。とばしても2週間以上は確実である。
「イルサ、ハンナを休ませてやろう。その間に準備をして、2日後には出るぞ」
「は、はい!」
イルサはケイタの方をチラリと見る。そこには彼らの愛した勇者の姿があった。
……………
勇者パーティが去った次の日。
グエレテの領主はルンルンで勇者パーティが泊まっているはずの宿に向かった。
「むっふっふ! 勇者様〜! そろそろグエレテにホームを作ってはどうでしょうか〜!」
宿に飛び込んで一言、そう彼はのたまう。
だがしかし
「勇者様なら昨日出て行かれましたよ?」
「え?」
それから3日後、グエレテに来ていた旅行者はクモの子を散らすように消えていった。
グエレテは以前の静けさを取り戻したという。
住民たちは、栄えていたグエレテも良かったが、やはり静かな方が良いと喜んだそうだ。
「うぅ………観光客がぁ〜!」
全ての人が喜んだかどうかは分からないが。
総合ポイント200突破記念と言いましたが、本音としては
………1ヶ月も更新待ってもらってるのに、閑話をポイと投稿して終わりってどうなの?
と思ったので急遽更新させていただきました。
次回の更新は予定通り、約10日後となります!
今後ともよろしく




