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25話 かくておっさんは別行動に出る

 

 ポーション作成組合リトレイア支部、地下11階。

 レオンは再び頭を抱えていた。

 またネズミが大量にばら撒かれていたからである。


 バカのひとつ覚え、と一蹴できればいいのだがそうもいかないのが現状だ。

 この方法がレオンを撹乱するのに最も適した方法だからである。


「くそっ……おい! 全員速やかに散らばっ―――」


 レオンが散開を部下に指示しようとしたまさにその時である。

 アナウンスが響いた。


『緊急! 緊急! 侵入者有り! 警備員は直ちに地下12階へ!』


「なぁっ!?」


 レオンは驚愕する。


 この短時間で通路の複雑化した地下11階を軽々突破したという事実に。


「一体どんな手を使っていやがる……っ! おい、地下12階に急ぐぞ!」


 レオンは、自分の気配察知に引っかかってくるネズミたちの反応を鬱陶しく感じながら地下11階を後にした。


「……はっはっは! そんなバカのひとつ覚えみたいにネズミ撹乱で時間稼ぎとかするわけねぇだろ」


 ロビン・ステッパーはその後ろ姿を見ながら笑う。

 地下11階に残る一際大きな気配も、前回のようなネズミの群れだとレオンは切り捨てたのだった。


「さて…………あとはアルマの記憶力にかけるしかない、か」


 ユナとアルマに関しては、作戦通りに行くように願うくらいしかロビンにできることはない。

 彼にはひと仕事、新しいのがあるからだ。



 ……………



 さて、ロビンたち一行が高速で階を飛ばしていくことができるのには理由があった。

 ロビンの〈空間把握〉によるフロアの正解ルート検索だ。


 ロビン・ステッパーの空間把握スキルはSランクである。

 王都の調査の際も使用していたが、その効果範囲といえば王都を丸ごと覆うくらいの大きさを誇る。

 つまり何階もあるポーション作成組合とはいえ、一都市の一建造物に過ぎない以上、彼の〈空間把握〉はその内部構造のほとんどを視ることが可能である。

 なお人や罠、生き物などは効果範囲には含まれない。

 あくまで空間を把握するスキルだからだ。


 視る範囲が狭ければ狭いほど正確に視ることが可能なこのスキルを、階を降りるたびに使用してアルマに覚えさせる。

 あとは天才アルマがその記憶力を活かしてロビンたちを先導することで、高速で降ることができているのだった。


「………このフロア、なんか変だな」


「なにか視えたんですか?」


 地下11階に足を踏み入れて少ししたのち、ロビンが呟く。

 そんなロビンにユナが何を視たのかと問う。


「このフロア………研究目的のフロアになってるな。もしかしたらポーションの作成方法とかがあるかもしれない」


「でも止まってる暇はないぞー?」


 ロビンはフロアの構成を視て、その特殊な造りから研究目的のフロアであると判断する。

 もしかしたらポーションの作成方法があるかも知れないから寄り道をしたいと思うが、それは先んじてアルマに止められた。


「じゃ、別行動で」


「はい! ……ってええ!? 何言ってるんですか? バカなんですか!? 私たち道わからないしロビンさんつかまりますよ!?」


「声でかいなあ……」


 驚いて声を荒げるユナを意外とでかい声が出るもんだな、と驚く顔で見るロビン。

 ユナの言うことは全く響かないようだ。


「だが実際僕らは道がわからないしー、ロビンも捕まる危険が増えるのはたしかだぞー」


「そうだな………俺が捕まるのはどうにかできるけど、ユナたちはどうしようかな……」


「一緒に下に降りるってのはどうですか!?」


「………うーん、でもあの方法じゃなあ」


「……………」


 頭を抱えるロビン、どうしても一緒に行くという選択肢はないようだ。

 やがてロビンは手を打つ。


「アルマ、13階までの道のり覚えてくれないか?」


「まあ可能ではあるがー、そこからどうするんだ?」


 とりあえずロビンについてきた2人だが、実際どう脱出するかは教えられていなかった。

 まあ、ロビンに任せれば大丈夫という安心感のもとではあるが、あまりにロビンを信用し過ぎな気がしないでもない。


「ああ、多分地下13階にお偉いさんの部屋があると思うから、そこの壁ブチ破ってダンジョンに逃げてくれ」


「あ、なるほど! あのとき声が聞こえた場所ですか! ちゃんと考えがあったんですね」


「はー、ロビンも色々考えてるんだな」


「お前らなぁ……」


 言いたいことはいろいろあるロビンだったが、ともかくこれでどうにか目処はつきそうだ、と一安心する。

 だがそれも一瞬。

 ここから地下12階と地下13階の道筋を視て、それをアルマに教えこみ、さらに自分がこの階に残っていることがバレないよう細工もしなければならないのだ。


「いいか、じゃあいくぞ………右、左、右、左、前、前、右、左、右、右で階段を降りて………」


 ロビンは神経を集中し、地下12階、13階の構造を読み取る。

 それをアルマは片っ端から記憶していく。

 Sランクが2人集まればこんなことが可能なのだということをユナは身をもって体感する。


 全くもって巫山戯(ふざけ)ている。


 もはやユナはそのくらいしか感想が出てこなかった。


「じゃあユナを任せた」


「任せろー」


 アルマにユナを任せ、ロビンは駆け出そうとする。

 その手を掴んで、ユナはロビンを引き止めた。

 ロビンがダンジョンに行くと聞いた時、いつもやっていたことをするために。


「あの、ロビンさん」


「ん?」


「死なないでくださいね?」


 業界が業界なら死亡フラグとも取られかねないその言葉。

 だがそれはユナが弟子だった頃から、何度も交わしたやりとり。

 ユナとロビンの大切な思い出。

 フラグ(いつもと違うこと)ではなくルーティン(いつもやっていること)


「ああ、任せろ!」


 だからロビンも最高の笑顔で応える。

 かくて彼らは一度別れたのだった。



 ……………



「それで………っと。この部屋、何でか知らんが部屋の中に()()()()()()()()()。怪しいことこの上ないな」


 ロビンが視た中で最も違和感のする部屋。

 違和感の正体は今までの階にはなかった不自然な間取りと、明らかに変なところにある階段だった。

 ザッと見て回っただけでもこのフロアはロビンの見立て通り、研究専用のフロアになっていることが分かった。

 さっきまで研究がなされていた形跡も残っていた。


 まあ現在は侵入者がいるため、研究員は外へ出ていたが。


「つーかすれ違わなかった時点であるんだろうなあ、ショートカットの小規模転移魔法陣」


 長距離を転移する技術は生まれていないが、小規模の単位なら今の時代可能になっている。

 とはいえそれでも魔法陣のスクロールは超高額だし、解析も不可能になっているが。


「………ってなわけで、戻ってくるまで調べさせてもらいますねー」


 ロビンはそこかしこにある書類の山を引っ掻きまわし、書類を読み漁る。

 なお、ロビンは結構高度な知識を所有している。

 マッパーになる前の修行で、ロビンのマッパーとしての目標でもあった男に知識を叩き込まれたからだ。


「マッパーになるなら戦闘技術は最低限でいいが、そのかわり知識は死ぬほど叩き込め! 何が自分を助けるかわからないから………か」


 ロビンは懐かしい記憶を思い起こしながら次々と書類を調べていく。


「感謝するぜ、叔父(おっ)ちゃん」


 自分を育ててくれた人を懐かしみながら。



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