手がかり
~手掛かり~
刑事の狭山さんとは喫茶店で待ち合わせをすることになった。だが、ちょっとだけ複雑な状況に今なっている。
「なんであなたがいるの?ひょっとして私のことが好きなんですか?でも、私の愛はもうあきらんのものなの。隅から隅までね。アリ一匹だって入れないくらいの」
そう、目の前には黒髪ぱっつんのむつきんがいる。かわいくパフェを食べている。
「あっきーと一緒に事故のことを調べているんだ。これから刑事も来るのだからちょっとは遠慮すれば?」
ちょっとすねながらこちらもパフェを食べている。そう赤川だ。
(パフェを食べる赤川きゅん。かわいいよね)
そう、配置は俺の横に赤川、向かいにむつきんがいる。
ちなみに、俺に逃げ場はない。逃げたくても横は壁だ。なんでこうなったんだろう。いや、簡単なことだ。
赤川の前で狭山刑事に電話をした。すると赤川が「僕も一緒に行くよ。気になるし」と言ってくれたんだ。
だから、一緒にいる。だが、俺は忘れていたんだ。校門にはむつきんが待ち構えていることに。
「私も一緒がいい。だって、この女の子みたいな男が一緒に居ていいのなら彼女の私が一緒にいていいはずでしょう。
それともあきらん。私に帰れとか言うの?言わないよね。だって、あきらんの好きなむつきんが横にいるのだから。うれしいよね。よね」
なんか最後はおかしい感じなったけれど、気にしないことにした。というわけで、かなり空気がわるい感じの喫茶店の一角ができあがったのだ。
でも、なんだか赤川は強くなったように感じる。前は股間を触られて逃げ出したことを思えばかなりの進歩だと思う。
いや、横を見るとちょっとだけ震えている。頑張っているのだ。俺も頑張らないと。そう思っていたら喫茶店の扉が開いた。
からんって少し高い音がする。入って来た時にグレーのスーツを着た、疲れている男性がやってきた。髪は短く、日焼けをしている。
顔は優しい雰囲気だけれど体格がごついのだ。顔と体があっていない。まあ、刑事って肉体労働なんだろう。
ものすごく体格がいいのがわかる。立ち上がって手をふる。狭山刑事がこちらにやってきて二人を見る。
「え~と、彼女たちは?」
「彼女です」
「友達です」
いや、赤川。彼女って言われているんだがいいのか。そこ否定しろよ。いつものように僕は男だって。
(ってか、赤川きゅんが彼女でしょ。そしてその横にいるのはヤンデレさん)
はいはい。もうつっこみもしませんからね。
「すみません。狭山さん。どうしても二人がついてきたいと言って。やっぱりダメですか?」
そう言いながらすでに狭山さんは座っている。これでダメとは言わないだろう。
「まあ、関原くんが良いなら別にいいよ。で、事故について聞きたいことって何なのかな?」
まあ、警戒するのも不思議はない。入院していた時俺はどちらかというと協力的ではなかったからだ。
その時はいち早く退院したかったからリハビリに燃えていたんだ。
(あのリハビリの指導してくれていた男性もかっこよかったよね)
え?そういう事もあってリハビリ応援してくれていたの?
(まあ、あの人人気だったからあんまりあっきーのとこに来てくれなかったんだよね。残念)
確かにおばちゃんたちのアイドルだったからね。みんな触りまくっていた。
(あっきーも触ればよかったのに。でも、あっきーに向いているのは受けね)
はいはい。じゃあ、説明するかな。
「まず、知りたいことは俺の事故と関係があるのかわからないけれど、菅田ユリって子も事故にあっていると記事で見ました。この子はひょっとして俺のせいで事故にあったんじゃないですか?」
新聞には詳しくことは書かれてなかった。けれど、俺をはねた自動車がその後に菅田ユリをはねているのだ。
しかも菅田ユリの方が重体。もし俺のせいだとしたら天使ちゃんのことは抜きにしても謝りに行かないといけない。狭山刑事が言う。
「関係あるかないかと言えば関係ない。あの車が制限速度を守っていなかったのはわかっているからね。君が気にすることはない」
「いえ、気になります。できればご家族の方に謝罪をしたいです。俺のせいじゃないって言われても納得ができない。俺はそんな自分に納得できない」
(あら、どうしたの?なんか別人みたいだよ)
天使ちゃん。そりゃないよ。だって、ここで頑張らないと俺菅田ユリさんの情報手に入らないんだから。だから頑張るってもんだ。手とか足は震えているけれど。
(そういう時は横にいる赤川きゅんの手を握るといいわよ。震え止まると思うから)
友達の関係が終わるからやめて。
「そうか。そこまで言うのならご家族の住所をつたえるよ。でも、本当に関原君が気にすることじゃない。悪いのは車の運転手なんだからね」
「それで、まだ捕まらないんですか?」
「ちょっと時間がかかっていてね。何か思い出せたことはあるかい?」
「白いワゴンタイプ。後、運転席に座っていたのは男性。赤いニットの帽子に黒縁の眼鏡。
けれど、助手席にいた人の方がインパクトがあった。スキンヘッドでぎょろっとした目をしていた。顔に変なペイントみたいなのが付いていた。そう、まるで蝶のようだった。ピエロみたいに見えたんだ」
そう、俺は必至であの時のことを思い出そうとしたんだ。むつきんにも相談した。あの場所にいたから。
「私も白いワゴンはみました。あの場所にいましたから。かなり傷がついたワゴンでした。けれど、スモークなのか窓から中は見えなかった。
けれど、その時の画像があります。記念になるかと思って撮ったんです」
実は事前にむつきんに話したらなんと動画を撮っていたのだ。しかも実況付。
「今小学生を助けにいった青年がいます。そして車に跳ねられて空を飛びました。車はそのまま蛇行して進む。歩道に乗り上げる。こっちじゃなくてよかった。誰かまたはねられた」
だが、その画像には白いワゴンが通り過ぎるところが写っていた。画像はわるいけれどナンバーも。
「どう、私がここにいる理由がわかった。そこの男か女かわからないできそこないとは違うのよ」
むつきんが立ち上がり赤川を指差してわらっている。胸をはって。そう言えばむつきんって結構胸あるよな。
(変態。こういう大事な時にどこ見ているのかしら。見るなら赤川きゅんでしょ)
それも違うでしょ。
「これは助かる。データをもらえるかな」
そう言うなり、むつきんは携帯でデータをすぐに送付する。
「ありがとう。では、先に帰るから」
そう言ってすぐに狭山刑事は出て行った。
「じゃあ、今日はこれでお開きだね。俺はこれからこの菅田ユリさんの家に行ってくる。こればっかりは一人で行かなきゃ意味がない。ケジメだからな」
(って、あっきーかっこつけすぎ。ほら、赤川きゅんがそのあっきーを見て惚れた顔しているから)
いや、ぼーっとしているのはむつきんだろう。ってか、赤川もかい。どうしたんだ、赤川。体調でも悪いのか?俺はほんのり頬を赤くしている赤川のほっぺをさわってみた。
「え?何?何?」
「いや、なんでもない」
すぐに手を離す。目の前からすごいオーラを感じた。
「こいつが邪魔をするの?私の愛を。私の愛すべき思いを、想いを。奪うのか、奪うのか、奪うのか。男だからって許すと思っているのか?すべての要因は排除すべきなのよ、排除よ、排除、排除」
「落ち着けよ、むつきん。ちょっと赤川のほっぺたが赤かったから体調崩しているのかと思って触っただけだよ。なぁ」
「うん、そうだね」
だからさ。赤川もそこでそっと下を向くなよ。そこは堂々としてくれ。じゃないと天使ちゃんからつっこみがくる。って、こない。おかしいな。
「とりあえず、俺はこれから菅田さんの家に行ってくる。だからまた明日な。こっそりつけたりなんかするなよ」
(ってか、それってあっきーが言うとフラグっぽいんだけれど)
天使ちゃんもちょっと俺に感化されてきた。うれしい。
(もう、ちゃんと聞いてよね。忠告したんだから)
まあ、予想通りわかりやすい尾行をされていた。まあ、個人的には赤川とむつきんが仲良くなることもうれしいんだけれどね。
(そういう感じにはならないと思うよ。恋敵だとお互い思っているだろうし)
赤川はそういうんじゃないからね。って、つっこみはいつものごとくスルーされていた。仕方がないので俺はメモを頼りに向かうことにした。菅田さんの家に。
電車を乗り継ぎやってきたのは降りたことがない駅。当たり前だけれど、知らない町だ。駅前には商店街のようなものが少しだけある。
けれど、全体的にさみしい駅だと思った。というか、結構街の中心から離れた場所なのだ。俺の家はまだ商店街もあるし、スーパーもある。
けれど、この駅付近はシャッター街だ。開いている店が少ない。そして、そのシャッター街を抜けず、横の路地を入る。
アプリがその道を示しているからだ。歩きながら天使ちゃんに話しかける。ねえ、天使ちゃんはこの風景に見覚えある?
(ううん、何も思い出せない。思い出せるのはプロトコル・ファンタジーくらいよ)
いや、それってどうなのよ。ってか、引きこもりだったの?でも、どこかで事故に合っているという事は家から出ている。
まあ、この菅田ユリって子がどんな子かわかればまた違ってくるのかもしれない。俺はそう思った。
しばらく進むと結構古い小さな家が出てきた。木造かな。時代を感じる家だと思った。ほら田舎に帰ったらおばあちゃんの臭いがしそうな。
(うん、言いたいことはわかるけれどもうちょっと表現ないかな?)
天使ちゃんはたまにハードルを上げてくれる。でも、木で出来た壁が黒く色が変わり、2階建てなのはわかるけれど、古い瓦が目に付く。
そして、横並び。そう、江戸時代の長屋を思い出させるのだ。扉も横に動かすスライド式。ひょっとして路地を抜けた時にタイムスリップでもしたのかと思うくらいだ。道も狭い。絶対に車が入れない道だ。
俺はインターフォンを捜した。扉の上側に黒いボタンがある。これかな。黒の周りは茶色に変色している時代を感じるボタンを押した。
どこかで音がした。ピンポーンとかいう音じゃない。ブザー音みたいなのだ。奥から何か音が聞こえる。
立てつけが古いのだろう。扉が開く。腰の曲がったおばあさんが出てきた。
「誰だい?お前さんは」
なんだか本当に時代を飛び越えた気がした。
「え~と、俺は、いや、僕は関原あきらっていいます。2週間前に中町通りの交差点で事故があって。僕はそこで、事故にあったんですけれど、菅田ユリさんも事故に合われたって聞いて」
なんか説明がうまくできない。このおばあさんの目が怖く感じたからだ。腰が曲がっているのに目だけはぎょろりと大きいのだ。その目で俺を睨んでいる。おばあさんが言う。
「なんだあんたユリの友達かい?」
「友達と言うか、あのユリさんの事故は俺の、いや僕のせいでもあるのではと思ってお詫びに来ました。本当にすみません」
そう言って俺は頭を下げた。怖くて顔を上げられない。
「気にすることはない。悪いのはユリをはねた車だ。ユリの母親に伝えておいてやろう。また、日を改めて来るがいいさ」
そう言うなり扉を閉められた。言葉通り取っていいものなのだろうか。だが、その言葉に棘があったようにしか感じられない。
(こういう時手土産とかあったほうがいいんじゃないの?)
そっか。手土産か。ってか、もしよかったら天使ちゃん。そういう事はもう少しだけ前に言ってくれるとうれしいな。
(それと、ちゃんと話す内容をまとめておくことね。あっきーすぐにテンパるんだから)
そうだな。そういえば、何かの本に書いてあったな。謝罪は相手に伝わってはじめて謝罪である。伝わらない謝罪はただの自己満足だって。
(あっきーって変な本読んでいるんだね)
変じゃないよ。本を読むことで知識が増える。
(でも、実践できてないよ)
そこなんだよね。脳内では完璧超人なんだけれど、いざとなるとまったくダメでね。
(とりあえず胸を張る。下を向かない。自分が行っていることが間違っていないと思っているのなら堂々とすることよ)
そうだな。とりあえず、謝罪が通じるまで俺はここに通うと決めた。ありがとうな。天使ちゃん。俺は振り向いて歩き出した。そう、そこには赤川とむつきんが隠れている。
「また、明日からだ。とりあえず帰ろうか、二人とも」
明日に起こることも知らないまま気楽に俺は言った。