重すぎる愛
~重過ぎる愛~
昼ごはんを食べ終わって教室に戻る。なぜか赤川はテンションが高い。
(そりゃ、秘密を打ち明けたら距離が縮まるからよ。それにこれから二人は結ばれるの)
結ばれないから。ってか、そういうのじゃないだろう。そう、さっき赤川から言われたお願いはこうだった。
「なら、僕からのお願いは、一緒にプロトコル・ファンタジーのアニメを見よう」
こう満面の笑みで言われたのだ。まあ、それくらいなら問題ない。だが、夕方は家事もしないといけない。それに調べものもしたい。図書館に行ってからスーパーで買い物だ。
「じゃあ、僕はいったん家に帰ってDVDを持って行くね。ちゃんと録画してあるから」
そう楽しそうに話していた。そんなにアニメを一緒に見たかったのか。
(違うわ。一緒にいたいのよ。これは愛ね。愛)
友情だろう。なんか今まで赤川がここまでアニメ好きだなんて知らなかったし。知らない一面が知れたのはいいことだ。
そう思って俺はふとポケットに手を入れた。そこに携帯がある。思い出した。俺は昼休みに連絡を取るといっていた相手がいたのだ。携帯の電源を恐る恐る入れる。
見たことない量のLineの未読。
なんだ4桁って。それにメール。これまたすごいことになっている。とりあえず、すぐに連絡をした。
「なんで出てくれないのよ」
当たり前だが声が怒っている。
「ごめん。ちょっと友達と話していてさ。かわいい彼女ができたので質問攻めにあっていた」
嘘だけど。乗り切れるかな。
「そうなんだ。私のこと自慢していたんだ」
「ソうだよ。自慢してたんだ」
声が裏返ってしまった。ビビるな俺。大丈夫。携帯から見えざる手が伸びてくることはない。心臓もつかまれない。大丈夫だ。
「じゃあ、今日授業終わったら迎えに行くね。一緒に帰ろう。家にも行きたいし」
「ああ、いいよ」
って、ダメだろう。今日は赤川も家に来る。というか、放課後は図書館だ。仕方がない。
「いいけど、友達も一緒なんだ。ちょっと放課後に図書館に行く予定なんだ。一緒でもいいか・・・な」
なんだか携帯から不穏な空気が。
「はぁ。なんで二人っきりじゃないの。私の愛が、愛がわからないの?この愛の重さを感じられないの?」
いや、重すぎるくらい感じていますよ。そして、その重さに皆壊れているんですよ。
「いや、まだ二人っきりだと緊張するからさ。それだけむつきんかわいいし」
言った。俺は足がぷるぷる震えながら言い切った。小鹿か。やっぱり俺は小鹿なのか。
「そうなんだ。あきらん。結構かわいいとこあるのね。わかった。今回は許してあげる。でも、はやく私のかわいさになれてよね。じゃあ、放課後ね」
落ち着いた。そして、電話が切れた。怖かった。
(別れたら?)
どうやってだよ。あの状態に別れ話を切り出せるかよ。怖すぎだ。
(怖い思いまでして付き合うのっておかしいわよ。それなら安心できる赤川きゅんにすればいいのよ)
なんでそこまで天使ちゃんは赤川を推すかな。まあ、赤川はかわいいが男だし、妹も姉もいない。居たら絶対に紹介してもらっていたね。
(それ、面白くない)
なんでだよ。意味がわからないよ。まあ、後で赤川に言っておかないとね。むつきんも一緒だって。
だが、俺はきれいに忘れ去ってしまっていた。なんでだって。それは休み時間に赤川は生徒会長の岡島聖に連れ去られたからだ。授業までには戻ってくる。だが、戻ってきた赤川の目は死んだ魚の目のようだった。
仕方がないので俺は休み時間携帯をいじっていた。普通にLineを返せばむつきんは普通にも感じる
(そう、思いたいだけね)
いいだろう。そう、思うことで活路を見出そうとしているのだから。なんて、会話をして俺は授業をやり過ごしていた。そして、放課後。
「赤川、大丈夫か?なんか体調悪いのなら今日じゃなくてもいいんだぞ」
目の前に居る赤川は確実に憔悴していた。はかなげなのだ。
「ううん、調べものでしょ。町の中央図書館に行こう」
そう言って笑った赤川はなぜか色っぽかった。
(だよね。あの笑顔ヤバいよね。惚れた?)
惚れないから。というか、その展開飽きてきたよ。逆に天使ちゃんに惚れちゃうよ。
(大丈夫です。彼女が居る人はお断りです)
じゃあ、赤川と俺をくっつけるのも辞めようよ。
(それは別です。私の癒しだから、ね)
って、なんでそこむちゃくちゃかわいく言うのかな。もう、その最後の「ね」が頭の中をリフレイン中。もう、このままとろけたい。
(キモいんですけど)
「ねえ、その子だれ?」
まるで地獄から響いたような声がした。校門にどす黒い空気が渦巻いている。そこに居たのはクラッシャーむつきだ。すでに男子が校門の右側を避けている。
「迎えに来たら、変な虫が、虫が、虫がついているじゃないですか?私の愛を、愛を、愛をなんだと思っているの?何、この子を消せばいいの?消せばこの子に向かっていた愛が私に来るの。この子が悪いのよ。悪いのよ。悪い、悪い、悪い。だから私がこれからすることは悪くない」
そう言いながらクラッシャーむつきはカバンを投げ捨てた。なぜか手には鉄の棒を持っている。ほら、ボタンをおしたらすっと伸びるやつ。
ってか、それ護身用でもそんなもの持っているやつ見たことないぞ。ってか、赤川が俺を見ている。そんなすがるような目でみるなよ。
って、そうなるわな。しかも、俺の制服の袖口をそっと掴んでいる。なんでそんなに女子力高いんだよ。かわいいだろう。
(赤川きゅん、かわいいよね)
天使ちゃん。ありがとう。ぶれない天使ちゃんのおかげで落ち着けたよ。覚悟も決まった。とりあえず俺がすることは一つだ。
「ちょっと待てよ」
うん。このセリフ言ってみたかったんだよね。効果はイケメンに限るかも知れないけれどさ。とりあえず、むつきんと赤川の間に立つ。
「何よ。その女がいいの?」
「落ち着け。ここはどこだ?周りを見てみろ」
俺は促すように周りを見る。同じ制服を着た学生が遠巻きで見ていたり避けて校門を通り過ぎたりしている。これ、明日には噂話しが加速するだろうな。
「見たけれど何よ。その女とどう関係あるの?」
「むつきん。ここは男子校だよ。つまりこの赤川も男子だ」
そう言って俺は少し移動して赤川の肩を叩く。そして、赤川を見る。泣きそうになってむっちゃかわいい。ってか、こんな時にそう思ってすまない。
(大丈夫よ。その赤川きゅんを写メっている男子多いし)
おい、部外者は余裕だよな。その気持ちはわからなくないが。
(ねえ、今の赤川きゅんを撮ってよ)
それ、すごい無茶振りだよ。この状況で俺まで写真撮っていたら説得力ないでしょ。
「何?その子がひょっとして男子だって言いたいの?そんなどこから見ても女の子なのに」
おいおい。現実を受け入れろよ。
(うん、あっきーも現実を受け入れて赤川きゅんと付き合えばいいのよ)
そんな現実はない。というか、この状況でその突っ込みはダメでしょ。
「僕は、男・・・だ」
消えそうな声で赤川が言う。だが、いつもの強気はない。
「わかっただろう。むつきん。だからさ」
俺はむつきんに近寄る。だがむつきんの目は俺を見ていない。
「わかったわ。百歩譲って理解してあげる。あれね。この子実は女の子なのに、性同一障害で男だと思い込んで男子校に来た女子ね。そこであっきーを見て自分が女子だと気がついたのよ。
そうでしょう。そうに決まっているわ。こんなやつに私の愛が、愛が、愛が奪われてたまるものですが。奪え、奪え、奪うのよ。そうすれば私を愛してくれるのね」
いや、確実に壊れている。これ、クラッシャーむつきって相手だけじゃなく自分も壊れているんじゃないのか?
「おい、それ色々とまずい理解だ。まず、色んな人に謝れ。どうすれば理解してくれるんだよ」
そう言いきらないうちにむつきんはダッシュをした。警棒を赤川の首元に押し込み、足を引っ掛ける。あ、これ見たことがある。
柔道の小内刈りだ。授業でならった。
ってか、完成度高くない。そして、赤川に襲い掛かる。
(ちょっと、そのポジションはあっきーでしょ)
おい、待て。なんでそうなる。ここは心配しろよ。ってか、俺も駆け寄りむつきんの肩に手をかける。
だが、むつきんの動きが止まっている。いや、一箇所だけ動いている。警棒を持っていない左手だ。左手は赤川の股間をまさぐっている。
「え?え?」
むつきんがそういうとゆっくり立ち上がって俺を見た。
「ねえ、この子ってひょっとして男の子?」
「ああ、何度も言った」
「ってことは、この子は恋人でも愛人でもない?」
「ああ、友達だ。今日一緒に図書館に行こうと思っていた相手だ」
「な~んだ。むつきん。早とちり。てへぺろ」
そういって立ち上がってかわいいオーラで笑い出した。いや、笑えないし。俺の顔が引きつっている。そして、赤川は涙目だ。
「赤川大丈夫か?」
「僕は、僕は、僕は・・・もうお嫁にいけない」
いや、嫁にはもともといけないからってつっこみもできないくらい悲壮な顔をしていた。それに、赤川は言ってすぐに走り出した。追いかけようかと思ったが俺の腕にいきなりむつきんがぶら下がってきた。
「ねえ、一緒に図書館行くんでしょ。行こうよ。行くよね」
なんで最後は低い声なんですか?怖い。これ行かなかったらいつの間にかしまっている警棒がまた出てくる感じがする。
とりあえず、俺は赤川に「俺の家で待っていろ」とLineを送った。まあ、フォローはできそうにないが。
(大丈夫よ。抱きしめたらそれで落ち着くよ)
落ち着かないから。俺はとりあえず、中央図書館に向かって歩き出した。
中央図書館。それはこの地域で一番でかい図書館だ。本の数だけではなく、設備も充実している。そして、思ったことがある。ここだと騒ぐこともないから安全なんじゃないかと。
「ねえ、あきらんって勉強は得意なの?」
ずっと俺の腕にくっついているむつきんがそう言ってきた。これ腕を組むというより、組み付かれているように見える。
ドキドキするのではなく、はらはらする。おかしい。俺の理想だとここで胸がむにゅんって当たってどきっとするはずなんだ。
(まあ、赤川きゅんに胸はないからね)
おい、なんでここにいない赤川が出てくるの。けれど、ありがとうね。変わらない天使ちゃんの声を聞いていると安心できるよ。
そうだ、むつきんの質問に答えなきゃ。無視とかしたらマジであの警棒で殴られそうだ。
「まあ、普通かな?」
嘘である。実は勉強をしてステータスをあげれば出会いがあると思って真剣に勉強をしていたんだ。
(あっきーって発想が基本変だよね)
天使ちゃんほどじゃないから。俺なんて普通にゲームマスターなだけですから。そして、思考がゲーム脳。だからアニメ見る時間ないんだけどね。
(アニメは見てよ。ってか、ゲーム好きなんだ)
人生はゲームみたいなものだよ。今はサスペンスゲームっぽいけれどね。
「じゃあ、勉強教えてよ。最近よくわからなくて」
なんか、嘘っぽい。ってか、俺勉強しに来たわけじゃないんだが。だが、がっちり腕を掴まれている。今日の調べものは諦めるか。
「わかったよ」
といったが、問題集を見てびっくりした。難しいのだ。なんだこれ?
「どう?解ける?解けるよね?」
ものすごく悩み、あがいてみた。だが、途中まではあっていたけれど答えが間違っていた。うん、むずかしい。
「ごめん。この途中までしかわからなかった。むつきんはわかる?」
「わかるわけないじゃない。これ、東大の過去問だよ」
おい、一体俺に何をさせようとするんだよ。むつつきんが言う。
「でも、びっくりした。あっきー頭いいんだね。だって、今までの人は挑もうともしなかったから」
ってか、俺は何だ。そこに山があるから登る登山家みたいなものか。そこに問題集があったから解くみたいな。
(解けてないけどね)
いいんだよ。こういうのは意気込みを買ってくれよ。
(で、テストで失敗する。テストは結果だけだよ)
もう、天使ちゃんは容赦ないな。まあ、でも理論はあっていたんだ。計算は間違えたけど。
(強がりだね)
いいでしょ。自分をほめてあげたいんだから。
「そういうあっきー大好き」
そうむつきんが言ってきた。こういう表情はかわいいんだよな。
(だまされているだけね)
いいだろう。だまされたって。あ、やばい。もうすぐここを出なきゃスーパーのタイムセールだ。
「ごめん。俺そろそろ行かなくちゃ」
「はい?どこに行くの?私を置いて?わからない。私の愛が伝わらないの?愛が、愛が、愛が」
そういってむつきんはペンで机を叩き続けている。小声だけれど怖い。ちゃんと周りを見て行動しているあたりひょっとしたらこれ計算してるんじゃないのか?
(計算していない女子はいないよ)
夢を壊さないで。
「置いていくわけじゃないんだ。ちょっとうちは複雑で家事全般は俺がやっているんだ。それでもうすぐスーパーのタイムセールなんだ。だから、また明日ね」
そういうとむつきんは笑顔になった。
「あっきー大変なのね。わかったわ。私は理解ある彼女だもの。でも、嘘だったら覚悟しなさいよ」
なんで、最後だけ声ひくくなるの。それなかったらかわいいのに。
(かわいくないよ。ちゃんと見て)
ってか、天使ちゃん容赦ないな。でも、俺はさっきのむつきんの言葉を免罪符に図書館を出た。ってか、横にむつきんがいる。
「そうだよね。私もついていけばいいんだ。あっきーどこのスーパーに行くの?」
「え~と、南町の××スーパーと、東町の商店街」
最近は野菜が高い。だが、無尽蔵にお金があるわけじゃない。だから、ちゃんと特売をみないといけない。新聞のチラシは本当に役に立つ。しかも最近はアプリなんかもあるんだぜ。
(あっきーって無駄に女子力高いよね。無駄力)
無駄じゃないからね。
(でも、いつでも嫁に行けるよね)
いや、行かないから。ってか、俺もらうほうだからね。
(そうだよね。赤川きゅんを嫁にもらうんだよね)
もらわないから。ってか、俺のセリフにむつきんが固まっている
「なんで、そんなに色んなところに行くの?意味わからない。やっぱりそこに女がいるのよ。確認しなきゃ。そして、殲滅、殲滅、殲滅よ」
おい、一体どういう思考をしているんだ。俺はアプリを見せながらこう言った。
「このアプリを見るとわかるけれど、南町のスーパーは今日キャベツが特売なんだ。そして東町の商店街は町おこしイベントで先着でティッシュの無料プレゼントがあるし、500円購入したら和菓子がもらえるんだ。だからだよ。調べていくと色んなことがわかるんだよ」
ふふん。どうだ。ここまでの極みに来るまでどれだけ大変だったと思う。
(誇られてもね。アプリ見ているだけじゃない)
このアプリにたどり着くまでものすごく大変だったんだから。まあ、買い物帰りに主婦の人に教わったんだけれどね。
「わかった。信じてあげる。じゃあね」
むつきんはそういって離れていった。離れた場所を見て納得した。いつもむつきんが乗ってくる駅だ。そして俺もいつの間にか電車にいつの間にか乗っていたらしい。
(無意識での行動って怖いわ。そのうち本能のままに行動して赤川きゅんと結ばれるのよ)
結ばれないから。ってか、どんな本能だよ。俺は気楽に買い物をしていた。だが、途中で気がついた。後ろにあやしいやつがいる。
(気がついた?私は結構前から気がついていたよ)
だったら教えてよ。そう、後ろにむつきんがいるのだ。ストーカーかよ。ってか、駅で降りたんじゃないのか。
(降りた振りをして、隣の車輌に駆け込んで乗っていたよ)
だったら、そのときに教えてよ。ってか、あれどうしよう。次は東町の商店街なんだけれど、声かけたほうがいいのかな?
(まあ、声をかけたっていいことなんて何もないと思うけれどね)
確かに。だが、本当に何もなくてよかった。これで誰かに話しかけられでもしていたら後ろから刺されていたかもしれない。
いや、あの警棒で殴られるのか。とりあえず、スーパーを出て少し駐車場付近の死角になる場所で待ってみた。
するときょろきょろしたむつきんがいる。ここから回り込んでむつきんの後ろに行く。
「あれ?むつきんじゃない?どうしたの?」
声をかけたらびくってなってゆっくりこっちを向いた。
「あ、あっきーじゃない。き、奇遇よね。ちょっと買い物しに来ていたのよ」
って、手ぶらだけれどね。だが、つっこまない。そんな恐ろしいことはしない。今神経を逆なでたら何が起こるかわからないから。
「俺はこれから東町の商店街に行くけど、一緒に行く?」
本当は行きたくない。だが、あそこは下町だから色んな人に声をかけられるのだ。それを誤解されるのが怖い。
(そういうことなんだ。あっきー人気なの?)
というかよくいじられる。とりあえず、むつきんと一緒に東町の商店街に行くことになった。
しばらく歩き、東町の商店街に着く。シャッターでしまっているところもあるけれど、まだ活気がある商店街だ。
「こんなとこあったんだ」
むつきんがそう言う。確かに駅から少し離れているからここに来る必要はないかもしれない。でも、ここは色んな店が多い。
コロッケ専門店もあれば、最近越してきたケバブもある。なんかちょっとあやしい日本語を話しているのだ。
後、リサイクルショップというかよくわからないガラクタ屋もある。服から食器から何に使うのかわからない物体も置いてある。
「あ~ら、関原くん。今日は彼女連れなの?」
まず、声をかけてきたのは果物屋のおばちゃんだ。ここで今日は買わないけど、商店街に入ってすぐの店だから顔を覚えられている。
だいたい夏は梨を冬はみかんを買う。ここの店が一番おいしいのだ。あ、ぶどうもおいしいけれどちょっと高い。
「ええ」
そう言うとなんだか横でむつきんが笑顔になっている。
「そうなんです。私たちつきあっているんです」
なんか幸せオーラがあふれている。こう見るとこの子かわいいんだよね。
(そうやってだまされていくあっきーであった)
なんでナレーション風なの。
まあ、今はそんなつっこみをしている余裕はない。今日は肉屋に行って豚ばら肉を買うのだ。キャベツと豚ばら肉のスープにこんにゃくの煮っ転がし、冷奴に、鶏肉団子だ。ここで豚ばら肉を買えば冷蔵庫の整理につながる。
だが、肉屋までが遠い。いや、遠くないのだが、八百屋と魚屋を通過する。花屋の三木さんはにっこり微笑むだけだったが、それ以外の人はみんな「かわいい子だね」とか「若いね」とか言いながら俺の肩をがんがん叩いてくる。これはこれで間違えたかも。
「なんか、あきらんってみんなに好かれているのね」
だが、むつきんは笑顔だ。ようやく、買い物も終わる。
「じゃあ、駅まで送るよ」
「ありがとう」
次つけてきてたら教えてよね。
(なんで?)
怖いでしょ。殺されるかも知れないし。それに、今家では赤川が待っているはずだから。
(え?これから巡るめく愛のささやきが始まるの?)
ってか、意味不明だし。何だよ。愛のささやきって。
まあ、いいか。とりあえず駅まで歩く。むつきんは俺が教えたおいしい牛肉コロッケを食べながら歩いている。
手にはタピオカドリンクがある。まあ、両手がふさがっているから腕にぶら下がられることもない。これはいいかもしれない。
(そう、その手は赤川きゅんをつかむためにあるのよ)
違うから。この手はもっと色んなことに使っているからね。
「ここで大丈夫。今日はありがとうね。また明日」
そう、笑顔でむつきんは階段をあがっていく。見えなくなるまで眺めている。理由は一つだ。こっそり戻って来ないか確認するためだ。
しばらくして、大丈夫そうなので俺は家に向かった。
当たり前だが家の前で赤川はずっと待っているわけではない。仲がいいので俺がいなくても勝手に家に入っている。鍵の保管場所を知っているのだ。
(なんだ、すでにそういう関係だったんだ)
そういう関係ってどういう関係だよ。ただの友達だからね。予想通り家にはすでに赤川はいた。リビングでくつろいでいる。
「あ、おかえり」
「ああ、今からご飯つくるけど、食べていくか」
(やっぱりそういう関係だったのね。あっぱりあーんとかするの?)
しないから。したことないし。
「とりあえず、アニメでも流しておくよ。料理しながらでも見られるでしょ」
赤川がそう言う。
(うん、私は見られるから問題ないよ)
まあ、いいか。それで赤川が納得するのならそれでいい。しばらくして天使ちゃんが言い出した。
(この続き。あったんだ。見たかったからうれしい)
そうなんだ。ん?何かそれってヒントになるんじゃないの?俺は料理の手を止めて赤川の所にいった。
「なあ、赤川。今見ているのはいつ放映された分なんだ?」
「え?この話しは先週の木曜日だよ。そうそう。あっきーが事故にあった次の日だね。どうかしたの?」
「いや、天使ちゃん。あ、天使ちゃんって俺の頭に聞こえる声をそう呼んでいるんだけれど、その天使ちゃんが言ったんだ。今見ている話しを見られていなかったって。これってヒントなんじゃないかな」
それであっているよね。これで、実は出かけていて見そびれたってオチだったらびっくりするからね。
(記憶はないけれど、私このアニメはちゃんと見ていたから。だからそれはないと思う。録画していたし)
そういう事は覚えているんだ。
「ってことは、この放映日付近にあった事故とかを知れべればいいんだね。聞き込みとか一緒に行く?」
(聞き込みデートよ)
いや、ちゃんと聞こうよ。デートって単語なかったからね。
「ってか、多分俺の事故を調べるのでいいと思うんだ。そんな偶然なんてないと思う。もしくはその同日あたり。何かがあったはずなんだ。ただ、俺は自分の事故のニュースを調べるのが怖かった。赤川は調べてた?」
「調べてないよ。見舞いには行ったけれど」
(お見舞いイベントだね。そこでキスをして目覚めるか試したのよ。知らないの?)
勝手にねつ造しない。ってか、リハビリの時に来てくれていただろう。
「じゃあ、明日から調べるか」
「その前にご飯食べよう。後一緒にアニメみようか」
(うん。見たい)
今の絶対に天使ちゃんへのメッセージじゃないからね。
まだ、俺はこの問題が簡単なものだと思っていたんだ。




