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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP15 ザ・スカベンジャーズ -ジ・アンダーテイカー:レボリューション-
65/86

2話

「これでいい。これでいいんだ」


 Samuel(サミュエル) Spiegel(シュピーゲル) Stewart(スチュワート) |Sevenelevenセブンイレブン Sawneybean(ソニービーン)(30歳)。

 ツーブロックにツーブリッジの極デカメガネで白いタートルネックのセーターでインテリをアピールするアフリカ系の男性だ。やたら長い名前だが、これは彼が自らの源流と過程と現状と未来を見据えて名乗っているものであり、何よりも“食”を大事に思う彼がありとあらゆる国の料理に精通するための覚悟の表れだ。最早彼の名前に元から残っている部分はスチュワートだけだ。だからみんな彼をスチュワートと呼ぶ。

 彼の能力をもってすれば、彼と面識のない人だって彼を気安く、或いは尊敬の念を込めてスチュワート、スチュワートと読んだはずだ。

 彼はカメラで言えば天体望遠鏡並の精度の味覚と、包丁の先でクモの巣をつついてニット帽を編めるほど器用な手先を持っていた。料理の天才だった。


「ヘイ、ボーイ。どうして今、ママの作ってくれたお弁当を捨てたんだい?」


「マズいんだよあのババア! まるでジャングルから帰ってきたグリーンベレーのソックスの味だ!」


「それでいい」


 スチュワートは目の周りに皺を寄せ、真っ白な歯を剥き出して笑った。


「ヘイ、ミスター。なんでそんな生ゴミを食うんだい?」


「知らねーよボケ。ホームレスだって食わねぇと死ぬんだ」


「それも正解だ。それでいい」


 感圧センサーだったり金のカウントだったり、ATMはいろんな機能を持つが、スチュワートの舌はそんじょそこらのATMより精密で味も触感も熱も感じる。その舌が口腔から歯へ、歯から唇へ伝い、今は彼の笑顔の一部になった。


「ヘイ、プレジデント。そんなに高級なディナーは本当に必要かい?」


「もちろんだ。ものを食う目的は一つじゃない。無限だ。腹も満たせるし美味も味わえる。こうしてステータスにも繋がるし、仕事となれば物流や貿易にも繋がるだろう。食い物に何を求めるかは人次第だ」


「ああ、正解だ」


 買ってから食べ始めるまでに一週間もかかるような生ハムも、泥をこねてつくったヌードルもカリフォルニアロールも胃に運んだ唇、舌、歯が三位一体となってニカァッと笑う。

 市場はまるで天国だ! どいつもこいつも食うことしか考えてない。でもそれでいい。

 スチュワートに食の理想はない。

 五〇〇ドルかけてイタマエに作らせた極上の懐石料理だろうと、初めてレモネードを売って金を稼いだ坊やが買ったファストフードのバーガー、もちろん坊やが売ったレモネード、もう八か月も人の口にも冷蔵庫にも行かず使用済みスキンと一緒に道を転がってたナチョス……。

 美味い不味い、安い高いは問題じゃあないんだ! 食への感謝も追求も必要なし。スチュワートにとっては全て正解だ。

 みんな勝手にすればいい。だからスチュワートはこうする。

 食料自給率を考え、とにかく多くの人が飢えに困らないようにする。腹を満たせるようになった人には食の楽しみを覚えてもらうために美味いものを食わせる。美食に目覚めた人には高級な料理を出し、報酬を出す人物には誠意を尽くして最高の食材と技術をもって応える。

 食料自給率>貧困>食欲>美食>芸術

 この優先順位があるだけだ。全ての食に寛容なスチュワートはどのジャンルも贔屓出来ず、浮気性な器用貧乏として評価されなかった。でもスチュワートはそれでいい。

 そしてスチュワートは考えられる限り全てのものを食ってきた。


「よう、お前がスチュワートだな?」


「ヘヘッ、オタクさん随分と良いガタイしてるなぁ。何食ってそんなにデカくなった?」


 ミッキー・ローリネイティスはトゥインキーにかぶりつきながらスチュワートのいるオークランドの市場にやってきた。他に荷物は持っていない。スチュワートの出すものなら何でも食うつもりだし、スチュワートに全て任せる。新たな手下コウガは退屈そうに弾力の強い果実を噛み続けて糖分を補給し、咀嚼を続けることで空腹に耐える忍者の秘術を行っていた。


「クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルみたいな古くさいこと言っちまったな。何の用だ?」


「お前のおすすめ料理は何だ? そいつを食わせてやりたいやつがいる」


「へぇ、そう」


「本物のクリーデンスを歌えるアリア・アニマというガキだ」


「ああ、アリア・アニマか」


「知ってるのか」


「客商売でねぇ。流行には敏感だ。だから食に必要なのは、まず対話だ。俺の料理の最初の下ごしらえはインタビュー。何を食いたい? お前はどんなヤツだ? 予想するのは簡単さ。アンタにはプロテインでアリア・アニマにはハーゲンダッツか? でもどうせならお互いのためになるメシにしようぜ。もう一度聞く。何が食いたい?」


「フッ、それでいい」


 ミッキーは笑った。コウガとは正反対の、一切の抑圧を持たない寛容と本能と自由の持ち主。概念がまるで違う。実力に裏打ちされた食への異様な寛容は、一人の天才料理人から主体性と偏りを消した。こいつにはメニューもなければおすすめもない。コウガとは違う形で才能を潰してしまった男なのだ。


「お前は何が食いたい? スチュワート。俺もそれを食ってみようと思う」


「OK、アンタになら言えるぜ。俺が食ってみたい食材は、ゾンビだ」


 ヒュー。ホットな口笛だ。


「ベジタリアンの中には、落ちた果実以外食べない思想のヤツらもいる。ゾンビは落ちた果実だ。食という行為に破壊と死はつきものだ。決して避けることは出来ない。魚だって牛だって食うためには殺さねばならない。植物もな。だが、もう死んでいて、腐るのを待つ一方のものを食って何が悪い? 俺は……。ゾンビを食うことがこの国を飢えから救うと信じているんだ。もし食屍さえできるようになれば、この国の食料自給率トップは小麦でもコーンでもなくなるんだぜ!? だが初めて会った人間に食わせるのがゾンビってのは冒険過ぎるな。まずはアンタにスチュワート特製手作りトゥインキーでも食わせてやるかな」


「イカれてやがるぜスチュワート。最高だ。スカベンジャーズのガキどもを超えるゾンビキリングをするなら大規模な遠征が必要だ。メシと栄養の問題は解決だな」


「俺もそういうものを求めていた。マーケットじゃ買えないものがある。ありとあらゆるものが食えるなんて最高だ」


 サミュエル・シュピーゲル・スチュワート・セブンイレブン・ソニービーン! 参戦!




CZK4 15-2-A

「おいアリアァ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当にミッキー! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK4 15-2-A




 PLAY BACK……

「J・J、アタシは反対よ。“ステイツ・ジャック”はあなた以外に触らせるべきじゃない」


 PLAY FORWARD……

「聖剣を握るのは、このロイド・ロールスロイス」


 PLAY BACK……

「なによこの娘……。こんな天才をウチの事務所に!?」


 PLAY FORWARD……

「お前がアリア・アニマだな? 俺の名はミッキー・ローリネイティス。こっちはコウガ、こっちはスチュワート」


 PLAY BACK……

「あなたの名前は今日から―――・―――ではないわ。アリア・アニマよ」


 PLAY FORWARD……

「お前にとてつもなくデカい才能と怒りを感じる。俺たちと来い」


 PLAY BACK……

「……。もぉう、やめたい……。死にたい。そうだ、死のう」


 PLAY FORWARD……

「お前の人生は誰のためにある? それを考えたことはあるか? 誰と競って生きていく? どこに行くために? 確固たる理想を持たねば誰とも戦えないしどこへも行けない」


 PLAY BACK……

「アリアはアタシじゃあ手に負えねー? あら、あのJ・J・フォックスともあろうものが! “ステイツ・ジャック”の牙城が脅かされることに恐怖するなんて。安心しなさいJ・J。アタシがやらなくてもアリアは世界一になる」


 PLAY FORWARD……

「だがガキにそれを持てってのは少々酷だ。だから大人が選択肢を用意してやる。残念ながらお前の周囲の大人は無能だった。一緒にゾンビを殺すぞ。聖書を? もしお前のゾンビキリングデビューが明日なら、明後日には聖書は少し厚くなる」


 NOW……

 キュイーン。

 ステージ上のアリアは一七〇センチメートルの長身をグネグネさせたムーブで金髪を振り乱して表情を隠し、マイクスタンドの先端を引き寄せて髪で隠してハウリングさせ、黒のネイルでゆっくりとミッキーを指さして激しく挑発した。ここはアリアのホームグラウンドのしみったれたライブハウス、11-0でリードしている場面でカウント3ボール・0ストライクからのホームラン予告のような大胆さ。


「どうだア……」


「黙りなマン毛ヒゲ……」


「ハハハッ」


 コウガがかつて母国で見た神秘の伝統芸能・カブキの動きでアリアが顔を上げる。その両鼻からは筒状に丸めた一〇〇ドル紙幣が排気筒のように伸びていた。


「失礼、鼻毛が伸びるんでね。ブラジリアンワックスで抜くのと同時にコカインをキめておこうと思って。みんなー! みんなの老後の貯えがコカインになったよぉー!」


 Hoooo!! オーディエンスが熱狂する。俺たちのアリアが……。観客席から観ていても無理してるってわかるアリアが……。あのミッキー・ローリネイティスにブチかましてる! ミッキー・ローリネイティスからスカウトを受けているだなんて!


B●●●

S●

O


「面白くなってきたじゃねぇか。サーカス小屋は畳め。躾けてやるぜアリア」


「ここをどこだと思ってるの? 痛い目見ないうちに運ばれて出るか歩いて出るか選んで」


「年収二万ドルのふりをして働くには、まだお前には演技力が足りないな。でもこんなウサギ小屋だ。仕事も刺激もねぇだろう。二〇〇万ドル稼がせてやる」


「大統領になったつもり? 残念ながらポルノ男優のアシスタントにモニカ・ルインスキーはつかないんだよ。ヒラリーで我慢しな」


「歌手なんてお前の才能を表現する道具の一つに過ぎない」


「真実が見えないならなんでそんなダサいグラサンをかけてるの? ダサさと引き換えによく見えるかと思ったのに」


「ここの客はお前の価値がわからんバカばかりだ」


「ええ、バカばかりよ。バカコンテストが開けるぐらいのバカの巣窟。でもアンタぐらいのバカはお断りよミッキー。だってここでのバカコンテストではプロの参加を認めてないから」


「こいつらを見ろアリア。お前のチームメイトになるアヅキ・コウガにスチュワート。お前に足りないエゴを持った人間たちだ」


「そいつらにこれは見える? この中指の攻撃的サイン。アンタのナニよりデカいでしょ? この間、ネイリストに毛もなくて細くていい指ねって言われたの」


「いい指してるな。その指は確かにケンカをしかける行為だがグチグチ動かすこともできるぞ。お前はその指でベラトリクス・サンダーランドのアソコをグチグチしてやれ。お前のライバルはあのサイコ・ビッチだ」


「それはいい。この指はわたしの毎月三のつく日のセフレだからベラトリクス・サンダーランドの性感帯もバッチリわかる。ちょ、動かないで! バットシグナルが出たわ! あれ、違うの? 違ったわ。あなたのハゲ頭だったわね、ごめんなさい。そんな大きいライトを持ってるのはバットマンくらいだと思ってた」


「もったいないぞアリア。まるで仮病で仕事をサボって出かけた釣りで二メートルのサーモンを釣り上げた気分だ。誰にも自慢出来ない。後ろめたさを消せ。自分を解放しろ。お前は未熟で、だから繊細で大胆、故に不器用だ」


「すごーい、シェイクスピアみたい。その文言、シェイクスピアの飼い猫から教わったの?」


「お前に期待している。責任は持つ」


「……」


B●●●

S●●

O


 期待。責任。


「……アリア?」


 アリアのマネージャー、フォン・ヒドゥンはたった今、禁煙を止めた。

 自分にまとわりつく煙だけでもアリアが喉を痛めてしまうような気がしたから禁煙を始めた。もうアリアは……。


 PLAY BACK……

「ウチのバンドのボーカルはこいつにしよう」


 PLAY FORWARD……

「CDのディスクに顔は映らないからなぁ。ウチにはもったいない」


 PLAY BACK……

「ウチで引き取る。パンクは合うだろう」


 PLAY FORWARD……

「シド・ヴィシャスになるには顔が良すぎた。手に余る。責任を持てない」


 PLAY BACK……

「こいつぁ成長したらえらいことになるぞ」


 PLAY FORWARD……

「俺たちに必要なのは即戦力だった。すまない―――・―――。次のレーベルを紹介する」


 Dear J・J・フォックス

 一番弟子のフォン・ヒドゥンです。

 多分だけどアタシは地獄に落ちるから、多くのタレントを輩出してきたレジェンドのあなたと天国で会うことが出来ません。

 こう言ってはカワイソウだけど、あなたの言う通りアタシがアリア・アニマと関わったことは間違いでした。

 アタシではアリア・アニマを育てることは出来ませんでした。

 アリアを地獄に突き落とし、苦しめてしまいました。そしてさらなる苦しみを与えようとしています。

 あの子の幸せはいつ、失われてしまったのでしょう。

 何故これほどの逸材を手にしながらアタシは幸せを感じられなかったのでしょう。

 おおよそ全ての人類は、苦難によって臆病になりすぎました。

 アリア・アニマを自分よりも優れた誰かに託すことはアリアへのお詫びになるのでしょうか。

 もしもあなたならアリア・アニマを笑顔に出来たでしょうか。

 

 アリア・アニマをミッキー・ローリネイティスに託します。

 理由は簡単です。

 ミッキー・ローリネイティスが優れた人間だから。なんて優等生な理由ではありません。

 ミッキー・ローリネイティスがスカベンジャーズを倒すからです。

 あなたを殺したロイド・ロールスロイスをきっとアリアが倒してくれます。

 アタシを突き動かした最後のものは、あの子に欠けているエゴでした。

 アタシの背中を、エゴを……。


 アリアを生き地獄に落とした罪で地獄に落ちることが出来るなら、本望。

 涙をインクにして手紙を書けるのならもっと、まだまだ便箋が足りないのですがつけまつげが落ちるのでこの辺で。

 しばらくの間、あの世は天国も地獄も慌ただしくなるでしょう。

 それがアリアからの便りです。


B

S●

O●


「キャハハハ……」


 まただ。またこうなった。ヒドゥンがタバコを吸っている。

 アリアは両鼻の一〇〇ドル札を引っこ抜いた。これなら涙が溢れてもおかしくない。


「あぁーあ。あぁーあ!! お前らの負けだね、劣等遺伝子のみんな! 残念ながらみんなの応援では、“ネオ・ナチュラル”アリア・アニマを成功させることは出来ませんでした! 芸能界はこのように人身売買の温床! でもよかったねみんな! ゾンビキラーでさえ成功しなかったら、次はポルノ女優になるしかない。キャハハハ。みんなが優位! と叫んでくれた“ネオ・ナチュラル”アリア・アニマは、夢を諦めることの出来ない人物でした! これが一番効くでしょう? “ネオ・ナチュラル”アリア・アニマでさえ、職に困って身を売る。一切合切をしゃぶられつくして、死ぬまで永久に搾取され続ける。……わたし、あんまりすごくなかったんだなぁ」

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