5話
※重要なお知らせ……『California Zombie Killers』の世界では、一貫して1ドル=100円で換算しています。
ノーマン兄妹がキッサキで巻き上げたヨムはドル換算でおよそ一万ドル。この金はジャパニーズ・クライ・ババアのように一度背負うとなかなか下ろせず、使い切れないとすすり泣く始末の悪さだ。まるでジャパニーズ・ババヌキ。消す手段はたった一つ。使える場所で誰かにおっ被せる。そして今の北米ではヨムを使えてさらにおっ被せることが出来るのはキッサキだけだ。
まずは正統にヨムを消すために、兄妹とドクとミセスは贅沢をしてドレスコードの模範みたいな服装をした。
ミランダは激ダサパーカーとジーンズから膝下のフォーマルなワンピースに始めてのタイツ。チャールズはロングTシャツじゃなくタキシードに蝶ネクタイ。ドクは怪しい薬師のユニフォームから紋付袴。ミセスもビジネスカジュアルなパンツにシャツを合わせた。
キッサキのカジノはTシャツやネルシャツ、野球帽でも入れるが、たまにはビシッとするのもいいかもね。でも大変なことになるぞ! ハリウッドでもう一回『カジノロワイヤル』を作ることになったらチャールズが悪いやつにタマタマをロープでぶん殴られる拷問を受ける役になってしまう! それにボンドガールにもこんな少女はまだいなかった。
「勝つんじゃねぇ、勝つんじゃねぇぞ」
ドルルルル……ダン!
「ニャー! ニャー!! ニャー!!!」
|猫|猫|猫|
「クソッタレェ! 猫が揃っちまった!」
ミランダのスロットマシンに三匹のニャー。この『トムとジェリー』はトムが追い付きすぎる! ザザザァとミランダのスロットマシンのトレイに流されるヨムコインはもう猫の便所の砂以下の価値だ。
「どうするドク。金が減らない」
「そういう設定かにゃ? だってカジノの外にはノーパン・メイド・カフェにカタナストア、二十五マイル自転車ビデオ、服屋、ありとあらゆる手段で金を使える。カジノと町がグルなら、お前らみたいに金を外に持ち出されるくらいならこの町で使ってもらった方がいいに決まってる。持つのに困る金額になれば記念に持ち帰ろうなんて気はしない」
「全部あの黄金のブタの貯金箱に入れてやろうか?」
「やめとけ。惜しくなるしいい気分になる。一万ドルスってもう二度とやるものかって気持ちになるのが一番いい」
チャールズはカジノを歩いていた猫背の日本人の男の腕を掴んで引き留めた。ちょうど風のない海のように退屈で特徴のない顔つきで首から提げているカメラも緑色の使い捨てだ。ドレスコード無視のカットシャツで無地のチノパン、ヒモがまだらになったスニーカー。見るからについてない男だ。
「名前は?」
「はいっ、ゴメンナサイ。トードー・オフロです」
「OK、オフロ。今からお前もチャールズとご機嫌な仲間たちのメンバーになった。賭けてみろ。一万ドルある」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ。シェイクスピアかよてめぇはよぉぉぉ! なんの取柄もないクズに無償で金を? 一万!? グヘヘヘ。一万ドルあったらなんでも出来るゥ。生で……。生でいいのか!? ビールとレバーも!」
「いいぜ」
「ウラがあるんだろう?」
「ねぇ。俺たちはこの金をドブに捨てたい。だから一つ条件があるとすれば、勝ったらその金はこの町で使って外に出すなってことだ。見てみろ、あのスカしたバニーガールのディーラー。ここまでミランダのニャー揃えにも全く動じず、ポーカーフェイスで金の出し入れを続けてる。でもここでクズのお前が勝ってみろ。そこで聞くあいつの地団駄、いい音するぜぇ」
「まさに俺はドブだ。全ての金は俺を経るとドブへ行く。おかしいな。目覚まし時計が鳴らない。アメリカンドリームってのは起きたまま視られるってのかい? 名前を聞かせてくれよ足長兄さん」
「チャールズだ。妹の名前は教えない」
「チャールズ、金と時間を無駄に使うことにかけて言えば俺以上の才能はないぜ。カニエ・ウエストがもうゾンビになっててよかった! 俺はテイラー・スウィフトじゃないけど俺の晴れ舞台を邪魔するカニエはもういねぇ! そこのビールの売り子ォ! さっさと俺のためにビールを注ぎやがれ! いつまでも俺が敬語で話すと思うなよ、たかが従業員が! それが終わったらお前を相手にハナフダだ。それからパンツを見せな。何? 彼氏がいる? 前も女にそう言われたな。その理由で断るの、女の間では随分流行ってるみたいだ」
クズに投資したなら黄金のブタの貯金箱に金を入れるより爽快感はない。まさに無駄遣いだ。それにこいつは超ド級のとんでもないクズだ。ドクはあくびをしてチヨコの肩を叩いた。
「ボーリングはないのかにゃ?」
「ボーリング?」
「どうやら無料で配るほど退屈があるようなんでねぇ」
「ホホホ、お金稼ぎではお医者さんには敵いませんわ。お待ちしておりましたのよ、ドク、そしてミセス。マヤ、現場監督に連絡を。テンプルにお二人にお見せするわ」
CZK4 14-5-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
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「キッサキ・テンプルは太古の遺跡です。ここに眠る巨神像は“ギガス”と呼ばれ、大陸を縄で縛って引っ張って今の場所に運び、氷山、岩石、マグマ等から自分を真似た生命体を作ったとされます。目の不自由な人にもその伝説が伝わるように、肌触りは雄弁なほど独特ですのよ。そして、研究が進み、ギガスはまだ生きている可能性がメリーポピンズ製薬の研究者から示唆された。ギガスの細胞の研究が十年続けば、ノーベル賞を十年連続で受賞することになりますの」
危なかった。もうすぐオフロもこのテンプルでギガスの発掘強制労働に送られるところだった。
「驚かないんですわね」
「まさか。ゾンビがいるんだ。たかが三.七メートルのオモチャじゃおどろかにゃいよ。まさか? これを発掘するために町を作ってカジノを?」
「ええ、そうなりますわ」
「バカ言ってんじゃにゃいよ。どこでもいいからカジノをやりたかった。観光資源になりそうで縁起も良さそう岩があったらそこにした。ザッツオールだろ」
「ホホホ、ドクター。あなたはこの国で生まれてこの国で育ったそうですわね。同じ血の流れる日本人ですけれど、日本で半生を過ごした日本人からすれば、日本で生きるとこの国で生きるより人生が複雑になりますのよ」
「ああ、だからボクは自分の故郷の州知事がアーノルド・シュワルツェネッガーだった時期を知っている。彼はあれでも演技が上手かったんだ。メイドとの間に子供がいることを十年以上も隠していたんだから。ボクはブッシュも認める。あんなにバカなのに大統領になった。政治家はそうじゃなきゃ」
「アラ、面白いお方。お医者さんにするのにはもったいないくらい。でも口車のプロの職業二強は水商売と政治家ですの」
「尻尾を出しにゃメギツネ。このままだとせっかくのモハメド・アリvsマイク・タイソンの口論が服の掴み合いレベルの街のケンカになり下がる」
「お堅い職に就いている人は、政治家と水商売を相手にすると必ず同じことを言いますわ。だからわたしは、なんとしても説得してみせようと思います」
ペラペーラ・ペーペラ。
チヨコが語ったのは、円熟したセクシー美魔女とは思えないほど幼稚で自惚れに満ちたむずがゆいユートピア論だった。金が人を救うだとか娯楽は必要不可欠だとか、秩序は人が集まってこそ生まれるだとか性善説に則った愚かなスピーチ。シェイクスピアに「バカな女のセリフを書いて持ってこい」と発注してもこんなバカな女は書けない。
でもミセスは悪い気はしなかった。母国との法律の違いは受け入れる。この国ではカジノは「アリ」なのだ。その範疇に収まる経営、人生が破綻した人間には健全な環境の肉体労働でチャンスと贖罪を与えているし、何よりここには被害者がいない。
ミセスの目はヨムで曇っていたようだ。キッサキは、理想郷だった。
ドクを冷静に説得しようとしているチヨコの頬が紅潮していく。口調はあくまでも冷静だ。ミセスは刀の素振りの日々を思い出した。熱くなれるものがあるのならそれに越したことはない。
ミセスがウジ・キントキのヨムの野望を潰してから約十年。Zの炎に包まれたこの国で、たった十年でこの町を作り上げたのならチヨコの情熱と手腕は尊敬に値する。アーノルド・シュワルツェネッガーのスタントマンをやることよりもデカい肝っ玉が必要だ。ウソを見抜く目はチヨコの理想が真実であると告げた。善人と悪人を見分ける目は、チヨコをまだサンタクロースを信じる無垢な少女と判断した。
ドクは呆れてしまってため息をついた。
「現場監督ゥー! 定時だって言ったのは現場監督ですよォー。何残業してんですかぁ」
「現場監督! コーチンのヤキトリだあ、激ウマだでぇ!」
「カローシしちまいますよ。シャラジャスマナッザラー!」
労働者たちの笑顔だって、ドクのインテリのコーナリングで意地の曲がった面構えと違う。完全に労働に浄化された顔だ。だがケジメはある。
『ウジ・キントキという男を知っていますか?』
「……。知っていたらなんですの? 鬼の首を取ったように! ……この国では、美声のホームレスをバスケットボールの会場のアナウンサーに抜擢したり、映画『群衆』みたいに他人にチャンスを与えるのが好きな国と聞いていました。聞いていたのは十年前。十年経った今では、百聞は一見に如かずというコトワザの通りに感じています」
ギガスの頭上のリフトで、ウジ・キントキは息を殺して愛弟子にして愛人のスピーチを聞き、心打たれていた。反吐が出るほど軽薄なカス虫のくせに、チヨコに聞かせた野望とチヨコが語る理想の一致に感動し、天敵の殺気が削がれていくのを感じる。ウジ・キントキの薄汚いマネーに塗れた野望と、水商売の女性にしては無垢な女を口説くための文句はチヨコに愛と愚かさに濾過され、ミセスを退けるところまで到達した。
BLAM!
遠くから銃声が聞こえた。コンマ一秒後にはミセスはドク、チヨコ、マヤ、現場監督、労働者を安全に逃がす退路の確認と愛刀に触れる動作を同時に実現した。
「何? マヤ! 何が起きているの!?」
「黙れババア。今のが赤ん坊のクシャミにでも聞こえたか? 損得勘定じゃにゃい。この町のゾンビセキュリティーを聞かせろ」
「ゾンビ? いえ、この町はギガスの庇護かゾンビ被害はほとんどありません。ゾンビ殺しの対策は……。何人かの腕の立つものに任されています。現場監督!」
スキンヘッドの現場監督が脳天まで真っ青になった。現場監督は対ゾンビも兼務しているが彼はシロウトだった。
「ミセス! ミセスはこの町に何を見る?」
『Dead giveaway. Whatever』
「ふゥーん……。最後に聞かせてミセス。そのウジ・キントキってどんな男?」
『彼のことは話せません。汚い言葉だから罰金ボトルにお金を入れなければなりません』
〇
まるで『007』のワンシーンだ。ビシッとドレスとタキシードで決めた兄妹が拳銃や武器でゾンビを殺していくのだ。この二人は殺しのライセンスを持っていないけど、向こうから貰われに来てくれるだろう。
ロッド・スタントン(享年19歳 ゾンビ年齢3歳)、ゲイル・ランパート(享年33歳 ゾンビ年齢8歳)、オーリン・メルヴィン(享年21歳 ゾンビ年齢0歳)ならベテランゾンビとニュービーゾンビだからまだ赤と黒のルーレットを作れるぞ。数字はまだ刻まれていないからとりあえず銃弾を全部の額にベットだ。
「こいつを見てくれ。デカいだろう? これは俺の体の一部だ」
ダメだよチャールズ! ルーレットのボールは指で弾いてホイールの中で回すものだ。クギバットでホームランしたって誰も賭けに勝てない。ツイン・ベンダー(享年51歳 ゾンビ年齢6歳)。次はディーラーに花を持たせて「ノーモアベット」を言わせてやれ。
「町を守った正当な報酬をもらう羽目になっちまう。金がなくならねぇ」
「そう? じゃあこうする」
BLAMBLAMBLAM!!
マリック・アンダーズ(享年19歳 ゾンビ年齢2歳)、ジェイ・リゲッティ(享年49歳 ゾンビ年齢3歳)、ハビエル・ルインスキー(享年67歳 ゾンビ年齢5歳)、モンゴメリー・メトラーノ(ゾンビ年齢18歳 ゾンビ年齢9歳)、イワン・ネイピアー(享年29歳 ゾンビ年齢4歳)の体にあけた穴でブラックジャック! さすがのカウティング!
「弾は他所で買うわ。ミセスは大変ね。カタナの手入れって弾より安く済んじゃうんじゃない?」
SLAAAASH!
トニオ・プレシェット(享年27歳 ゾンビ年齢2歳)、マーカート・サンデノ(享年28歳 ゾンビ年齢0歳)、ワード・フェブレー(享年29歳 ゾンビ年齢4歳)、マイロ・アガシ(享年30歳 ゾンビ年齢7歳)、ビル・フォーシァー(享年31歳 ゾンビ年齢3歳)。こいつらの享年で役はストレートだ! カードを切るじゃなくて首を切られてこの人生ゲームからはドロップとなった。
守ろう。バカバカしいほどマジメで善人なのは自分も同じだ。誰かが正しいと信じる夢を正しく遂行しているのなら守ってやったっていい。
刀が鋭く光っ……
「待っていたぞ、この時を」
切っ先が飛び出したのはミセスの目の前にいたメイコン・ユマのドタマではなく、ミセスの右の脇腹、ミセスが北米に来てから発症し、ドクに手術で治してもらった部位だ。直刀の切っ先が真っ赤な鮮血を飛散させる。しかしさすがミセスだ! 内臓の詰まっている脇腹でありながら、背中側に切っ先が触れた段階で肉体操作の超秘術を無意識のうちに発動させ、致命的血管や致命的内蔵の位置をずらして筋肉とほんの少しの脂肪を差し出し、致命傷を避けた。
「……オフロ?」
オフロじゃない……。オフロがジャケットのうちから取り出したもの、即ち赤いウィッグ……。
「アヅキ……コウガ」
「そう。我が名はアヅキ・コウガ! 月夜に踊るシノビの刃! 俺の名前を覚えていたとは意外だな」
赤いウィッグをスポッと被り、ダテメガネをぶん投げて本物の忍者の乱入だ! チヨコとキッサキの対ゾンビの切り札は、マッチョでスキンヘッドな現場監督ではなくこの男だ!
「忍者? 忍者だぁあああ!!」
「Ooooff!? 忍者! 忍者!」
コウガが刀を引き抜き、気障に照らしてポーズをとった。忘れるはずもない。こいつもミセスが見込んだ、若く理想を追い求める眩いくらいの人間だ。
「長かった……。十年は長すぎただろ。だがここだ! 今日だ! 俺は歓喜した! お前を消し、俺も消えるにはこのタイミングしかなかった。天は俺に味方した! ゾンビとお前、一度に来るとはな。俺は泥に塗れたぞ、ツブラヤ・ミチル。プレデターのセンサーを躱すのにちょうどいい泥。顔を隠す泥。俺が家族の顔に塗った泥。俺は直感を信じた! 信じるに値するほどそれを養った! お前は今日殺す! あのイケメンは俺より頭が悪い! あのハンサムは俺より足が遅い! あの男前は俺より家柄が悪い! 陽忍にはなれなくても世代ナンバーワン忍者は俺だ!」
ミセスのセルフ診断が終わった。外傷、出血、激痛アリ! 致命的損傷現時点ではナシ! 流石忍者だ。ミセスが気付くことは全くなかったし、全てがコウガの味方をした。今日のコウガがカジノで戦ったら一人でカジノを破産させていただろう。
『ノープロブレム』
「ノ・オ・プ・ロ・ブ・レ・ム・だ・あ!? フンッ、年齢のせいか、気楽な暮らしか、少し太ったかツブラヤ? 忍者は優れた番犬であり、忠誠な忠犬であり、冷酷な猟犬だ。俺はベストコンディション」
『ブタはトリュフを探せるし最後には食べられる。ブタも悪くない。黄金の貯金箱にもなるし稼ぐならブタ』
「稼ぎなんて関係ない。報酬の金なんて要らないさ。悔しかったらお前のその鋼の刃を俺の頭に突き刺して強制的に死の報酬を受け取らせるんだな! ……なんだこいつ! おいお前ら! こいつの仲間じゃないのかよ! 心配の一つもないのか? 殺しがいがないぞ!」
別に……。
「そんなに暴れ足りないならOASISでタンバリンでも叩いてろ」
「あのブサイク眉毛の真似はダメよ。あいつはカート・コバーンをバカにした」
「あれはリアム・ギャラガーじゃなくてカート・コバーンが悪い。自殺なんかした方が悪いんだ。……ミセスが変なヨガの呼吸で急所を外したんなら、お前はミセスの夫以来、久々にミセスをヨガらせた男になるのか」
「兄さん下品よ。ちょっと考えて出たのがそれ? 罰金ボトルに一ドル」
「持ち合わせがねぇなぁ。三〇〇ヨムでいいか?」
クソが……。
「……」
実はミセスの頭の中はコウガのことでいっぱいだ。
チヨコ、ウジ、コウガの関係性が知りたい。
①チヨコ、ウジ、コウガの三人の計画通りの暗殺?
②コウガの単独犯?
③チヨコは無関係でウジとコウガによる復讐?
④そもそもウジはいる?
⑤チヨコとコウガの策?
チヨコを信じたい。楽な道だ。人を信じて許すなんて。
「……まぁいい。そのままゾンビと戦い、死ね。俺の気は済んだ」
隠れる場所がないから直線距離を全力疾走! 負傷したミセスでは追えない速度でコウガは逃走した。
「やれるか? ミセス」
この大陸に来て友達が出来た。例えばこの兄妹だ。二人はミセスをネタによくジョークを言っていた。
「ミセスはマウント・フジの麓から頂上まで全力疾走したことがあるらしい。さすがに疲れたから降りるときは一息に飛び降りた」
SLASH!!
フランシス・トムズ(享年36歳 ゾンビ年齢8歳)は友達の『ゼルダの伝説』を借りパクして売り飛ばした。偶然にその友達は中古屋で『ゼルダの伝説』を手に取り、カセットの裏に書かれた名前でそれが自分のものであることを確信した。くたばれフランシス!
「ミセスって環境に悪いのよ。風力発電の手伝いをしようとして風車を吹いたら地球の方が飛んだんだもん」
SLASH!
エズラ・キンゼイ(享年58歳 ゾンビ年齢2歳)は塩レスラー。花道のダッシュでスタミナを使い切る。
「しかもソーラー電池の電卓を使ったら太陽が枯れたらしい。地球温暖化をウソとか言ってる暇があったらホワイトハウスはミセスを規制すべきだ」
SLASH!
ファッツ・ドミノ(享年40歳 ゾンビ年齢4歳)は『ターミネーター2』のラストシーンを再現して物陰から手首だけ出してたら車に轢かれた。
「天につばを吐いちゃいけない理由はこの間ミセスが神までつばを飛ばしたから」
SLASH!
オスカー・ヴェラスケス(享年46歳 ゾンビ年齢9歳)はバカ野郎! 「俺はナタリー・ポートマンに告られたらフるかなー。スカーレット・ヨハンソンと付き合うから」とか合コンで行ってドン引きされた!
「進化論が否定されるのはミセスが人間の両親から生まれたから」
SLASH!
キャリー・ナンス(享年23歳 ゾンビ年齢10歳)は死ぬ直前、ケンタッキー・フライド・チキンを食っててなんかグロいと思い始めてベジタリアンに。その数か月後にはヒトを食ってた。
明日には二人はこう言う。
「ミセスは忍者に後ろから刺された後にゾンビを何十人も殺した」
これは本当だ。
〇
「しゃあねぇな。ミセス、麻酔は持ってきてないんだにゃ。我慢して」
チヨコのプライベートルームでミセスはドクに傷を縫ってもらった。チヨコはミセスが襲われたことに憔悴しきっていた。多くを語らなかったので何が理由かはドクにはわからない。
チヨコの命令を受けたコウガがしくじったのか? コウガの裏切りか?
ミセスが襲われたこと? それとも生きていること?
「しっかりしてくれミセス。さぁ、その目でもう一度見てくれ。こいつらにチャンスを与えてもいいのか?」
コウガがそう言ったように、ミセスも既に直感で物事を判断してもいいまでに直感が研ぎ澄まされている。これはまだ若いドク、チャールズ、ミランダには出来ないことだ。時には年長者として、母ごっこをしなければならない。
でもキッサキを擁護するのは流石にもうここまでだ。いくらキッサキがコウガという対ゾンビ最強の切り札を失っても、その代わりが見つかるまでしばらくいる、なんてお人好しは言えない。
『チヨコを許してあげて』
「……」
ドクは目を細めてタバコの煙を細く長く吐いた。
「わかった。でもここには二度と来ない。いや、来るか。今度こそこいつらを殺す理由を持って来る。次は覚悟をしてくんだにゃぁ。ミセスに許してもらえなかったら終わりだぞ」
『Dead giveaway. Whatever』
包帯をきつく結んだミセスが両足で立ち、何も言わずにチヨコに背を向けてドアに向かって歩いていく。
真っ白な包帯に滲んだ傷口からの赤い血は、まるで彼女の祖国の国旗のように美しくたくましく輝かしかった。
CZK4-15-1
『ザ・スカベンジャーズ -ジ・アンダーテイカー-』





