2話
「ゾンビキリングというスポーツほどエキサイティングなものを僕は知らない。アメフトや野球、バスケやホッケーは国民的に愛されたが、結局はガタイがよくて運動神経に優れたフィジカルエリートでないとプレイ出来ないという欠点がある。もちろん、プロレスもね。だからこそ、こんなチャールズのような最もアスリートに適したサイズとパワーと持つタフなマッチョマンと、彼と一フィートも身長差のある小さなミランダが同列に戦えるゾンビキリングという競技が僕は好きなんだ。さっき挙げた競技はどれも無差別級だけど、それは結局“一定以上の規格”を満たした上での無差別級だからね。そういう見方をすると、ゾンビキリングに最も似た一つのスポーツが浮かび上がる」
CHECK!
「プロレスだ」
“Ichibaaaaaan!!!”
“Yooooouth!!!”
“Apooo!!!!”
「見てくれ、肉体同士の激しいぶつかり……もちろんここも類似点だ。だが僕が指摘したいのはここじゃない」
“If you want some,come get some!”
“The Best there is...The Best there was...The Best there will be...”
“NEVER……EEEEEVERRRRR! I'm king of the world!”
「プロレスラーの必須スキル、マイクパフォーマンスだ。プロレスラーにマイクパフォーマンスは不可欠だ。いくら優れたフィニッシャーや身体能力を持っていようと、これがなければスーパースターにはなれない。かつて世界を席巻した最大のプロレス団体では、フィジカルよりもマイクとキャラクターが重視された。試合が出来なくてもマネージャーとして出番はあったからね。例は挙げきれないよ。わからない子供たちはパパか近所のイケてないお兄さんたちに訊いてみるといい。トーク、迫力、キャラクター。このプロレス三つの要素を覚えておいてくれ。そしてここで、三組のゾンビキラーを紹介したい」
…
……
SEATTLE ベラトリクス・サンダーランドの地下室
「今日はこの二十人を殺すわ。この二十人を殺した後、別人の骨同士で二十人分の骨格標本を作るの。まずはおさらいよ。これはビリヤードのキュー。これで突く人体の急所はここ!」
STING!
「ここを殴られるととても痛いの。ゾンビなら一発で死んでしまうわね。次はバールよ。日本語では“エンマ”! クギの他に舌も抜けるわ」
PULL OUT!
「次は発音の似た野球のバットよ。野球は日本のものじゃないわ。ステイツのオリジナルよ。しばし後れを取ったけど、今や巻き返しの時。もちろん、タマを打つのもお手の物!」
SMASH!
「アタマ、目ンタマ、このタマ。三つの“タマ”が人体の急所よ。あら? 骨が折れちゃったかしら? 折れちゃった? まぁ! 骨格標本を作るのが大変になっちゃった! でも大丈夫。美女は決して狼狽えない。美女とイケメンは決して死なないの。ホラー映画の美女は生き残るって決まってるから」
…
……
ANAHEIM パシフィック・プレイ・ランド
「殺してやる殺してやる殺してやる! 背の高い順に殺す! 足の速い順に殺す! 最終的には全員殺す!」
「ウォオオオオ!!! 俺の!」
「いや、俺たちのケバブ屋台“バラチ・キッチン”の!」
「復讐だ! ブチ殺せファッティ・モハメッド!!!」
KILL!
…
……
COLORADO リオ・グランデ川
「パスポート? そんなものは持っていても意味はない! 私にはわかる! 貴様らがパスポートではなく、麻薬と性病と犯罪歴を持っていることぐらいはな!」
BLAMBLAMBLAM!
「ステイツの判例に載ったことすらないような凶悪犯罪を持ち込ませることなど私が許さん! 貴様らには弁護士も必要ない。貴様らにはこの私、リカルド・マクファーレンという死神がいれば十分だ! 安心してあの世へ行け。迎えてくれる神は慈悲深い。だが私はテロリスト共には残虐だ!」
KBOOOM!!
「リオ・グランデ川ではなく三途の川を渡りな」
CHECK!
「シアトル最強のベラトリクス・サンダーランドはあまり大規模な殺戮をしない。その代わり、少数のゾンビをゆっくりと丁寧に、自慢のルックスとトークスキルを存分に生かして殺す。次に、アナハイムのバラチ兄弟だが、この二人を殺害数で超えるのは簡単なことじゃないね。でもセリフや殺しは単調であまり魅力的な殺しとは言えないけどね。リカルド・マクファーレンもいい線行ってるが、彼の場合、最も特徴的なのはこのサイコ・パトリオットっぷりだろう。キャラクター型と呼べるね。ラジオで聴いた限りでは、“今週のゾンビ殺し”には定位置の順位がある。2位のベラトリクス・サンダーランドは“ルックス&トーク”。3位のバラチ兄弟は“殺害数”。4位のリカルド・マクファーレンは“キャラクター”だ。全てにおいてハイレベルでバランスがとれているのが、1位のミッキー・ローリネイティスだろう。だが、次に1位を狙える逸材こそ、このノーマン兄妹なんだ。この素晴らしい兄妹は、名ゾンビキラーに求められる三つのプロレスラー的要素を満たしている」
Interview with Charles
Q1:取材を受けてくれたことにまず感謝したい。次にチャールズ、君の理想のゾンビキリングを教えてくれ。
Charles:
「ああ、会えて嬉しいよマイケル。そうだな。まずはこの場を借りて言いたい。アビゲイル。俺たちの母親アビゲイル。どこかでこれを観ていてくれたら、今すぐ帰ってきてくれ。アンタなしのチャペルで、ミランダの手を引いてバージンロードを歩くのはイヤだ。親父もマーク伯父さんも死んじまった。もうアンタしかいねぇ。すまねぇ、これだけ言いたかった。そうだな。俺の理想のゾンビキリングか。短い間、ほんの短い間だが軍にいてな。吐くほど鍛えられた。ダコバでのヨーダの修行とは大違いだ。あんな思いはしたくねぇが、あんな思いをずっと続けてきた人間たちが俺たちを守ってくれたことを忘れちゃいけねぇ。実際、俺はミランダを守れてると自信を持って言える。これがまずは俺の誇りだ。そして、俺のスキルをミランダに教えること。俺がやったような地獄のトレーニングじゃなく、ゆっくりと無理のないペースでな。もちろん俺とミランダじゃ何もかもが違う。サイズ、性格、得意分野……。それでも俺たちは生き抜いてきた。それも結構、楽勝にな。生き残れること、そしてその術を誰かに教え、その誰かも生き残れること。俺はいつか、息子、或いはは娘にも同じことを教えるだろう。ミランダもそうするはずだ。楽勝ってわかれば後は簡単だ。エンジョイすることだ」
Q2:すごくクールだ。確かにどんなアスリートも楽しんでプレイしてるね! 尊敬しているゾンビキラーはいるかい?
「んん? ラジオを聴いててもあまり他を意識したことはないな。意識するとどうしても影響されちまう。だが、二人ほどいるぜ。尊敬しているゾンビキ殺しが。一人はウィンターパークのキャプテン・カリフォルニアだ。あのタフすぎるメンタルはとても真似できない。キャップが一番スゲェのは、キャップが倒れない限り、味方は誰が倒れても復活しちまうってことだ。ああいう男、父親になりたいね。次はサンフランシスコのミセスだ。あれは人間じゃねぇ。何日か前、ミセスがサケを飲みながら荒野を散歩してたんだ。すると一頭のバッファローがミセスに頭突きをかました。九時間苦しんで、死んじまったよ! ミセスに頭突きをして首が折れたバッファローの方がな! ミセスはバッファローを看病してやったが、最終的にはサンダルの底みたいな分厚いステーキにして食っちまった。料理が苦手みたいでな。ハッハッハッハァ! まぁこれはジョークだが、ミセスは無敵だ。相手がゾンビだろうと人間だろうとターミネーターだろうとミセスならパフォーマンスを落とさないだろうね」
Q3:そのミセスにもいつか会ってみたいね。チャールズ、君は“王道ゾンビ殺しの継承者”と期待されていることをどう思う?
「悪い気はしねぇが、自分ではフリースタイルだと思っているよ!」
Interview with Miranda
Q1:取材を受けてくれてありがとう。君は幼い頃からゾンビキラーとして活動していることをどう思う?
Miranda:
「特に何もないわ。必要なことは全て兄さんから教わっていたし、ぶっつけ本番でもビビることはなかった。兄さんをナメてかかってるんじゃないけど、兄さんがいつもタフに笑っているのを見て、このU.S.Zで生き抜くことはそんなに困難なことではないとわかったの。ゾンビはそんなにヤバイ相手じゃない。それがわかってれば誰でも出来るわ」
Q2:もしかしたら君は今、世界一タフな十七歳かもしれないね! 君が兄さんにも負けない、と思っているポイントはあるかい?
「少なくともゾンビ殺しにおいてはないわ。銃の腕もパワーも全て兄さんの方が上。兄さん、キャップ、ミセス。この三人がスリートップよ」
Q3:ラジコンをあんな風に使ってゾンビキリングが出来るのは君ぐらいだ。
「『トレマーズ』を観たのよ。グラボイズなら楽勝で殺せる」
CZK3 10-2-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK3 10-2-B
オレンジの町に一台のトヨタがやってきた。運転席から顔を覗かせたポニーテールのアジア人女性はエンジンを切り、日傘をさして後部座席をエスコートする。
「ご苦労様」
車→日傘で全く紫外線を寄せ付けず、オレンジを歩くこの白衣に黒髪の男、ドクターことイマガワ・シノブも、ゾンビ現象が起きてサンフランシスコに移住するまではこのオレンジで育った。同級生のベンジーとイヴァンカが結婚すると聞き、招待状とサンフランシスコ土産を持って彼もバチェラーパーティに参加しに来たのだ。
「よぉドク」
「オレンジでそれはやめてくれチャールズ。ボクが医師免許を持ってないことなんてここじゃみんな知ってるにゃ」
ハイスクールの頃と同じようにチャールズとドクは拳と腕を叩き合わせた。
「でもきっとみんなお前をドクって呼ぶぜ。嫌味でな」
「そんなヤツらはボクがオレンジにいる間にケガでもすればいいにゃ。ボクが治せばそんな嫌味も言えなくなる」
「二日酔いは治せるか? バチェラーパーティだぜ?」
「なんだ? ボクだけはバチェラーパーティで二日酔いしちゃダメってか?」
「ハッハッハッハァ! いいぜその意気だドク!」
「で、こいつは何? まさかマイケル・マッキントッシュ?」
「そのまさかだ。俺たちは密着取材を受けているんだ」
「へぇ……そう……」
ドクはマイケル・マッキントッシュをいぶかしげな目で見る。ドクの家にはマイケル・マッキントッシュのビデオが何本もあった。特にお気に入りなのは『食人族十番勝負』だ。だからドクにはわかるのだ。マイケル・マッキントッシュの作る番組は、所謂“ヤラセ”であると。マイケル・マッキントッシュにだけ、あんなにオイシイ困難や試練が訪れるか? その過剰な演出は絶対にヤラセだ。だがヤラセは、ヤラセとわかって割り切れば面白い。事実、ドクはプロレスも大統領選挙も大好きだった。
だが自分がヤラセに加担するのはダメだ。信頼が特に重要になる医者という職業に不信の重みはデカすぎる。
「マイケル」
「ハロー、ドク。会えて嬉しいよ」
「カメラは回ってる?」
「あ、ああ今回すよ」
「じゃあこれを撮るといいにゃ」
ドクはカメラのレンズに自分が移っていることを確認し、特定の指を立てる攻撃的サインを見せつける。多くの読者を持つ『CZK』では、非常にモラルに問題があるドクのこの行為が真似されるのを防ぐために詳細を述べることが出来ない。もちろん、フリーではあるがテレビマンであるマイケル・マッキントッシュも同じ判断をする。
「ボクがこの指で何をすると思う? こうしてやるんだ。これも撮ってる?」
そのままドクは立てた指で砂に三つの円が重なったマスコットネズミ状の絵を描く。マイケル・マッキントッシュはすぐにカメラマンのホセに録画を止めさせた。
「結婚式に向けてカメラマンが見つかってよかったにゃぁ。ベンジーとイヴァンカは幸運にゃ。プロが撮るんだから」





