6話
「お疲れ様! 本当に君たちは素晴らしい。素晴らしいよ。君たちに対し、撃ち殺されるべきだなんて過激なことも言う人間もいるが……。私はそうは思わない。君たちは素晴らしいよ。君たちは北米大陸最高の“看板”だ。不良のようなゾンビ殺しに撃ち殺されるべき、なんて言われるなんて……。だが死んでもらうことにした」
BLAM!
「生きている“ステイツ・ジャック”と死んでいる“ステイツ・ジャック”。ファンには君たちのどの言葉が真実かなんてわかりはしない。それに君らは偶像だ。死んでも同じだよ。むしろ神格化され、そうなった君たちと話したい者が予言者に集まるだろう。そして私たちが君たちの言葉を使う。だから生きている君たちが真実を叫び、それがファンに届く前に、私は君たちを殺すことにした。死んでしまえば誰も答え合わせなんか出来やしない。安心してくれ。何か意見があったら、預言者フィル・サリバンに言ってくれ。あの世からの言葉でも彼なら聞いてくれる」
BLAMBLAMBLAM!
「ミランダ。この間クララが立ったぞ」
「ふぅん。で?」
「なんだオイ。姪っ子が立ったんだぜ!?」
「赤ん坊なんだからそりゃ立つでしょ。あら兄さん。お出迎えよ」
「OK。ゲーム開始だブタ野郎!」
チャールズのクギバットフルスイングがデブラ・ホーガン(享年43歳 ゾンビ年齢3歳)、デレク・オースチン(享年19歳 ゾンビ年齢5歳)、ステファン・アトキンズ(享年31歳 ゾンビ年齢6歳)を一気に粉砕! チャールズは心底スカッとした。
「ハッハッハッハァ!」
「こいつらは兄さんの情報にあったフェイクゾンビじゃないみたいね」
「何人いようがミセスの敵じゃあねぇな。フランケンシュタインがいても俺とミランダなら殺せる。まぁフランケンを室内で使うほどバカじゃねぇと思うが。俺とミランダで突入する。外は頼んでいいか? みんな」
一人でウロチョロと歩いてきた元“ステイツ・ジャック”のリーダー、ザック・タイソン(享年21歳 ゾンビ年齢0歳)にジャーマンスープレックス! 頭蓋と首が砕け、この不幸なゾンビの下半身はグチャグチャに潰れた自身の上半身の沼に沈んだ。
『No shit』
「そんな歪んだ英語を息子に教えるなよ、ミセス。でなけりゃ自分が教えた単語のせいで息子が罰金ボトルに金を入れる羽目になる」
ミセスのブシドーは、ゾンビでありとあらゆる肉料理の準備が出来る。ステラ・ホッチキス(享年19歳 ゾンビ年齢0歳)、サンドラ・ブロシュー(享年22歳 ゾンビ年齢0歳)、アネット・アリン(享年21歳 ゾンビ年齢0歳)、ブレンダ・ベル(享年21歳 ゾンビ年齢0歳)、マリリン・ダッチャー(享年20歳 ゾンビ年齢0歳)をドネルケバブのようにしてしまった。彼女たちは“オラクル”が男を飼うために使ったハニトラ要員だ。彼女たちは最終的にはロイド・ロールスロイスの懐に入り込んで正妻になることを目標にしていたが、冷徹な司祭様は誰にも心を許さなかった。そしてどうでもいいような幹部に憐れに使い潰され、リサイクルされた。アネットに突き刺したブシドーの刃を折り、即席のシュリケン・ナイフにしてサブマリン投法で元“ステイツ・ジャック”の長身担当(一九五センチメートル)テリー・ゾネンフィルド(享年21歳 ゾンビ年齢0歳)の眉間に突き刺し、目が覚めるようなトラースキックで全ての歯を一撃で砕く! なんという全く隙のない殺戮者!
「……?」
次なるブシドーの獲物はパティ・グリーンウェル! だがここに来てフェイクゾンビだ! 真っ赤な血でテカテカと光る臓物がなだれ落ちる。ミセスは腰から緑の発煙筒を抜き、フェイクゾンビたちのスクラムに投げ込んだ。
「OK。ミセス」
緑の煙を認めたベラトリクスが麻酔銃“マジックワンド”を構える。この麻酔銃からは、彼女の初恋の人イチロー・スズキが2004年に放ったメジャーリーグ新記録のヒット数と同じ二六二発の麻酔針が発射される。ゾンビを殺すことも出来ない麻酔だが、当たればゾンビだろうと人間だろうと確実に一瞬で眠らせることが出来る。ベラトリクスの本業は人を治すナースだし、スカベンジャーズは、人殺し集団ではないのだ。ついでにベラトリクスはブシドーブレードのストック運搬係でもない。
「!? Zzz……」
「Zzz……」
だが眠った後のことまではベラトリクスの知ったことじゃない。ゾンビがいるところで無防備に眠るバカがいけないのだ。何が起きるかぐらい、ゾンビでもわかる。
「オヤスミ。ティッシュの箱をあげようかしら? チェリーボーイ」
デビット・オーシャン(享年19歳)、トニー・コールドウェル(享年32歳)、ブラッド・クルーガー(享年29歳)、J・J・フォックス(享年80歳)。いい夢を! 夢の中でくらい、幹部のおこぼれで女を食らえ。
「うぉおおお貴様らが政権を取ったとしても私は税金を払わんぞ!」
ゾンビになってしまえばスカベンジャーズの仕事だ。リカルド・マクファーレンは神の使徒。たとえ“オラクル”が進化論でアダムとイヴを否定するなどという神への冒涜を行ったダーウィンを逮捕しても、異教徒たちは絶対に許さない! 二丁のマグナム“デス”と“ロイヤー”が火を吹く! 金額は少ないが全財産における割合では教団でもトップ級のお布施を払ったロレッタ・ダモーン(享年33歳 ゾンビ年齢9歳)、もう一度夫と話がしたかったトレーシー・スティンソン(享年38歳 ゾンビ年齢3歳)、元“ステイツ・ジャック”のクッキング担当サミュエル・ボッシュ(享年22歳 ゾンビ年齢0歳)を悪趣味なホラーゲームのモンスターに!
「もし……。もしこんなカルトがウィンターパークに手を伸ばしていたらと思うと……。震えが止まらん。鬼のキャプテン・カリフォルニアを見せてやる!」
キャップも地道に盾でゾンビを殴る。カンレキのおじいさんだが、元“ステイツ・ジャック”のラップパート担当のトーマス・ベラミー(享年18歳 ゾンビ年齢0歳)を仕留めるには不足のない威力だ。彼は頑張っている。
「……」
シスター・グレイシャもキャップと同じ気持ちだ。彼女の生まれ故郷ウォールドロワーも、VOWやBOS、ウィンターパークと同じ小さな町。あっという間に新興宗教に呑まれてしまうだろう。いろいろあって二度と帰れないが、ウォールドロワーは大切な町。育った修道院、いや、町に住んでいる人たちをもし守れるのなら、シスター・グレイシャだって鬼になる。大義のために大勢殺したシスター・グレイシャは、迷いがなければいくらでも! 初めて出来た友達ミランダのためにならいくらでも! ジョエル・ホイットマン(享年65歳 ゾンビ年齢8歳)、ブレント・ストックトン(享年44歳 ゾンビ年齢1歳)、モニカ・サイモン(享年22歳 ゾンビ年齢3歳)は、ステキな武器ナギナタ・スピアで頭を貫かれて首がもげ、ジャパニーズ・クシダンゴ・スリーブラザーズのようにナギナタ・スピアに突き刺さる。シスターがナギナタ・スピアを振るうと慣性の法則で首がスッ飛び、弾となって元“ステイツ・ジャック”のお笑い担当トレヴァー・マコノヒー(享年21歳 ゾンビ年齢0歳)の胸骨を直撃。グルーピーの女の子たちが振るうポキポキ折るタイプのライトみたいに全身の骨がポキポキ!
“Miranda Rachel Norman” ♀ (20)
“Charles Dean Norman” ♂ (30)
“Mrs” ♀ (39)
“Bellatrix Sunderland” ♀ (29)
“Ricardo MacFarlane” ♂ (41)
“CAPTAIN CALIFORNIA/William Rogers” ♂ (59)
“Glacier Goldgrape” ♀ (19)
“SCAVENGERS”
これだこれ……。自分が求めていたのはこれだ。これが“ゾンビ殺し”だ。ドクはグッと拳を握った。これが出来るから自分は“スカベンジャーズ”を引き取った。この間の招集とは違う、純粋な殺意の激流! 猛火! 深緑!
「“生きて”帰れると思うなよ腐葉土野郎」
CZK3 9-6-A
「ザック! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当かいテリー! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティだ!」
“ステイツ・ジャック”も大好き! クラウン・コーラ あの世のイチバンマーケットでも大好評発売中 お申し込みは“オラクル”から!
CZK3 9-6-B
「ロイド。こんなことか? お前がしたかったのはこんなことか?」
「どんなことだい? フィル」
「こんなことさ」
窓の外では、三人のフランケンシュタインが三人合計十五本のブシドーブレードを突き刺されて呻いている。死んだゾンビ、フェイクゾンビの数は数えきれない。
「民は生かさず殺さずってことかい? 大丈夫だ。ゾンビはお布施を払わない」
「民ってなんだ? お前は王様にでもなったつもりか?」
「それを、さっきからやめてくれよフィル。君の言葉にハテナマークは必要ない。全部見えているんだろう? 突き詰めれば会話すらも必要ない。自分の言葉で私がどう返すかも君にはわかる。そこで交わされる言葉に何の意味がある?」
「そんなこともわからなくなっちまったのかよ。ロイド。お前の力を使う時だ。あいつらに謝れ、ロイド。お前の力は誰かを許させるためにある。今ならまだ引き返せる。そうこうしている間に、ゴミパンダ・レコードのお宝がゾンビたちに埋まっちまうぜ。もう有効でもねぇ法律をタテにしてよぉ。あいつらを説得しろ。それが弁護士の仕事だ」
「君の仕事だ、フィル・サリバン。くだらないことを言っているヒマがあったらあと何手であのチンピラをチェック出来るか教えてくれ」
「ロイドぉ。ロイドロイドロイド! ロイド・ロールスロイス! 目を覚ませ。今ならまだ“オラクル”を守れる。お前がここであいつらに謝り、またイチから全うな手段で“オラクル”で人を救うなら! 俺は力を貸す。友達じゃねぇか、ロイド」
「そう言えば私が君に従うと君の全知全能が言ったのかね? 目など覚めないさ。君からすれば、君以外はみんな何も見えず、何も聞こえないヘレン・ケラー同然さ、サリバン先生。……君が全知全能にさえならなければ、私はずっと君と友達でいられたのに。ああ、そうさ。私はニューヨークの大学へ進学出来なかった。行けば君とはあそこで別れる羽目になっていた。君とずっと一緒にいられたことは……。私にとって不幸だったよ」
「ロイド、お前いつからそう思ってた?」
「全知全能に訊いてみればいい」
「あぁ~あ」
フィルはぎゅうと目を瞑ってシケモクを咥えた。
「俺たちの負けだ、ロイド」
ビシビシと窓ガラスにクモの巣状のヒビが入り、それを突き破ってミランダがエントリー! チャールズの妹を二階の窓まで飛ばせるほどのレシーブがロイドすら想像出来なかったこのアクロバットを実現した。
「フィル」
「ようミランダ」
「無事ね。そしてフリーズよ、このペテン師。VOWという町を? アンドリューという男を?」
銃を突きつけられてもロイドは動じない。肩を竦めて首を振る。
「あなたが次に食い潰そうとしている平和な町よ。そしてアンドリューはあなたに唆されてわたしの兄さんを殺そうとした」
「心当たりがないなぁ。今の発言はやや侮辱的ですね、お嬢さん。私は誰も食い潰そうとしていない。フィル・サリバン。この不躾なお嬢さんとお兄さんと仲間たちを追い払ってくれ」
ミランダの視線が一瞬フィルに向いた途端!
「フリーズ、お嬢さん」
ロイドの悪趣味なゴールドの拳銃がフィルに向けられる。
「こうすれば帰ってくれるかね?」
「ってな訳だぜミランダ」
フィルはシケモクをプッと吐き出し、ロイドの高級な絨毯に小さな焼け焦げを作った。そしてミランダにそっと歩み寄り、彼女の銃口を自分の胸に押し当てた。
「俺を殺してくれ、ミランダ」
「……ナンデ?」
「こんなモンがあるからいけねぇんだ。俺が死ぬしかねぇんだよ。俺のこの能力は、不屈の男ロイド・ロールスロイスさえ壊してしまった。いつか俺はロイドに殺されるだろう。だが……友達なんだ。ロイドを親友殺しにはしたくねぇ。……君に感謝しなければならないことをリストアップするのは大変だ、ミランダ。最後にこう書くよ。ロイドを救ってくれた、とね」
「フィル」
「やれ」
「フィル……」
「すまねぇな」
BLAM!
「バ、バカな! 本当に撃っただと!? ありえない……。ありえない! フィル、フィル!」
「連れを起こさないであげて。死ぬほど疲れてるの」
フィル・サリバン(享年29歳)。
「……ッ! このォ……。よくも、このォ……」
「それはフィルの親友としての言葉? それともフィルを利用するカルトの司祭の言葉?」
「このォ……」
「どっちでもいいわ」
BLAM!
フィルと同じく、胸を撃たれたロイドも絨毯の上に大の字で転がる。
「さよなら、フィル」
ミランダは来た時と同じく、窓から飛び出して、下で待っていたチャールズの上に着地した。
「次はVOWのゾンビ退治? 少しサンフランシスコで休ませて」
「ミランダ。タフになったな。バドワイザーを飲もうぜ。もう子供じゃねぇんだ」
〇
SAN FRANCISCO 20XX
BOSでの仕事を終え、後始末として町に火を放った後、ミランダはサンフランシスコのドクの店で少し休むことにした。フィルのガレージからパクったヘッドホンでシャカシャカと『ゴキゲンロック』のNo.3を聴き、気の抜けた時間を送った。そしてどうやらそのまま眠ってしまったようだ。
「ん?」
ヘッドホンから音楽ではない何かが聴こえる。
『ようミランダ。お目覚めかな? 『ゴキゲンロック』No.3の隠しトラックだ。君にはまだ出会っていないが、最後のメッセージを入れるぜイッヒッヒ。そうだなァ……。君に心臓を撃ち抜かれて俺は死んだが、即死したから苦しんでないぜ。安心してくれ。次にスペイン王の隠し財産だが、スマネェ。これはマジで俺も知らねぇ。次に、君は俺が死んだ後にロイドを撃ったが、ヤツは死んでねぇ。そうだな……。これを最後にするが、心底惚れてたぜ。三千回愛してる。俺があの時、ロイドに見つかっちまったのは、能力をOFFにしてたのもあるが、君を見せびらかしたかったからだ。あぁ~あ。あぁ~あって感じだ。それから君が、俺からアビゲイルの生死を聞くような女の子じゃなくてよかった。聞いたところで答え合わせの旅に出るんだろ? マズい、時間がねぇ。もうすぐ君に出会っちまう。じゃ、あばよミランダ。最後に、このテープは燃やしてくれ。恥ずかしいし、誰が聴いてるか“わからねぇ”だろ? イッヒッヒ』
最後にはあの日聞いた、呪われたラジカセのガビガビ音とバイクのエキゾーストノートが少しずつ近づいてきていた。
「フィル……。フィル!」
フィルが死んでから、ミランダはやっと泣けた。フィルは死んでしまったのだ。
「さようなら、ブレードランナー」
〇
@カリフォルニアのどこか
「……少しの間だけだぞ、フィル」
ロイド・ロールスロイスだ。やはりヤツは生きていた! フィルの言った通りに! ロイド・ロールスロイスは親友……だったのか? フィル・サリバンの質素な墓を作った。そこには名前以外何も書かない。そして、一冊の本を供えた。表紙に、ミランダが撃った弾と同じ弾が食い込んだ一冊の本を。
“キング・オブ・カリフォルニア ~スペイン王の隠し財産~”
ニューヨークXX大学図書館
次回CZK3 10-1-A&B『ゾンビスレイヤー』





