表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP9 ザ・スカベンジャーズ -スーパーハイパーウルトラシャーマン‐
37/86

2話

 ウィーピピピ!

 口笛! 吹かずにはいられない! 地団駄! 踏まずにはいられない!

 サンフランシスコの雑居ビルに入っていくこの男ほどイカした男はU.S.Zではお目にかかれないだろう。ブルーの生地にシルバーのストライプのスーツ、小麦畑のように黄金に輝く金髪、スゴウデの写真家でも「いや、これはダメだな。きれいすぎる」と言って捨てるであろうほど美しい青の瞳! 驚くほど清潔で、ため息が出るほどピッタリと噛み合ったアイテムと彼自身の肉体! 今のU.S.Zでは珍しいミスター・ライトだ。


「ロイド・ロールスロイスです」


 ロイド・ロールスロイスと名乗ったこの“ミスター・ライト”は、顔の半分を覆うほどデカいサングラスをかけた老人、芸能プロデューサーのJ・J・フォックスと握手を交わす。


「ボーイの名前は聞いてるよ。随分イキっとるようじゃないか。何をそんなにイキる? このU.S.Zで」


「どうイキるのか、それを話し、あなたを巻き込むのが私の仕事です」


 ロイドのインプラントされた歯がJ・Jのジュエリーから反射された光をさらに反射させる。


「ジャパニーズ・ワラシベ・ビリオネアを?」


「いいや、知らんね」


「ここに、一本の(ストロー)があります」


 ロイドは手品で一本の藁を取り出し、深紅のバラを乙女に渡すようにJ・Jに握らせる。


「この藁は本当にちっぽけなものです。値段ならばコーヒー一杯にも敵わない。藁が五キロで約五ドル。しかし、この一本の藁を必要とする人がいます。その人が持っている値段の近い何かと、この藁を物々交換しましょう」


「ふむ」


「そうですね。おいしいタピオカミルクティーを飲みたがっている女の子にあげましょう。藁をストローにすればいいんですから。代わりに何か貰います。そうだ。ならば余っているヘアピンを貰おう。ヘアピンを貰います。すると、今度は自転車のカギをなくしてしまった男に出会います。このヘアピンを差し込めばカギは開きます。ヘアピンをあげましょう。もちろんタダとではありません。代わりにマッチ箱を貰います。次は……。もうお分かりですね? タバコが吸いたい男や、バースディパーティのキャンドルを持ったファミリーにあげる。こうして少しずつ“持っているもの”を差し出し、“値段の近いもの”を得る。この繰り返しで、一本の藁をハワイの千坪に別荘に変える。これがジャパニーズ・ワラシベ・ビリオネアです」


「フム、単純だが面白い話だな。だが“面白い話”の域を出んよボーイ」


「ええ。これでは千坪の別荘まで時間がかかりすぎる。簡単なのは、“藁よりもハワイの別荘に近い”もので始め、重要なのは“誰”が運ぶかです」


「そのスタートとなる“藁よりもハワイの別荘に近い”ものが“ステイツ・ジャック”で、運ぶ“誰”は“君”という訳か」


Exactlyそのとおりでございます


「“ステイツ・ジャック”で何をする気だ? 俺の最高傑作“ステイツ・ジャック”で。ワラシベ・ビリオネアを目指す君は、“ステイツ・ジャック”をもらえるほど高級な藁を用意したのかね? 藁にコカインでも詰めたか?」


「我々の組織“オラクル”には資金があります。そして量と質を揃えた人間がいます。そして商品を売り出せる大きな看板を持ちます。そして極め付きは、大陸最高の弁護士、このロイド・ロールスロイス」


「フン、その看板が気に食わねェんだ。怪しいカルトに“ステイツ・ジャック”を貸して潰しはせんよ。そっちが大陸最高の弁護士かどうかは知らねェが、こちとらキャリア七十年、惑星最高のプロデューサー、J・J・フォックスだ」


「最高ではありませんか。惑星最高のプロデューサーと組んだ私は惑星最高の弁護士になれる。光栄だ」


「それも気に食わねェんだよ。法のねェこの国で何が弁護士だ」


「私のことは気に入らなくて結構。しかし、“ステイツ・ジャック”が本当にあなたのお気に入りであるならば、“ステイツ・ジャック”をJ・J・フォックスの最高傑作程度で終わらせてしまうのはもったいないと思いませんか? まさかマイケル・ジャクソンと同列程度で終わっていいとでも? “ステイツ・ジャック”を惑星史上最高傑作にしましょう。……それに、“オラクル”をカルト教団などと思ってもらっては困りますね。私は微塵も神を信じていません」


「あ?」


「確かに“オラクル”は私が作りました。私はただ、取り戻し、誇示したかったのです。私の故郷はブレスオブソフィアという小さな町です。ゾンビに襲われ、秩序が失われた。力関係はメチャクチャになってしまった。私には将来を誓った女性がいました。彼女も私のように優れた法律家になるはずでした。しかし、無法と化したこの世界で、彼女の親は彼女を売春宿に売り飛ばしてしまったのです。私が彼女を見つけた頃には、彼女はもう……。神を信じられなくなっていました。だから私はデッチあげたのです。新たな神を。新たな信仰の対象を。彼女が再びその目に希望を宿せる全知全能の存在を! それだけでは足りない。彼女を買い戻すための資金が必要だった。その二つの目的は“オラクル”を作ることで果たされました。ですので私はこの藁の重さほども神を信じていない。ですが私が作った“オラクル”は二万人の信者を得ることが出来ました。そしてこの素晴らしいスーツと腕時計もね! ハハ、ここは笑うところですよ。そうですね。私にとって“オラクル”とは剣。私の力を示す剣です。“オラクル”という剣をゼロから鍛え上げ、偉大なるJ・J・フォックスの耳にまでイキってることが届くほど強く振るこのロイド・ロールスロイス。“オラクル”と“ステイツ・ジャック”が組めば無敵です。あなただって別に少年が好みなんじゃないでしょう? 同じようなものです。私にももうおおよそ信心と呼べるものはありません。あなたにとっての“ステイツ・ジャック”、私にとっての“オラクル”。そこに何の違いがありましょうか」


「ふむ、悪くぁねぇ。でもボーイ。俺を誰だと思ってる? “J・J・フォックス”様だぞ」


 J・Jは両手の人差し指と中指を折り、“”を作って自分の顔を囲った。


「“ステイツ・ジャック”という剣を一番うまく使えるのは俺に決まってんだ」


「結構。ならばあなたも“オラクル”の一員になればいい。私のこの手と!」


 ロイドが右手を差し出す。


「握手を交わすあなたの手。これで“オラクル”と“ステイツ・ジャック”という剣を振るいましょう」


「そ・れ・が! イキってるって言うんだよボォーイ!」


「聞きしに勝りし、さすがのJ・J・フォックスだ。この大陸最高の弁護士に最後のカードを切らせるとは!」


「いい加減にしなボーイ。セキュリティ。この“ステイツ・ジャック”に入るためには少しトシを食いすぎてて、ファンが感情移入できないほど傲慢なイケメンの無駄遣いを放り出しな」


「ゾンビを提供しましょう」


「……何?」


「正直、この話は私の手にも少し余りましてね。勝利を確実にするこの聖剣を引き抜くには、私の手だけでは少し足りない。誰かもう一人、力のある誰かが一緒に聖剣を握ってくれないと」


「フン。三分間だけ話を聞いてやる。その間にニュートン逮捕だのダーウィン逮捕だのとド頭バチ狂ったこと抜かしたら即座にその高い鼻から骨が失われてイカみたいになる覚悟をしろよボーイ」






CZK3 9-2-A

「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK3 9-2-B




 『ゴキゲンロック』のNo.3はフィルの言った通り、ミランダの好きな曲ばかりだった。ロック、グランジ、パンク、ポップ、ジャパニーズ・アニメーションのピーヒャラピーヒャラしたED……。初めて聴く曲ですら、ミランダにはハマった。優れたアイヌは狩ったトナカイの声以外すべて捨てずに使うと言うが、『ゴキゲンロック』はミランダにとってのトナカイだった。捨てるところが全くない。辿り着いたフィルのガレージは、所狭しとレコードとCD、楽器で埋め尽くされ、古いバンドや映画のポスターが貼ってあった。何しろ、『ブレードランナー』の公開当初のパンフレットがこんないい状態で残っているのはフィルのガレージぐらいだ。


「いい趣味してるじゃない、フィル」


 こんな怪しい男のガレージにノコノコと……? ミランダは不用心なのではない。フィルは長身だがヒョロヒョロだし、鍛えているようには見えない。それに本当にフィルが全知全能であるならば、自分なんかをどうにかしようとしない。それこそベラトリクス・サンダーランドを口説くだろうし、本当に全知全能ならば神の目でスカーレット・ヨハンソンのお着替えだって覗けるだろう。フィルからは下心が感じられない。それが鈍いながらも、ミランダの女のカンだった。


「ゴキゲンになれるだろう? 『ゴキゲンロック』があればドラッグなんていらないぜ。だがあんまりデカい声で言っちゃいけない。聴くだけでゴキゲンになれるカセットをタダ同然で売ってるなんてメキシコの麻薬カルテルに知られちゃあ、明日には俺ぁタコスの具にされてるぜ」


「今まで何人ぐらい『ゴキゲンロック』を買ったの?」


「そうだな。まず、ミランダ。それからレイチェル。それからノーマンだ」


「わたし一人なのね。ねぇ、これ弾けるの?」


 ミランダがホコリの積もったギターを指さした。いくらミランダが非常識で聴く方専門でも、他人のギターに不用意に触るほどわきまえていないわけじゃない。


「弾けない。もちろんコードはわかる。売れるコードの組み合わせだって、最適な歌詞だってわかってる。だが俺は音痴だし、機敏じゃないし不器用だから、ギターを扱いきれないし、歌えない。それが出来れば俺はマイケル・ジャクソンよりレコードを売れるぜ。それこそ、ドラッグ並の曲を作れる」


 フィルはソファに座り、バドワイザーのビンを開けた。


「冷蔵庫にコーラが入ってる」


「飲んでも?」


「もちろん」


 ミランダはガレージロックバンドの物販が貼られた冷蔵庫の中のプルタブを開けた。


「全知全能ってどんな感じ?」


「興味を?」


「ええ。そうなろうとは思わないけどどんな気持ちかは知りたいわ」


「簡単なことだ。例えば、俺、ミランダ、それから君の兄チャールズ、君の仲間のドク、ミセス、ベラトリクス・サンダーランド、リカルド・マクファーレン、キャプテン・カリフォルニア、シスター・グレイシャの九人。これでナインが揃った。このメンバーで全盛期ヤンキースと試合をする。どう勝つ? 簡単な話さ。相手より点を取る。そして相手には点を取らせない。そのためには何が必要か? 一一〇マイルの剛速球にマダックスのコントロール、ステロイド以上のパワー。こんなカンジで全部の答えを断言できるのさ。ティーンの頃からな」


「ベラトリクスはライトにしましょう。ファンが一番見たいのはベラトリクスだもの」


「イッヒッヒ」


 たった一本のバドワイザーで頬を紅潮させたフィルは、粗悪な金歯を覗かせながらヘナヘナでシナシナのシケモクを吸い、ガレージの隅に転がっていたハイテク・マシーンを担ぎ上げた。


「ちと出かけるぜ。一緒に来るかい?」


「どこへ行くの?」


「裏の海岸へ。この金属探知機“エクスカリバー1000”でお宝探しをするのさ。海水浴客が落としていった小銭や、マニアに人気のビンの王冠、そして俺の最大の夢、スペイン王の隠し財産の在り処を探すんだ。まだ午後二時十四分だ。お宝探しは出来る」


 ミランダはガレージの隅から隅へ視線を張り巡らせる。時計の類はない。だが、その理由はすぐに分かった。


「全知全能だと時計がいらないのね。そうなるとここにはいらないものが多すぎない?」


「そんなこたぁねぇよ。『ブレードランナー』を観たことがあるかい?」


「もちろんよ。『ブレードランナー』を観ないで人間を名乗るほどわたしのツラの皮は厚くないわ」


「『ブレードランナー』をどれだけ思い出せる?」


「全てのシーンよ」


「ならもう君は『ブレードランナー』を観ないのかい? そういうこと! 覚えてても、思い出せても知ってても、所詮記憶は記憶だ」


「でも“エクスカリバー1000”はいらないんじゃない? スペイン王の隠し財産なんてイッパツでわかるでしょ? その辺のコストコのタイルの下に眠ってるとか」


「そんなことして何が楽しいんだよ。何をして人生を過ごせってんだ? ジャパニーズ・ワラシベ・ビリオネアを?」


「いいえ、知らないわ」


「例えばミランダが藁を一本持ってたとする。ミランダが藁でアリの巣をつつくと、アリがうじゃうじゃ湧いて出てきた。それ見ていたアリが大好物のサルは、自分の持ってるヤシの実をやるからその藁をくれ、とミランダに言う。くれてやった! ミランダがヤシの実を岩に投げつけて遊んでいると、通りすがりのカラテカが、弟子たちに見せるデモンストレーションでヤシの実を割るから、自分の持ってる古いコインと引き換えにヤシの実をくれという。くれてやった! ミランダがそのコインでスクラッチを削っていると、考古学者がやってきてそのコインはスペイン王の隠し財産の可能性があるという。付着物や年代を調べるためにそのコインをくれ、と言った。その代わり、スペイン王の隠し財産が見つかったら分け前をくれるとね。くれてやれ。そして見つかったスペイン王の隠し財産で悠々自適に暮らしてメデタシメデタシってことだ。なんてこった! 藁がスペイン王の隠し財産になっちまった! 俺にとって“エクスカリバー1000”は最初の藁。時間をかけて楽しみながら、この藁をスペイン王の隠し財産に変える。たまに『ゴキゲンロック』を売って気分転換しながらな。これが俺の人生だ。俺は時間と手間をかけてスペイン王の隠し財産を見つけたという事実が欲しいんだ。別に金貨が欲しいんじゃねぇ。チートコードで近道する人生なんて面白くねぇよ」


「そうやって手加減しながら生きていくのね」


「どこが手加減だ? 楽しむことにクギヅケだ。ダイヤモンドだぜ、いくつかの場面。俺の人生。イッヒッヒ」


「……」


 フィルは今までに出会った誰にも似ていない。誰とも結びつかない。チャールズにも、ドクにも、ミセスにも、ベラトリクス、リカルド、キャップ、シスター・グレイシャ、ユキコ、ベックマンにも。ヴィクター・ヴァレンタイン……。荒野のオッサン……。


「わたしにも“エクスカリバー1000”をちょうだい」


「いいぜ。二刀流だ」


 なんでも知ってるこの男のことをもっと知りたいとミランダは思った。


「なんでよクソッ」


「汚い言葉だな。罰金ボトルに一ドル」


「やめてよ!」


 イッヒッヒ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ