5話
龍拳の使い手、サム・ヤム(享年28歳 ゾンビ年齢0歳)!
蛇拳の使い手、ワン・シュウイー(享年33歳 ゾンビ年齢0歳)!
虎拳の使い手、リー・ティエン(享年20歳 ゾンビ年齢0歳)!
鶴拳の使い手、ヤウ・ハウロン(享年30歳 ゾンビ年齢0歳)!
豹拳の使い手、アン・ホー(享年25歳 ゾンビ年齢0歳)!
彼らほど優れた拳法家が、チャイニーズ・マフィアの構成員としてでしかその力を振るえなかったことを若干の驚きと侘しさをもって振り返りたいと思う! 彼らのカンフーは非常に高いレベルにあり、彼らがもし道を誤らなければ優れた指導者にもなっていただろう。しかし、このユナイテッド・ステイツ・オブ・ゾンビにカンフーはあまりハマっていない。おおよそ全ての手段が認められ、有効になるゾンビ殺しという競技で、カンフーの美しいカタは映えるしバズるだろうが、直接肌で触れる素手での殺しは感染のリスクが高く、推奨されていない。
「Take this!」
ミランダのサムライソードアンブレラの突きがサムの眉間を貫いた! 哀れサム! ゾンビになってカンフーが使えなくなってしまった今、生前の彼らより身体能力や体格で大きく劣っている生身のミランダを倒す手立ては何一つとしてない。生と死の壁はそれほどまでに高い。“生きたもん勝ち”の世界なのだ。ミランダがサムの顔を踏みつけ、アンブレラを引き抜く。女性に踏まれる、こういうシチュエーションで興奮してしまう変態は少なからずおられると思うが、相手の女性にその気がないと空しいだけだぞ。ミランダは考えていた。今、貫いたサムの骨と肉はまだ少し硬く、血も赤い。まだゾンビ化してから時間が経っていないようだ。アンブレラを引き抜くのにタイムラグが生じる突きは少し危険だ。
「スージー」
ミランダは愛用の激ダサパーカーのジッパーを下ろし、薄着のままミランダの背後で震えているスズシロに渡した。
「これを着て肌を覆って」
「うぅ、サイズが合わないわ。ピチピチよ! まるで水着だわ」
「我慢して」
BLAMBLAMBLAMBLAM! ワン・シュウイー(享年33歳 ゾンビ年齢0歳)、リー・ティエン(享年20歳 ゾンビ年齢0歳)、ヤウ・ハウロン(享年30歳 ゾンビ年齢0歳)、アン・ホー(享年25歳 ゾンビ年齢0歳)。次の出番はエンディングのNGシーンだ。
「ユキコ! シスター・グレイシャ!」
外にいたおかげで、人として死ねたあの見張りは幸せだったかもしれない。既にチャイニーズ・マフィアのアジトはゾンビで壊滅状態だ! カチコミエントリー者にとっては嬉しい誤算でも、もしユキコとシスター・グレイシャが拘束されて逃げられなかった場合、二人ともゾンビになってしまっているかもしれない。ミランダは割り切れる。ミランダはもし、母やチャールズがゾンビになっても殺せる。殺すと誓っているし、自分がゾンビになっていればチャールズは自分を殺すだろう。だがその割り切りをスズシロに強要することは出来ない。スズシロはゾンビ・ユキコを殺せないだろうし、目の前でゾンビ・ユキコを殺すことも許さないだろう。そういう人間の為に、「親しい人のゾンビ殺します」の業者がキューバにはいると聞く。だが今はキューバから業者を呼び寄せる時間はない。
「ミランダ!」
「シスター・グレイシャ!」
吹き抜けの二階から、割れた血まみれのレコードとユキコの矢を持ったシスター・グレイシャが顔を出す! シスター・グレイシャはクリスマスプレゼントの包み紙を興奮して破る子供のようにティン・イェン(享年20歳 ゾンビ年齢0歳)をメッタ刺しに!
「ユキコは生きてるわ! でもヒドいケガで動けないから密室に閉じ込めてる! ゾンビは入れないわ!」
「あなたはどうなのシスター・グレイシャ?」
「大丈夫!」
「合流しましょう! 武器を渡すわ」
シスター・グレイシャは近くにいたイー・ホイ(享年30歳 ゾンビ年齢0歳)の首にロープを巻き、それを命綱にしてタフなダイビング! イーの体が鉄柵に引っかかり、シスター・グレイシャは地面スレスレで停止するが、イーの首がスッ飛んで尻もちをつく。
「大丈夫? シスター」
「ええ。でも地球には、やっぱり重力があったわ」
「スージー、彼女に武器を。銃以外のね。シスターはジョークと銃が苦手なの」
スズシロが背負っていた鉄パイプをシスター・グレイシャに渡すと、彼女は割れたレコードを先端に括り付けインスタントの槍にした。鋭く振りぬかれたレコードはゾンビたちの頸動脈を致命的に切り裂いていく。
「ママのケガの具合は!?」
「すぐに治療が必要! おそらく内臓を痛めているわ」
「ブッダ! ならすぐ行かないと。案内してシスター・グレイシャ!」
「わたしたちではウカツに動かせない! それぐらいの重傷よ。それに今、ここを放棄すると退路が断たれる!」
「なんてこと神様!」
スズシロが涙を浮かべてシスター・グレイシャにすがりついた。ゾンビたちは、ブルース・リーにぶっ飛ばされても、何事もなかったかのように何度も蘇るカンフー映画のエキストラのように尽きない。
「神の出番はまだだにゃ」
突如、日本語訛りの英語がアジト内に鳴り響く。そしてクギを打ち込んで増量した改造バットが窓ガラスを貫き、その穴から伸びた逞しい筋肉質の腕が近くにいたフン・チン(享年30歳 ゾンビ年齢0歳)の額を掴み、握力に任せて握り潰してしまった。
「The gift of Charles, drink it in man!」
間違いない、チャールズだ。船での戦いでフルスイングできず、フラストレーションが溜まっていた怒りのクギバットは、インパラの仇を取るように次々に窓ガラスを砕く。その一つから、日本のコメディアンが失敗して膝がグニャグニャになった無茶、即ち窓枠飛び込みを成功させ、ミセスがエントリー。そして、固く閉ざされていた裏口を斧が叩き壊し、ケビンを先頭に、武器を持った大量の日本人がロー・フォンのアジトになだれ込んだ!
「ケガ人は医者に任せろ。坊主と神の出番は医者の仕事が終わってからにゃ」
チャールズがクギバットを握る。ミランダがサムライソードアンブレラを握る。ミセスがサムライソードを握る。シスター・グレイシャが槍を握る。同胞を助けようと、日本人たちが武器を握る。役者は揃った!
CZK3 8-5-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK3 8-5-B
ここで日本人たちが持っている武器を紹介しよう!
①遠距離射程で安全に攻撃『槍』
“Spear”
攻撃力:A 機動力:B 射程:A 入手しやすさ:C 汎用性:C カッコよさ:A
槍は非常に強力だ。柄が木製ならば物干し竿より軽く、刃での攻撃力も抜群。閉所で使えないという弱点を除けば最適解に近い。
持っているのは、グローリーマル号の航海士、タケシイ・ヒジイ(48歳)! 彼がいなければ日本には帰れない。
②グローブとの併用で攻守に安定感『グローブ&ナイフ』
“Globe & Knife”
攻撃力:B 機動力:A 射程:D 入手しやすさ:A 汎用性:C カッコよさ:A
野球用の厚手のグローブで安全にゾンビをキャッチ! 素早くナイフで突き刺すツーアクションは、至近近距離で強力かつ的確だ。安全にゾンビを足止めするグローブは面白いエッセンスとなるだろう。ナイフのリーチを補えるため、槍とのコンビプレーは理想的だ。しかし両手が塞がるためほかの動作が不可能となる。槍との連携が重要になるだろう。
持っているのは船医のミヤビ・シロタ(36歳)! ドクからの引継ぎはバッチリだ!
③軽打重打に移動にも何かと便利『バール』
“Bar”
攻撃力:B 機動力:A 射程:C 入手しやすさ:B 汎用性:A カッコよさ:A
本来は工具だ。そのため、クギ抜きにも使うことが出来る。先端が曲がったこの形状は、地形やものを引っ掛けることで武器以外の用途も無限大。建物内ではこれより役に立つアイテムはないだろう。お手軽サイズで女性や子供にも扱いやすく、先端を突き刺したり引っ掻いたりする軽打やフルスイングでの重打に大活躍。なにより、“エンマ”という別名がクールだ。
持っているのはコックのチカ・タカァーシ(28歳)。何日かかるかわからない航海では、的確な栄養学が多くの命を救うだろう。
④バール以上のリーチを持ち杖にも使える『ピッケル』
“Eispickel”
攻撃力:B 機動力:B 射程:B 入手しやすさ:D 汎用性:C カッコよさ:A
槍とバールの中間のような武器。比較的長めのリーチから繰り出される攻撃はゾンビの頭をリンゴのように砕く。槍よりも短く狭いところでも有用だが、突きが出来ない分、最大射程で槍に大きく劣る。だがRPGの魔導士のスタッフのようなカッコよさを持ち、杖として使えることから、バールとは対照的に荒野や山岳など、アウトドアでの旅ではバツグンの頼もしさ。
持っているのはコト・ミュージシャンのダンシ・フジオカ(41歳)。リラックスミュージックは疲れを癒す。
⑤マスターキー『斧』
“Ax”
攻撃力:A 機動力:A 射程:C 入手しやすさ:A 汎用性:B カッコよさ:A
全ての鍵をブッ壊す! 扱いやすさに特化しており、建物内では探索・戦闘に八面六臂! ハンマーめいた重量での打突はゾンビの骨を粉々にする。特筆すべきはその入手しやすさで、ほぼ全ての建物に設置されているため探索の際はログインボーナス的に入手できる!
持っているのは“”の青年ケビン・ミナミ(18歳)! もう妹にケイ・イガワや才能と自殺する勇気のないカート・コバーンなどとは言わせない! 彼を紹介するための“”の中にはまだこれからいくらでも書き込めるのだ。
「スズシロ!」
「お兄ちゃん!」
「ミランダ!」
「兄さん!」
二組の兄妹が互いを呼び合う。
「シスター・グレイシャは大丈夫みたいだな。ユキコの他に誰かまだ残ってるか?」
「死体だけよ。ユキコは二階! でもケガをして動けないみたいだから、シスター・グレイシャがゾンビの入れない部屋に閉じ込めたわ」
「OK、ミランダ。ここは任せた。ユキコを安全に運べるようにちゃんと均しておけよ」
BLAM!
階段をヨタヨタくだってくるジャック・リー(享年24歳 ゾンビ年齢0歳)の頭を吹っ飛ばし活路を開き、チャールズ、ドク、ミセスが階段を駆け上がる。
「たったの三人? 大丈夫なのかよ! ゾンビがこんなにいるのにボロボロのママを助けに行くのがたったの三人!?」
「大丈夫よ。リラックスしてケビン。だって、三人のうち一人は兄さんよ? 余裕じゃない。それに、ユキコが死ぬはずないわ」
だんだんとゾンビの密度が下がっていく。ロー・フォンが築いた一大シンジケートも、ゾンビ化を挟んでしまえばトーシロやカカシ同然の日本人でも簡単にやっつけられる。では、ゾンビ化していないチャイニーズ・マフィアはどうだろうか?
BLAM!
「ギエー」
ピッケルをぶん回していたダンシの手が銃弾に砕かれ、血をまき散らしながらダンシが膝を着いた。危険! ゾンビの死体だらけのこの場での外傷は命取りになる!
「何よこいつ」
木箱の中から現れた、ガスマスクに白いスーツのチャイニーズ・マフィアがダンシを撃ったのだ! この男は、日本人たちがゾンビの数を減らすまで木箱に籠るというイチかバチかの賭けに出たのだ。
「ロー・フォン!」
「こいつがママを? 許さないぞ!」
シスター・グレイシャが目じりを釣り上げるとケビンが感情に任せて斧を振り上げる。ミランダは銃口をガスマスク男に向け、援護する体勢に入る。BLAM! 早撃ちを制したのはミランダ! ガスマスク男の膝が日本のコメディアンのようにグニャグニャに! 倒れこむガスマスク男の顔面をケビンのアッパースイングが真っ二つに叩き割った! ガスマスクの内側が真っ赤に染まる。
「ハァハァ、殺しちまった……」
殺人。他人の人生を終わらせるその行為は、やった方の人生をも一変させてしまう。
「ケビン。これは必要なことよ。こいつはあなたを、わたしたちを殺そうとした。これは正当防衛よ」
「お兄ちゃん……」
斧を床に置き、震えるケビンの肩にスズシロが手を置いた。スズシロもわかっているのだ。これは必要なことだった。
「……ケビン。いい? 気にしない。いい? 気にしないで。……フリーズ」
ミランダが下唇を噛み、再び銃を挙げる。ミランダの視界にあった壁際の巨大冷蔵庫から、また白スーツのガスマスク男が現れたのだ。
「……許さねぇ。このロー・フォンのリビングをメチャクチャにしやがって! 許さんぞ!」
なんと、冷蔵庫に潜んでいたこっちのロー・フォンが本物だったのだ。カゲムシャを立てて逃げるつもりだったが、ロー・フォンはもう自制心が効かない。怒りに任せてマシンガンで弾丸の雨を降らせる。ミランダはケビンを、シスター・グレイシャはスズシロの襟をひっ掴んで柱の陰にダイブ。直撃は免れるが、一流の彫刻家がやるように柱はその形を変えていく。時間の問題だ。ロー・フォンの弾が尽きるか、柱が崩れ去るのが先か……。こうしている間にも、行動が遅れた日本人たちが死んでいく。
「……フッ」
「何がおかしいのミランダ!?」
「希望がまだあるから」
「これでもまだ希望があるッてんならお兄ちゃんだって大統領になれるわ!」
「あれを見て、スージー。さすが日本製! ママまで高品質!」
POKE!
「アイヤアアア!」
「ロー・フォン! 〇点! あの世でブッダに礼儀を教わりなさい!」
⑥圧倒的な射程を誇る神秘の武器『和弓』
“Japanese bow”
攻撃力:A 機動力:B 射程:A 入手しやすさ:E 汎用性:D カッコよさ:A
放たれる矢の圧倒的射程は、使用者の力量に大きく左右されるが、遠距離での攻撃力はバツグン! 身の丈を超える巨大な和弓は、ぶん殴るだけでゾンビの首をへし折れる。超接近戦では直接矢を突き刺すこともできるぞ。かなりピーキーだが、扱いこなせれば多くのリスペクトを集められる。
持っているのは不死身、不屈の高品質な日本製ママ、ユキコ・ミナミ(46歳)!
ユキコが二階から放った怒りの矢はアジトをいとも簡単に跨ぎ、子供たちを脅かすローのガスマスクを貫いた! 弾丸の雨が止み、ガスマスクと外を繋ぐ矢を血が伝って矢羽根を赤く染め上げる。
「ハ、ハハハ……。最後に笑うのは、このロー・フォンだ」
ロー・フォンは血で視界が塞がれたガスマスクで千鳥足になりながらうろつく。そしてさっきまで潜んでいた冷蔵庫にしがみつき、ケツを突っ込んで荒れた呼吸を繰り返した。
「バイバーイ」
最後の力を振り絞り、ローは特定の指を立てる攻撃的サインを見せつける。多くの読者を持つ『CZK』では、非常にモラルに問題があるローのこの行為が真似されるのを防ぐために詳細を述べることが出来ない。そしてこのサインを合図にローの入った冷蔵庫の後ろの壁がひび割れ、破壊し、ワイヤーを繋いだジープが冷蔵庫ごとローを引き摺り出してポート・エグゼビアの闇に消える。
銃声も悲鳴も止んだ。ポート・エグゼビアの日本人たちの一番長い夜は終わったのだ。
「さぁ、スージー、ケビン。ママのところに行くのよ」
ミランダは安堵して柱にもたれかかった後、再会する母と子供たちから目を逸らして、蹲った。
〇
SAN FRANCISCO 20XX
「本当に一緒に帰らなくてよかったのか? ミセス」
チャールズの問いかけにミセスは首を振り、サケを呷った。ポート・エグゼビアから日本に向かってグローリーマル号が発ち、もう一週間になる。ミセスは日本が恋しくない訳ではなかった。日本には夫と子供がいる。息子の教育方針を巡って夫と意見がぶつかり、頭を冷やすための旅行の最中にゾンビ現象が起きて帰れなくなっただけで、決して本来の家族仲は悪くない。ミセスが大事にしているジャパニーズサムライソードも義理の父からもらったものだ。
「ミセスがそう言うならしょうがねぇけどさ」
「ボクは助かるばかりにゃ」
チャールズとドクもミセスに付き合い酒を呷る。ミセスの意図はチャールズやドクにはわからなかった。ケビンやユキコがいるからゾンビ殺しはもう大丈夫? 盲腸の時に命を救われ、忠義を誓ったドクはサンフランシスコに残るから? そんな大それた理由ではなかった。
「……」
ユキコはものすごいママだった。子供の教育、守護……。ケビンとスズシロだけではない。チャールズやミランダ、ドクやミスズちゃん、シスター・グレイシャ、自分でさえもユキコの母性には敬意を抱いた。ユキコは強い精神力で彼らに勇気と希望を与え続けた。本当にスゴイ。本当に憧れる。同じ母として、いつかああなりたい……。だからこそだった。だからこそ、あえてミセスは、家族が迎えに来てくれるのを待つ。ユキコのようになるのはそれからだ。
ママだって、少しは家族に甘やかされたいのだ。





