ブーム仕掛け人
『それで君は彼女に好かれたいあまり僕を演じているわけだ?』
スニャホで一通り話し終えるとニャームズはため息混じりにそう言った。
「そう言うなよ……」
『出会った頃からそうだが、君は格好を付けたいあまり、変な嘘をつくクセがあるねぇ』
「それはいいだろうニャームズ。話を戻してくれよ」
これ以上ネチネチ言われるのは辛い。
それに海外通話だからニャケット通信料も心配だ。
『まあいいだろう……本を盗まれた老人とその飼い猫か……まったく。メスなんてなにがいいのかね? 君の気持ちは全くわからないぜ。第一君は去勢済みじゃないか?』
話が戻ってきてしまった。
「頼むよニャームズ。君がメス嫌いなのは知っているが、今は事件解決のアドバイスをくれよ」
『はいはい……アドバイスねぇ……』
「そうだニャームズ。犯人達は本なんか盗んでどうするというのだろう?」
『そりゃあ売るんだろうさ』
「売る? お金になるのか?」
「初版や限定本はなかなかの額になるね。本の万引きを舐めちゃあいけない。毎年万引き被害で結構な数の本屋がつぶれているんだぜ?」
「またお金か……人間っていうのはおかしいな。なぜこうもトラブルばかり生み出す物に執着し、集めるのだろう?」
私がそういうとニャームズはひとしきり笑ってこういった。
『僕も同じ気持ちだぜニャトソン。なぜこうもトラブルばかり持ち込むメスを君は追いかけ、執着するのかね? 僕には理解できないよ』
「……」
全くとんでもないオスである。
女性と物質を一緒にするとは。
何より気に入らないのはナタリーはこいつに憧れていることである。
ああ彼女にこいつの本性を見せてやりたい
。
「それでニャームズ。いい加減私が何をすべきか教えてもらおうか?」
『ドーサツの力を借りるべきだね。怪しい人物の目撃情報を探すんだ。僕もこちらでマンボウ町のデータを洗ってみよう。なに。名前はわかっているんだ。すぐに見つかるさ』
それは頼もしい。
……そして気になることがある。
「ニャームズ……先ほどからおそらく……ニャンダイチ君の苦しげな声が聞こえるがなにが起きてるんだ?」
『うん? なんでもないよ。こいつ。少し大袈裟なんだ。……あっ! こらっ!』
「?」
『もっ……もしもし? ニャトソンさんですか!? ニャンダイチです! 助けて! この猫むちゃくちゃだ! ライオンがぁ! ライオンがぁ! このままじゃ殺され……グフッ!』
「……ニャンダイチ君!?」
静かになった。
『余計なことを喋るな……まあ君が気にすることじゃないよ。それじゃあニャトソン。ご機嫌よう。遠いアフリカの地で君の恋の成功を祈っているよ』
「……ニャームズ!?……切れた」
アフリカで何をしているんだ? ライオン? まぁいい。今はニャンダイチよりナタリーだ。
『イイニャモ~イイニャモ~♪』
とっ……それよりも今はいいニャモだな。
テレビに映るニャモさんは今日もバタ臭いし、うさん臭い。
テレビ界に復活したニャモさんは今ではブーム仕掛け人だ。
今日のファッションは乳首だけシールで隠し、ショートパンツを穿いている。
今日の夜にはこのファッションを真似した若者たちが次々と補導されるのだろう。
『明日も見て……くれるニャモ?』
「いいニャモ~!」
私は肉きゅうを天に掲げた。
エビバデセイ!……イイニャモー!