19話 私のプリンセットがぁ!?
「あらー耀ちゃん、よく似合うじゃない!これにしなさいよ!!」
「ええ、これならバッチリよ!!脱いだら会計するわねっ」
姉が着せ替え人形になった後、紙袋を持って放心しているのを横目に耀はネイビーのセットアップを着せられて鏡の前に立たされていた。
(すぐに決まって良かった……)
「耀ちゃん、中のシャツは何枚か買うけど、どれにする!?」
「よく分かりません、、」
「「じゃあ私達で決めちゃうわね!」」
(スーツじゃないジャケットも、最初は服に着られそうと思っていたけど、思いのほか少し大人っぽく見えるものですね……)
(とっておき用に大事にしまっておこう)
結局この勝負服の出番は、年末まで無かったのだけれど。
自宅に帰ってきた耀は、ひとまずクローゼットに服を仕舞うと、株価チェックとデイトレを楽しんだ後、期限が来月までの優待のはがきを記入して忘れないように玄関に置いた。
(ちょっとだけにするつもりが、ついつい熱中しちゃいました。はがきは明日ポストに入れましょう。おやすみなさい……)
翌日。11時間寝た耀は、レオと今夜デイトレしようとお誘いの連絡を入れてから、昼ごはんの時間にラップされていた朝食を食べて玄関に向かった。家族は出かけているようだった。
「まだ眠れそうです〜。……あれ?はがきが、無い」
玄関やリビング、自室を探しても見当たらなかった。
(まあネットですれば大丈夫ですよね。後でゆっくり探しましょう)
耀はスマホで株主優待の申し込みを済ませた。
「「ただいまー」」
「おかえりなさい」
もう一度探していると、母と姉が帰ってきた。
「耀ちゃん耀ちゃんっ。デパ地下で花びらもち買ってきたから、みんなで食べましょ!」
「シンプルな見た目も可愛いし、美味しいしーっ!」
姉の祥子はバーゲンでは消耗するが、食べ物目当てであれば人混みでも大丈夫なタイプだった。
「食べたいですっ!……寝る前に、玄関に〇〇株式会社宛のハガキ置いてたんだけど、知りませんか?」
「ああー、出かける前に出して置いたわよ?急ぎかなって思って」
「ぇえ!?二重請求になっちゃう!」
(そ、そんな……私の、〈採れたてたまごのとろふわプリンセット〉がぁー!?)
耀は、プリンが二重で届いたら嬉しいが、そんなことになったら権利が消失しないかと心配になった。
(ホームページの優待のFAQ欄にも載ってない。どうしようー!?)
耀は慌てて自室へ戻ると、麗央へ電話をかけた。
「…ヨウ、どうしたんだ?」
低く掠れた声で電話に出た麗央は、夜のデイトレに向けて仮眠を取っていたようだ。
「レオー!やらかしちゃいましたっ、どうしようー!?私のプリンがぁ!?」
「プリン?……ヨウ、落ち着け。最初から説明してくれ」
説明すると、麗央はあきれたような笑い声を電話越しに漏らした。
「まだ同封されていた書類、持っているだろう?コールセンターに電話して聞けば良いだけだ」
「そ、そうですよね。……ありましたっ、まだ業務時間内です。電話してみます、ありがとうレオー!」
「はいはい。じゃあ俺は後2時間くらい寝直すから」
「起こしちゃってごめんなさい。プリンが届いたらいっしょに食べましょうね。おやすみなさい、レオ」
「ああ、おやすみ」
(プリンなんて利益でいくらでもスーパーやケーキ屋で好きに買えるだろうにと思っていたが、憎めない奴だ)
ベッドに腰掛けていた麗央は、スマホをサイドチェストに置いて布団に入った。
2時間後にアラームが鳴り、目を覚ました麗央は、耀からメッセージが届いていた事に気がついた。
『コールセンターのお姉さん、4日の休み明けなのに丁寧に対応してくれて優しかったー!嬉しいから来年も継続します!また美味しいものが優待で選べたら、来年もいっしょに食べましょうねー!!』
麗央はいつのまにか無意識に微笑んでいた。




