告知
あくる日の昼休み、明陽は健介を連れて学食に顔を出した。
ここなら各学年や教室を回らなくても、自分の告知が男子部に知れ渡るからだ。
明陽は隣で神妙な顔をしている健介に微笑むと、食堂を見渡してからゆっくりと息を吸って口を開いた。
「皆、聞いてほしい」
明陽が入って来た時点で誰もが注目していたが、彼は声をかけることで改めてそこに居る全員の視線を集めた。
「本日より、小日向健介を正式に僕、久我明陽のお気に入りとし、ここに告知する。皆、心に留めておくように」
健介の肩を抱き、穏やかながらも隅々にまで通る声でそう告げた明陽は、普段の柔らかな雰囲気のなかにも凛とした芯の強さが垣間見えて、健介の眼に頼もしく映った。
その言葉が終わるやいなや、食堂にザワザワとざわつきが広がっていく。
「行こう」
明陽は周囲の反応を気にすることもなく、健介にニッコリ笑いかけると、彼の手を引いて食堂を後にした。
その後、二人は何時もの場所へと向った。
しっかりと握られた手が、強い意志と優しさを伝えているようで、健介の胸は明陽への思いで溢れていた。
林に着くと、バッグから取り出したシートを広げ、その上に並んで腰を下ろした二人は自然と見つめ合った。
「これで健介は僕だけのものだね」
明陽はそう言って悪戯っぽく、けれどどこか楽しそうに微笑む。
そんな彼を見ると、健介は心から嬉しくなって、愛おしさが込み上げてくるのだった。
明陽との幸せな時間を過ごし、教室に戻った健介にクラス中の視線が集まる。
明陽の告知はもう既に、ここへも伝わっているようだ。
少し気不味い思いで席に着いた健介のもとに、すぐに一条が駆け寄って来た。
「やったね、健介。おめでとう!」
彼は健介の手を取り、ニッコリ笑った。
「あ……ありがとう……」
明陽の“お気に入り”になる決心がついたのも、半分はこの一条のお陰だった。
だが、彼もまた自分と同じように明陽を心より慕っている。
それを思うと、健介の心は複雑だった。
「良かった。兄さんのことよろしくね」
一条の笑顔は、どこまでも優しく健介に向けられていた。
「一条君……どうして……そんなこと言えるの?……君だって明陽さんのこと……好きだって言ったよね?……なのに……なんでそんなに優しいの?」
健介は一条にだけ聞こえるように声を抑えて問いかけた。
「健介、勘違いしてるよ」
「勘違い……どこが?」
「僕は兄さんのこと、諦めたわけじゃないからね」
そう言ってニッコリ笑った一条の瞳は、どこか不敵に見えた。
健介はそんな彼の顔を真っすぐに見つめ返した。
「言ったよね、僕は将来、兄さんを解放するって」
一条は健介の顔を覗き込むようにして静かに言った。
「うん……」
「だから今は、健介に預けてるだけ」
「預けてるだけ……」
健介はオウムのように、意味もなくその言葉尻を繰り返した。
「そう。今は健介が兄さんを癒してくれてる、だから譲るよ。……でも将来、ちゃんと返してもらうから覚悟しといて。……僕に取られたくなかったら、頑張ってね」
一条はいつものように悪戯っぽく笑うと、そのまま自分の席へと戻って行った。
「一条君……」
一条の、自分には真似できないほどの強い覚悟に、健介は少なからず引け目を感じていた。
それでも、明陽を想う気持だけは誰にも負けないつもりだ。
今はまだ、はっきりとは分からない
けれど、この先……明陽のために何が出来るのか?
健介は、自分なりに考え、精一杯尽くしていこうと心に誓うのだった。




