第60話 激怒、憤怒、そして仇
鴉羽零亜が拳を机に叩きつけ、クラス内が静寂に包まれた後、鴉羽零亜の四肢と首につけられている枷から空気が抜ける音がクラス中に響いた。
「あっ!」
それにいち早く気が付いたのは、愛染珊瑚。
「か、鴉羽君…?」
様子がおかしいと思い、一条先生は鴉羽零亜に近づこうとするが
「先生!皆も零亜君から離れて!!」
「!?」
愛染は先生を止めると同時に周囲のクラスメイトにも離れるように指示をする。
先生やクラスメイトの皆は混乱するが…すぐさま理解する。
「――かぁァァァ…!!」
鴉羽は息を吐き、両目の双眸を真っ赤に染め、黒い粒子をまき散らしながら雰囲気が一気に変わる。
表現しようのない激怒、憤怒、そして殺意がクラス中を支配する。
「な、何ですか!?」
「あの時と同じ…!」
愛染は今の鴉羽を知っている。
彼にボディガードを任せていた時に阿達マネージャーに手を上げた奴がいた。
手を上げられた所を見た後に鴉羽の様子が急変し、手を上げた男を半殺しにし、殺せる程まで追い込むほど、力を振りかざした。
そんな状態の彼が何故かこの場所に出現した。
愛染は疑問を思い浮かべる。
(あの時はマネージャーが殴られたから…でも、何で今…零亜君が怒りに飲まれたの…?もしかして何かまた抱えているの?)
鴉羽が怒る原因が分からない。
クラスメイトも何かしたわけでもなければ、この場所に鴉羽を怒り狂わせるものなんてない。
そう、愛染は考えていた。
次の瞬間
「――ウ…ウゥゥぅッ…ファフニぃぃぃぃィィィぃルッッ!!!」
「!!?」
鴉羽は一瞬唸った後、自らの専用機であるファフニールの名を叫んだ。
耳を塞ぐほどの方向がクラス中に響き渡り、同時にそれは
「うっ!!?」
「何ですの!?」
別の階にいたソフィー生徒会長や八神の耳にも聞こえるほど轟いた。
そしてすぐさまパイロット科の格納庫の天井が破られ
――ドシィィィィィィンッ!!
AT学園の校庭に天井を破ったであろう『ファフニール』が着地した。
全員の目に止まりながらもファフニールは校舎に近づき、コックピットを開けて両手を…鴉羽が居る教室に手を伸ばす。
「――ハぁッ!!はぁっ…はぁっ…!!」
すると、四肢や首につけられている輪が『展開されながら』も鴉羽が意識が戻ったかのように頭を抑えながら息を整え始める。
「ファフ…ニール…!!」
完全に息が整っていないのか、鴉羽は呼吸を大きくしながらファフニールの手の上に乗る。それを確認したファフニールは手からコックピットまで近づけ、コックピットの中に鴉羽を入れる。
やがて鴉羽が身体を起こしてコックピットに座るとハッチが閉まり、鴉羽とファフニールは何処かへと飛び去っていく。
「うぅっ!?」
ファフニールの移動で生じた風圧は学園を襲う。
愛染はその風圧を手で受けつつ、目を少し開きファフニールと鴉羽が飛んでいく姿を見届ける。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
一条先生はクラスメイト全員の安否を確認する。
ファフニールの風圧は確かに学園を襲ったが、学園自体のガラスや壁はARMORで生じるエンジンや行動で生じる風圧で破壊できぬような耐衝撃壁とガラスで創られている。
窓ガラスは割れず、二次被害が生まれることはなかった。
「零亜君…」
「あの、愛染さん。鴉羽君のアレは…」
「前にボディガードをして貰った時に、あのような感じで雰囲気が変わって侵入者を排除したんです。でも…いつもと違うと思ったのが意志を取り戻したかのような」
「意志…?」
「初めて零亜君の暴走を見たときは意志が無くなったかのような感じだったんです。そして、記憶が暴れたときの記憶が無かったんです」
「…とにかく、今は鴉羽君の事を学園長に報告します。愛染さんも付いてきてください。そのことを学園長に」
「わ、分かりました…」
愛染さんは学園長の元へ向かう一条先生の後ろをついていく。
そして同じタイミングで鴉羽とファフニールが飛び去っていく光景を見たソフィー、八神。
「か、鴉羽!?」
「一体、何が…!?」
その光景を見た二人は驚き、疑問に思っていた。
鴉羽零亜という人間は基本的に命令に逆らったり、打算の無い行動は絶対にしない。
全ての行動に何らかの動機、合理的に考えて行動するほどの『合理家』とも言える。
しかし、今の行動には合理性の欠片もない。
どちらかというと本能的な行動に近い。
そんな彼が、と疑問に思っていたら
『…やや状況が変わったようだ。ナンバーズのソフィー・ハント、八神斑琥。そして桐ケ谷氷水。早急に学園長室に来い』
学園から流れた東雲学園長の言葉は『命令』。
今すぐに来いという緊急の命令。二人は何故ガディの付近にいた女子生徒を呼び寄せたのかと疑問に思いつつも教室を飛び出し、学園長室に向かう。
その道中、一条先生、愛染珊瑚と合流し、学園長室の扉の前に付く。
すると、既にそこには
「あ…!」
桐ケ谷氷水が扉をノックしようとしていた。
「確か…桐ケ谷氷水だったか?」
「は、はい…!」
「…いいえ、話をここで聞いている場合ではありませんわ。とにかく中に入り、東雲学園長からの話を聞きましょう」
ソフィーは一度、東雲学園長からの要件を解決してから話を聞くべきだと考え、学園長室の扉を開く。
そこには
「待っていたぞ、全員。早く中に入れ」
椅子に座り、待っていたぞと言わんばかりに東雲学園長は待っていた。
「私は立ち話は好かん。全員、そこに座れ。それと一条、この部屋の扉の鍵を閉めよ」
「わかりました」
東雲学園長に言われた通り5人とも中に入り、最後に入った一条は扉の鍵を内側から閉め、
学園長の向かいにある、ソファーや椅子に座った。
会話は何もなく、ただ静かに座り、学園長の言葉を待つ。
そして、東雲学園長は言葉を発する。
「…まず鴉羽の事だ。愛染が来たという事は知っているのか?鴉羽に何が起きたのかを」
「はい。前にボディガードを任せていた時に私のマネージャーが侵入者に殴られ、零亜君の付けられている黒い輪が展開して赤黒い粒子が分布され、怒りに支配され、意志が無くなったかのように暴走し始めて…侵入者をボッコボコにしました」
「ぼ、ボッコボコ?」
「相手は男性を蹂躙し…あのまま暴走していれば多分、『殺す』まで言っていた可能性が」
「なっ!?」
「そ、そこまで…!?」
合理性が全くない鴉羽の豹変を愛染からの報告で初めて知る全員。
「その暴走が先に起きたと?」
「はい、黒い輪が展開して零亜君のファフニールの名を叫び、ファフニールが来て乗る…前に気になったことが」
「気になったこと?」
「意志が一瞬、戻ったかのように頭を抱えたんです。まるで悶えるような…」
「…ふむ」
愛染からの鴉羽の報告を全て理解し、東雲学園長は首を小さく縦に振る。
「つまるところ、鴉羽零亜には激怒するほどの『何か』があったと思えるな。ソフィーに八神、何か心当たりは」
共に任務などをこなしている二人にも東雲学園長が問うが、二人とも首を横に振る。
心当たりは何一つないのだ。
「そうか…では、桐ケ谷氷水」
「はい」
「何点か問う。そしてこの問答は外部に知られることはない、真実を話すと良い」
「…」
「鴉羽零亜の激怒にガディ・パヴォーネに関係しているか?」
「確実にはいと言えます」
「その理由は」
「理由を話す前に、ガディ・パヴォーネがこの学園に来たわけを話したいです」
「話せ」
東雲学園長がそういうと桐ケ谷氷水は一呼吸を入れてから、話し始める。
◇◇◇
「私はアウローラさんの人質です」
私は、あの憎くて実の姉の仇であるガディ・パヴォーネの目的を話し始める。
「人質…というのは」
「…私には姉が居たんです」
「姉…」
「居たというのはつまり」
八神という人は何かを理解したかのような顔をするが、私はそれを否定する。
「…私の姉を殺したのは、オールイーターじゃないです…!」
「は?」
「あの…ガディ・パヴォーネです…!!」
膝の上に置いていた手を思い切り握る。そうでもしないと、私は冷静を保てない。
私、桐ケ谷氷水はARMOR’sに実の姉の『桐ケ谷立花』の為にARMORを作成し、整備し…守ってきた。
私のお姉ちゃんはいつも私を気にかけてくれた。
デイブレイクのせいで家族を失い、故郷を奪われて家族は二人っきりになってしまっても、ARMORのパイロットとしてAT学園とは違う育成学校で戦線に出ても、一番危険な目を味わっているのはお姉ちゃんなのに、私の事を気にかけてくれた。
『氷水、大丈夫?』
『うん…お姉ちゃんは?その…私のARMORはどう?』
『絶好調!氷水が創ってくれたARMORのティアドロップが守ってくれてるからかしら』
『えへへ…』
お姉ちゃんがARMOR’sになった時、私は…お姉ちゃんを支えたくて、守りたくて…ひたすらにARMORの勉強や作成など、猛勉強をつづけた。
それが一年前。いつの間にか育成学校の整備士としての実力を手に入れて、技術を身に着け、ARMORを創れるほどの力を身に着けた。
それでお姉ちゃんの為に作った『ティアドロップ』で、お姉ちゃんを守れる。
実際にお姉ちゃんとティアドロップは数多のオールイーターを倒し、守ってくれた。
そんな中で偶然会ったのがAT学園の『アウローラ・ヴァルティ』さん。
AT学園のナンバーズという地位の元、任務という事で私たちの育成学園で特訓とARMORの話を私とお姉ちゃんにしてくれた。
そうしてお姉ちゃんと私はアウローラさんと一緒に知識や技術を身に着けて、気が付けば親友のような立ち位置につき、緊急の出撃の際は共に背中を預けて戦うほどに。
でも…そんな時間は長くは続かなかった。
「あの男が、貴方の姉を…!?」
「私が…私がお姉ちゃんの為に、創ったARMORを…あの男は奪って…ッ!!」
今でも思い出したくない。
私がお姉ちゃんの為に創ったARMORを無理やり奪い取って、出撃した。
そのせいで私のお姉ちゃんは別の機体に乗って…オールイーターに食べられた。
私は抗議したのに…!!
あの男は…ッ!!
「…パヴォーネ社か」
「…どれだけ抗議しても、パヴォーネ社が圧をかけてきて…何もできなくて…お姉ちゃんの仇を取れなくて…!」
あの時の事を思い出すだけで、自分が無力だと感じて涙が出てくる。
すると
「!!」
「よく、頑張りましたわね…」
ソフィー生徒会長が私をきゅっと抱きしめてくる。
「相手が強大ゆえに自分の無力さを感じてしまう事…分かりますわ。私も目の前で父親を奪われましたから」
「…」
私はその一言を聞いて、本当のお姉ちゃんじゃないけど少しだけ安心できた。
「して…ガディ・パヴォーネの目的は?」
「婚約者という立場を悪用し、アウローラさんとヴァルティさんの人格を乖離させ、アウローラさんの人格を手に入れる為です」
「!?」
「何ですって!?」
「そしてアウローラさんと私のお姉ちゃんが親友のような立ち位置であったため、私が人質にさせました…」
「…酷いですわね」
それを話すと愛染さんという人以外は驚く表情をしている。
「人格っていうのは?」
「愛染は知らないか…アウローラは多重人格なんだ、過去の影響でな」
「そ、そうなんですね…」
「そこまで驚かないな?」
「い、いや…だって零亜君って記憶喪失ですし」
「そういえば、そうだったな…」
今、私も知らない情報を聞いて驚く。
鴉羽さんって記憶喪失なの…!?
「人格を手に入れる…なるほど、ガディ・パヴォーネの後ろにはパヴォーネ社がある。その力を使ってか?」
「はい…ですが、実の親である社長はそのことを知りません」
「何だと?」
「つまり、独断だというのか?」
私は首を縦に振る。
事前に調べたリサーチをヴァルティさんからの情報で知らないという事は事実。
それだけは絶対。
「なら…話せばアイツは!」
「…無理だ」
八神さんが伝えるべきだと声を上げたが、それを否定したのは東雲学園長。
「な、何故です!?それを告げれば」
「分かっている。告げればいいのは分かっているが、仮にパヴォーネ社に告げたところで止めるにしたって恐らく間に合わん。それに社長が単独で動ける者に静止をかけたところで無駄だろう」
「しかし…!」
「…まぁ、今報告したら間に合わないだけだがな」
「?」
そういうと、東雲学園長は何かのログを見せる。
「これは?」
「既に話は通してある」
それは…パヴォーネ社社長の『ザニーナ・パヴォーネ』との会話のログだった。
「学園長である私にも圧をかけてきてな、流石に屈せねばならんよ。生徒を人質に取られよう物なら」
「学園長も?」
「あぁ…まぁガディ・パヴォーネは私の忠告を無視したわけだが」
「忠告というのは?」
「敵に回す奴は考えたほうがいい、と」
「鴉羽の事ですか?」
「あぁ…というよりそれが条件だった」
学園長に言われ、先程のログを確認すると…『事実確認はこちらで行うが条件として、決闘で息子が勝った場合は不問にさせてもらおう。こちらとしてもパヴォーネ社の名前が傷つくわけにはいかない』と、社長らしいもっともな理由が添えられていた。
「社長故なのか、それとも親ゆえなのか…」
「まぁ、結果は決闘で決まる。しかし…問題があるとするなら」
「鴉羽零亜が何処かに行ってしまったという点ですか?」
「あぁ…決闘の日時は決まっている。遅れればガディの不戦勝という形になる」
つまり…鴉羽さんに定められた条件は
制限時間が定められている状態でエデンからアウローラさんを助け出して、決闘でガディ・パヴォーネを倒す事。
すぐさま、私は鴉羽さんにそのメッセージを送った。
「誰に送った?」
「鴉羽さんです」
「…そこで情報共有してたのか」
「そう、ですね。ヴァルティさんの方から色々とアクションをしてくれていたので」
「そうか。とにかく、今の私たちにできることは鴉羽零亜の無事を待つのみだ。変に行動すればあの虎の威を借りる狐がどんな問題を起こすかわからん。癪に障るが…祈るとしよう」
そうしてガディにバレることなく、私たちは情報共有を行い各々が教室に戻っていた。
私は、教室に戻る最中…廊下から見た空を見上げた。
(鴉羽さん…)
今の私に出来ることは、鴉羽さんを信じるしかない。
最大限のバックアップをしたいけど、私の近くには常に仇が居る。
変な行動をすれば、鴉羽さんもアウローラさんも危ない。
だから…!
(祈ろう…とにかく)
私は足を止めて、空を見上げて…手を組んで祈った。
(お姉ちゃん…見守ってて、お願い)
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




