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#16 勇者たちは止まらない。

 ナイフ一閃! 斬撃を受けたナゲットは大きく吹っ飛び、壁に激しく衝突、瓦礫と共に回転しながら落下した。


 ズドーン


「かはっ……」


 ナゲットが呻く。一方で地面にスタっと着地したポテトは、間髪入れずにナゲットに接近し、特に意味は無いが平手打ちをパンと食らわせた。そしてしゃがみ込み、


「さあ魔力は使い果たしたよな。今度という今度こそラスボス討伐完遂だ。どうする? ここで辞世の句でも読むか?」

「けほ……ふん。確かに僕の負けだけど、終わりじゃない」

「字余りひどいぞ」

「(無視)ここまで楽しませてくれたお礼に、君達に最高のプレゼントをあげるよ。これで正真正銘のフィナーレさ……」


 ナゲットは懐からスイッチを取り出し、すぐにポチッと押した。次の瞬間、ドッカアアアァァァン……と爆音が響き渡り、続いて激しい震動と共に城の崩壊が始まった。当然みんなは大混乱。ポテトはナゲットに何か言おうとしたが、当人は降ってきた瓦礫が頭にクリーンヒットして気絶している。自滅してどうする。


「みんな! 出口を目指せ!」


 全員が部屋の扉へ走る。しかし、大きな揺れが起こって全員がよろけた。そして壁が一気に崩壊して扉の前を塞いでしまった!


「くそ、急展開すぎるんだよ……」


 それから辺りを見回すポテト。しかし全員混乱してしまって話にならない。お前ら本当に勇者や海賊かよ。頼みの香取はなぜかビデオカメラで動画を撮影している。ダメだこりゃ。末代までの恥だぞ。いやコイツらで末代か。


 ポテトが1人イジイジしていると、突然声が響いた。


『皆さん、落ち着いてください‼』


 田中が拡声器を構えていた。どこから持ってきたのか。


『あちらを見てください‼ 非常口です‼』


 皆がそっちを見やる。確かに、暗闇の中に緑色のランプが輝いている。おお。帝王城にもしっかり非常口はある。全員がそちらへ駆け出した。


『はい皆さん‼ 「おかし」を守ってください‼ 落ち着いて行動しましょう‼』


 田中の誘導で割と素早く避難用通路に入れた。田中が最後に部屋を確認すると、ポテトがナゲットを背負ってやってきた。


「助けるんですか」

「これでコイツに貸しを作れる。勇者におんぶされたラスボスって有名になるぜ」

「うわぁ悪い人だぁ」


 2人の会話を崩壊の音が遮った。時間が無い。2人も通路を進んだ。


 通路の最後は行き止まりで、しかし、すりガラスの窓があった。いつの間に晴れたものか、明るい光が差し込んでいる。魔王が言う。


「これくらいなら破れそうだな」

「でも、外の様子が分かりませんよ」


 チエが答え、ポテトが「それなら」と言って田中の襟首をつかみ、本人が状況を把握する前に窓へ放り投げた。


「ひゃーっ」


 パリーン


 窓が割れ、破片が飛び散る。見ると、もう窓を出れば直接地面だ。しかし田中がいない。ポテトが身を乗り出すと、真下から「ポテトさ……」と声がする。田中は四角い穴に落ちたらしく、手足を突っ張らせて耐えている。


「ああ、入る時に見たゴミ箱か。そのまま頑張れ。みんなも早く出ろ~。田中を飛び越えるイメージで……」

「ひど⁉」


 さて、全員が城から出たが、まだ油断はできない。みんな急いで城から離れた。


「このくらい離れたら大丈夫か。しかし誰か忘れているような……」

「? あ、あれ……」


 まだ城の近くに人影がある。あれは……


「香取店長⁉」


 ビデオカメラを鞄にしまっている。


「早くこっちへ……」


 田中が言い終わらないうちに、


 ドッカアアアァァァンズドオオオォォォン‼


「――香取店長―っ‼」


 香取店長は橙の爆発に呑まれた。全員が沈黙する。チエが泣き出した。魔王が黙祷している。


 しかし、まもなく白い煙の中から香取店長が無傷で現れた。笑顔まで浮かべている。


「……か、香取店長……」

「アイツ何者だよ……」


 微妙な雰囲気が流れたところでナゲットが目を覚ました。ポテトにおぶられていることに気付いて暴れる。


「どうどう。ほら、お前の城、ガラクタになったぜ(⌒∇⌒)」

「……‼ うわあああぁぁぁ……」


 その後、どこからともなく現れたシロル実とハロル琴が、陽光に照らされる大量の勇者たちを生中継し、インタビューに対してポテトはあることないことを答えた。中継を見たまろやか国王の特使団も到着し、ここにいる勇猛果敢な勇者たちに報酬があるのですぐに王城へ赴くようにとの旨を伝えた。


 ポテトは旗を掲げて大勢の仲間を連れてまろやか国に凱旋し、王城へ召された。そして王様の激励よりも報酬をもらいたがり、「国をやろう」と言われても「面倒だしいいや」と断り、他の仲間に別れを告げ、田中と魔王とチエと共にさっさと王城を去ってしまった。


 一部始終を見ていた兵士はシロル実とハロル琴のインタビューに「嵐のようだった」とコメントし、中継を見た全世界の人々が「勇者ポテト万歳」となった。この日は後に「ポテトの日」とされ、前後2日を含めた計5日間に渡ってお祭りが行われることと相成ったが、それはまた別のお話。


 さて、王城を去ったポテトたちは、ファミレス「ココココス」にいた。


「>103作者、間違えるなよ。ココ、ココココスじゃなくてコココスだから。それにしてもコココスのピザ美味しいな。あ、みんな冒険お疲れ様。タバスコ取って」

「……脈絡大丈夫ですか」


 コココスで昼食を食べるポテトたち。昨日まで冒険をしていた者とは思えないほど和やかに会話している。パスタを食べていた田中がフォークを置いた。


「それで、皆さんはこれからどうするんですか? ポテトさんなんか、国をもらうの拒否したじゃないですか」

「既に完成した国は要らない。この世界には未開の土地も多い。僕はそういう場所に、冒険の報酬を元手にポテトランドを創り上げる」


 ポテトはピザをかじった。田中が「ポテトさんらしい」と苦笑する。そこに魔王が身を乗り出した。


「だったら俺も手伝おう。そこに第2魔王城を建てるのだ。フハハ」

「田中さんは?」


 チエの問いに田中が一瞬詰まる。


「……ずっと言ってませんでしたけど、僕、宿無しだったんです」


 全員がむせる。


「だから、ポテトさんについていったんですよ。ちょっと強引に仲間にされましたけど、今では、その……感謝してます。だから。ポテトランド建設、僕も手伝います!」


 ポテトはまだ少しむせながら頷き、チエに目で尋ねた。


「私は、参加したい気持ちはやまやまなんですけど、今回の冒険で世界の広さを知りました。私、もっと色々な場所に行ってみたい。だから、しばらく旅をしたいんですけど……駄目ですか……?」


 少し怯えた目でポテトに訊く。ポテトがピザにタバスコをダバダバかける。そして答えた。


「最初から世界がどうのって言ってたし、別に良いよ」

「本当ですか⁉ ありがとうございます‼」


 それからしばらく雑談になった。その内に、ポテトが今回の冒険を書き起こして書籍化することが明らかになった。


「へぇ。これだけ大騒ぎになったから飛ぶように売れますね」

「タイトルは決まっているのか?」

「それがまだなんだ。考えてくれ」


 しばらく各々が考える。最初に田中が口を開いた。


「パーフェクトブレイヴ・ポテト」

「なんかキュアプリっぽい。却下」

「俺のが良いぞ。勇者譚」

「短すぎるよ。全然ダメ」

「怠慢勇者が圧倒的ノリと絶望的悪運で行き当たりばったりに世界を救った話、とか」

「……チエ、お前ラノベの読みすぎなんじゃないか……? もっとマトモなのをくれ」


 そういうポテトも全然思いついていないから、五十歩百歩ではある。その後も色々と案を出し合ったが、しっくりくるものは出なかった。ポテトはピザの追加注文を取り、ふと思いついたという感じでウェイトレスに訊いた。


「あのさ、僕が自伝出すとしたら、どんなタイトルが良いかな」

「さ、さあ……勇者ポテトの大冒険で良いんじゃないですか?」


 田中も魔王もチエも苦笑した。ウェイトレスが去ってから、田中は「それは無いですね」と言おうとしたが、ポテトは真面目な顔で何か考えている。「それだ!」と言いそうだと思っていると、案の定「それだ!」と言った。


「いやいやいや、どこにピンときたんです?」

「長すぎず短すぎない。シンプルで分かりやすいし、響きが良い」


 ポテトは何度も頷き、ピザを運んできたウェイトレスにグッジョブ! とやって露骨に引かれ、タバスコ乱舞をしながらピザにパクついた。傍から見ると、いや一緒に冒険をしてきた仲間から見ても、ポテトというこの男が、世界を救った勇者には見えないのだった。


―完―


あとがき

どうも、てんやわんや執事です。いつの間にか名前変わってますけど、元天使の執事です。まずはこの小説を書き終えることができて嬉し


「大変だっ‼」


 突然コココスに誰かが入ってこようとして、自動ドアに衝突し、額を押さえながら入ってきた。皆が何事かと入口を見る。男はどうやら王城の兵士のようだった。


「お、お、お城が、おし……勇者様、来てください‼」

「はぁ、僕? もう勇者はこりごりなんだけど」


 勇者一行は立ち上がり、ジリジリしている兵士を待たせながら会計を済ませ、コココスの外に出た。すると、王城が空を飛んでいた。2回言うけど、王城が空を飛んでいた。


「……???」


 よく見ると大量の風船が城を持ち上げているのだった。そして城に設置されたモニターに邪悪な顔が映った。


「ハハハ、ビビったか勇者め! 我が名は永々王! 世界を滅ぼす者だ!」


 ポテトも田中から借りた拡声器ですぐに叫び返す。


「そんなことよりカール爺さんとでも名乗れ~。面倒なことしやがって」


 そして田中を、魔王を、チエを順に見回した。


「……ポテトランドも、流浪の旅も、勇者ポテトの大冒険もお預けだ。良いか?」

「……はい」

「おう……」

「あ~……」


 全員が気落ちした様子で頷く。そして、「そこのけそこのけ勇者が通る」と言いながら野次馬を退け、おいっちに~さんっし~ときっちり準備体操をし……。


「さっさと終わらせるぞ~~~っ‼」

「うおりゃあああぁぁぁ‼」

「は~~~い‼」

「ハヤク‼」


 城下町を疾走し、新たな敵を倒しに向かうのだった。


 彼らはこれからも勇者として活躍するのであった‼ ご愛読ありがとうございました‼

 以上、『勇者ポテトの大冒険』でした。再掲したものですが、読んでくださりありがとうございました。

 色々とお粗末ではありますが、初めてまともに完結させた中編小説ですし、当時は読んでくださる方もけっこういたので、それなりに思い入れはあります。連載しながら、なんやかんやで楽しかった記憶があります。

 続編的な作品として『学生ポテトの高校生活』もあるので、そちらも再掲しようと思います。

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