悲しみに包まれる
夜になって、フミカが森の池で見つかったと、サエコに連絡が入った。
森の中程に行くと、村の人が集まっていて、その真ん中にブルーシートをかけられた小さな塊を見つける。すぐ脇で飯島夫妻が涙を流しながら呆然としていた。
人が集まっているすぐ横で、林田ユウジと駐在所の田所巡査が話をしているのが見える。2人とも怖い顔で、いつもとまるで別人のようだった。
ひどく現実離れした光景だと、サエコは感じた。
サエコが、2人に小さく声をかけた。
「・・・・フミカちゃんが見つかったって聞いたのですが・・・。」
「ああ、先生ご苦労様です。すみませんが・・・検死をお願いします・・・。」
田所が苦しそうな表情で、サエコに検死を依頼した。
「・・・わかりました。」
多分、サエコも同じような表情でいるのだろう。サエコは自分が思っている以上に狼狽していると思った。
サエコはブルーシートに近付き、飯島夫妻に声をかけようとしたが言葉が見つからなかった。結局、小さな会釈をして、そっとブルーシートをめくった。
怖かったのだろう、泣きそうな顔をしたままで固まったフミカの顔が見えた。
今までも、何度か不慮の事故で亡くなった人を検死した事もあったし、村に来てからも何人もの人を見送ってきたサエコではあるが、今回はさすがに辛い。
「フミカちゃん、早くおうちに帰れるようにするからね・・・。」
サエコはそう言いながら、田所とフミカのご遺体を観察し、死亡原因を確定して行った。
「溺死・・・ですね。・・・。多分、そこの木の帽子を取ろうとして足を踏み外したんでしょうね。」
田所が指を刺した木の枝に、帽子が引っ掛かっていた。
フミカが、この夏にずっと被っていた帽子だ。
「風で飛ばされて、引っ掛かってしまったんでしょう。よっぽど気に入ってたんですかね。」
田所が、続けてそう言った。
ある程度調べた後、フミカを診療所へ運ぶ。
診療所で詳しく調べた後、エンバーミングを施す事になる。
村には火葬が出来る葬儀場がない。火葬するためには津山市まで行く必要があり、しかも順番待ちで時間がかかるため、地方の村では、エンバーミングをしてご遺体を保存する事になる。
サエコも、この村に来る前にエンバーミングの技術を修得していた。
診療所に戻ると、子供達とユウコが待っていた。
メグミとミドリも、ユウコに連れられて診療所に来ていたらしい。
子供達は、現実を受け入れられないのであろう、ただ黙ってブルーシートに包まれたフミカをじっとみていた。
サエコは、少し子供達を見つめた後、そのまま処置室へと入っていった。
(こんなに辛い、ご遺体の処置は初めてだ・・・)
サエコは感情を無理やり押さえながら、フミカの処置進める。
サエコはこれまで、近隣の村も含めてかなりの数のエンバーミングを施してきたが、どの人も高齢で、死因も老衰や病死といった自然死の方ばかりだった。
みんな顔見知りの人ばかりだったので、いろいろな感情が湧き上がって来るものの、それは死者に対する労いの気持ちが強かっった。
死化粧をしたフミカの顔は、穏やかに眠っているようだった。
フミカに対面した飯島夫妻は、娘の顔を見て泣き崩れた。
棺に入れられ、フミカはやっと家に帰ることができた。
村人達は、誰もが涙を流しながら静かに彼らを見送った。
誰もいなくなった診療所で、タケルとトオルは1人になりたくないのだろう、並んで食卓の椅子に座り、じっと前を見ていた。
サエコも、1人にはなりたくなかった。食卓の横にあるソファーに座り、2人をただただ、見つめていた。
その夜、3人は眠ることができなかった。




