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タケルとトオル  作者: みゆき
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村はずれの神社

 タケルは怒っていた。  


 ミドリの我が儘に振り回されるのはいつものことだが、今日はトオルが熱を出して家で寝ているのだ。早く家に帰りたい。

 一月ぐらい前からトオルはしょっちゅう熱を出すようになった。

「身長が急に伸びすぎて体力が追い付いていないのと春先の気温の変化で、体調を崩しただけだから心配いらない。」

 サエコはそう言った。

 確かにトオルは最近急に背が伸びた。なのに体重はあまり増えてないようで、トオルはガリガリに痩せている。だから余計にタケルは心配だ。

(サーちゃんを信用しないわけじゃ無いけど・・・。こんなことはじめてだし・・・。) 

 早く家に帰って安心したかったのだ。なのに・・・。

 学校帰りに、いきなりミドリに村外れまで連れてこられた。


 タケルとトオルは11歳になっていた。

 親がいないタケルにとって、トオルはサエコと共に大切な家族だ。特にトオルとは、まるで双子の兄弟のように仲がよい。

 トオルは内向的で人に誤解されやすいので、タケルはいつも心配で庇っていた。そのトオルが最近よく熱を出す。微熱程度ではあるが風邪をひいているわけでもなさそうだ。体が弱いわけでもない。今まで無かったことにタケルはとても心配だった。


 タケルは、元気が有り余っているような、わんぱく坊主に育っていた。二重瞼のくっきりした目と、大きめの口で豪快に笑う。明るく人懐っこい性格で、村の人たちにも可愛がられていた。

 トオルは、切長でいつも遠くを見ているような印象的な目をしている。どこか大人びたその顔に、感情が現れることはほとんどなかった。大人しくて何を考えているか分からないと大人たちに評価されているようだ。

 ただ、子供たちはそう思わない。特にタケルにとって、トオルの機嫌なんて手にとるようにわかるのに大人は何を言ってるのだと思っていた。


 タケルとトオルは、同い年のフミカとミドリと4人でいつもいっっしょに遊んでいた。


 ミドリは親に甘やかされて育ったためか、とても我が儘だった。肩まで伸びた艶やかな黒い髪と、気の強そうな凛々しい目をしている美少女で、大きなな瞳で自信ありげに見つめられると、大人でもドキッとさせられるような不思議な魅力を持っていた。

 ミドリは我が儘ではあるが、フミカやトオルが誰かに揶揄われたりすると、相手が誰であろうと食ってかかるような、正義感が強い一面も持っている。

フミカはおっとりして、いつもニコニコ笑っている。美人ではないが優しく穏やかな目元の可愛い顔をして、ショートカットにしたふわふわと柔らかい髪がよく似合っている。

 タケルと気の強いミドリはよく口喧嘩をした。フミカはオロオロしながら、必死でその場を収めるが常だった。

 トオルは、周りが大騒ぎしていてもマイペースで我関せずといった感じだった。


 村の周りを囲むように村営の田んぼが広がっている。田んぼには蓮華が咲いて、一面ピンク色に染まってとても綺麗だった。

 田んぼを抜けると、森へと続いていた。

 昔、この辺りに集落があったみたいで、廃墟となった建物が所々にある。そして建物の周りにはゴミが散乱していた。

 子供たちは薄暗い森の廃墟を怖がって、滅多に近づくことは無かった。


 3人は恐る恐る森の小道を歩いている。


「どこまでいくんだよ!!」

 タケルは、ミドリに文句を言っている。

「もうすぐよ!!。うるさいわね!!」

 ミドリも喧嘩腰にタケルに応えた。

「もう・・・。仲良くしようよ』

 フミカは。半分泣きそうだ。


「フミカ怖いのか?」

「・・・うん。・・・少し・・・。」

 タケルは、フミカの顔が強張っていることに気がついた。

「大丈夫?』

 ミドリも気が付いたようだ。

「大丈夫だけど・・・、もう喧嘩しないで・・・。」

フミカは本当に泣きそうだ。

「ごめん・・・。」

 タケルは素直にあやまった。

「もうすぐだからね。」

 ミドリは、優しく言った。

 

 森に入って30分ぐらい歩いただろうか、急に前が開け広場のような場所に出た。広場を横切った所に見慣れない門のような物がある。門の先、細い道がつづきその奥に、ボロボロになった小屋のような物も見える。


(なんだか、変な所だなぁ。ちょっと気味が悪い。)

 タケルは、そっとフミカの方を見る。案の定かなり怖がってる。

「ここは何?。」

 ミドリに聞く。

「ジンジャって言うんだって。神様が住んでるんだってパパが言ってた。」

「神様って、嘘に決まってるじゃん。なんか・・・気味が悪いし・・・。」

「タケルも怖いの?」

 バカにしたようにこっちを見るミドリに、タケルはムキになる。

「怖くない!!」

「私は・・・、怖い・・・、もう帰ろう?」

 フミカは小さい声で訴える。

「フミカ、大丈夫よ。ここの神様は優しい神様らしいし。”オマモリ”を見つけたらすぐ帰るから。」

「”オマモリ”っなんだよ?ミドリ、今日は変だぞ?」

 本当に、今日のミドリは変な事を言う。


 近づいてみると、ボロボロに見えた小屋は古いだけでそれなりに手入れがされているようだった。

 3人は珍しそうに小屋の周りを巡ってみた。

「中には入れないのかな。」

 タケルは扉を揺らすが、鍵がかかっているようだ。


「”オマモリ”どこだろう?」

 独り言のように喋るミドリに、タケルが聞く。

「だから、”オマモリ”ってなんだよ?」

「おばあちゃんに聞いたことがある。お願いが叶うように持っておく物だって・・・。」

 ミドリの代わりに、フミカが答えた。

「ミドリちゃん、もしかしてトオルくんの病気が早く治るように”オマモリ”が欲しいの?じゃあ、みんなで探そう!」

「フミカも”オマモリ”のこと知ってたんだ。」

 ミドリは嬉しそうに言った。

「今、思い出したの。」

「そっか。よし!!頑張って探そう!!」

 タケルは、少し驚いた。ミドリが、そんなにトオルのことを心配してるとは思わなかった。フミカも、もう怖がってはいないようだ。

「ありがとう。2人ともトオルのこと心配なんだ。」

「当たり前でしょ。」

ミドリが少し怒ったようにいう。

「みんな心配に決まってるよ。」

フミカも言う。

「ごめん。」

 今日はよく謝る日だと、タケルは肩をすくめた。


「ここで、何をしてる!?。」

 いきなり声が聞こえて、3人は心臓が飛び出そうなぐらい驚いた。

「ひゃあ!!」

 フミカが変な声を出した。声の方を見ると、坂下の爺ちゃんだった。


 坂下マサハルは村に住むお年寄りで、現役は退いているが、今でも農作業など村人の相談に乗っていたりする、言わば長老のような存在だ。いつも穏やかで優しく、子供たちともよく遊んでくれる。


「びっくりしたぁ。爺ちゃんかぁ。」

「ここら辺は危ないよ。神社に何の用だ?」

 爺ちゃんは少し怒っているようだ。

「”オマモリ”を探しに来たんだ」

 タケルが答える。

「お守り?何に使うんだ?」

「トオルが熱を出して・・・。」

「そうか。それでお守りかあ。」

 爺ちゃんはもう怒ってなかった。

「お爺ちゃん、”オマモリ”がどこにあるか知ってる?」

 ミドリが聞いた。

「確か・・・社務所に残っていたような・・・。」

 爺ちゃんには心当たりがあるようだ。

「爺ちゃん、ここは何?ジンジャって言ってたけど」

「そうだなぁ、昔はどこにでもあって信仰されてたんだよ。ここでみんな拝んでたんだな。」

 タケルの質問に爺ちゃんは答えるが、タケルにはよく解らない。

「神様って、本当にいるの?」

「はははっ、どうだろうなぁ。でも昔の人はここに居ると思って心の拠り所とかにしてたんだと思うよ。」

「みんな信じてたの?爺ちゃんも信じてるの?」

「俺は、よく分からん。でもこういう場所が人々の救いになってたことがあったんだよ。だから、また必要になる時があるかも知れないから、手入れしないとな。」

 やっぱり、タケルにはピンとこない。大人になったら解ることもあるのだろうか?

「パパが、言ってた。祈りの場所を無くすのは淋しいって。」

「おばあちゃんも、そんなこと言ってた。」

 ミドリとフミカが言うのを聞いて、そんなものかとなんとなく思った。


 神社の奥にあった小屋は本殿と言うらしく、ここに神様がいるらしい。

 タケルは信じきれてはいなかったが、爺ちゃんに教わりながらトオルの回復を祈願した。横でミドリとフミカも手を合わせている。


 鳥居と教えてもらった入り口の門の脇に大きな木があった。最初木の陰になって気づかなかったが、本殿よりもひと回りちいさい建物があった。ここが社務所らしい。

 爺ちゃんが鍵を開ける。

「爺ちゃん、鍵持ってんだ。」

 タケルが言うと、

「神社にはもう人がいないからね。代わりに管理するのに持ってんだ。」

「誰もいなくなっても、神様はいてくれるの?」

「うーん、神様はこの土地そのものだから、ずっとここにいるんだと思うよ。」

「神様って土地なの?」

「そうかも知れんなぁ・・・ちょっと難しくて俺にもよく解らん。」

 タケルは、爺ちゃんに解らないなら俺にはサッパリだと思った。


 社務所の中はとても狭くて、爺ちゃん1人でお守りを探してきた。

「古いものだから、綺麗なものがほとんど無いけど・・・これが一番マシかな。」

 そう言って差し出されたのは、小さな木の札だった。茶色に変色してたが文字が確認できた。

「無病息災」

 そう書かれていた。

 

「これがお守り?」

 ただの木片に、タケルはがっかりした。

「もっと、キラキラしたのだと思ってた。」

 ミドリは、どんなものだと思ってたのだろう?とてもちっぽけな木片に不服そうだ。

 フミカも拍子抜けしたような顔で、

「こんなので、トオルくん元気になれるの?」と言った。

「まあ、お守りはこんなものだよ。こんなものにそんな力なんてないさ。」

 爺ちゃんは言う。

「これは、トオルが元気になるようにって、ここまで来た証拠みたいなもんさ。」

「どう言うこと?」

 3人が同時に声を出したのを見て、爺ちゃんは笑う。

「トオルのことが心配で、早く元気になって欲しいと思う気持ちが大事なんだ。多分その気持ちを神様は見てる。そのお守りに力は無いけど、お前たちの気持ちはお守りを通じてトオルに伝わる。トオルは元気になろうと思うだろう?」

 爺ちゃんは優しく言った。

「思うだけで、病気が治るの?」

 ミドリは納得がいかないようだった。

「痛いとか苦しいって思うより良いんじゃない?心が元気な方が早く治りそう。」

 フミカは言った。

「フミカ。良いこと言うな。」

 爺ちゃんは、楽しそうに言う。

「そうだよな。トオル、元気になるよ!」

 タケルは嬉しくなった。もうトオルが元気になったような気さえする。

「じゃあ、これ持って帰ろう。」

 ミドリも納得したようだった。


 坂下の爺ちゃんも一緒に帰ると言った。

「ここら辺は危ないんだ。だから本当は子供達だけで来ちゃあダメだ。。あちこちに溜池が残ってるんだけど、藪とかでよく見えない。間違って嵌まると大変なことになるからな。道を歩く分には問題ないけど森の中に入ったら絶対ダメだぞ!」

「はい」

 3人は神妙な顔をして返事をした。その姿が面白かったのか爺ちゃんは大笑いした。


 来るときは気が付かなかったが、道端に小さな花が所々に咲いている。

 タケルはピンク色の小さな花を一つ摘んでフミカにあげた。

「キレイな花だね。」

「ありがとう・・・。」

 フミカは恥ずかしそうに花を受け取った。

「フミカだけ?」

「ミドリは花に興味なさそうじゃん。」

「それもそうね。」


 ミドリがチラッっとフミカを見てイタズラっぽく笑ったのも、フミカが顔を赤らめて嬉しそうにしているのも、タケルは気付いていなかった。


「爺ちゃんありがとう。」

 村まで送ってくれた坂下の爺ちゃんにお礼を言って、タケルたちはトオルの元へと急いだ。


 

 


 


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