26.未来と旅立ちと誓い
ユリ様とリューエア様が、自分たちの暮らす屋敷に戻られてから。
私は、老王がこのためにと置いていった、リューエア様の試作品である『離れた土地でも、声と映像を送り合い話ができる道具』で、老王に連絡を取りました。
桃色の光に浮かび上がる小さな老王の姿から、声が聞こえます。
『なんじゃ。結局うまく説得できてないではないか』
「お言葉ですが、私は説得など頼まれておりません」
私は呆れてお答えします。
「ユリ様に、例の極秘事項を伝えるように言われただけではありませんか」
ついでに、リューエア様に言うかは判断を任せる、と言われただけです。
『言っておくが、あの二人を外した場合、色々面倒な上に適任者がおらん!』
新しい国を任せる者として、他に都合の良い人材がいないのでしょうか。
「私に言われましても困ります。知りません。会議メンバーでなんとかしてもらいたい。そもそも、心から嫌がっておいでです、ユリ様は」
『なぜだ。国だぞ。国を貰うのだぞ。王の座だぞ。これ以上の褒美があるか!』
「それについてですが、価値観が全く違うようです。そもそもユリ様たちは、生まれ持っての王族では無いのですよ。一般人がいきなり国を任されても困るのと同じことです」
『だからリューエアも一緒につけるのだ!』
「そんな事を私に言われても知りませんよ!」
『この役立たず!』
「なんですと! とにかく、ユリ様にはお伝えしましたからね! リューエア様にも! それに、せっかく仲の良いお二人ですのに、これが原因で、ユリ様が元の世界に帰ってしまわれたらどうするのです! 心が痛まないのですか、若い二人に問題を突き付けて!」
『やかましいわ! そもそも、極上の褒美だと思っての案だというのに、ゴチャゴチャ言いやがって!』
「とにかく、ユリ様が嫌がっておいでですからね、どうするかちゃんと代替案を考えておいてください! お願いしますよ!」
『チッ、このクソ爺が!』
「お互い様です」
お互い、最後は悪態をついて終わってしまいました。
おかしいですな。なぜこんなに品の無い会話になっていくのでしょうか。
会話終了後に、ちょっと落ち込んで反省してしまいました。
***
8日ほど経った頃です。
ユリ様とリューエア様から、私に会いたいと連絡がございました。
私はいつでもとお答えし、翌日、ユリ様とリューエア様が揃ってお越しくださいました。
王子とカエデ様も可能なら一緒に、との事でしたので、王子もカエデ様も呼んでおります。
「この前の、国云々について、考えた。だから、聞いてほしい」
とユリ様は仰いました。
リューエア様も普段通りのご様子で落ち着いておいでです。
ユリ様は、仰いました。
「数年後の事なんて分からない。でも、今のとこ、私はこっちにいる。それから先どうなるか知らない。未来なんて誰にもわかんないでしょ。それこそ、男女の事なんてもっとだ」
ズバリと凄い事を仰いましたが、ユリ様の言葉を聞くリューエア様が落ち着いているのを見るに、お二人でよく話し合われての言葉なのです。
「でもさ、未来の事が分からないからこそ、どうなっても良いようにしようと思った。今のところ、私たちはずっと一緒にいるつもりだしさ」
とユリ様。
『今のところ』などと、またドキっとするお言葉を使われますが、やはりリューエア様に動揺はございません。
「だから、エルファンド王子。ムソンっちゃん。お願いがあるの。良いかな」
「なんなりと」と私がお答えします。
「必ず、協力できる事はなんでもする」と王子。
「私と、リューに、帝王学を学ばせてください。王様になっても良いように」
えっ。
私は驚いて、ちょっと瞬きしてお二人を見つめてしまいました。
ユリ様とリューエア様は、ペコリ、と頭を下げてこられました。
なんと。
あれほど、抵抗を示しておられましたのに。
帝王学とは。
それは、王、統治者が学ぶべき学問です。
つまり、二人で国を治めていく事もできるように、手を打たれることにしたのです。
***
ユリ様とリューエア様がお帰りになってから。
やはり、お見送りしながら、驚きの気持ちを持ったままの私に気づかれたのでしょうか。
カエデ様が私にポツリと、
「リューがね、あの日、もう、もうものすごく、求婚なみにアプローチかけたんだって」
と教えてくださいました。
「求婚なみではなく、求婚だと聞いているが」
と、傍の王子が、やはりポツリとこぼされます。
「私にも相談してきたよ、リュー」とカエデ様。
「私にもだ」と王子。
「とにかく押しまくって良いんじゃないかって言っといた」とカエデ様。
「私は、もう求婚して結婚してしまうようにと言ってみた」と王子。
そうして、カエデ様と王子が、私を挟んで目を合わせて、うんうん、と頷き合っておられます。
ちなみに今日は私に会いに来られたので、私が王子とカエデ様の間、つまり中央に立ってユリ様とリューエア様をお見送りしたので、この立ち位置になっております。
「ユリナから聞いたんだけどさ、もうそれは情熱的で素敵な事いっぱい言って貰ったみたい。良いなぁ」
とカエデ様。
「お望みなら、毎日毎朝毎晩言って差し上げますよ、愛しい奥様」と王子。
「『愛しています。どうか私と共に歩んでください。私の妻になってください。あなたがいないなんて考えられない。生涯力を尽くして幸せにします。誓います』だって」
「『妻になって』と言っている時点で、それは求婚だと思うのだが」と冷静な王子。
「たくさん言われて、求婚かどうか分かんなくなったのかな?」とカエデ様。「あれから毎日たくさん言って貰ってるんだって」
「ちなみに私は、毎日花束を贈っているとも聞いた」と王子。「花言葉のカードもつけたと」
「それね、ユリナ、まだ、こっちの世界の言葉ちゃんと読めないからね。どうせ愛の言葉だと思って人に聞くのも恥ずかしいから引き出しにとってあるって言ってたよ」
「なるほど。ちなみに『あなたを想っています』というスタンダードなところから、『あなたを求めます、溺れるほどに』等々いろいろ選んだと言っていた」
「リューって頭いいのに、どうしてカードにしちゃったんだろう」
「どうせ、口でも言っているから問題ない」と王子。
そうでしたか。
つまり、あの日、ここでは涙を落とされるほどのご様子だったリューエア様ですが、ご帰宅後、猛烈にアプローチなさって、少なくとも今しばらく、ユリ様を引きとどめることに成功なさったのでしょう。
まぁそもそも、仲良くお過ごしの二人です。
猛烈なアプローチを受けて、ユリ様も、『未来は分からないけど、とにかくしばらくここにいよう』と落ち着かれたのでしょう。
そうです、まだ数年先の事なのですから。
しかし、それでいて、二人で国を治める可能性も、きちんと考えられたのですな。
ユリ様もまた、ずっとこの世界にいる事を考えておられるという事でしょう。
それはひとえに、リューエア様がおられるからです。元の世界では、リューエア様と暮らすのは難しいと仰っていましたから、リューエア様と過ごそうと思うと、こちらの世界を選ばれることになるのでしょう。
「カエデ、カエデも、毎日口説いて欲しいかい? お望みなら、そういたしますが」と王子がカエデ様に冗談めかして笑いかけておいでです。
「ふふ。それも良いな。エルフ、ずっと大好き! もうすっごく愛してる!」とカエデ様。
クッと王子が笑われます。「先に言われた」楽しそうに言われて、「では私は…」
「お二人とも、仲睦まじいのはよく存じ上げておりますが、私を間に挟んで愛の言葉を掛け合うのはお止めください」
私は苦笑と共に申し上げます。
私は、カエデ様と立ち位置を変わります。
王子と並ばれたカエデ様は、王子の腕を取って、嬉しそうに王子のお顔を見上げられました。
「ねぇねぇ。あのさぁ、思いついたんだけど」とカエデ様。
「うん? なんだい、カエデ」
「新婚旅行にいきたい!」
「・・・・ん?」
王子と、傍で聞いておりました私は、キョトンとしてしまいました。
新婚旅行…? なんでしょう、それは。
***
カエデ様がお話くださった内容。
王子と私は、フムフム、と聞きました。
国内視察ではないのですな。他国を旅行してみて回りたいと仰るのですな。
ふむふむ・・・。
「ついでだし、リューとユリナも一緒だともっと楽しいかも」
と、ほぼ思い付きを口にされるカエデ様。
「・・・」
ふと何かを思いつかれたご様子の王子。
「・・・・私も単に思いついたのだが・・・」
・・・警護面が大変な気がいたしますが、まぁ、それも良い案のような気がいたしました。
***
数か月後。
「しばらく留守にしますが、その間どうぞ宜しくお願いします」と王子。
「じゃあ、行ってきまーす! 皆、お土産、買ってくるからー!!」とカエデ様。
「おほほ。良いわねぇ、私たちも行きたいわねぇ」と皇后さま。
「引退したら色々めぐってみようか」と陛下。
「改めて、ご厚意に感謝いたします。それでは行ってまいります」と一礼されるリューエア様。
「行ってきまーす。楽しんできます!」とユリ様。
私たちは、王子とカエデ様、リューエア様とユリ様が新婚旅行に旅立たれるのをお見送りいたしました。
なお、リューエア様とユリ様は、結婚されたわけではないのですが。
王子とカエデ様は、他国との交友を深めるために。
リューエア様とユリ様は、数年後、国を治めることになるかもしれない。ですから、他の国々の治め方を見て学びに行く、というのを隠れた大きな目的として。
表立っては、せっかくなので様々な国を一緒に見て回りたい、という具合の理由になっております。
まぁ、仲の良い二組で行かれますから、存分に楽しんで来られるでしょう。
どうかお元気でお過ごしになり、必ずご無事でお戻りになりますように!
道中の安全を、爺は毎日、建国の女神さまに祈ることにいたしますぞ!
***
自分の部屋に戻り、ゆらゆらとロッキングチェアを揺らしながら、奥様の肖像画を目にします。
「王子たちが旅に行かれると、館が寂しく思えますなぁ」
と、語りかけてしまいます。
「あなたとも、新婚旅行に行ってみれば楽しかったでしょうかなぁ」
それにしても、数か月後、王子たちが戻ってこられるのがとても楽しみです。
少なくとも数か月は元気で無事に生きていよう、と心に決めます。
いつもよりもっと健康に気を遣う事にいたしましょう。
そして、そう、数年後。
カエデ様は、おそらく、数年の後に、建国の女神さまの王冠の授与式をお受けになります。
数年後まで、生きているのも、良いなぁ、と、爺は思います。
王家の男性は、王の位を継ぐために、正室に『建国の女神様』を迎えるしきたりです。
王冠の授与式では、『建国の女神様』の力の象徴とする王冠をカエデ様が授与し頭に頂かれることで、側室のカエデ様が『建国の女神様』とみなされ、正室に格上げされるのです。
なお、陛下が王の座を、その時点でエルファンド王子にお譲りになるかは、決まっておりません。
他国との状況や、王子の状況を踏まえて判断されます。
ただ、通常は、そこから数年以内に、王子に王の座が譲られる事でしょう。
なぜなら、カエデ様が『建国の女神様』と扱われるようになるからです。
偶然でしょうな。
もし、ユリ様とリューエア様が、ずっと一緒に過ごしていくことをお心を決められましたなら。
『戦場の女神様』の国も、数年後に誕生することになるでしょう。
『戦場の女神様』としてユリ様を頂点に、リューエア様も王となられます。
おそらく、二人は自然とご結婚されるでしょう。
カエデ様が『建国の女神様』。ユリ様が『戦場の女神様』。
違う世界から来たという二人の娘さんが、それぞれ女神さまと呼ばれて、国の頂点に立つ。
わが国に伝わる神話で、そもそも建国の女神様と戦場の女神様は仲良しです。
建国の女神様を、戦場の女神様はよくお働きになって助けたと言われています。
「まるで、神話の再現ですなぁ」
私は、肖像画の私の奥方様、ミリデテイア様に微笑みました。
数年後、どうなっているか、楽しみです。
〝ほら、あなたはまだ仕事中だと言ったじゃない。数年後もよくお勤めなさい”
そんな風に奥様が言われるような気がいたします。
私は愉快になって、少し声を出して笑ってしまいました。
私は、王子たちの出立のために寂しくなり、つい久しぶりに持ち込んでしまったお酒のグラスを、奥様の肖像画に向けて掲げました。
そして、誓ってみます。
「私、執事のムソンルージは、私たちの孫、王子とカエデ様たちを、見守り続けます。私の余命ある限り!」
〝私の分まで長生きしてちょうだい”
と、私の奥様が、楽しそうに言われたような気がいたしました。
END




