10. 約束
私はフローラ様をそっと見上げました。
窓からの光が、朝に整えた淡い髪の輪郭を縁取っています。
花の髪飾りがきらりと光っていました。
相変わらず、息を呑むほど美しい。
そして相変わらず、掴みどころのない表情をしておられる。
けれど私は、もう知っています――フローラ様も、私のことが好きなのです。
悩むのは、もうやめました。
私は、フローラ様に求められている。
それだけが、たったひとつの真実です。
私はフローラ様の頬に手のひらを添えました。
ふわりと温かな肌。
私の涙を優しく拭ってくれた指と、同じ温度です。
「フローラ様。私は一生涯をかけて、必ずあなたを幸せにします」
声は、もう震えていません。
それは、たった一人の私の愛する人への、揺るぎない誓いの言葉でした。
フローラ様は、ほんの少しだけ口元をほころばせました。
それは表情の変化の少ないフローラ様の、とても珍しい、花が開くような微笑みでした。
「ええ、よろしくね、リサ」
私はそっと背伸びをして、フローラ様の唇に、私の唇を重ねました。
触れた瞬間、柔らかい感触と甘い体温が伝わってきて、愛しさが胸からあふれてくるようでした。
すべての私の愛を注ぎ込むように、何度もその唇を啄みました。
触れ合っているのは唇だけなのに、フローラ様と繋がっているのを感じるような、夢のような心地に満たされます。
名残惜しみながらも唇を離すと、すぐそこに、いつも通りのフローラ様の透きとおった瞳がありました。
二人の吐息が、熱く混じり合っていきます。
「……リサ」
「はい、フローラ様」
聞き慣れたフローラ様の声が、目の前で静かに響きました。
「そろそろ紅茶を淹れてもらってもいいかしら」
「……あ」
――そういえば、そうでした。
蒸らし時間を測るために置いた砂時計の砂は、すっかり落ちきっています。
「ふふっ……はい、ただいま。ソファに座ってお待ちくださいませ」
求婚されても、フローラ様はいつも通り。
そのことになんだか胸がくすぐったく感じながらも、ほっとする私がいました。
ポットからカバーを外して、飲みごろに蒸れた紅茶をティーカップに注ぎます。
立ち上る湯気とともに、甘い香りが部屋いっぱいに広がっていきました。
明日も、私はこうやって紅茶を淹れます。
朝の挨拶をして、ドレスを整え、髪を梳きます。
メイドとしてお仕えする毎日は、何ひとつ変わりません。
その全ては、愛しいフローラ様のために行うのです。
そして、明日からはきっと――今日までとは少しだけ違う、甘い光を帯びた新しい日々が始まるのでしょう。
そんな期待を胸に、私は愛しいフローラ様のもとへと、紅茶をお届けするのでした。
お読みいただきありがとうございました!
Caitaの『主従アンソロジー』に寄稿するために書いたものです。
サクッと短編にする予定だったのですが、なんやかんや短編と中編の間ぐらいになっちゃいましたね……!
別に誰もダメって言ってないのに、一人で思い悩んじゃうメイドちゃん、可哀想かわいい……っ!
とはいえあんまり長々悩んでもストーリーが進まないので、塩梅が難しいですねぇ。
こちらはいつか書きたい長編の一章を短編アレンジしたものです。
いつか書きます。いつか……。
(目をそらしながら)




