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【百合】あなたの髪を梳くのは誰がため ―忠誠が独占欲に変わった朝、メイドは姫にキスをした―  作者: ぞ


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01. 手紙

 今朝もメイド作業室は、いつも通り穏やかです。


 高い位置にある小窓から差し込んでいるのは、まだ温まりきらない光。

 作業台の木目をほんのり浮かび上がらせています。

 石鹸と陽だまりの混ざった匂いがする洗いたてのリネンが、出番を待つように棚に並べられていました。


 この時間にメイド作業室に集まるのは、王族直属の専属メイドのみ。

 第一王女フローラ様に仕える私も、その一員です。

 皆それぞれの主(あるじ)の元へ向かうための準備を、粛々と進めています。


 一日のはじめに行うのは、フローラ様宛の書簡を確認すること。

 王族に届く公的なお手紙は、まず専属メイドが内容を検(あらた)めてから本人に届ける決まりになっています。


 今朝の束は、いつもより少し多いようでした。

 貴族からの挨拶、慈善院からの礼状、他国の女王の生誕祭への招待状。

 見慣れた封筒を順に仕分けていくうちに、指先がひときわ違う手触りのものに触れて止まります。


 まず目を引いたのは、並々ならぬ装丁(そうてい)でした。

 縁(ふち)に銀糸で細い蔦の模様が織り込まれ、綴じ目には深い藍色の蝋が落とされています。

 そもそも紙からして立派です。

 象牙色(ぞうげいろ)の厚い紙は、光を受けると真珠めいた艶を返していました。


 封蝋に押された印章は、隣国の王家のもの。

 差出人の名前にも覚えがありました。

 公式の記録で目にした事のある、フローラ様と歳の近い隣国の王族の方です。


(また、夜会のご案内でしょうか。それにしては立派な――)


 フローラ様は見目麗しく、王族として催しごとに招かれることは珍しくありません。

 しかしこれほど格式のある書簡は、今まで見たことがありませんでした。


 不思議に思いながらも、私はペーパーナイフを滑らせました。

 蝋が小さく割れて、ぱきりと乾いた音を立てます。


 便箋は、封筒よりさらに丁寧な仕立てでした。

 薄く漉(す)いた紙に、流れるように整った文字が並んでいます。


 そして、そこに書かれていたのは――。


「え……?」


 思わず漏れた声は、作業室の静かな空気に落ちて消えました。






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