1.プロローグ
息を吸い込むと胸が痛んだ。土と煙と血の匂いがする。手足の感覚はない。
(肋骨が、折れてるな)
朦朧とした意識でそんなことを考える。
おそらく肋骨どころではないはずなのだが、不思議と胸以外の痛みは感じなかった。
(まずいな。これは持たないかもしれない)
妙にあっさりとクリストファーは自身についてそう思った。
きっと今、自分の命は危ういのだ。
痛みが少ないのは死の間際の脳の作用なのだろう。こんな状況で悲嘆にくれないのも。
意識が沈んでいくのが分かる。
(……会いたいな)
暗くなる視界でクリストファーは、明るいブルネットの女を思い出した。
自分の訃報に彼女は悲しむだろうか。
悲しむ気がした。
(どうにか、ならないだろうか……)
彼女が悲しまないようにと祈りながらクリストファーは意識を手放した。
❋❋❋
クリストファーはうっすらと目を開く。
視界がやたらと眩しく、辺りは騒がしい。
体に力を入れようとしたが全くダメだった。
(なんだろう……夢か何かかな?)
自分はずいぶん長い間眠っていた気がする。
(誰かに会いたかったような)
頭の中をちらりとブルネットが掠めるが、何も思い出せない。
そしてとても眠い。
(もう少し、寝るか)
体は動かないが怖さはない。元々楽観的な質なのだ。
クリストファーは再び目を閉じた。




