ラプスアヴィアリー三層
私は三層へと足を踏み入れる。
恐らくだが、一層二層そして、この三層をして考えると
このダンジョンは塔ではあるが、山の環境を再現しているように見える。
風が鋭くなってきている所を見ると
きっと二層に増して気温も下がっているだろう。
バックパックに手を伸ばす。
取り出したのは、馴染みの銀の筒、ゼフィルダスト。
まだ効果は続いていたが何時切れるか分からない為
使用し効果時間を上書きした。
三層の空気は乾いていて、澄んでいる。
だが、それはつまり湿度も熱も、ほとんど存在しないという事で
肌の表面から水分が奪われる感覚に、私は無意識に唇を舐めた。
見上げれば、頭上は既に岩肌ではなく、薄い霧と淡い光に覆われている。
空が近い。塔の中であるはずなのに
まるで山の中腹をのぼっているかのような錯覚を覚える。
岩肌の表面は風に磨かれたように滑らかで、ひび割れひとつない。
結界が創り出しているとすれば見事というほかない。
仮初とはいえ、まさに高山環境。
三層では、再び塔の形をなぞるように
壁際を沿って続く螺旋階段が現れていた。
だがその様相は一層ともまた異なる。
石材はさらに乾き、表面は風によって研がれたように滑らかだ。
「景色は山。でも構造は塔。製作者の趣向か……。」
私は呟いた。
手すりのような構造はなく内側は吹き抜け
のように見えたが霧の向こうに影が見える。
螺旋階段を上り始めると、それが何か分かった。浮き岩だ。
上部は直径にして1.5m程の平坦。
まだ高さは2・3m万が一、岩とともに落下しても死にはしない。
私は意を決して浮き岩に飛び乗る。
乗った瞬間、少し沈み込む。落下するか?
落下に備え身構えるが、浮遊している感覚はあるものの
足場として機能している。
先にも浮き岩の足場が幾つか見える
霧に阻まれてはいるが目を凝らすと見える。
見慣れた金属の箱。そう宝箱だ!
やっとのお目見え、一層二層では
何故宝箱がないのか不思議だったけれど安堵した。
私は浮き岩をひとつ、またひとつと飛び渡る。
クロノコントロール、スタティック!
敵影は見えないが何が襲ってくるか分かったものではない
宝箱に集中している間に初見殺しでも行われたら
たまったものではない。
カリカリッピキン!久しぶりの鍵開けだが上手くいった。
箱を開け中のマジックアイテムを鑑定するとS級とSR級の宝だった
これは美味しいと言わざるを得ない。リリース!
私は時間停止を解き、浮き岩を跳び渡り宝箱を探す。
霧の向こう、浮き岩の影に何かが見えた……気がした、その時。
ヒュゥンッ!風が裂ける。
何かが、音速に近い速度で飛んできた。
ヒュオォッ!
何かが私の頬をかすめる。
ガギィィィィン!!!
塔の壁面が蜘蛛の巣状に割れへこむ!
「ヒエッ!」思わず声が出る。
私はとっさに身をかがめ、カタールを抜き戦闘態勢をとる。
今のは運がよかった。狙いが確実なら私は死んでいた。
再び霧の向こう、今度は細長い翼のシルエットがゆっくりと旋回するのが見えた。
鳥だ。その口元、何かを咥えている。石だ。
それは、浮き岩を躱しつつ、すれすれに滑空し
ドヒュッ!!
その運動エネルギーを活かして岩を投擲。
私はカタールを盾にしつつ更に回避をした。
浮き石の間を縫って行動している為
本来の威力よりは低いとみていい
それでも打ち抜かれればあの世行きは確定。
ダンジョン作った人は敵の配置を間違えたようだね。
鳥は再び滑空を始める。次の射撃がくる!
私は霧を裂いて跳んだ。
その影よりも先に、上方の浮き岩に跳躍する。
私の足は、ギリギリで別の岩を捉えると
元の足場は石の弾丸で砕け散る所だった。
これはヤバイ早く対策を見付けないと
気を抜いた瞬間に弾丸の餌食だ。
再び霧の向こうから、影が滑空しながら近づいてくる。
私は構えたまま深呼吸をする。
酸素が薄くなっている、短期戦で決着をつけるのがベター。
冷静に、敵の動きを読みながら、心拍数を落ち着ける。
その影が明確に見え、口元に咥えた石が光を反射した瞬間。
私はすぐに足元に力を蓄え、身を低く構える。
狙いは定まった。
鳥は、私の動きをまだ読みきれていない。
「先手必勝っ!!」
瞬間、私は力強く足を踏み込み足場を蹴る!
私は足場を反射するがごとく、次々と多数の浮き岩を蹴り飛ばし
瞬時に間合いを詰める!
鳥は羽ばたき滑空をやめる。
私の動きが予測できていない証拠だ。
ザグゥッ!
鳥の胸にカタールが突き刺さる。
「グァー!」絶命の断末魔。
鳥と共にカタールの血糊を振り払う。
ドサッ!と死骸が地面に落ちる音がする。
霧のお陰で下が見えずに済む。
もし下が見えていたら。足が竦んで動きが鈍る。
「ふぅ……。」
私は一息つき再び宝箱を求めて
浮き岩を跳び移っていった。
再び霧の中から影が滑空してくる。
私は軽く足を踏み込むと、すぐに岩を跳び
またひとつ目の石弾を回避する。
そのままカタールを構え、次の敵に迫る。
ザグゥッ!
再び胸にカタールを突き刺さし、敵はそのまま地面へと落ちる。
少し息を整え、再度岩を跳び越える。
宝箱が見えると時間を止め開錠
鑑定後アイテムをバックパックに詰め
再び岩を跳び移る。
それらを繰り返し次々に飛び岩を渡りながら
霧の中、ようやく見えてきた三層天井。
跳び岩を伝い螺旋階段へと戻る。
ピンク色の魔力壁を抜け四層へと足を踏み入れた。




