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塔型ダンジョン、ラプスアヴィアリー

「……様!……ト様!……ート様!トート様!寝てるのかな?」

『幾度も呼ばせ、手間をかけさせたな。済まぬ。』

トート様も謝る事があるんだ。

「こちらこそ起こしてしまったようで、すみません。

その……トート様って隙あらば寝ている感じですが

何か理由があるのですか?」

『……理由はあるが、お主の及ばぬこと故、気にするでない。』

「という事は理由があるんですね?お手伝い出来るかできないか

聞いてみないとわかりませんよ!教えてください!」

『うむ……本来は語るべき事ではなかったが

どうしても気になると言うのならば致し方あるまい

因果と概念の広義の意味合いは承知しておるか?』

「はい……多分。」

『お主との精神リンクは因果であり概念である。

つまりは、この世界のルールの一部という事。

それを押さえつけるということはどういう事か?

分かり易く説明してやろう。

この世界は須らく高きから低きに移行する法則がある。

これを無効化させるにはどうすれば良かろうな?』

「そんなのできませんよ。無理です。」

『良い答えである。儂はそれをやっておる。

お主との精神リンクを切るというのは

それ同じことである。』

「……。」

『従ってこれは、とてつもないエネルギーを浪費しておる。

補充するためには、こまめにアストラル界へ戻らねばならぬ。』

「そんなにトート様に負荷をかけているなんて知らなかった……

言ってもらえたら……リンクしっぱなしでもよかったのに!」

『儂に嘘は通じぬ。お主が私事を覗かれるのを

極端に嫌うことなど、百も承知。

気遣いは無用である。これもまた儂の務め。』

「……。」

『だが、お主の気遣い受け取る事にしよう。

お主に同行するのは一日ごと。丸一日眠れば儂の力も回復しよう。』

「……分かりました。それでお願いします。

それはそうと暢気にそんな願いをして……その……

どんな負荷をかけていたか知らず……

恥ずかしいですし、すみません……。」

『むぅ。気にするでないと言ったであろう。

これを知ればお主が、そういう思いに至るを想像する事、容易い。

儂は神であるが故多少の無理が利く。

重ねて言うが気にするでない。』

「分かりました……それでは今日はお休みください。」

『うむ……では今日は、少しばかりお主に甘えるとしようかのう。』

そう思念が来ると

トート様は目を閉じ嘴を折りたたんだ羽根の下に入れ

丸まって眠った。

燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや。とはよく言ったものだ。

私は自分の小ささを自嘲した。

私は冒険者ギルドへと向かった。

受付の仕事は受付だけではない。

冒険者が希望する様々なダンジョン情報等の提供も行われている。

私は良質な宝箱の出るアサシン向けのダンジョンを聞いたところ。

ラプスアヴィアリーという塔状のダンジョンを教えてもらった。

下部入り口から入り上へ上へと踏破してゆく形のダンジョンだそうだ。

4階層構造となっており上に行くほど難易度が高くなっているらしい。

運が良ければSSRのマジックアイテムを持ち帰った冒険者もいるらしいとの事。

場所を聞き私は早速、街の外へ出て人気のないところまで行く。

バックパックの中から飛空石を取り出し手のひらに収め

静かに念じると足元の空気が揺れ、身体がフワリと持ち上がる。

重力から解き放たれグンと上昇する。

「さて、空の旅と行きますか。」

速度は徐々に増して行く。風を切る音が耳元で加速する。

森の上を一直線に進む。

街道は視界の端に細く見えるが、私はそれをなぞらない。

獣道も、川の流れも、岩山の斜面も、頭上を飛んでゆく。

日差しを浴びて草原が金色に染まってゆく。

その光景は、この石を使って起こしたイメージを上書きしてくれる。

やがて、遥か前方の地平線に、それは見えてきた。

ラプスアヴィアリー。

大地から突き出すようにして立つ、巨大な円柱。

岩肌に、うっすらとピンク色ではあるが

強い魔力が塔を包み込んでいる。

これは結界の類の様な気がする……。

私は速度を緩めながら、塔の下部

入口を目指して高度を下げていった。

私はそっと地に足を付ける。

ありがとう。もういいよ。私が念じると

飛空石の光が弱まり、掌の中で沈黙した。

入り口から一歩、足を踏み入れると空気が変わる。

湿度でも温度でもない、質そのものが違う。

これは魔素の流れの変異だ。

外から視認できたピンクの正体は結界で間違いないだろう。

内部空間全体に作用していると考えてよさそうだ。

周囲の魔力は捻じれ通常の空間ではない事が窺い知れる。

見上げると、想像以上の高さに、淡い光を放つ天井が見える。

一層の天井で間違いないだろう。

一層内部は完全な吹き抜け、床は今、私が立っているこのフロア。

そこから螺旋を描くように、塔の外周の内壁に沿って細い階段がぐるりと張り付いている。

有体に言えば塔の内側に、巨大な渦巻きを描く道がある。

浮遊石で吹き抜けを昇ればズルが出来るかもしれない。

しかし念じても、何も起きない。反応する気配すらない。

「一応AF級アイテムなんだけどね……。」

この結界の中では、ただの石ころのようだ。

内部結界は飛行ジャマーのような効果で

効果をかき消されているのか。ご丁寧なダンジョンだ。

数メートル跳躍してみた。魔素に寄らない体術での跳躍は可能なようだ。

上へと続く螺旋階段の手前には、ひび割れた石像がひとつ。

半分崩れた鷲の姿をしていた。何かのメッセージ?

バックパックの留め具を軽く締め直し

階段の第一歩を踏み出した。

螺旋階段の踏み面は狭く、両脇に手すりの類はない。

下を覗けば、足元の床が小さく見える。

気を抜けば転落死。前世なら玉ヒュンしている所だ。

石の質は悪くない。しっかりとしている。これも結界のなせる業か。

私は上へと歩を進めていく。やがて、何かの気配を感じた。

羽音。

バサリ、と湿った布を叩くような羽ばたきが、階段の上方から聞こえた。

勿論視認も出来ている。細長い嘴に、発達した脚と鉤爪。

全身が黒紫の羽根に覆われた、大きな鳥型魔物。

うーん……トート様がいれば詳細を聞けそうな所だが……。

敵の生態がわからない限り慎重に事を運ぶ必要がある。

ヒュンッ!まるで風と一体化したように、滑空してくる。

私は即座にしゃがみ、壁面に背を預ける。

石段の端に体を滑り込ませた。敵の挙動を観察する。

滑空中、翼の動きは最小限。

滞空時間を引き延ばすためか、むしろ滑るように落ちてくる。

つまり突撃刺突型とみていいだろう。

私は呼吸を殺す。

飛空石が使えない以上、落ちれば終わり。

こちらから無理に跳ぶのは愚策だ。

再び敵は滑空してくる直線で攻めてくる敵

しかも速度が速くとも一定となれば

先読みすれば簡単に屠れるというもの。

私はカタールを鞘から抜く。

再び敵は滑空してくる、私は壁に背を預けるよう

身をひねり避けつつ、正確なタイミングで

敵の首のサイド部分を突き刺すと

そのまま敵の勢いで体が裂ける。

「グエエエェエェェェエ!!」と断末魔を発し階下へと墜落していった。

グシャッと鈍い音がする。私は縮こまる。

私がヘマをすれば、ああなるのは私だ。

数回会敵するがパターンは同じなので

私は落ちない事だけに気を配った。

やがて天井までくると頭上に、淡い桃色の光が見て取れる。

二層への境界だろう。

階段の終端に浮かぶそれは、見た目に反して物理的な抵抗もなく、

私の指先がすっと通った。触れた瞬間、皮膚の上にはっきりとした魔力を感じる。

構わずそのまま、私は足を進めた。

様相が変わる。

空気は乾燥し、ひんやりとした空気が肌を撫でる。

私はバックパックに手を伸ばす。

取り出したのは、小振りな銀の筒。

蓋を静かに開け、頭上で逆さまにする。

サラサラと音もなく零れ落ちる粒子が、私の髪に触れた瞬間

淡い蒼銀の輝きがフワリと立ちのぼる。

足元を中心に風が、起こる。

微細な粒子が渦を描いて旋回し

その軌跡が周囲の冷気を押しのけていく。

ゼフィルダストは便利、以前買いだめしておいてよかった。

辺りは少し明るくなった。

地面や壁に植物の影はない。

苔も草もなく、岩肌は乾いたまま無骨に露出している。

一歩ごとに、靴底が石を擦る。

階段にも変化があった。

一層の螺旋階段とは異なり、ここは斜面を緩やかに登る

螺旋状の坂道のような構造になっている。

私は登り始める。

坂道を登って行くのは階段を上るのに比べて精神的にきつい。

というか多分肉体的にもきつい。

視界は開けている。先が見えるというのはありがたいようでいて

それは同時に、どこにも隠れる場所がない事を意味している。

それは上方から聞こえてくる。石を蹴る軽快で、鋭い音。

視認できる限り岩を蹴って加速しているように見える

四肢を使い斜面を滑るように駆けてくる。速度が上がる。

翼はたたまれ、足と爪だけで岩面に張り付きながら。

尚加速する。

風を裂く音が迫る。私はザッ!と壁際へと体を押し付ける。

直後

ドヒュッ!!

目の前を黒い塊が疾風のように通過した。

石埃を残しながら、そのまま坂を下っていく。

岩に足を取られることもなく、極めて安定した滑走。

それは、そのままぐるりと壁面を回り込むよう滑走した後

二層の床面へと辿り着いた。

振り返り姿をマジマジと見ると

見てくれは、あちらの世界のダチョウのようだ。

ただし違うのは嘴は鋭利に尖り、刺されてもお終いだが

体格的に激突されてもお終いだろう。

そんな事を考えていると

「……キィエエエェェェ!!!!」

と背後から鳴き声らしきものが聞こえる。

慌てて上方を見ると別の個体が上方から滑走してくる。

それは同じように岩を蹴りながら

まるで壊れたトロッコのように制動なく突っ込んでくる。

ヒュッ!

私は衝突の直前、宙を舞い着地してやり過ごす。

下にいる一匹は、ようやく体勢を

立て直そうとしていたところへ……

「あっ……!ぶつかる……!」

ドゴォッ!!!ギェェェェェェッ!!!

悲鳴とも衝撃ともつかない音が私に到達する。

滑り降りてきた二匹目が、そのまま一匹目を巻き込むように激突。

下にいた個体は横腹から弾き飛ばされ、悲鳴とともに宙を舞い

塔の壁面に叩きつけられて、動かなくなった。

「……同士討ちしてんじゃん……。何やってんの……。」

私は敵ながら一匹目の個体に同情する。

滑走特化、速度特化。それ故に方向転換や停止はきかない。

その二体目はノロノロと方向転換をし、斜面を

ジリ……ジリ……と這い上がってくる。

下りはウサギ上りは亀といった所だろうか。

あのスピードでは私に追いつくことは、ままならないだろう。

それよりも、また次の個体が来た時

哀れな同士討ちが起こるのではないか

私は、そちらの方を心配していた。

私は岩壁に背をつけ、息を整える。

そして、再び坂を上り始める。暫くすると。

「キエエェェェェェ!!!」

また来たようだ。

視線を向ければ、次の個体が絶賛滑走中!

ザッ!と身を沈め、その軌道をやり過ごす。

ドヒュッ!!

風と石埃が私の頬を掠める!

同時に私のセミロングの髪がフワッと突風になびく。

振り返るまでもない。私は耳を下方に欹てる。

そして耳に届いたのは……

ドガァッ!!!ギェェェェェェッ!!!

哀れな……。

私は再び歩き始める。

あとは繰り返しだ。

滑走、回避、衝突、悲鳴。

まるで台本通りのように同じ様相が繰り返される。

時折、斜面に跳ねた石が飛んでくる。

それを手で払い、岩壁に身体を寄せながら前へ、前へと進む。

何度目かのすれ違いを経た後……

視界の先、螺旋の曲線が終わるその奥に、

桃色の光が浮かんでいた。

二層の天井三層の入り口だ。

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