チビ?
とあるマンションでプラゴミを回収して敷地から出ようとした時、トラックの前をのんびりと鳩が歩いていた。
近付いたら逃げるかなと思っていたら、逃げるどころか立ち止まって首をかしげて、純真無垢な真ん丸の目でこっちを見ている。
思わず笑ってしまい、トラックを降りて、『引かれちゃうぞ~。』とか言いながら近付いても全く逃げないので、両手でやんわりと掴んで、トラックの後ろの方まで持って行って隅の方に離した。
『ク?』
と首をかしげていたが、歩いて来ないのを確認してトラックを発車させる。
すると、バタバタと飛んできたと思ったら、運転席の屋根の上に止まって、鳴きながらチョコチョコと歩き回っていた。
助手席の人も笑ってしまっている。
信号で止まったときに屋根の上から首を下げてこちらを見ているその鳩に、
『お前、まさかチビじゃないよな?』
と、笑いながら言ってしまった。
チビというのは、高校時代に飼っていた鳩の事で、とても良く慣れていたのだ。
外に置いてあった小屋から出してやると、遊びに飛んではいくのだが、気が付くとどこかの空いた窓から家の中に入ってきて、『クークー』鳴いている。
とにかく家の中で人間と一緒に過ごすのが好きな鳩だった。
自分の事を人間だと思ってるんじゃないかと思うくらい慣れていて、俺がラーメンを作って食べていると飛んできて、どんぶりの中に『ジャボッ』と顔を突っ込んで食べようとするが、熱かったのか『ピーピー』鳴きながらタンスの上に行き、文句を言っていた。(実際はクークー鳴きながら歩き回ってるだけだが、文句を言ってるように思えた。)
テレビゲーム等をやっていると、コントローラーにまとわりついて邪魔をするし、手乗り鳩と化したチビは、とってもかまってちゃんだった。
そんなチビが、何十年もも生きている訳がないのだが、本気で疑ってしまうくらいその時の鳩はまとわりついてきた。
走行中のトラックの屋根の上を歩き回っていたり、飛んでいったと思ったら、しばらくしたら戻ってきて、また屋根の上で歩き回ったりを繰り返していた。
やがて、戻ってこなくなったときは寂しく感じたものだ。
あの時の鳩はなんだったんだろう?と、今でも思う。
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