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元国王さまと元宰相さまの諸国を漫遊しにいくはなし  作者: 流花@ルカ
第二章 聖女選抜の儀編

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セオドアとアドルファスのはなし

時間軸としては、本編完結前後になります。


「ほーら、セオドアぼっちゃまよう……さっさと起きろや!」


バシャリと瓶から撒かれたポーションが、セオドアをびしょ濡れにしていく、しみ込んだポーションが効果を発揮してセオドアは目を覚ます。


「くっ……私がなぜこんなことを……」


「はぁー?さんざん人の国に迷惑かかけておいて、よーくそんなこと言えたもんだぜこの甘やかされボンボンが! つべこべいってねぇでさっさと走れや」


ガンガンとソリの縁を蹴飛ばしながら、ふんぞり返ったアドルファスが怒鳴る。

しぶしぶと気絶から起き上がり動き出すセオドアは、なぜこうなったのかを振り返っていた。


 原因は自体は分かり切っている、敬愛するエドワードを自国に引き込むためにフィルドへ色々と仕掛けた事がバレたからだ。

だが、各国の上層部の話し合いで落しどころが決まったはずなのに納得しなかったのはこのアドルファス。


「賢老会も甘やかしが過ぎるんじゃねぇのか?テメェもだぜ、エド!子供だ次期だと手ぇ抜いてんじゃねぇ」


と言い出し、とうとう聖下へと直訴したのだ。

迷惑をこうむった当事者でもある前フィルド王からの直訴ではさすがに聖下も無下にはできず、こうして『精神を鍛えなおす』とかいう名目で、|なんだか分からないバネの寄せ集《紳士淑女養成ギプス》めみたいなものを体に付けられた上でソリを引き走らされているのだ。


 当然そんな決定に従う気はなかったセオドアだったが『この鍛錬中にかぎり』という契約でセオドアには、『アドルファスに対する服従の首輪』をつけられていたので、逆らいたくても体が言う事を聞かないのだ。


 これでキャサリン嬢の時のようにエドワードが同乗していたら、セオドアはそんなものがなくても喜んで駆けずり回ったであろうが、それでは反省させる事にはならない為今回は回復魔法ではなく、ポーションをブチ撒けられていたのだ。


「そもそもよ……こんな回りくどいマネしなくたってエドの勧誘くらいいくらでも出来ただろうがよ」


「そんなの週に一度はしてましたよ!さすがに毎日では迷惑になるでしょうからしませんでしたが、毎週エドワードに手紙を書くのが私の趣味でもあるんですからやらないはずがないでしょう!」


「……それ、毎回返事きてたのか……?」


「当然です!季節の移り変わりやちょっとした身の回りの変化など、細かくお返事がもらえた事でどれだけ私の癒やしになったか……」


ポーションで回復したおかげか、ソリを引きながらも嬉々として語るセオドアをアドルファスが引き気味に眺めている。


「そもそも貴方こそエドワード様に甘えすぎなのではありませんか!」


「はぁ!?なにいってんだこの甘やかされボンボンが!」


「聞けばいい歳をして身の回りの世話や、食事までエドワードに作らせているそうではありませんか!そんな貴方に私をどうこう言う資格があるんですか!」


話の趣旨が微妙に変わってはいるが、痛い所をつかれるアドルファス。


「お、俺はいいんだよ!」


「何がいいんです?エドワードが師から貴方の世話を頼まれて『仕方なく』一緒に行動しているのでしょう?」


「なにをアホなことを……アイツはな、たとえババアに頼まれたって自分の嫌な事はしねぇ頑固もんなんだよ」


アドルファスは何故か得意げにセオドアに言う。


「エドワードがそんな偏屈な性格をしてる訳がないじゃないですか、嘘はやめてください」


少しイラっとしたセオドアの様子に、アドルファスは馬鹿にしたように


「はっはぁ!これは傑作だ!お坊ちゃまはエドの外面にコロっと騙されていらっしゃる訳だ!」


と挑発する。


「あいつはな……子供や、か弱い存在に対してはどこまでも甘い性格だが、その他の有象無象はマジで容赦なく切り捨てるヤツだぞ。考えても見ろや、唯の甘ちゃんに一国の宰相が務まると思うか?」


「……それは……」


「まさか、アイツが『自分だけはいつまでも甘やかしてくれる』とか夢見てぇな事考えてるわけじゃねぇよな?」


「……エドワードは甘い存在だと思ってるわけじゃありません、ダメな時はちゃんとそう言ってくれる。そんな人だから私は……」


「はぁ……そんなのエドだけじゃねぇだろうが」


「え……?」


「テメェも大概視野が狭いよなぁ。まぁ周りが甘やかす坊ちゃんだからってぇのもあるんだろうが、今の側近や教師は間違っても何も言ってこねぇのか?」


「それは……」


今回の件で実は、教師達からめちゃくちゃ怒られた。


 セオドアがしでかした事は一歩間違ったら、自身に危害が及ぶ可能性だってあったのだと、そして相手が賢老会だったからまだ良かったが先に他国に尻尾を掴まれていたら、ウォルセアの存続も危ぶまれていてもおかしくはなかった事、最後に無事で良かったと泣かれた。


 それらを頭ごなしに怒鳴るわけではなく、一つ一つ噛んで含めるかのようにちくちくと受けた説教はかなり堪えた。


そして側近……乳兄弟でもあり護衛騎士でもある彼には、鉄拳を喰らった。

本気ではなかったが、余りの痛みに思わず『自分は主人だぞ』と言えば『それなら主人らしい行動をしろ』ともう一発くらった、理不尽である。


確かに彼らは『次期』としてではなく『セオドア』個人として怒ってくれたし、心配もしてくれていた。


確かにあの時は、みんなにバレた事が恥ずかしくて冷静にものを見れてなかったようだ。


「確かに私の視野は狭かったようです……これからはもっと違うやり方でエドワードを勧誘することにします」


「そこは諦めねぇんだな……」


「当たり前ではないですか!なぜ私が諦めねばいけないのです?そんなことより、一日も早く貴方が独り立ちしてエドワードに迷惑を掛けない生活を送るべきではないのですか!」


「うるせぇ!俺は一人で何でもやれんだよ!やる前にエドが全部やっちまうんだから別にやらなくていいかなって思ってるだけだ!」


「……最低な男ですね。エドワードが気の毒で仕方ありませんよ」


やれやれといった雰囲気でソリを引くセオドアの様子を、影(の中)からそっと見ていたエドワードは、今日はアドルファスの食事は作らないでおこうと決めたのであった。

書いてるうちに、どっちに対するお仕置き回なのかよく分からない事になってしまいました(笑)

閑話の投稿は一旦ここまでです、また構想が沸きましたらここか、2の方へ投稿させていただきます。


※感想にお答えするような形ですが、おかげさまで作者もなんか思ってたセオドア君に対するモヤモヤが晴れました。


お読みいただきありがとうございます。


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