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体育祭。体育祭? 2


 綺麗に統制のとれた動きに、迫力のある掛け声。


 ふむふむ。白組、なかなかやりよる。


 白組の応援団のパフォーマンスをグラウンドの隅で私は見ていた。


 白組は『学ラン』と俗称される、男子学生制服をアレンジした衣装と、額に白いハチマキをして、三三七拍子と呼ばれるリズムで応援していた。


 人数が私たちよりも多い所為か、どうしても私たちにない迫力を感じさせる。


 ――大丈夫。人数なんかに負けないくらい、あっと驚くものを詰め込んで準備してきたんだ。


「さあ、もうすぐ私たちの出番だ」


 団長が私たちに声をかける。


 まだパフォーマンスが行われている為、大きな声は出せない。

 返事の代わりに、私たちは力強い瞳で深く頷いた。





 どんっどんっどんっ、と内臓が揺れるような和太鼓の音が、一定のリズムを保って鳴らされる。


 そんな中、長さ3メートルはあるであろう大きくひらひらした赤い布の端を片手で持ち上げ、グラウンドの周りを等間隔にあけた場所から走り出す5人の団員。彼らが纏うのは、どこかの民族のような異国を思わせるデザインの衣装。もちろん色は紅組にちなんで朱色。新体操と呼ばれる競技でよく使われるリボンを大きくしたような布が、走ることにより優雅にひらひらとグラウンド上に線を描くように舞っている。


 グラウンドを一周した5人は、グラウンドの中心にポツリと置かれてある小さな踏み台へと優雅に舞いながら移動する。小さな踏み台の周りに近づくと、持っていた布で、その台を無駄のない動きで覆ってから一気に(ほど)いた。


 その僅かな一瞬で突然踏み台の上に現れる、両手に赤い輪を持った私。


 私も布を持っている団員と同じく、朱色の衣装を着ているが、少し違う。私のものには鳥を思わせるデザインが足されているのだ。つまり、翼が背中についております。


 ざわざわと会場が反応する。


 観客の掴みはまあまあといったところかな。


 頭の隅でそう思いながら、次のマジックを始めるべく、赤い輪を持ったまま、両腕を大げさなまでに開いた。


 そのタイミングに合わせて、グラウンドの隅に仕込んでおいた別の赤い布が空中にふわふわと浮かんでいく。


 浮かんだ赤い布は三つ。だが、先ほど走っていた5人が持っていたものよりも長い。それらは一定の高さまで浮かび上がると、3頭の龍――この世界のドラゴン――のごとく空中を舞い始める。


 舞っていた龍が私の近くへと飛んできて、私が持っている赤い輪の中を通り抜けていく。この赤い輪、かっこよくそういっているが、ただの赤いフラフープだ。紐でつりさげてなんかいませんよーということを演出するべく、登場した時から持っていた。


「おおお!」

「すごいすごい!」

「どうなってんだー?!」


 太鼓の音に合わせてテンポよく、龍たちが赤い輪を通り抜けるたびに、会場から拍手が舞い起こる。


 さて、そろそろかな。


 十分にここは披露できたと判断して、龍たちを私の周りに呼び寄せる。ぐるぐると私の周りを回り出して、布に完全に包まれた隙に、姿を隠した。


 ばさりと布が落ちて、出てきたのは大きな朱雀と呼ばれる神話の生き物、を模した作り物。


 物理的に、こんな大きなもの、どこに隠していたんだー、と観客はびっくりしているだろう。だが、タネは教えない。それがマジックのロマンだからだ!


 姿を消しているこの間、私は観客を見ることができないので予想しながら、耳をすまして出番を待つ。


 グラウンドでは、出てきた2メートルほどの高さをした作り物の朱雀がゆっくりと浮上していき、ピタリと止まると、グラウンドに準備したスピーカーから石川先輩の力強い声が流れてきた。


「日没には、我々の勝敗が決まるだろう。勝利か、敗北か。二つの未来をかけて、ここまで戦ってきた諸君らに聞こう。お前たちは勝ちたいか!」


「「「おおおおお!!!」」」


 彼の呼びかけに答えるように、紅組サイドの会場から雄叫びが聞こえる。

 それに合わせて太鼓も大きくなった。


「紅組、勝ちたいかー!」


「「「おおおおお!!!」」」


「立ち上がれ! 同胞よ! 勝利は、その誰一人欠けては成し遂げられん! その赤い血を(たぎ)らせ、白組に見せつけてやるのだ、お前たちの熱い炎を!」


「「「おおおおお!!!」」」


 雄叫びと太鼓が共鳴をなす中、朱雀の作り物が一瞬で炎に包まれ燃える。

 そして中から私が出てきて、くるりと一回転してから、綺麗にグラウンドに着地した。そうである。先ほどから私は朱雀の作り物の中に隠れていたのだ。


 着地してすぐに、仁王立ちになり、両手を後ろに回して、声を張り上げる。


「紅組の! 勝利を願って!」


 ちらりと太鼓の前に立つ副団長を見ると、カッカと太鼓の縁を叩いた。これは、前もって決めていた合図の一つである。この音が示す意味を理解して、興奮で知らず知らずに口角が上がった。


 ブオーンという飛行機の音が近づいてくる。

 だんだんと、気づくだろう。日常で聞くその音よりも大きいと。


 それもそのはず、その飛行機は、低空飛行でこのグラウンド上空を横切るのだから。


「見ろよ!」

「すげー! マジか!」

「まあ! 素敵ですわ!」

「スケールでけーなおい!」


 観客全員が上空を見上げる。視線の先にあるのは、飛行機ではなく、飛行機が引っ張る大きな白い布で、その布には『紅組、絶対優勝』とこれまた大きく書かれていた。


 これが、私が練習の時に閃いたこと。一か八か、団長が聞いてみたところ、快い返事が帰ってきた。問題はこの地域の都知事だったかな。その人からの許可をもぎ取るまでが大変だったが、頑張ってよかったと思っている。そして、副団長が出した合図というのは、問題なく飛行機がグラウンドの上空を飛べるかどうか、その報告をYESなら太鼓の縁で、NOなら普通に鳴らすことになっていた。


 飛行機が上空を飛び去り、観客の興奮が最高潮に達した今、締めにかかる時だ。


 観客が上空に気を取られている間、私たちはフォーメーションを変えていた。

 先頭を団長、副団長、石川先輩の順番で私たちが逆三角形の形に続く。


 手を後ろに回し、足を大幅に広げた姿勢で、団長が声を張り上げた。


「紅組、絶対優勝!」


「「紅組、絶対優勝!」」


 それに続いて、私たちが反復する。


 どどどどどん、と太鼓がけたたましく鳴り、合わせるように観客が一斉に沸いた。

 歓声という歓声がグラウンドを包み込み、拍手もそこらかしこから聞こえる。





 …っくううぅぅー! この感じ、癖になる!





 一人でマジック成功した時と似た感覚に襲われる。

 でもどこか違う。


 何が違うんだろう。


 そう思って、気づく。


 違うのは、分かち合う相手がいるか、いないかだ。



 気づいた通りに、この感情を団員と分かち合うべく、私たちはグラウンドを退場した。もちろんマジック道具は全て回収して。





「大成功だ! みな、今までよく頑張った! 君たちの団長であれたことを誇りに思うよ」


 未だ観客が興奮から冷めやまない中、グラウンドから退場した私たちに団長が第一声を発した。


「みなさん、今までよく頑張ってきましたね。最初はどうなるかと…」


 副団長が感極まってか、目がウルウルしている。


「皆が皆の役割を全うしたからこそできた。ここまでついてきてくれて感謝する」


 日本の侍のような髪型が、一層雰囲気を醸し出す石川先輩が私たち一人一人に向かっていう。


「これまで私たちを引っ張ってくれて、ありがとうございました」

「僕、入ってよかったです。こんな青春っ!って感じの経験、憧れてたんで」

「私も、最初は不安だったけど、最後まで残って本当によかったです」


 3人のミニスピーチをキッカケに、私たち団員も思いおもいに伝えあった。


 うむうむ、と笑顔で眺めていると、団長ら3人が私に視線を集める。その流れで、他の全員も私に注目し出した。


「マジックの協力、本当に助かった。荒木のアイディアや提案がなかったら、ここまですごいパフォーマンスはできなかっただろう」


「私からもお礼をいいますわ。団員が少ないからと諦めないで成し遂げられたのも、荒木さんがいたお陰です」


「困難はあったが、オレの作品にお前のマジックが加わって、最高傑作を作り出すことができた。感謝する」


 おっと、みんな、そんなに褒めまくっちゃって、私が調子に乗っても知らないぞ? いいんだな? いいなら思う存分褒められよう!


「こちらこそ! とっても楽しかったです! ありがとうございます!」


 目は細め、首を傾けて、ニッと口角は全開まで上がる。

 全身全霊で喜びを表現した。んだが、


 周りが固まってしまった。顔も少し赤い、のはパフォーマンスで興奮している所為か。


「えっと、みなさん?」


「…あら、申し訳ありませんわ。思わず」

「破壊力がすごいな。気軽にしてはダメだぞ」

「これは林道くんが強引に練習を見学にくるのも納得がいく」


 怪訝な表情をする私は、普通の反応だと思う。


「こっちの話だ。気にするな」


 ぽんぽんと、石川先輩が私の頭に手を軽く置いて、小道具の片付けへと向かった。


 なんか、前回マジックをやり終えて、片付けを手伝いにきてくれた生徒も、さっきみたいに固まったっけ…というのをこの時は思い出す暇もなく。


 体育祭の大本命である水合戦がまだ控えてる今、興奮の余韻を残しつつ、他の団員と一緒に着替えをしに更衣室へと向かった。






「荒木道奈さん! マジック、すっごくよかったよ!」

「めっちゃすごかった!」

「私、感動してしまいましたわ!」

「鳥肌もんだった!」


 自分の席に戻ろうと、生徒用の観客席エリアを(くぐ)っていると、私を目にした生徒たちが声をかけてきた。


「ありがとうございます! 残りの種目も頑張りましょうね!」


 と、返したのはいいものの、次から次へと生徒が集まってきてキリがない。


 ど、どうしよう。席に戻れないっ。


「ほらそこ、ちゃんと自分の席に戻りなさい」


 生徒に囲まれて困っていると、女性教師が注意してきた。

 生徒の輪が崩れていき、女性教師の顔がやっと見える。


「あら、あなたは」


「武田先生、お久しぶりです」


 その女性教師は、私が初めて涼と涼の部活の友達に体育館裏でマジックを披露した時に付き添っていたバスケ部の顧問である。


「マジック、すごかったわぁ。まさかあの時のあなたが、ここまで有名になるなんてねぇ」


 あれは学校が始まってすぐの話だ。時間をしみじみと感じているらしい。


「席まで送ってあげるわ。また他の生徒に囲まれて騒ぎになられたら、教師としては見逃せないもの」


 ウィンク付きで申し出てくれた。

 お言葉に甘えることにして、一緒に私の席まで送ってくれた。


 自分の席についても、同様にクラスメイトに囲まれたのは言わずもがな。真子が少し引き気味で褒めてきたのはよくわからなかったけど、その後もいろんな人から声をかけてきて、そのあとの種目はあまり集中して応援できなかった。


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