体育祭。体育祭? 1
「走れえええ!」
「きゃああああ!!」
「いやだあああ!!」
「やべっ俺の靴が片方――うわあああ!!」
「ん? この靴は誰の――ぎゃあああ!!」
「そっち行ったぞおおお!」
「逃げろおおおお!」
数十人の生徒たちが一斉に織りなす悲鳴と絶叫のハーモニー。
そんな生徒たちを追うのはたくさんの大きな玉。
砂ぼこりをあげながらゴロゴロと転がるその大玉に巻き込まれないよう彼らは四方八方に逃げ回っている。
この種目は確か、大玉転がし。
「そうか。これが、日本の体育祭―――」
「なわけないから!」
すかさず真子から訂正が入った。現在、指定されたA組の席から運動場を眺めている。名前順なので創也とは離れているが、代わりに真子が隣にいるのだ。
「これを基準にしないで。私が認めないわ。こんな体育祭、世界中探してもこの学園だけよ」
「そうなんだ。それ聞いてこの学校がもっと不安になったよ」
誰が好き好んで大玉に追いかけられたいと思うのか。これがみんなの言う天雷考案の種目だな。確かにこれは酷い。忍びなくて応援しづらい。
「涼と弟子がこの種目に参加してたはず。怪我とか大丈夫かな?」
「はぁ。そういうので問題になったことが一度もないから今でも好き勝手できてるのよ。今回も保護者向けの説明とかは抜かりないでしょうね」
なおのこと厄介だ。
ちなみに、運動場の近くに置かれてる大きなモニターと呼ばれる画面で運動場を映していて、少し離れたところにいる保護者達にも見えやすいように配慮されている。体育祭専用の運動場だからあるのだそうだ。
…じっちゃんはこれを見て、なんて思っているんだろう。
変に心配させたくない私にとっては、ここが一番気がかりだ。
昼にさりげなく大丈夫アピールをしておくとする。
「他のみんなが出る種目はどうだろう」
「さあ? それよりも自分が出る種目の心配をすることね」
「走るだけのリレーは大丈夫な気がするけど…」
「甘いわね。あの天雷霈よ。油断できないわ。…じゃんけんで負けてなってしまった借りもの競争とか。絶対そうに決まってるわよ。――――もぅ、帰りたい」
そう呟く真子は希望のかけらもないような、くすんだ目をしていた。
そ、それは緊張が原因でくすんだのかっ。それとも不安でかっ。
「え、えっと、なんとかなるよ! 怪我とかはないんでしょ?」
たまらず真子を励ます私。こんな目をした真子なんて見たくないぞ!
「ふっ、果たして、怪我をするのは体なのか、心なのか―――」
真子がついに訳のわからないことを言い出してしまった!
ここで私に出来ることはただ一つ!
まず真子の手のひらを取って、漢字の『人』を指で書く。そしてその手のひらを真子の口元に近づけた。日本では気がおかしくなった時、正気に戻すためにそう暗示するのが習わしだと把握している。
「…なんの真似?」
「真子を正気に戻してる」
「…」
おっ、くすんだ目が…呆れた目になったぞっ。これは効果ありと呼んでいいのか悩むが、ひとまず、正気に戻せたということで。
「真子が心配だったんだ。でもこれで大丈夫!」
「…あなたを見てるといろんな意味で羨ましくなってくるわ」
なおも呆れたような目で見つめられながら褒められた。なぜか嬉しくはない。
そうこうしている間に大玉転がしが終了し、勝敗が決まる。
「あ! 紅組が勝ったよ! やったね!」
紅組の生徒の方が多く巻き込まれずに生き延びたようだ。
「えぇ、ほんと。刻々と出番が差し迫ってくるのを体の芯から感じてるわ」
「ほら、真子。人だよ。人」
またくすみだした真子の目をケアしている内に時間が過ぎて行き、自分の種目の番になった。同じくリレーに出る菊月さん、井上さん、坂倉さんと一緒に席を立ちリレーのスタート地点へと向かう。途中創也と目が合ったが、創也の心配そうな表情を見て、大丈夫だよの意味を込めて笑顔で手を振っておいた。
「みなさん、説明しますので、一旦集まってください」
体育委員に促されて、A、B、C、D組のリレーの選手が皆その人の近くによる。確かD組の風香もリレーに出ると言っていたのだが、どこに――
「道奈ちゃん!」
「風香!」
「お互い、全力で走ろうね!」
「うん!」
「そこ、今から説明を始めるのでお静かに願います」
風香を見つけられて嬉しかったけど、体育委員に注意されてしまった。気を取り直して説明に集中する。
「今回のリレーでは、バトンを受け取った後、走り出す前に各所置かれたボックスに入り、中に用意された服を上から着てください。着ないで走行した場合は無効と見なし失格となりますので気をつけてください」
なるほど、本番のリレーはただ走るだけの種目ではなかったのだな。と最初は普通に思ったが、周りの生徒の顔を見渡すと、青くなっているもの、険しくなっているもの。概ね、良い反応ではなかった。
これは…そういうことなのか。
そうだとしても、私には勝たなければいけない理由がある。そしてこの日のために体力作りも練習も怠らなかった。
ここは意地だ! 何があっても走り切ってやる!
と、意気込んだものの。
現在バトンを受け取り、ボックスの中。
目の前には、資料でしか見たことのない『着ぐるみ』というものが。
…これを着て走るのか。走りやすい服であって欲しいと願ってはいたけど、見事に外れてしまった。
ええい! モタモタしておれぬ! 早く着替えて走りきるのだ!
バタンッとボックスのドアを開けて出て来た荒木道奈こと赤蛇です。腕も足も通す穴は見つかりませんでした。毛布にぐるぐる巻きにされた芋虫状態となんら変わりはありません。バトンが持てないのでヘビの被り物の隙間にぶっさしました。
…こんなんで走れるかあああ!!!
誰だ。よりにもよってヘビの着ぐるみを用意したやつは。天雷か。天雷しかいないな。
『おぉっと、紅のA組走者! あたったのはヘビの着ぐるみ! これはハズレを引いてしまったかぁ!?』
司会者が実況しているだけなのに。聞いていてなぜかイラっとしてしまった。
でも走らなきゃ、紅組が負けちゃう! こうなったら!!
ぴょん。ぴょん。ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん――
『めげずにジャンプしながら進んだあああ!!!』
『あははははは!! あはははははは!!』
マイク越しに、実況する司会者の声と、また別の人の笑い声が聞こえた。どれも無視して目的地に向かって跳び続ける。本当は横になって転がってやろうかとも考えたが、この距離を転がり続ける自信は起きなかった。もししていたら確実に嘔吐していただろう。
息が上がりだした頃、被り物の所為で狭くなった視野に私を追い越して先を走る生徒が入る。みんなちゃんと手足のある着ぐるみを着ていた。
…なんで私だけ、ヘビ。せめて手足のついたヘビの着ぐるみとかなかったのか。色は真っ赤なのに、こんなとこだけ現物を追求しなくてもいい。
不公平さに不満を感じていると、今度は周りの応援が聞こえてくる。
「頑張れー!」
「めげるなー!」
「紅組ファイトー!」
「へびでもいかすぞー!」
暖かい声援というのは心にくるものなのだな。不満は一旦置いといて、応援に答えるためにも完走――完跳?――することに集中した。
ゴールまで、あと少し――。
「はいっ!」
「任されましたわ!」
菊月さんにバトンを渡すと同時に横に倒れる。暑いっ。横になりながら息のしずらい蛇の被り物をまずとった。
「はっ、はっ、はっ、はっ、」と肩で息をしながら着ぐるみをもぞもぞと脱ぐ。
「はあああ、涼しいいい、はぁ、はぁ、はぁ、」
地面の上に横たわったまま、汗で前髪がおでこにべったりとくっついているのをかき分けた。息が落ち着くまでこうしておこう。
その間も生徒たちの応援の声は止まない。イラつく司会者の声もする。それを聞きながら、私の心は一つの感情で満たされていた。
私、やりきったよ!
諦めなかった自分を思い切り褒めてあげたい。そしてこれを考案した天雷に余裕の表情でドヤ顔というものをしてやるのだ。
「君、大丈夫?」
空を眺めながら勝手に勝利の味に浸っていると、心配したのだろう、体育委員が声をかけてきた。
「大丈夫です。今起き上がります」
息もだいぶ落ち着いたので、立ち上がる。まだ残りのリレー選手を応援するという役目が残っているのだ。この着ぐるみの所為でA組はだいぶ遅れをとってしまったかもしれない。
『一位は赤のD組いいい! 続く、走者は白のC組いい、B組いいい、そしてA組だああ!』
応援をする前に次々と走者がゴールしてしまった! けど紅組が一番だ! 懸念通り、私たちA組は4位になってしまったようだがな!
一位で完走した赤虎の着ぐるみから白い歯を見せて笑う汗まみれの風香が出てきた。同じ紅組として頑張ってくれた友達の風香の元へと向かい、おめでとうの言葉を伝える。
それから、今まで練習に特訓と、共に戦った菊月さん、井上さん、坂倉さんを労いに行ったのだが、
「お疲れ様です、荒木さん。大変な目に合いましたわね」
「最後まであれで乗り切るなんて、すごいや」
「俺は正直無理かと思ってた。でも完走するとは、さすがだね」
逆に労われてしまった。やっぱりあのヘビはそれくらい酷いものだったのだな。
「みんなもおつかれ! 結果は残念だけど、これまでの練習楽しかったな。一緒に頑張ってくれてありがとう!」
「なんだかんだ、僕も楽しかったから…」
「ク、クラスメイトとして、当たり前のことやっただけさ」
井上さん坂倉さんは二人とも照れ臭そうな、嬉しそうな表情だ。
「こちらこそ……楽しかったのは認めますわ」
なのに菊月さんが諦めたような表情でいうのはなぜだろうか? その後、普通に笑ってたから聞けずじまいになって、そのまま気にしないことにした。
初っ端からこんな調子だが、体育祭の本命は『団体戦でクラスのみんなの力を合わせる』である。
作戦もこの日に向けて、提案、話し合いを繰り返してきたのだ。
成功させる為にも、それまで体力を温存させることにした。
****
お昼休憩のあたりになると、あたりはぐったりした生徒で溢れる。
表情からして、疲労というよりも、心労が伺えた。特にお隣の真子。
「真子、大丈夫? ご飯食べれる?」
「…消えたい」
種目を終えてから、くすんだ目が、死んだ魚の目へと進化してしまった。いつもは人前で真子と呼ぶとすかさず注意するのに、しないところを見ると症状は深刻なようだ。
真子が出場した種目、『借りもの競争』は『借り者競争』だった。
確か、真子が引いたお題は、
「今キスでき――」
「思い出させないで」
死んだ魚の目をしてなお、私がうっかり口に出してしまった言葉をピシャリと遮る真子。相当あれが嫌だったらしい。私でも嫌だと思う。
一番ダメージが少ないのは創也と暁人かな。暁人は生徒会役委員だから、どれがダメで、どれがセーフなものなのか予め把握できていたみたいだ。生徒会役委員の特権というやつだな。
一方の創也が参加した障害物競走は天雷の息がかかっていない平和なものだった。ということは創也は見事、予想と勘だけで天雷を避けることが出来たことになる。すごいな。
「道奈、一緒に食べよう」
噂をすればという感じで、創也のことを考えていたら創也が昼食に誘って来た。もちろん私もそのつもりだったのでお誘いに笑顔で承諾する。
「真子は瑞樹と食べるんだよね。よかったら一緒に食べる?」
ついでにダメ元で真子も誘えないか確かめてみた。
「…遠慮するわ。また後で」
心配だが、ここは瑞樹に真子のケアを任せることにして席をたった。
体育祭のお昼休憩は観客として応援してくれた家族と一緒に食べるのが一般らしい。
「鬼山と暁人も、良かったら一緒に食べよ?」
都合が悪かった所為か、暁人の家族は来ていないようだった。弟子の父親である理事長が来るなんてことは端から思っていないので、観客席に向かう前、ちょうど二人の姿を見つけたから、二人とも誘ってみたのだ。
「ありがとうございます。ぜひ」
「てことは、荒木の家族に会えんのか。…わぁってるって、ありがとよ」
弟子よ。そこは誘ってくれてありがとう、だろう? とジト目で伝えると、紳士本通り、きちんと感謝の言葉を示した。
うむうむ、と頷いていると、近くにいる創也が私の肩に手を回して引き寄せる。
「おっとっと」
「あ、ごめんなさい」
急にズレた重心を立て直すように、創也の胸に手をついたら、後方から謝る声が聞こえた。
どうやら、人がぶつかってきそうになったところを創也が引き寄せて避けてくれたらしい。
「道奈、周りに気をつけて」
「う、うん。ありがとう」
「母さんからメールが入ってて、道奈のおじいさんと一緒に観覧しているらしいから、一緒に行こう」
というわけで、私たち四人はじっちゃんと創也母がいる場所に向かうわけだが、
席をたってから、いつもよりも人の数が多い所為か、倍の視線の量をずっと感じていた私。
先ほど創也に、周りに気をつけて、と言われたものの、そしたらこの周りの視線も気にしてしまうことになる。疲れるから、感じないように敢えて周りに注意を向けないようにしていたのに、どうしたらいいのだっ。
そんなもの決まってる、じっちゃんのことで頭をいっぱいにすれば気にならないだろう!
久々に会えるじっちゃんに、ウキウキしながら進んでいくと、見えてきたのは、
「――それで、未確認生命体というものは、実はすでに確認されていて国家が隠蔽しているという説が有力となっています」
「ほう、やはりそうでしたか」
「まぁ、都市伝説じゃなかったのね?」
楽しそうに談笑するじっちゃんと、創也母と、
テレビ男。
…テレビ男!?
予想外すぎる光景に驚いたものの、すぐに警戒態勢に入った。
しかし!
だからといって、私がじっちゃんにハグをしないという選択肢はないのだ!
「じっちゃん!」
大声で呼びながら抱きついた。
久々のじっちゃんの懐は落ち着く。
再会を喜びつつ、観覧席に座っているじっちゃんをさりげなく引っ張って、テレビ男から離れるように距離を作らせる。
「はっはっは、体育祭のリレー、最後までよく頑張れたなっ。諦めない精神を育むために敢えて障害を増やす方針と聞かされたが、さすが名門校。教育に熱心で感心したよ」
言われながら頭を撫でられた。嬉しくて目を細めた私は、その所為で気を取られ、さりげなくテレビ男から離す作戦は失敗に終わる。
それに、どうやら親たちは洗脳済みのようだ。あの悲惨な光景をそんな言葉で片付けさせるなんて、天雷会長、やはり只者ではないらしい。
じっちゃんに抱きついていると、創也母と目があった。
「ふふふ、おじいさまが大好きなのは相変わらずね。道奈さん、この前の電話以来ね? また会えて嬉しいわ。――あなたたちに会うのは、入学式以来ねぇ?」
私に向かって話した後、視線を暁人と弟子に向けた。創也母は暁人たちと面識があるらしい。
「お久しぶりです。ご懐妊、おめでとうございます」
「…どうも、おめでとうございます」
創也母と暁人たちが話している間、私は創也母をじっと見つめていた。
創也母は、いつもと変わらない風に装ってはいるが、座ったまま、使用人らしき人にうちわで扇がれている。それに、服の上からでもわかる、ぽっこりしだした妊婦さん特有のお腹。あの中にもう一つの命があるのだな。電話で聞いていた通り、赤ちゃんはすくすくと順調に成長しているらしいことがわかったけど、体調が心配だっ。
私はじっちゃんから一旦離れて、創也母に近づいた。
まず顔色を伺う。
「お体の調子は大丈夫ですか?」
「ふふふ、気遣ってくれてありがとう。実はまだツワリが続いていて、快調ではないの」
「だから家で寝てろって言ったんだ…」
「でも創也の体育祭はどうしても見たかったんだもの。仕方ないでしょう? あなたの活躍は全て録画してあるから、来れなかった創二郎さんも見るのを楽しみにしているわ」
「…」
会話に入ってきた創也は照れてしまったようで、反論しようにも何を言っていいか分からないといった風に黙り込んでしまった。
やっぱり、創也母相手だと、創也は年相応に見えるな。
とここで思い出す。まだじっちゃんに対して、暁人と弟子の紹介がまだだったということをっ。紹介を忘れるなんて、良識のある乙女としてあるまじき行為だ。反省反省。
「じっちゃん、こっちが、火宮暁人。あっちが弟子のオニ・ヤマ。一緒にお昼を食べる仲だよ」
「初めまして、火宮です。昼食にお邪魔させていただきます」
「…どうも、鬼山です」
紹介も簡単に終わったところで、このままご飯にありつきたいところだが、スルーできない案件がまだ残っている。
「久々に楽しい会話ができました。よろしければ、今度、資料をそちらに持って行きましょうか」
テレビ男が、入学式で見た分厚い紳士の皮を被っている。
うえぇっ。何が『久々に楽しい会話ができました☆』だ。気持ち悪いぞ。いつものお前は適当で傲慢で頭のイかれたテレビ男のはず。
そんな考えが全面に顔から出ていたようで、テレビ男が私をみるなり、あの表情をしだそうとするのを視界が捉える。
すかさず視線をそらしてやったさ。
あぶないあぶない。見たら悍ましい笑顔というのもある意味凶器である。
「こちらこそ、不破間先生とゆっくり話せて良い時間を過ごせました。遠いですが、店に来た時は歓迎しますよ」
「はい、ぜひ」
物騒な話をじっちゃんと続けているようだが、社交辞令だと願おう。
私が何も言わないのは、せっかくテレビ男が帰る流れに乗っているのだ。ここで変に何か言って何が起こるかわかったもんじゃない。ノータッチがベストである。
「私はこれでお暇しようかと思います。林道さんも、お体にお気をつけて、無理はなさらないように」
「まぁまぁ、よろしければ、不破間先生もご一緒するのはいかがかしら?」
「そうですなぁ。せっかくの機会、今度は子供達も交えて話すのも一興でしょう」
「では、お言葉に甘えて」
じっちゃんんんんん!!
創也母ああああああ!!
心の叫びが、周りに聞こえるはずもなく。
じっちゃん、創也母、創也、暁人、弟子、テレビ男、という異様なメンバーで昼食をとることになったのだった。
「みんなお疲れ!」
大人たちが大人たちで話しているタイミングで、とりあえずみんなを労う私。
「道奈も疲れただろ。リレーお疲れ様」
実は、体育祭では真子と一緒に席で観戦してたから朝以降、創也と落ち着いて言葉を交わせていなかったのだ。そんな創也からのリレーの労い。もちろん快く受けた。
「ありがとう!」
あれは本当に酷かった。まずリレーなのに走れないような服を着させるって、考えた天雷は相当性格が悪いとみる。とここで、ふと疑問になった。
「こんなに体育祭で好き勝手してる天雷会長はどの種目に出るのかな?」
「会長はどの種目にも出ませんよ」
私の質問に答えた暁人にまた疑問が生まれる。
「そんなことしていいの?」
こんなにしておいて、自分だけ高みの見物だなんて、ずるいぞ。不満に思いつつ質問した私の問いに、今度は弟子が答えてくれた。
「天雷は初等部低学年の頃の交通事故の所為で走れねぇって話だ。だからあいつは司会のいるテントで毎年見学だ」
天雷会長なりに事情があったようだ。初めて私に接触して来た時、私を早歩きで追いかけていたようだから、走れないけど早歩きはできるのだなと推測する。
だからと言って体育祭で好き勝手していいとは言えないけどね。
「それより、荒木はこの後、応援団だろ。準備とかいいのか」
弟子の指摘通り、応援団パフォーマンスはお昼休憩後に披露されることになっている。
「実はお昼休憩の終わる十五分前には集合するようにって言われてるの。でも今日までいっぱい話し合って練習したから、いい感じで緊張してるよ」
一人でマジックした時を思い出させる。
あの時は一人だったが、今回は、一緒に頑張ってきた同志がいるのだ。
その事実が、ここまで私を落ち着かせていた。
「楽しみですね。もしかして、今回もマジックをするのですか?」
「そのとおりっ! でもあとはサプライズでお楽しみだよ!」
口を噤む動作でこれ以上は言わぬ意思を示す。
「マジか。会場がヤバイことなりそうだな」
「俺も楽しみにしてるよ。けど、怪我には気をつけて」
弟子の発言は良くわからなかったが、概ね三人とも楽しみにしているようだ。
気合いを入れて、レッツジュテームといくとしよう!
応援団マジックに気合いを入れたついでに、もう一個入れておく気合いがある。
「私の応援団もだけど、午後のプログラムは、水合戦もあるよっ。大将のオニ・ヤマさんっ、一言どうぞ!」
テレビの取材がきた時に見た、アナウンサーの人がしてたみたいに、持っていたお箸をマイクのように握り直して自分に向けた後、弟子に向けた。
「…何が何でも勝ちに行く。以上だ」
「うむうむ。では副大将の創也もっ、一言っ!」
「鬼山に同じく、だよ。ふふふ、道奈、それはリポーターの真似?」
リポーターとな。なんとなく予想はつくが、定かではない。
とりあえず訂正しよう。
「違うよ、アナウンサーの真似。テレビの取材の時、こんな感じで言ってたの思い出してやってみた」
「そっか」
口には微笑みを携えて、優しい眼差しで創也から見つめられる。
また兄目線というやつか。
この後、気にせず美味しいご飯を平らげて、応援団の集合場所へと向かった。




