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Welcome Back, My 携帯


 次の日登校すると、また教室の前で待つ女子の姿が。


「おはよう、真子。どうしたの?」


 昨日と違うのは、待っていたのが立花さんではなく、真子だということ。


「おはよう。人に聞かれるかもしれないから、教室の近くでは下の名前で呼ばないで」


 細いなあ、と思ったが気にせず話を続ける。


「雨倉さんは誰か待ってるの?」


「あなたを待ってたのよ」


 やはりか。念のために聞いた質問に予想した通りの答えで返してくれた。


「少し離れてついてきて」


 んな面倒な。今度はそう思ったが、本人が嫌がることはしたくないので言われた通りに大人しく5歩くらい離れてついていくことにした。


 そして連れてこられたのは、また人気のない廊下の角。私、昨日と今日で、よくここに来るなあ。


 真子は立ち止まり、私の方に振り返って、早速本題に入る。


「はい。借りてたハンカチ。洗ってアイロンもかけておいたわ」


 そう言って小さな紙袋を渡してきた。

 中を見ると綺麗に折りたたまれたハンカチと一緒にマカデミアナッツチョコが1箱。


「え? くれるの?」


「変に疑っちゃったから、そのお詫びも含めてよ。…ハンカチ、貸してくれてありがとう」


「やったね! どういたしまして。あ、そうだ。携帯の番号聞いてもいい?」


「え?」


「これから仲良くしていくなら知ってた方がいいかなあって思って。携帯の番号教えて?」


「…まあ、教えるくらいなら」


「ちょっと待ってて、今書くものだす」


 カバンを廊下の上におろして中からメモ帳とペンを出した。


「…あなた、携帯は?」


「んー、今故障中で修理?に出してる」


「なんで少し疑問形が入ってるのよ」


「まあ、それはいいから、教えて?」


「…090――――」


 言われた番号をサラサラとメモしていく。


「よし、携帯戻ってきたら連絡するね!」


「別にわざわざしなくていいわよ。今あなたが私に番号を教えれば済む話じゃない」


 ふっ、そんなもの。


「覚えてないのだっ」


「胸を張って言うことじゃないから」


 誤魔化されなかった。


「やっぱ自分の番号は覚えとくもの?」


「今みたいな時不便でしょ」


 んー、壊されて改造されるような状況、予想できなかったからなあ。でも覚えてて損はないかも。修理が終わったら番号を確認しておこう。


「確かにそうだね」


「私の用は終わったわ。あなたから先に教室に戻っていいわよ。私は後から向かうわ」


 徹底ぶりがすごいな。そんなに私といると目立ってしまうのか。

 あっ、それよりも今は質問するいい機会かもしれない。


「ねえねえ、真子に聞きたいことがあるんだ」


「…なによ」


 急に警戒女に戻り出した真子。


「私たちのクラスの現状を知っておきたくて。真子の知ってること教えて欲しいんだ」


「…クラスの現状? クラスにいるのにわからないの?」


「恥ずかしながら、そうだね。視線を気にしないようにしてたら、自然とクラスの人も気にしないようになったの」


「…やっぱり目立つと碌なことないわね」


 目立つことに何かトラウマでもあるのか?

 疲れるだけで、気にしなければ無害ではあるぞ。


「あなたには負い目が少しあるから、私の知ってることを教えてあげなくもないわ」


「やった!」


「でもここではダメよ」


 …その徹底さがたまに面倒だと思う。


「どこならいいの?」


「そうね…放課後、電話で、かしら」


「ええええ。そんなに人に聞かれちゃダメなこと?」


「いいから。知りたかったら私に従って」


「…わかった。携帯戻ってきたら放課後に電話する」


 渋々了承した。


「なら話は終わりよ。人が来る前に早く教室に行ってくれる?」


「はああ。じゃ、あとでね。チョコありがと」



 真子は目立つのが相当嫌いなのだと今回の件で重々理解した。






 人気のない廊下から教室に向かう途中、昨日の立花さんとの出来事を思い出す。


 創也には一応この件は私が解決したい旨を含めて、この前ちゃんと伝えた。その結果、創也はこの件に関して介入しないと約束してもらう代わりに、創也と靴箱を定期的に交換することになった。上靴事件の二の舞にならないようにだそうだ。これで創也が安心するなら構わないと従っている。ちなみに今日は創也の靴箱を使う日だ。


 警戒している創也の予想を裏切り、あのことがあってから、立花さんは私に全く話しかけなくなっただけで、被害は今の所ない。


 代わりに濃い殺気をぶつけられる。


 殺気の一つや二つ、濃いも薄いも、増えようが減ろうが変わらない。物理的な害はないので、スルーしている。


 …殺気をあてられることに対して慣れてきてしまっている自分に気づいて引いた。


 平和な日々は果たして来るのか。

 毎日祈るだけ祈っとこう。






 平和を祈ってはいても厄介な人と接しなければいけない場合はあるわけで。



 放課後、寮にいつも通り帰宅したら、管理人の木本さんに呼び止められた。


「荒木さん、不破間先生から伝言よ。放課後、校舎の部室に来て欲しいそうだわ」


 心底行きたくないが、携帯の修理が終わっての呼び出しかもしれないな。


「わかりました。伝えて頂いてありがとうございます」


「荒木さんは不破間先生と親しいのかしら」


「違います。全く。絶対。決して」


「…そんなに否定したら逆に気になるわよ」


 おっと、感情任せで否定しすぎてしまった。


「はあぁ、それにしても学生はいいわよねぇ。あんなイケメンな先生と毎日会えるなんて」


 ほっぺを赤らめて、うっとりと何かを思い出すように宙を眺めながら話す木本さんは人を見る目が全く無いようだ。

 まあ、好みは人それぞれだと言うし、そっとしておこう。


「では私はこれで」


 先にカバンを部屋に置いてから校舎に戻ることにした。





「入って」


 コンコンとドアをノックしたら聞こえるテレビ男の声。


「失礼します」


 一言断りを入れて、昼休みにも来た部室にまた入る。放課後ここに来るのは初めてかも。


「じゃ、早速研究室に向かおっか」


 先に要件を言わないかっ!


 相変わらずの相手のことを一ミリも考えていない言動で不満に思うが、先ほど通ったドアから素早く出る。

 また襟首を掴まれたらたまったものじゃない。


「ありゃ、逃げられちゃったなあ」


 テレビ男の右手がワキワキしている。


 やはり掴むつもりだったんだな!


「襟首を掴まれる人の気持ちも考えてください。苦しいんです。やめてください」


「掴まれたことないからわかんないねえ」


「苦しいと私は言ったはずです!」


 こうして話している間も私はテレビ男と距離を取りながら早歩きで歩いている。

 テレビ男対策に抜かりはない。


「それで、私の携帯は今日戻って来るってことでいいんですね」


 とりあえず一番気になることを確認しよう。


「そうだよお」


「研究室にわざわざ私が行かなければならない理由がわかりません」


 私の携帯を部室に持って来て渡せばすむ話ではないか。


「んー、他にも用事があるからかな?」


 な、なんの用事だ。

 研究室に行くのが怖くなってしまった。


 思わず背の高いテレビ男の顔を見上げて伺う。



 一見爽やかに見えるニコッとした笑顔を見た途端、ゾワワワワッと背中を悪寒が往復して駆け回った。



 あれは見てはいけないものだったんだな。


 見なかったことにして、前を向きひたすら進むことにした。







 テレビ男の車で、研究室に着いたあと、今まで通り一階で話すのかと思いきや、


「ついて来て?」


 と言われて、ついて行った先は二階。


 階段を上がって目に入ってきたのはごちゃごちゃした空間だった。

 紙束に本の山、研究道具、それ以外にも見たこともない物が各机の上に積み上げられている。


 それを横目に見ながら、テレビ男に大人しくついて行った。


 そして溢れる物の中から物体を一つ手にとり私に見えるように振り返って掲げる。


「じゃーん」


「え、なんですか、それ」


「みっちゃんの進化した携帯だよん」


 いやいやいや。


「全くの別物に見えますが」


 パカパカと開くタイプだった私の携帯。


 その面影すら微塵も感じさせない、改造と言うよりも、新しい携帯を買って持って来たと言った方が納得いくような物に変わり果てていた。


「要望にぜーんぶ答えた結果、こうなったんだってえ」


 私が望んだのは修理と地図機能改善だけのはずだ!

 変わり果ててしまった原因は必然的にテレビ男の要望となる。


 どこまでいじられたのだ、私の携帯は。


 それに…じっちゃんになんて言おう。

 唯一、色は前と変わってない。形は変わったが、一応、同じ携帯ではある、のか。


「はああぁぁ。どうやって操作するのか、まずそこから教えてください」


 今更嘆いても前の形に戻るわけでもないので、次に進む。


 テレビ男の説明を一通り聞いた結果、私の携帯はパカパカタイプからスライド式で開くタイプに変わったことがまず判明した。


 地図機能は確かに改善されていて見やすいし使いやすくなったと思う。さらに、欲しいと思ってたカメラ機能もっ…! 徐々に写真を増やすぞ。他の操作方法は以前と変化はあまりなかったし、アドレス帳にある情報もちゃんと残っている。

 そして、その携帯にはムカつく表情をしたミノムシのキャラクターのキーホルダーもついていた。これはなんですかと聞いてみたら、おまけのプレゼントだそうだ。まぁ、これは画面のクリーナーにもなるらしいからそこも別にいい。



 問題は、テレビ男が考えた機能。



「試しに私に電話をかけてみてください」


 テレビ男からの着信のみ自動的にかつ強制的に応答されてしまうらしい。

 本当にそんな恐ろしい機能がついてしまったのか、今の内に確認したい。


「それは僕が試しておいたから大丈夫。ちゃーんと3コールで電話が繋がったよ」


 ひええええええぇぇぇ。


「他にも色々な機能を追加したけど、それはその時のお楽しみということで」


 知りたいような、このまま知らずに過ごしたいような。


 そう思いながら、テレビ男から渡された携帯をじっと見つめた。



 …携帯変えようかな。



「あ、言い忘れてたけど、みっちゃんの携帯の電源が落ちたり故障したりすると、その寸前に僕に報告が行くことになってるんだあ」


 そんな厄介な機能を考えるな。


「くれぐれも、末永ーく、使ってね?」


 すかさずテレビ男の顔から目をそらした。


 危ない危ない。また見てはならぬものを見るところだった。


 しかもそんなことをこのタイミングで言うなんてっ。

 また私の顔から考えがダダ漏れていたのかっ。


 考え事は後にしてひとまずこの空間から退散しよう。


「携帯は確かに受け取りました。では帰ります。車で送ってください」


「その前に、僕の用事を終わらせてからね」


 あ、そういえば他にも用事があるとか言ってたっけ。


 …怖いが、早く済まさせよう。


「みっちゃんの動画なんだけど、今の状況、知りたくない?」


 テレビ男の口から出たのは最近気がかりに思っていたことに関してだった。



 何か知ってるみたいだ。



 私は真剣に話を聞くことにした。


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