創也とお買い物。後半
とあるホームセンターに到着。
「ひ、広いっ…!」
中に入ってすぐに目に付いたのは、何よりもその広さだった。
あまりの広さに、とりあえず走り回りたくなるのはなぜだ!?と、興奮でわけのわからない衝動に狩られる。
「ははっ、ここのホームセンターは特に広いからな。俺も初めて来た時は驚いたよ」
ただのホームセンターではないのだな。うむ、さすが創也チョイス。ここなら望んでいるものが全て揃いそうだ。
「防犯コーナーはこっちの方みたいだ。行ってみよう」
創也に連れられてカゴを持ちながら歩いた。
着いた場所には確かに防犯関連の物が置いてあった。でも一つも使い方の分かるものがない。それに多すぎる。
「これ全部見て行くのは疲れそうだなあ」
「だな。店員に聞こうか」
創也が私の代わりに店員さんを呼んでくれた。
「いかがなさいました?」
「私が日常で持ち歩けるような防犯グッズでオススメはありますか?」
「そーですねえ…。少々お待ちください」
店員はしばらく考えた後、いくつか商品を持って戻って来る。
「こちらなら、お客様でも使えるかと」
どれどれ?
一つずつ見てみる。
・防犯ブザー Anatanokawarini-Sakendeageru0224
あなたの為に、誰よりもうるさく超高音の金切り声で叫びます。防水加工済み。
・催涙スプレー レッドタイガー(リップスティック型)
唐辛子成分を凝縮させた液体入り。一瞬で視界を奪う、優れもの。おしゃれなリップスティックに見えるから人前で見られても大丈夫。十年の信頼を得たミリオンセラー。
・スタンガン BILI-BILI-DIE13
アルカリ電池で気軽に使える。打たれたが最後、数時間は起きない。これからも起きない。かもしれない。
うん、スタンガン以外を買おう。
「これと、これ。買おうかな。ありがとうございます」
「いーえー。お望みのものが見つかってよかったです。では私はこれで」
そう言って店員さんは自分の持ち場に戻って行ったところで創也が質問してきた。
「…この防犯ブザー、本当に買うつもり?」
「ん? オススメされたんなら、いいやつなんじゃない?」
助けを呼ぶ手間が省けていいしね。
「…まあ、道奈がそれでいいなら…」
「さて、防犯グッズも見つかったことだし、レジに行こっか。それとこの後本屋にもよっていい?」
「本屋か。いいな。学園の近くのデパートに大きめの本屋があったと思うから、そこに行こう」
心なしか嬉しそうな創也。創也も買いたい本があるようだな。それはちょうどいい。マジックで忙しくて弟子に渡す紳士になる為の本が買えずじまいだったのだ。
創也と二人で話しながらレジへと直行し、防犯グッズは無事に調達。
そのまま車に向かい、デパートへと向かった。
****
デパートの本屋にて。
「うーむ。どれにするか」
私の手には二つの本が。
右手には『これであなたもモテ男。紳士に振る舞う十の法則』と書かれた上品な本。
左手には『紳士の極意。紳士と書いて漢と読む!』と筆で勢いよく書かれた男気溢れる本。
「…道奈が買いたかった本ってこれ?」
隣で私の様子を見ていた創也が聞いてきた。
「そう。弟子に渡す本。あるかどうか分からなかったけど、それっぽいのがあってよかったよ」
「弟子…?」
おっと、ついつい頭の中での呼び名が。
「覚えてる? オニ・ヤマを紳士にする為に指導することになったって話。これはその指導の一部だよ。本代はあとでオニ・ヤマに請求する予定」
次は変な噂が流れないように請求するぞ。
「はあぁ。そういえばそんな経緯だったな」
小さなため息と共に、仕方ないなとでも言いたげな表情で返事してきた創也。なぜそんな反応なのか。それに創也は創也で本屋に用事があるはずだぞ。
「創也も何か買いたい本とかあるんじゃないの?」
「いや、今のとこはないな」
えええ、じゃなんで――
「それよりこのあとアイスでもどう?」
「アイス!」
アイスの威力で色々な疑問が吹き飛んで頭の中がアイス一色に変わる。
「行く! ちょっと待ってね」
アイスの為に急ごう。何かで迷った時は、女神様の言う通りだ!
まず本を棚の上に並べて置く。そして交互に本を指差しながら女神様に決めてもらう簡単な歌を唱えた。
『女神よ女神。決めてくれ。ルンポンルンポン、ルンポンポン』
女神様が選んだのは…
「男気ある方か。確かに。こっちの方が弟子にあってるのかも。さすが女神様だね」
「…道奈、今のって何語?」
創也の突然の質問に、本を持ってレジに向かおうとした足を元の位置に戻す。
何語って、言語補正でさっきからずっと日本語のはず…待てよ。
「アジア系でも、ヨーロッパ系の言語っぽくもなかったな…全く聞いたことがない発音だった…」
今さっき私が歌った歌は元いた世界のものだ。ということは…まさか。
―――元いた世界の言葉になってた?
…言語補正の新事実だな。
その国独自の歌を歌うと、その国の言語に切り替わるようだ。
ここはともかく。誤魔化すぞ。
「何語かっていうよりは、小さい頃自分でめちゃくちゃ適当に作った歌だよ。どれにするか迷った時はこうやって決めるの。ハハハハハ、癖でまた歌っちゃったな。それより早く行こうよ! アイスが待ってる!」
アイスで話を変える作戦。
お願いだ! 誤魔化されてくれ!
「…そうだな」
うっ。訝しんでる感じだ。でもこれ以上は触れてこないからセーフってことで!
怪訝な表情の創也に気づかないふりしてレジまでダッシュした。
****
アイス屋の中にはたくさんの種類のアイスがガラス越しに並べられていた。
アイス屋さんの看板を見ると『エイティーワン・アイスクリーム』と英語で表記されていて、その名も通り、81種類のアイスがあるみたいだ。
こんなにたくさんのアイスがあるなんて…ここが楽園か。
「この店も初めてみたいだな。結構有名なアイスのチェーン店だから知っているかと思ってた」
アイスを見ながら惚けていたら創也が話しかけてきた。
「じっちゃんの店がある町にはなかったから初めてだよ! どうしよう。こんなにあったら選べない…!」
悩む。アイスは地球に来て気に入った食べ物のベスト10に入るくらい好きな食べ物だ。
いつまでも食べていたいが、お腹を壊してしまう所為でたくさん食べれないのが残念でならない。
「また一緒に来ればいいさ」
上機嫌な創也の声。創也もアイスが好きなようだ。
「確かに、それもそうだね。ちなみに創也は何頼むの?」
「俺は毎回、これにしてる」
指さされた方を見てみると、『嗚呼門戸御猪口万歳』と書いてあった。
名をつけたのは誰だ。
読みづらいことこの上ない。
「味が想像つかないなあ…」
「そこが売りなんだ。食べるまでどんな味か分からない。アイスによっては名前の響きでなんとなく想像つくのもあるけどな」
サプライズということか。
なら適当に選んだ方が楽しそうだ。
「じゃあ、私はあれにしようかな」
『操舵海荷移高』を指差しながら創也に伝えた。
アイス本体は青っぽいけど、何味かすら伝わらない名前を選んだ。
「あれだな。今頼んで来る」
「ちょおおっと待ったああ!」
レジに向かおうとする創也の腕を咄嗟に掴んで引き止めた。
「ん?」
こちらを振り返った創也に物申す。
「前、約束した、次一緒に食べる時は私が払うって。アイスぽっちだけど、私が払う。次もアイス食べる時は私が払う。これは譲らないから!」
忘れたとは言わせないぞ。
タイ料理屋で一緒に食べた時、約束したのだ!
「あぁ、そういえば」
思い出したか!
「だから創也は先に席取ってて!」
「ははっ、わかった。でも一緒に行くよ」
そんな子供を見るような目で見ないでほしい。一人で持てないと思ってるな。
いつものお兄さんスイッチが入ってしまった創也はほっといて、カウンターに行きアイスを二つ頼んだ。頼まれたアイスを店員が大きめのコーンに入れて出して来る。
その二つのアイスは大まかに茶と青の二色で分かれていた。
片方はクリームブラウンの茶色とバニラと思われる白い部分が混ざったマーブル模様のアイス。
もう片方は爽やかな水色と深みのある青色のマーブル模様のアイスにピンクやオレンジの星型のつぶつぶがポツポツと見え隠れしているアイス。
それらを受け取って空いてる席に創也と向かい合わせに座った。
「創也のはチョコかな?」
隣の人のパンは大きく見えるように、創也のアイスが気になった。
「食べてみたらわかるよ、はい」
良い笑顔でそう言って、自分のアイスを一口分スプーンですくって、それを私の口に近づける。
それをパクリとほぼ条件反射で食べてしまった。
少し礼儀がなってなかったかな。それとも日本ではこういうのは普通に行われることなのだろうか。
まあそれはさておき、
「おいしい!」
アイスは口に入れたらすぐ溶けるくらいふわふわだった。溶けた瞬間にアーモンドの風味とカカオの深みが口の中で混ざって、余韻にずっと浸っていたいような、そんな味だ。
「でしょ?…(躊躇なく食べた。しかも無反応)…」
少し複雑そうな顔の創也が後半ボソボソと何か呟いた。
「ん? ごめん、最後なんて言ったか聞こえなかった。もう一回言ってくれる?」
「チョコだけじゃなくてアーモンドも入ってるって言ったんだ」
「うん! アーモンド、後から出てきた。これは表記できない味だね」
「道奈のアイスは初めて見るな」
「創也も初めてなら、私もわかんないよ。ちょっと食べてみる」
パクリと自分のスプーンですくって一口食べる。
入れた瞬間シュワシュワと泡になって溶けた。溶けたそれは爽やかな甘酸っぱい物に変わり、そのまま喉の奥に流れていく。
「え!?」
今まで食べたアイスとは全然違ってびっくりしてしまった。
「どうした?」
「ちょっと創也も食べてみて!」
この驚きを共有したくて、創也がやったように自分のスプーンですくって創也の口に近づけた。
「…」
しばらく無言でアイスを眺めた後、少し顔を赤らめながら意を決するようにパクリと口に含む創也。スプーンを口から引いて創也の反応を待った。
このアイス。海の波を思い出すのだ。
創也とこの発見を早く共有したい!
そんな思いで、創也の表情の変化をじっと見てると、私と目が合った。
ますます赤みが増す創也の顔。
「…どう?」
何も言ってくれない創也に痺れを切らして話しかける。
「…よくわかんなかった」
「えええ?!」
そんなわけないだろう。こんなにインパクトのあるアイス。私は一口でわかったぞ。
「…もう一口いい?」
「…はい」
創也に先ほどと同じように、もう一度アイスをあげた。
創也も先ほどと同じように、もう一度アイスを食べる。
「…面白いアイスだな」
「ね? ね? そうでしょ? 海の波みたいじゃない?」
やっと共有できるこの発見。
「確かに。海みたいだ」
ふううう。共有できて私は満足だ。あとはアイスを楽しく堪能するのみ。
パクリパクリと自分のアイスを食べていく。
それに合わせて、創也はほっぺを赤らめながらある一点を目で追い続ける。
見ているのは、スプーンを持つ私の手? いや、スプーン本体?
なぜ見るんだ。見る前にまず、
「アイス溶けちゃうよ? あとさっきから顔が赤いけど、大丈夫?」
またあの持病かとスルーしてきたけど、前みたいにすぐに治らないなら問題だ。ここから車が止まってる駐車場の階までそんなに遠くないな。もしもの時は運べるだろうか。
「…大丈夫」
創也の体調が崩れた後のことを考えていたが、本人がそう言うなら大丈夫なのだろう。まだ倒れたことはないから大ごとにはならないと判断した。
パクリ、、パクリ、、と創也もアイスを口に運ぶ。ペースが遅いな。
しかも食べるたびに赤らめて、アイスで少し冷やされた後、また食べて赤らめる。というのを繰り返していた。
目線は今度は自分のスプーンに釘付けだ。
その言動からは、本当に大丈夫か怪しくなる。
「…さっきみたいに、その、自分のスプーンを他の人と一緒に使ったことは他にもある?」
アイスを楽しんでいたら、また創也が唐突なことを聞いてきた。
顔は未だ赤みがかっているが、大事なことだと言わんばかりの表情をしている。
「ないよ。今日が初めてかな」
「…そっか」
私の返事を聞いた創也から気のせいか嬉しそうな感情が伝わる。それを感じながら素直に自分の思ったことを続けて話した。
「だから食べた後、ちょっと礼儀がなってなかったかなあって思ったよ。でも創也が普通にやるから日本では一般的なことだってさっき理解したけど、違うの?」
「実は本当に親しい人としかしないことなんだ。だからくれぐれも気軽にしないように。特に男子」
カラーコンタクトの時と同じようなことを言うのだな。
よし。これでまた日本での新しい礼儀を学んだぞ。
「教えてくれてありがとう。気をつけるよ」
でもなんで男子限定なんだろう。
礼儀にはその国の歴史が反映されていたりするから、そういうことなのかもしれない。深く考えずに一人納得してアイスを堪能することに集中した。
そして創也も調子を取り戻してアイスを食べ終えた後、寮まで車で送ってくれた。
もちろんカラーコンタクトを創也にお願いして外してもらうのは忘れずに。




