表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の国 【リメイク版】  作者: 一理。
ヴァルム魔術学院

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/89

二年生(2)


「あっ!!」


 私は思わず叫んだ。身体の大きな方の男に見覚えがあったから。

 二人の男は昨年の夏、私を誘拐した密猟者。騎士たちを傷つけ牢を逃げ出した二人だった。


「ほう、あんときの嬢ちゃんか。ジャン、この子も攫って行くか」


 弓使いの大男はカール達男子を歯牙にもかけていないように嗤った。


「まあ待てベニート」


 ジャンはヘンデルス様の方を向いて言った。


「坊ちゃん、手に持っている物を寄越しな」


 カールが歯噛みする。エーリク様がそろそろと動き出したのを彼らは見逃さなかった。


「おっと、妙な動きはするなよ」


 見せしめるようにそっとナイフを引くとグレーテ様の喉に血が滲んだ。


「ひっ!」


 グレーテ様は失神寸前だ。


「彼らは躊躇いなく人を殺すわ。昨年ウチの領で騎士たちを刺して逃げ出した凶悪犯よ」


 私の言葉にエーリク様も動きを止めた。ヘンデルス様が信号筒を差し出す。それを引ったくってジャンが言った。


「さすが嬢ちゃんは俺らのことをわかってるなぁ。おい!! これ一つじゃないだろう全部出せよ!」


 カールとトーマスも渋々差し出す。

 三つの信号筒を受け取るとジャンたちはそろそろと後ずさる。


「あの嬢ちゃんも攫って行かなくていいのかい?」


 ベニートが私を見るがジャンは慎重だった。


「こいつらは魔力持ちだ。死ぬ気になられたら厄介だろ。それに三人も人質を取ったら目を配れなくなる。この二人の嬢ちゃんで我慢だ」

「わかったぜ。さすがジャンだ」

「おい! 動くなと言っただろう!」


 ジャンが鋭く言うとカールが動きを止めた。


「わ、わかった。わかったからその子を傷つけるな」



 ジャンとベニートは私たちから十分距離を取るとアリーとグレーテ様を担ぎ上げ竜の素材が入ったズタ袋を引っ掴むと走り出した。


「あ! 待て!」

「追いかけよう!」


 カールが走り出そうとするのをヘンデルス様が止めた。


「待て」

「お前! アリーたちを見捨てるのか!」


 カールが詰め寄ろうとするのをトーマスが止めた。


「このまま追いかけてもさっきの二の舞だ。カールとヨアヒム、お前たち二人は走って助けを呼んできてくれ。その間僕たちはあの二人を追跡する」

「俺も後を追う」


 カールが言い張るがヘンデルス様の言おうとしていることが私はわかった。


「カールとヨアヒム様が一番足が速いからね?」

「そうだ。君たち二人に託す。僕たちはあの二人を追跡するが危害が加えられない限り手出しはしない。通った道がわかるように目印を残しておく」

「カール、ヨアヒム様、一刻も早く助けを呼んできて! 私もあなたたちに託すわ」


 カールの判断は早かった。


「ヨアヒム、行くぞ!」

 

 一声かけると脱兎のごとく走り出した。 同時に私たちも追跡を開始した。二人が逃げていった方向へ走る。

 既に二人は見えなくなっていたがここで活躍したのがアウレール様だった。彼は植物が踏み荒らされた跡を見て方向を特定することができたのだ。

 暫く方向を探りながら進んでいたが突然トーマスが小さい声で言った。


「止まって! 背を低くして!」


 私たちはしゃがみこみトーマスが指す方を見た。木々の向こう、沢のほとりの少し開けた場所に彼らはいた。

 私たちは細心の注意を払いながらそろそろと彼らに近づいて行った。





 アリーたちを縛り上げながらベニートが言った。


「奴ら助けを呼んでくるぜ。ジャン、どうする?」

「竜の素材も手に入ったしずらかるしかないだろう。ホントはもう二、三頭仕留めたかったがな。この森の結界は入ることはできないが出ることはできるはずだ。森の端まで移動するぞ」

「手配されていないか?」

「だからここから離れたところから出るんだよ。ウルプル伯爵領かレッダー子爵領辺りまで行けば監視も緩いはずだ」

「さすがジャン。頭いいぜ」


 二人を縛ったベニートは沢の水を水筒に入れた。


「じゃあ出発しようぜ」


 二人はアリーとグレーテ様を担ぎ上げようとしたがグレーテ様が泣き叫んだ。


「いや! いやよ! 放して—―!」

「うるせえな!」


 バシッ!!


 途端にベニートに頬を張り飛ばされグレーテ様が倒れこんだ。


「乱暴はしないで!」


 アリーがキッと睨む。


「おうおう、こえーな」


 ベニートは嗤いながらアリーの頬も張った。


 バキッ!

 アリーが倒れこんだ時、私たちは思わず駆け寄ろうとしてしまった。木の枝を踏みつけ音がする。その音をジャンは見逃してはくれなかった。


「ベニート、お客さんだぜ」

「何だよさっきのガキどもか。なあジャン、やっぱり殺っちまおうぜ」


 私たちは身構えた。咄嗟にトーマスとヘンデルス様、エーリク様が前に出て私たちを庇う。でも私たちは丸腰だ。ロープとかは持っていても武器は持っていない。

 ベニートがナイフをもてあそびながら私たちに向かってきた。


 その瞬間、私はトーマスの陰から躍り出てベニートに魔力を放った。人に向けるのは怖かったけどなるべく手のナイフを狙った。


 バチッ!


「いてっ! こいつ何しやがった!」


 ベニートのナイフがはじけ飛んだ。手には切り傷が出来ている。


「みんな! 障壁を張るんだ!」


 ヘンデルス様の声でみんな一斉に障壁を張る。

 顔を真っ赤にしたベニートが襲い掛かろうとするが障壁に阻まれて進むことができない。

 しかしそれも時間の問題だ。私たちはまだ三分の一しか封印を解除されていない。長時間障壁を張ることはできないし、大きな衝撃を受ければ障壁は破られてしまう。


 ジャンは倒れこんだアリーとグレーテ様を引っ張り起こそうとした。二人を傷つけると脅して障壁を解除させるつもりだ。

 私は二人の元に駆けだそうとした。


 ギャ——オ――


 突然、背後の森から何かが飛び出してジャンに襲い掛かった。


 

 竜だ! 大人の男の人ぐらいの大きさの竜がジャンに襲い掛かっていた。まだ成竜ではないが鋭い爪や牙は持っている。


「うわーー! なんだこいつ! あっち行け!」


 ジャンはナイフを振り回した。竜に人質は通用しない。アリーとグレーテ様そっちのけで竜に向き直る。

 ベニートは竜を見ると私たちを襲うのを止め荷物のある所に走った。取り出したのは弓と矢だ。


「させない!!」


 私はもう一度魔力を放った。

 弓が手から弾け飛ぶ。弦が切れたのが見えた。


「くそっ!」


 ベニートは落ちたナイフを拾いジャンの加勢に向かう。

 その隙にトーマスとエーリク様が走りアリーとグレーテ様を助け起こした。


「竜さん! 逃げて!」


 まだ成竜ではないその竜は大きさ的にもジャンたちと変わらない。いくら鋭い爪や牙を持っていても危ないような気がした。


 ギャオ———


 その時空から別の竜の咆哮が聞こえた。

 ハッと空を見上げると青竜と緑竜が旋回している。そしてその背に人が乗っているのが見える。

 助けだ! 助けが来てくれたんだ!!



「ベニート、逃げるぞ!」


 ジャンは上空の竜を見るなり駆け出した。荷物も何もかもほっぽり出したまま。

 私たちは位置がわかるように大声を上げた。


「おおーーーい!!」

「ここよ―――!!」


 上空を旋回していた竜は高度を下げ私たちのすぐ頭上まで来た。私たちは必死にジャンたちが逃げていった方を指さす。 その後はすぐに片が付いた。

 二頭の竜は森の木々すれすれの高さで飛んで行き、ジャンたちを見つけると竜騎士のウォンドが一閃。

 二人はあっけなく失神した。

 少し開けた場所に着地し、竜騎士は二人を縛り上げた。

 そして私たちのところにやって来た。


「みんな無事か?」


 私たちが無事だと答えると竜騎士は安堵し「よく頑張ったな」と労ってくれた。

 縄を解かれたアリーとグレーテ様はぐったりとはしていたが大きな怪我は無さそうだった。

 アリーがみんなにお礼を言うとグレーテ様も小さな声で「ありがとうございます」と言った。



 ジャンたちが逃げ出した時、私は助けてくれた竜に駆け寄っていた。


「無闇に近づくと危ないぞ」


 ヘンデルス様に手を掴まれたが「傷がないか見るだけだから」と振り払った。


「大丈夫? 助けてくれてありがとう」


 私が近づいても竜はそこに立っていた。じっと私を見つめている。


「今は気が立っているかもしれないし近づかない方がいいわ」


 リーネも私を止めようとしたが「大丈夫だから」と私は近づいた。

 竜と見つめあう……


 キュ——


 竜が鳴いた。


「ルーナ?」


 キュ——


 私は竜に飛びついた! ルーナ、ルーナだ!

 去年の夏、私の腕の中にすっぽり入っていたルーナは大人の男の人ぐらいの大きさまで成長していた。成長しても私を忘れず助けに来てくれた!

 私がルーナに抱き着くとルーナは私の顔を嘗め回した。

 私たちは再会を喜び合い、ルーナは森の奥に帰っていった。



 みんなに去年の夏のルーナとの出会いを説明しながら暫くその場で待っていると私たちの残した目印を頼りに騎士や先生たちがやってきた。

 そして私たちはようやく先生たちと門のところまで戻ったのだった。


 門まで戻るとカールが駆け寄ってきた。


「カール、ヨアヒム様ありがとう!」

「知らせてくれて助かった」


 声をかける私たちを素通りしてカールはアリーを抱きしめた。


「無事でよかった……」


 カール泣いてる?

 アリーはカールの背中をポンポンと叩いて「ありがとう」と微笑んだ。


「ねえ、やっぱり二人はそういう関係?」


 トーマスに聞くと首を振って「知らない……」と言った。カールに関してはアリーに聞いても笑って「違うわよ」と否定されるだけなのだ。

 先生たちに連れられて門の外に出る。 結局一組はリタイアとなり、優勝は三組だった。

 他のクラスはもう引き上げていて私たちは残って待っていた先生たちと門の外に出た。


 門を出た途端私の視界は何かに塞がれた。


「え?」

「ヴィヴィ、無事でよかった!!」


 ぎゅうぎゅう私を抱きしめて視界を塞いでいたのはジークだった。


「コホン」


 先生たちの咳払いと共にジークがグイッと引っ張られた。引っ張ったのはエル兄様。先生やクラスメイトが私たちをガン見していた。


 私は少し戸惑っていた。

 ジークに抱きしめられたことは小さいころから何度もあるけれどジークはいつも包み込むように抱きしめてくれる。そう、兄が妹を守るように。でも今はもっと切羽詰まったような……よくわからないけれど感情が高ぶったような……

 むき出しの感情をジークにぶつけられたのは初めてだった。



 私たちは全員学院長の待つ会議室に連れていかれた。

 そして学院長、担任のエルトマン先生、学年主任のバスラ―先生付き添いのもと騎士たちに詳しい事情を聞かれた。後なぜかジーク、エル兄様、魔術のアルブレヒト先生も立ち会っていた。


 事情聴取が終わると私たちはコースを外れたことについてこってりと叱られた。その後で凶悪犯に対し、全員で協力して立ち向かえたこと、全員無事だったことを褒めてもらえた。


 後日、凶悪犯が竜の森に潜伏し生徒が危険にさらされたことを騎士団からお詫びされ、犯人逮捕に協力してくれたと感謝の言葉をいただいた。何かご褒美をくれると言ってもらえたので私たちは相談の上、アウレール様が竜の森の植物を研究する許可を貰えないかと聞いてみた。

 アウレール様は自分がコースから外れたせいでみんなを危険にさらしたのにそんな資格無いと恐縮していたが、騎士団に申し入れた結果、月に一度アウレール様が尊敬していた植物学者に特別に師事できることになり一緒に採取するということで竜の森に立ち入る許可が出たのだった。

 アウレール様は小躍りして喜んでみんなの手をぶんぶんと振って回っていた。









「若様、ジャンとベニートが捕まったようです」

「ええーっ! なんて馬鹿なんだろ、去年の夏にアウフミュラー侯爵領から逃がした苦労が水の泡じゃん」

「助けますか? 王都に運ばれたようなので面倒ですが……」

「いーよ、放っておこうよ。僕、あいつら好きじゃないし。自業自得でしょ」

「しかしジャンは若様の正体を知っております」

「うーん、だけどあいつらは僕が今何をしているかは知らないでしょ。ああそうだ、僕なんかよりもっと大物の手がかりを......」

「若様、何を考えていらっしゃいます?」

「クソ兄を一人、破滅させられるかもしれない計略」

「さすが若様でいらっしゃいます」











 夏期休暇直前の魔術の授業の後、ジークが真剣な顔をして私に言った。


「大事な話がある。放課後三階一番奥のサロンに来てくれないか?」


 私がジークと一緒に魔術の授業を受けるのもあとわずかだった。ジークは夏期休暇後は竜との契約に備えその準備に入るため五年生のAクラスと一緒に授業を受ける。

 ついにSクラスは私一人になってしまう。もちろん今までもジークと学ぶ内容が違い過ぎるので一緒に同じことをしていたわけではないが、授業終わりのジークとのお喋りの時間が無くなってしまうのは寂しかった。







 放課後、サロンのドアをノックするとジークがドアを開けてくれた。中に入るとソファーに促され私は腰を下ろした。

 室内にはジーク以外誰もいない。

 サロンにはお茶を入れたり軽食をサーヴしてくれる給仕がいるのだがその人もいなくて既にテーブルにはお茶とお菓子がセットしてあった。

 ジークはドアをきっちり閉めた。


 室内で男女が二人きりになる事も、ましてやドアを閉めてしまうことも婚約者以外はタブーとされているので私は戸惑った。ジークと二人きりになる事は嫌ではないし緊張もしないがジークは普段そういうことに気を使う人だ。王太子なのだから当たり前だろう。

 昨年の夏の夜、領地のお屋敷で夜中に二人きりで話をした時とは状況が違う。学院には人の目があるのだ。

 去年の夏のことを思い出した私はハッとした。

 あの時のような話をジークはするのかもしれない。それなら誰にも聞かれたくない状況を作り出すのは当たり前だ。 私は気を引き締めてソファーに座った。


 暫く黙っていたが意を決したようにジークは話し出した。


「婚約者を決めなければいけない時期に来ている」


 ジークの言葉はすんなり私の中に入ってこなかった。それほど想像していた内容と違っていた。

 コンヤクシャ……ジークのお嫁さんになる人だ。王太子妃に、その後王妃になる人だ。



 私が黙ったままでいるとジークは言葉を続けた。


「ヴィヴィが僕のことを兄のように思っているのは知っているよ。でも、僕は君と結婚したい」

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ