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竜の国 【リメイク版】  作者: 一理。
アウフミュラー侯爵家

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12/17

ヴィヴィ九歳(7)


 魔術学院が夏季休暇に入りエルヴィンが学院から戻ってきた。


「お前、王都に戻らなくて良かったのか?」


 フィリップは半目にエルヴィンを見る。


「え!? だって兄上もヴィヴィもこっちにいるってヴィヴィが手紙で言ってたし、それに毎回楽しそうな手紙が届くんだ。俺も混ぜてくれよ」

「私はエル兄様に会えて嬉しいです!お父様は寂しいかもしれないけど」

「「父上は放っておけばいいよ」」


 兄弟の返事が被った。

 やっぱり(どんな人かは知らないけれど)私のお母様のことでわだかまりがあるのかな、とヴィヴィがシュンとなるとフィリップはヴィヴィの頭に手を置いて「ヴィヴィが気にすることは無いよ」と優しく言った。


「へえ……兄上とヴィヴィって本当に仲良くなったんだな」


 学院に行く前の二人を見ていたエルヴィンは安心したのだったが……





 ……俺は何を見せられているのだろう

 エルヴィンの目の前にはフィリップとその膝の上に乗ったヴィヴィ。図書室でフィリップがヴィヴィの勉強を見ているのだが……なぜ膝の上?

 二人の前には数冊の書物がありその一冊を開いてフィリップがヴィヴィに訊ねる。


「ヴィヴィ、魔石の取れる鉱山は?」

「えーと……ソヴァッツェ山脈のデルラー山とウチの領とチューダル伯領の境のパロヴァンテ山」

「そう。よくできたね」フィリップがヴィヴィの頭を撫でる。


「魔石はどんなことに使われる?」

「魔道具を動かすのに使います。えっと魔力が無い平民の人とか魔力を封印された子供たちが魔道具を使う時に」

「問題点は?」

「数が少ないからものすごく高価で平民の人が買える値段じゃないのと、魔道具に魔石を入れる器具をつけなきゃならない事?」


 まだまだ二人の会話は続いていたが、フィリップはヴィヴィを膝の上で抱きながら一々ヴィヴィの頭を撫でたりおでこを指で弾いたり……


 ……兄上……仲良くなり過ぎだろう……

 

 勉強が終わった後ヴィヴィにこっそり聞いてみた。


「ヴィヴィ、いつもあんな感じで勉強しているのか?」

「え? フィル兄様が兄妹で勉強を教えるときはこうするのがマナーだって。だから王都にいたときお父様に勉強を教えてやれって言われて嫌な顔をしてたんだなって納得したの。フィル兄様と仲良くなれて良かったあ」

「……」


 エルヴィンは無言になった。膝の上に乗せるのがマナーとかそんな訳無いだろ! と突っ込みたいが、冷えた関係のフィリップとヴィヴィをずっと心配していただけにこれはこれでいいのか? という思いもある。

 まあ、フィリップの甘々スキンシップには理由があるのだが。

 ヴィヴィと仲良くなったものの、フィリップはヴィヴィとの間にわずかな壁を感じていた。やはり王都の屋敷での態度が尾を引いているのか、ヴィヴィはフィリップと対面すると微かに緊張するのだ。特に何かやらかした時は身を縮こませる。またフィリップに嫌われないかと不安そうな顔を向けるのだ。

 それが歯がゆくてフィリップは従者のロータルに相談した。


「スキンシップですよ、フィリップ様」


 ロータルは断言した。


「私には兄しかいませんが、兄の子供は私が抱き上げて高い高いをしたり、顔中にキスをしたりするとキャッキャと喜びます。近頃は『おじうえーしゅきー』と兄の家に行く度に纏わりついてきます。スキンシップですよ、フィリップ様」


 ロータルは二回断言した。

 ちなみにロータルの姪っ子は三歳だ。

 フィリップはロータルの助言に従おうと思ったが、高い高いは流石に喜ばないだろう。かといってキスをするのはフィリップにはまだ難易度が高すぎる。苦肉の策で考えたのがヴィヴィを膝の上に乗せて勉強するという事だった。領地の図書室には子供向けの机が無く、ヴィヴィが椅子の上で膝立ちをして本を読んでいたという事もある。

 最初に膝の上に乗せた時、ヴィヴィに理由を聞かれたので咄嗟に『我が家のマナーだ』と照れ隠しに言ってしまったが、何故かヴィヴィが納得したのでそれで押し通すことにした。


 ロータルはヴィヴィを膝に乗せて勉強を教えるフィリップを見て「違う......ヴィヴィ様は三歳児じゃない。フィリップ様、なんか違う......」と嘆いたが、二人が楽しそうなので何も言えなかった。

 ヴィヴィはヴィヴィで、フィリップの膝の上は丁度本が読みやすくなって嬉しかったし、フィリップと更に仲良くなれて嬉しかった。


 そうしてスキンシップを重ねて過ごすうちに重度のシスコン兄が爆誕した。




 全てがこの調子で馬車に乗るときには必ずフィリップが抱き上げ、座席は隣同士。街を歩くときは迷子にならないようにと必ず手を繋ぐ。


「フィル兄様、子ども扱いし過ぎです!」 とヴィヴィが膨れて言うと

「子ども扱いじゃないよ。素敵なレディのヴィヴィに変な虫が寄ってこないか心配なんだ」とヴィヴィの頬をつつきながらフィリップが言う。

「虫? 毒虫は怖いけど、普通の虫なら私が追い払ってあげる。フィル兄様は虫が苦手なのね」

「ははっヴィヴィは頼もしいな」


 二人のやり取りをエルヴィンは複雑な気持ちで眺めていた。





 


 エルヴィンは、学院に行く前には頑なにヴィヴィを拒絶するフィリップが心配だった。拒絶されて傷つくヴィヴィも。


 エルヴィン自身はヴィヴィに会ったときはまだ幼くてヴィヴィが父の愛人の娘かもとかそんな事情は理解できなかった。

 ただ妹ができたのが嬉しくて。慕ってくるヴィヴィが可愛くて。


 大人の事情とやらがうっすら分かってくる頃にはヴィヴィと仲が良かったので父上に対して思うことはあるがヴィヴィに対しての拒否感は無かった。


 それに母上が亡くなった時エルヴィンは四歳。優しかった母の記憶は残っているが、当時の母は王妃である母の妹が第二子を身ごもり出産するまで王宮にほとんど詰めっきりだったらしい。それでぼんやりした記憶しか母に対して持っていないエルヴィンに比べフィリップは九歳。優しかった母の記憶もとても仲睦まじかった父母の様子も覚えているフィリップは余計ヴィヴィの存在が許せなかったのだろう。


 そんな訳で二人を心配しながらエルヴィンは学院に入学したのだった。


 ヴィヴィから送られてくる手紙には楽しそうにフィリップとのことが綴られていたが、ヴィヴィが心配かけまいと無理をしているのかもしれないと休暇に入ったエルヴィンは急ぎ領地に向かったのだった。


 しかし……何だこの溺愛は……

 兄上……極端すぎるよ……


 このままでは兄上に婚約者ができるかもわからないしヴィヴィがお嫁に行けるかもわからない……

 エルヴィンは別の心配を胸に学院に戻ったのだった。








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