卒業式
王国騎士団が凱旋した一週間後、慌ただしく私は学院に向かう。
卒業式のためだ。一年早いとは言えついに私は学院を卒業するのだ。この二か月私も公務に忙殺されていたので、もしかしたら知らないうちに卒業したことになっていたのかも、と密かに心配していたので、卒業式に出席できることは嬉しかった。
王宮に住んで以来学院に向かう時はアロイスの竜に乗せてもらっていた。ルーナと契約した後は王宮に帰って来てからそのままペーレント伯領に向かってしまったため学院にルーナに乗って行くのはこれが初めてなのだ。
アリー、カール、トーマスや一年生の時のクラスメイトにルーナを紹介したい。
みんなに会える喜びで私は頬が緩みっぱなしだ。
今回は随行者が多い。アロイスはいつもの事、と言いたいが、アロイスは今回同行しない。今回はリーゼロッテとブルックが同行する。アロイスはなんと今日お見合いなのだ。アロイスがお見合いなんてちょっと私もそわそわしてしまう。あの無口なアロイスがご令嬢とちゃんとお話しできるか心配だけど、卒業式から帰って来て、アロイスに「どうだった?」と聞いても答えてくれないだろう。
それからジークとフィル兄様も一緒だ。ジークは卒業パーティーのパートナーとして絶対に行くと言っているので理解できるが謎の「父兄枠だ」との言葉でフィル兄様も行くのがわからない。フィル兄様の卒業の時には私はおろかお父様だって出席しなかった。学院は遠いのであまり父兄は卒業式に参加しない。
父兄の参加を認めると学院の竜場がパンクしてしまうので、原則竜で学院に行くことは禁止されている。正式な用事で訪れる際は許可されているけどね。
今回は王宮から正式な許可をとったらしい。
ジークの護衛でエル兄様も同行する。私の身支度のためにレーベッカまで一緒に行くと言い出した。そうしたらお母様がヴィヴィの身支度は私がずっとしていたので卒業パーティーもメイドのマリアとして身支度を整えたいと言い出した。流石にお母様はまだ竜と契約していないので馬車で学院に向かうしかないのでそれは却下された。しかしレーベッカは一緒に行くという。他の護衛も合わせ結局十頭の竜で学院に向かうことになった。
学院の竜場に降りようとするとものすごい数の生徒の姿が見えた。怒号のような歓声が聞こえる。
十頭の竜で学院の竜場に降り立つ様は壮観だろう。先頭は黒竜と白竜だ。
三か月前、ルーナと契約したときには私は学院に戻っていない。だから学院生が白竜を見るのはこれが初めてだ。
ルーナから降りると学院長が近づいて来た。
「ようこそお越しくださいました。王家の黒竜と伝説の白竜が並び立つ姿をこの目で見る日が来ようとは……感激のあまり言葉もございません」
「あ、いえそんな、私は卒業式に——」って……
学院長が頭を下げているのはルーナとイグナーツだった!
私とジークはおまけかい!
学院長の横をすり抜け私はアリーたちの元に走り寄った。
「ヴィヴィ、おかえりなさい!」
「久しぶりね! 元気だった?」
アリーやリーネと抱き合ってトーマスと握手を交わす。
「はははは」
「どうしたのカール? いきなり笑ったりして」
「違う!! はは白竜って……お前……白竜って……」
「あ、ルーナを紹介するわね。私の白竜の名前なの」
私はみんなをルーナの近くに連れて行った。一組のみんなだ。他の生徒たちは羨ましそうにそれを見ている。
と言っても触れられるほど近くではない。契約者以外の人が竜に触れるのは危険だから。
「ふわーーー! 私白竜なんて初めて見たわ。こんな近くで見られるなんて!」
「安心しろ。みんな初めてだ。しっかしなんかみんな冷静じゃないか?」
感激するアリーたちの言葉を聞きながらカールが不思議がるとアリーが言った。
「だってヴィヴィだし」
「そうよヴィヴィですもの。想定の範囲内ですわ」
リーネが同調するとなぜかカールが納得した。
「そうかヴィヴィだもんな」
「え? え? どういうこと?」
私は訳が分からない。ヘンデルス様が苦笑しながら言った。
「一年の時からヴィヴィには驚かされてばかりだから今更何が起こっても私たちは耐性が付いているんだ」
「ヴィヴィ!」
ジークの呼び声が聞こえた。学院専属の従者が私たちを案内してくれようとしている。今更慣れ親しんだ学院で案内なんていらないしこれから学院の偉い人たちとお茶を飲んだりしなくてはならないんだろう。竜の森の研修の時は免除されていたけど今回はジークも一緒だ。まあこれも王族となってしまった務めだと諦めた。
みんなにまた後で会おうねと約束してジークの元に駆け寄った。
学院長を始めとする学院の偉い人たちの歓待を学院長の応接室で受けてから私たちはやっと部屋に戻ってきた。既に学院のメイドたちの手を借りてレーベッカが部屋を整えてくれている。
部屋に戻ってすぐにジークとフィル兄様が訪ねてきた。
今回も私とジークは学院の貴賓室に滞在する。護衛や従者の部屋も近い。それとフィル兄様も貴賓室の滞在だ。フィル兄様は護衛や従者ではなく王太子筆頭補佐官という肩書でもなくアウフミュラー侯爵家の次期当主として来賓になるそうだ。必死でその立場をもぎ取ったと言っていた。
「ジークのお供じゃなくて来賓だからパーティーの時にヴィヴィと踊ることが出来るよ。夢だったんだ、ヴィヴィの卒業の時に一緒に踊るのが」
嬉しそうにフィル兄様が言う。私も嬉しい。私がダンスを練習していた時に相手を務めてくれたのはいつもフィル兄様だった。足を踏んだのはフィル兄様が一番多い。
「踊ってもいいけど一番は私だからな」
ジークが私を引き寄せながら言う。
あれ? エル兄様がいない。
「ああ、エルヴィンは旧校舎にすっ飛んで行ったよ。学院ならそんなに危険はないからエルヴィンには休暇を与えたんだ。ほかの者たちも自由にしていいと言ってある。私の傍には一人居ればいいから」
あ、そうか。エル兄様はナターリエ様に会いに行ったのね。ジークの近衛になれたのだからナターリエ様と結婚するのかしら? それともナターリエ様はまだ学院で研究を続けたいんだろうか?
「エルヴィンとナターリエ嬢の結婚は来年の夏に決まったよ。ナターリエ嬢は王都の魔術院に勤めるそうだ」
フィル兄様の言葉に私は喜んだ。
んーーーでもそれと同時に心配。フィル兄様は自分の結婚のことを考えているのだろうか?
フィル兄様はもの凄くモテる。
侯爵家筆頭であるアウフミュラー侯爵家の嫡男で自身も王太子筆頭補佐官。頭脳明晰で長身、素晴らしいプロポーションの上に少し甘い雰囲気の整った美しい顔が乗っている。くせ毛の濃茶の髪を今は短く整えエメラルドのような柔らかな瞳。どこまでも完ぺきなのに二十四歳になる今まで浮いた噂一つない。
学院に在学中のことは私は知らないけれど卒業後は私と領地に引きこもっていた。王宮に出仕した後はほとんどパーティー等には出席せず、ジークが成人した後はジークの後ろに控えているのでパーティーに出席しても誰かと踊ったりしないらしい。
私はじーーーっとフィル兄様を見つめた。
「ん? ヴィヴィ、僕に見とれてどうしたの? そりゃあ僕はいくら見ても飽きないくらい格好いいけどヴィヴィに見つめられると照れるなあ」
「違うわフィル兄様。もちろんフィル兄様は格好いいけど……フィル兄様って好きな女性はいないの?」
「いるよ」
私の問いかけにフィル兄様は速攻で答えた。
「もちろん君だよ。僕のヴィヴィ」
「ちがーーーう!!」
私が叫ぶのとジークが私を抱き寄せて「私のだ!」と叫ぶのが同時だった。
レーベッカが後ろからバコーーン! とトレイでフィル兄様を叩いた。
レーベッカは一瞬自分の行動に驚いて固まったがすぐに深々と頭を下げた。
「申し訳ありません!! 私はフィリップ・アウフミュラー王太子筆頭補佐官になんて失礼を!! どのようなお叱りでも受けます」
深々と頭を下げたままのレーベッカを見つめてフィル兄様は微妙な顔をした。
「いや、いい突込みだったと私は思うよ」とジークが笑いながら言う。
「レーベッカの意外な一面を見たわ」と私も笑いながら言うとレーベッカは頭を下げたまま言った。
「いえ、私は……高位の方にこんな失礼をするつもりは……本当に申し訳ありません。たとえ妹にしか愛情を示さないど変態であろうとも、それも血がつながっていない義理でさえ無い妹なのに、世界一愛している妹だ、などとほざく性格異常者であろうとも、頭脳明晰で有能なのに口を開けばヴィヴィ様のことしか言わない残念な人間であろうとも、高位の方にこのような失礼をするべきではありません。どのように償えばよろしいでしょう……やはり職を辞してお詫びするのが——」
「え! ちょっと待って! そんな大げさな!」
私は慌ててレーベッカを止めた。黙ったままでいるフィル兄様を見つめる。
「レーベッカ・アージンガー子爵令嬢、頭を上げてくれる?」
フィル兄様が冷ややかな声で言った。
あら、いつものフィル兄様と声のトーンが違う。
小声でジークに言うとジークは「ヴィヴィと一緒じゃないときはフィリップはいつもこんな感じだよ」と苦笑していた。
フィル兄様は普段はとってもクールなんだそうだ。甘めの顔立ちでとっても優しそうで、実際言葉はソフトなんだけどどの令嬢に対しても礼儀の範囲でしか応対しないそうだ。
「君は僕のことを変態だと思っていたんだ......そしてヴィヴィもジークもそのセリフをスルーしたってことは僕のことをそう思っていたんだね……」
クールから一転、フィル兄様がへにょりとしたので私は慌ててフォローした。
「え? 私はフィル兄様のことを変態だなんて……ちょっとはシスコンかなあとは思って......あ、違うの。フィル兄様にはいっぱい助けてもらっているし、えーと、時々度が過ぎてるかなぁと......でも! 頼りになるお兄様だって......その……うん、私はフィル兄様のこと大好きだから!」
「ありがとうヴィヴィ......でもちょっとは変態だって思ってる?」
私はぶんぶんと首を横に振る。こんなにへにょりとしたフィル兄様に追い打ちをかける訳にはいかない。
あ、ちなみにフィル兄様が私を女性として好きとかそういうふうに思ったことは一度もない。だって瞳が全然違うから。ジークの瞳に感じるような熱情をフィル兄様に感じたことは一度もない。だからどんなに好きだって言われても歯が浮くようなセリフを言われても笑ってありがとうと言えるんだけどね。(ジークに言われたら恥ずかしくて嬉しくてジタバタして収拾がつかなくなる)
だけど、フィル兄様は私を未だに幼子のように思っているんじゃないかと感じたことは何度かある。フィル兄様と一緒に領地に行ったあの頃のように私を庇護すべき幼子だと思っているんじゃないかな、と。それに自分が守ってあげなければ私が傷ついてしまう、というような心配? 不安? も感じられることがある。気のせいかもしれないけれど。
そういう意味ではフィル兄様の妹愛は世間一般よりはかなりずれているかもしれないし、過剰かもしれない。そう、過剰だけど変態とは思っていないよ、フィル兄様。ただフィル兄様が私以外に関心を示すご令嬢がいないのが心配なだけ。
「まあ、フィリップが変態かそうじゃないかは置いといて、レーベッカのことは許すんだろう?」
ジークがへにょりからちょっと持ち直したフィル兄様に声を掛けた。
「置いとくのか?」
「深堀りしたいのか? フィリップ」
「僕は変態じゃないよ、ヴィヴィがこんなに可愛らしいのがいけないんだ。こんなに可愛いヴィヴィが僕をカッコイイ、好きだって言ってくれているんだよ、応えるのが兄として当然だろう? 悪い虫がつかないように、危険が無いように守るのだ当然だし、それが兄の務めだ。故に訂正を求める、アージンガー嬢」
クールな声で言うけれど、その兄の務めが過ぎるから変態だと思われているのでは? フィル兄様。
声を掛けられたレーベッカは先ほどから頭を下げたままだけど、きっぱり言った。
「口に出した言葉は事実なので訂正いたしませんが、失礼だということは重々承知しております。叩いてしまった事と合わせもう一度お詫び申し上げます。申し訳ございませんでした、フィリップ・アウフミュラー王太子筆頭補佐官」
フィル兄様はため息をついた。変態を否定するのは諦めたようだ。
「それで……私はやはり職を辞してお詫びした方がよろしいでしょうか? 金銭的な賠償でしたら虫の良いことは承知しておりますが、私個人で払える金額で、アージンガー子爵家にあまり負担が無い金額にしていただけるとありがたいのですが」
やはり俯いたままのレーベッカにフィル兄様は冷ややかな視線を向ける。
ちょっとトレイで叩いたくらいで、フィル兄様はそんな大ごとにしないと私には分かっているけれど、それでもレーベッカとフィル兄様は最初から折り合いが悪かったしなあ、と私はハラハラして見守る。
コホンとフィル兄様が咳をした。
「じゃあ罰を与えるよ。まずこれから僕のことを『とっても格好良くて才気溢れるフィリップ様』と必ず呼ぶこと。間違ってもフィリップ・アウフミュラー王太子筆頭補佐官などと呼ばないように。それから僕のヴィヴィに抱き着いても眉を吊り上げないこと。あとはーーあ、僕は君のことを下僕と呼ぼうかな」
うん、やっぱりフィル兄様はフィル兄様だった。
フィル兄様の言葉を聞いたレーベッカは反応に困っている。
「そんなことでは罰になりません」と反論したが
「十分罰になると思うけど? ほら早く『とっても格好良くて才気溢れるフィリップ様』って言って?」
と促され悔しそうに「承知いたしました、と……っても……恰好良くて……フィ、フィリップ様」と言った。
「はい、もう一度」
「とってもか、格好いいフィ……リップ様」
「才気溢れるが抜けてる」
「とっても! 格好よくて! 才気溢れる! フィリップ様!!」
「よくできました。下僕と呼ぶのは勘弁してあげるよ」
フィル兄様とレーベッカは相性最悪だと思っていたけど意外と相性良いかもしれない。
卒業式は滞りなく終わり後は卒業パーティーだ。
卒業式では五年生の主席の方がスピーチしていたが面識はない。私も一組のみんなと卒業したかったなあ……なんてチラッと思ったけどすぐに否定した。来年の卒業だったらルーナに会えなかったのだ。一年前倒しになったからこそ私はルーナと契約を結ぶことが出来た。そう考えると運命の不思議を感じる。
卒業パーティーは楽しかった。
私は五年生がすべて入場した後、最後に入場したのだがとても大きな拍手に迎えられた。
ジークとファーストダンスを踊ったけれど、卒業生全員で同時だったからあまり目立ってはいないと思う。ジークとのダンスが久しぶり過ぎてジークの足を三回踏み、脛を二回蹴っ飛ばした。
「ごめんなさい、久しぶりでダンスの腕が落ちたみたい」
上目づかいで謝るとジークは涙を目じりににじませながら微笑んだ。
「謝らなくていいよ、ヴィヴィのダンスの腕は変わっていないから。腕が落ちたのは僕の方だ。回避能力がね」
なんか失礼なことを言われたような気がするけど、反論できないので気を取り直してその後はダンスを踊らず一組のみんなとお喋りに興じていたら、フィル兄様に拗ねられた。
「僕と踊る約束をしていたのに……」
「ごめんなさいフィル兄様、忘れていたわけではないの」
ただこれ以上犠牲者を出さない方がいいと思っただけだ。
だけどフィル兄様は「ずっとヴィヴィとパーティーで踊るのが夢だったんだ」と引かないので、私は先に「ごめんなさい」と謝ってからフィル兄様の手を取った。
フィル兄様は満面の笑みを浮かべ私をリードする。
「ヴィヴィ、幸せになるんだよ」
ジーク以上に華麗な足さばきを見せながらフィル兄様が呟く。
そういえばダンスを習った時に私のパートナーを務めてくれていたのはいつもフィル兄様だった。でも何年も前なのに。
「え? なあに? 私は幸せよ。ねえ知ってる? 私はお母様が一人、お父様がなんと二人、優しいお兄様が二人もいるの。こんな幸せ者は大陸中探してもあんまりいないと思うわ」
フィル兄様の言葉に気をとられていたらまた足を蹴っ飛ばしそうになった。
フィル兄様はそれを綺麗にかわして華麗にステップを踏む。
「ふふっそうだね。僕も可愛い妹がいて幸せだ。君がどこに居ても僕は君の幸せを祈ってる」
「へんなフィル兄様。私はどこへも行かないわ」
今度はフィル兄様の足を踏みそうになった私を抱き上げる。
「そうだった。ごめんよヴィヴィ。これからもよろしくね」
私を抱き上げたままフィル兄様は見事なターンを決めると「さあフィニッシュだ」と私を下ろした。
二人でポーズを決めると周囲からわっと歓声が上がる。
どうやらいつの間にかみんなの注目を浴びていたみたいだ。
パーティーでも踊らないフィル兄様が踊った姿を見て私とも踊って欲しいという令嬢が押し寄せたのだろうと思っていたのだけど、そればかりではないみたい。
「ヴィヴィアーネ殿下、素晴らしかったですわ! 新しいステップですの?」
「フィリップ様、是非わたくしにもそのステップをお教えくださいませ」
「今まで踊られなかったのはヴィヴィアーネ殿下と新しいステップを考案なさっていたのですね」
「とっても斬新でしたわ!!」
いえ、私は基本に忠実に踊っていただけですが……
私はいたたまれなくなってその場をフィル兄様に押し付けてこそこそと逃げ出した。
ジークはかなり悔しかったようで、後日フィル兄様に新しいステップの教えを請うたらしいけど、新しいステップなんてどこにもないから!
その後は私は一組のみんなのところに戻って再び話に花を咲かせた。
もう卒業してしまった私は皆と話が出来る機会はもうないかもしれない。いなくなるわけではないから、王宮で会うことはあると思う。だけど一組のメンバーで集まって話す機会などもう無いのだ。少しの感傷に浸りながら私は皆との会話を楽しんだ。
リーネはやっと領地も落ち着いたのでこの冬はフェルザー伯領に帰ることが出来ると喜んでいた。
アリーとカールはやっと婚約を結んだそうである。
「なんだよ、驚かないのか?」
とカールが聞くので
「カールがアリーのことを好きだって気が付かなかった人いる?」
とみんなに聞いたらみんなぶんぶんと首を振った。
「だいたい去年の竜の森研修の……もがっ」
トーマスに口を塞がれた。夜中に見てしまったことは言うわけにはいかない。ごめんトーマス、口が滑るところだった。
そのトーマスにも彼女が出来たと聞いた。
一つ下の学年の可愛い子でお父様は王立病院のお医者様らしい。騎士コースの鍛錬の後によく差入れを持ってきてくれるそうだ。
「姉上のお見舞いに行って知り合ったんだ」
真っ赤な顔をしながら小さい声でこそっと教えてくれた。
「ヴィヴィが来年一緒に卒業できないのは寂しいわ」
アリーが思わず言うとみんなも頷く。私も同じ気持ちだ。私は一足先に卒業してしまうけれどこの仲間は永遠にクラスメイトだ。うん、私のまぶしい学院時代を支えてくれたかけがえのない仲間たち。卒業して立場が違ってもこの思い出だけはみんなが平等に持っている。
「来年、俺たちの卒業式に来てくれよ」
「そうだよ、もう一度一緒に卒業しよう」
カールが言いだしヨアヒムが相槌を打つ。
「今年フィリップ様が来賓で来られたようにヴィヴィも来年来賓で来れるんじゃないか?」
ヘンデルス様が言うようにもう一度このメンバーで会うことが出来たら何より嬉しいし、私もみんなの卒業を見届けたい。
国王陛下にお願いしてみることを約束してパーティーは終わった。




