第50話「錆喰いのルストと、ケルヒャー・ゴッドの咆哮」
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> **第1000階。**
> **四天王、第一の将。**
> **神々の武器を土に還し、**
> **滅菌の光すらも腐らせる。**
>
> **その前に立つのは。**
> **作業着の男、一人。**
>
> **第50話。節目の戦いが、始まる。**
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**◆ 錆喰いのルスト 視点 ◆**
「ようやく来たか」
ルストは、広場の中心に立っていた。
第1000階。
塔の中層部。
吹き抜けの天井は、はるか上空に消えていた。
「四天王第一の将、錆喰いのルスト」
ルストは、息を吐いた。
ただ、息を吐いた。
それだけだった。
入り口の金属扉が、錆びた。
みるみる赤茶色に変わった。
粉になった。
崩れた。
「私の腐食の波動は、存在そのものを土に還す」
ルストは続けた。
「金属も、有機物も、概念も、エネルギーも。全て等しく腐敗する」
扉の粉が、床に積もった。
「今まで生き残った者は、いない」
黄色いヘルメットの集団が、広場に踏み込んできた。
ルストは、先頭の男を見た。
作業着。
道具箱。
肩の上の小さな竜。
「影山湊か」
「そうです」
「噂は聞いている。一階と四百四十四階を抜けてきたらしいな」
「はい」
「ここで終わりだ」
ルストが、手を上げた。
腐食の波動が、広がった。
全員の装備に、赤い錆が走った。
「あ」
アレスの剣が、崩れた。
「私の武器が……」
アテナの盾が、粉になった。
ザルディウスの鎧に、亀裂が入った。
「先輩!!」
「ハクさん」
ハクが手を上げた。
滅菌光線が走った。
ルストに当たった。
光が、消えた。
エネルギーが、腐敗した。
「……な」
ハクが、自分の手を見た。
「私の光が……腐った」
「概念エネルギーも腐敗する」
ルストが言った。
「お前たちの力は、全て私の前で無効だ」
広場に、沈黙が落ちた。
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**◆ 圧倒的な腐食の絶望 視点 ◆**
「……どうする」
蓮が、湊を見た。
デッキブラシに、錆が走っていた。
「モップも、柄の部分から腐食が始まってる」
桐生が、手元を確認した。
「道具が……使えなくなる」
成瀬の声が、小さかった。
ザルディウスが、鎧の亀裂を見た。
「先輩……」
神代さんが、通信機を握った。
「影山殿、状況は」
「確認中です」
俺は、ルストを見た。
息を吐くだけで腐食が広がる。
ハクの光も無効化される。
道具が腐る速度も、速い。
「なるほど」
俺は呟いた。
「強力な汚れですね、これは」
「汚れだと……」
ルストが、眉を上げた。
「腐食の波動を、汚れと呼ぶか」
「汚れです」
俺は言った。
「腐敗も、錆も、全部汚れの一種です。種類が違うだけで」
「では」
ルストが、もう一度息を吐いた。
波動が、広がった。
全員が後退した。
「この汚れを、お前は落とせると言うか」
俺は背負っていた箱に、手をかけた。
「大規模清掃には」
箱を、床に置いた。
「重機が必要ですね」
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**◆ 全世界同時ライブ配信 視点 ◆**
しずくのドローンが、広場を映していた。
「皆さん、見えますか」
しずくの声が、全世界に届いていた。
同接数が、モニターに表示された。
三億二千万人。
過去最高だった。
「今、影山工務店の皆さんが……一番きつい場所にいます」
カメラが、ザルディウスを映した。
鎧に亀裂が入っていた。
それでも、デッキブラシを握っていた。
「魔王軍の皆さんは……元は敵だった方たちです。でも今は、黄色いヘルメットを被って、床を磨いています」
コメントが流れた。
『ザルディウス頑張れ』
カメラが、アレスを映した。
剣が崩れていた。
それでも、バケツを持っていた。
「神様が、バケツリレーをしてる」
『アレスさんが泣きながらバケツ持ってる』
『神様でも泣くんだ』
カメラが、ハクを映した。
光が届かなくなっていた。
それでも、前を見ていた。
『ハク、一人で立ってる』
『ライバルポジションの人が一番かっこいい』
カメラが、湊を映した。
大きな箱を展開していた。
黄色いヘルメット。
作業着。
道具箱。
「影山湊さんは……今日も変わりません」
しずくの声が、少し震えた。
「宇宙でも、天界でも、ここでも。いつも同じ顔で、仕事をしています」
コメントが、止まった。
一瞬、全員が静止した。
それから。
爆発した。
『影山工務店、頑張れ』
『世界中で応援してる』
『俺も今日、部屋の掃除した』
『私も窓拭いた』
『うちの会社の床ワックスかけた』
『関係ないけど換気扇掃除した』
『みんな掃除してる』
『影山工務店と一緒に』
しずくは、モニターを見た。
世界中の人が、一斉に何かを磨いていた。
窓を。床を。机を。
「……」
しずくの目に、涙が浮かんだ。
「影山さん」
通信を入れた。
「世界中が、一緒に掃除しています」
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**◆ 湊の新型兵器投入 視点 ◆**
箱が、展開した。
パーツが組み上がった。
機械だった。
大きな機械だった。
ドクター・ライトが、六ヶ月かけて作ったやつだ。
「対・概念汚染用高圧洗浄機」
俺はパネルを確認した。
「ケルヒャー・ゴッド」
「なんだ、その機械は」
ルストが言った。
「高圧洗浄機です」
「……高圧洗浄機」
「水圧で汚れを弾き飛ばす道具です。通常の高圧洗浄機の、概念強化版ですね」
「概念強化とは」
「水に、浄化の概念を付与しています。ドクター・ライトと世界政府が一緒に作ってくれました。キュウちゃんの聖水も混ぜてある」
「きゅう」
キュウちゃんが、誇らしそうに鳴いた。
俺はホースを持った。
ノズルを、ルストに向けた。
「しずく」
通信を入れた。
「はい」
「世界中が掃除してくれてるんですね」
「そうです」
「ありがたいですね」
「……はい」
「では始めます」
俺はトリガーを引いた。
銀色の水流が、走った。
圧力が、空気を引き裂いた。
ルストの腐食波動に、ぶつかった。
「……な」
拮抗した。
一瞬、均衡した。
でも。
「押せ!!」
ザルディウスが叫んだ。
「先輩の後ろで、圧力を支えろ!!」
元魔王軍が、俺の後ろに集まった。
「結界を張る! 水流の方向を固定しろ!!」
アテナが、手を広げた。
「水流を増幅する!」
アレスが、バケツの水を流し込んだ。
「私は」
ハクが、前に出た。
「通路を作る」
ハクが、手を上げた。
ルストの腐食波動に向けて、滅菌光線ではなく。
別の光を当てた。
「収束させる。水流の進路を、一点に絞り込む」
「ハクさん」
「指示をしろ、影山湊」
俺は言った。
「圧力を上げます。全員、ぶれるな」
「「「はい!!」」」
トリガーを、最大まで引いた。
ケルヒャー・ゴッドが、唸った。
銀色の水流が、一点に収束した。
ルストの波動を。
押した。
押した。
押した。
「私の……腐食を……」
ルストの声が、初めて揺れた。
「洗い流すだと……!?」
「高圧洗浄は」
俺は言った。
「汚れを『剥がす』んじゃなくて」
水流が、波動を突き破った。
「『弾き飛ばす』んです」
ルストの体が、水流に飲まれた。
広場の奥へ。
塔の壁へ。
壁に、激突した。
轟音が鳴った。
水しぶきが上がった。
広場が、ぬれた。
静寂が、落ちた。
壁に、ルストが埋まっていた。
動いていなかった。
「……」
「……」
全員が、固まっていた。
ルストが、壁から声を出した。
「……まだだ」
「そうですね」
俺は言った。
ノズルを、構え直した。
「四天王、まだ三人いますよね」
「……そうだ」
「では、続きをやりましょう」
ケルヒャー・ゴッドが、銀色に輝いていた。
全世界の配信コメントが、流れ続けていた。
『影山工務店、まだまだ続くぞ』
『次の四天王は誰だ』
『どんな汚れも、あの人が来れば落ちる気がする』
『なんか、そんな気がしてきた』
俺は、上を見た。
塔の天井は、まだ遠かった。
でも。
現場は、まだ続く。
それだけのことだ。
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**◆ 現場報告書 ◆**
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影山工務店 現場報告書 #004
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【案件名】
ラスト・ジグラット 第1000階 四天王戦 第一戦
【作業時間】
継続中
【使用薬剤・道具】
・ケルヒャー・ゴッド(初投入)
水圧:通常の一億倍
水質:概念浄化済み聖水
キュウちゃん成分:配合済み
・ハクさんの光収束技術:初めて攻撃に活用
・アレスのバケツ補給:縁の下の力持ち
【作業結果】
四天王第一の将「錆喰いのルスト」
塔の壁に埋め込み中(戦闘継続)
【特記事項】
世界中の人が同時に掃除してくれた。
その浄化の念が、何かの力になった気がする。
気のせいかもしれないが、水流が
いつもより強かった。
【ハクさんについて】
「指示をしろ」と言ってくれた。
進歩だと思う。
収束技術、非常に助かった。
次回も頼みたい。
【懸念事項】
・四天王、あと三人
・道具の腐食速度が速い(要補充)
・ケルヒャー・ゴッドの燃料残量 七十二%
・キュウちゃんが少し疲れている(要休憩)
【一言】
高圧洗浄は、汚れを剥がすんじゃなくて
弾き飛ばすんです。
これは清掃の基本ですが、
今日改めて実感しました。
世界中の皆さん、ありがとうございました。
おかげで水流が強かったです。
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影山湊 (印)
キュウちゃん(肉球 少し疲れ気味)
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*次話へつづく*
第50話あとがき:影山湊の「清掃日誌」
## 影山湊の現場報告書
【今日の汚れ度:計り知れません(概念ごと腐ってました)】
第1000階のルストさん、息を吐くだけで金属を粉にするのは、清掃員泣かせにも程があります。でも、世界中の皆さんが一斉に掃除をしてくれたおかげで、ケルヒャー・ゴッドの水圧が理論値を超えました。皆さんの「綺麗にしたい」という気持ちは、物理法則すら書き換えるんですね。
【職人の一言】
「高圧洗浄機を使うときは、跳ね返りの水しぶきに注意しましょう。汚れを弾き飛ばす力が強いほど、自分に返ってくるものも大きいです。養生は基本中の基本ですね」
【近況報告】
本業の漫画『ドリブラーキーパー』ですが、作画中にインクが手について、それを落とすために開発した自作洗剤が、なぜかアシスタントの間で「魔法の液体」と呼ばれて重宝されています。漫画の原稿も、現場(塔)の攻略も、一歩ずつ進めるしかありません。
【次回予告】
次の現場は「第3000階:油膜の海」。
四天王二人目、ベタつきの権化が登場します。
次回、第51話「油まみれの誘惑と、超音波洗浄の調べ」でお会いしましょう。
皆さんの【★★★★★】評価が、ケルヒャー・ゴッドの次なる燃料になります!




