第3話「世界が騒いでも、本人は掃除中」
【超強力清掃員スレ】謎のFランク清掃員「影山」について語るスレ part1
1 名無しの探索者
昨晩のしずく配信見たか? やばすぎだろあれ
2 名無しの探索者
見た。三回見た。見るたびに正気か疑う
5 名無しの探索者
【悲報】Sランク魔竜さん、ただの粗大ゴミだった
スレタイ草。草だが否定できない
9 名無しの探索者
「燃えないゴミはちゃんと分別しろ」って言いながらデコピンしてたの本当に頭おかしい(最大級の褒め言葉)
14 名無しの探索者
動き解析した。詠唱ゼロ。構えゼロ。スキル発動の光すらなし。何をしたのか物理的に意味不明
18 名無しの探索者
魔竜が「概念ごと消えてる」って専門家が言ってて草も生えない
23 名無しの探索者
清掃会社「クリーンハンター」の株価ストップ高で草
27 名無しの探索者
「残業代も出ないし帰ろ」←この男の全てが詰まってる
31 名無しの探索者
あのおっさん何者だよ。本当に何者だよ
35 名無しの探索者
世界救ったのに帰宅してるの人類で一番かっこいい
◆ 天海しずく 視点 ◆
「……もう一度、スロー再生してくれ」
会議室に低い声が響いた。
ギルド『蒼穹の剣』。国内でも最大規模の探索者ギルドだ。
大きなモニターには、昨夜の配信映像が映し出されていた。
ギルドマスターの神代 厳が、腕を組んだまま映像を睨んでいる。現役Sランク探索者。口数が少なく、滅多なことでは表情を崩さない男が、今日は目に見えて動揺していた。
「……詠唱なし。構えなし。スキルの発光反応なし」
しずくの隣に座る副ギルドマスターが静かに言った。
「魔竜の質量が、消えています。爆発でも分解でもなく、概念ごと消滅している」
「概念ごと、か」
神代が静かに立ち上がった。
「これは……現行の魔法理論では説明がつかない」
「私もそう思います。何より怖いのは」しずくは口を開いた。「あの人、全然本気じゃなかったんです。眠そうで、面倒くさそうで。魔竜のことを本当に、ゴミとしか思ってなかった」
会議室が静まり返った。
神代が静かに、しかし絶対的な声で言った。
「『影山』という清掃員を全力を挙げて探し出せ」
眼が血走っていた。
「彼を味方につけたギルドが、覇権を握る。それだけは確かだ」
◆ 影山湊 視点 ◆
「おい影山! 手が止まってんぞ底辺!!」
怒鳴り声で意識が戻った。
「すみません、今すぐやります」
Fランク指定ダンジョン『滲み出る沼』地下一階。
発生するモンスターはほぼ最弱。しかし代わりに何が湧くかというと、ヘドロだ。
天井から。壁から。床から。とにかく全方向からヘドロが湧き出てくる迷宮で、俺の今日の仕事はその回収だった。
「クソ……昨日の裏山より絶対こっちのほうがきつい」
強さじゃなく、臭さが。
嫌味な上司の桐島が腕を組んでこちらを見下ろしている。
「お前みたいな底辺がいるから、俺たちのギルドの評判が下がるんだよ。わかる? 意味わかる?」
「……はい」
「返事だけは一人前で草。さっさと終わらせろ」
俺はモップを握り直した。
まあいい。とにかく終わらせよう。
仕事を終えて施設の廊下を歩いていると、すれ違ったエリート探索者のパーティーが急に動きを止めた。
「……おい」
ヒソヒソ声。
「あれ……」
「まさか……」
「ロゴ見ろよ、クリーンハンターだぞ」
「は、本当だ……」
なんか俺のことをジロジロ見ていた。
探索者たちが左右にさっとわかれ、廊下を広く空けた。通り道を作るように。
俺は首をかしげた。
なんだ?
「……今日の俺、そんなに生ゴミ臭いか?」
一人がびくっと肩を震わせた。
まあいいか。
俺は溜め息をひとつついて、廊下を歩き続けた。
今日も残業確定だ。
帰ったらシャワー浴びて、飯食って、寝よう。
裏山は、気が向いたら行けばいい。
世界が自分のことで騒いでいることなど、影山湊はこれっぽっちも知らなかった。




