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僕とケット・シーの魔法学校物語  作者: らる鳥
六章 二年生

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 その後もエリンジ先生とは色々な話をしたけれど、そこからは僕が魔法学校で経験した出来事を語ったりとか、楽しい話をしていたから、時間が過ぎるのはとても早かった。

 夕暮れの頃合いに部屋を辞し、僕とシャムは卵寮の食堂で夕食を取ってから、自室に戻る。

 そしてシャムが僕の肩から、ぴょんとベッドの上に飛び移ったのを確認してから、僕は椅子に腰を下ろして、深々と溜息を吐く。


 エリンジ先生との話は楽しかったけれど、やはり重い内容もあったから、頭が随分と疲れてる。

 風呂に入ったら、すぐにでも眠ってしまいたいところだけれど……。


「ねぇ、キリクはどうして、エリンジ先生からの提案を保留にしたの?」

 ベッドの上のシャムが、ジッと僕を見据えて、そう問う。

 あぁ、やっぱり聞かれちゃうか。

 どんな風に答えれば、この気持ちが正しく伝わるのか、僕は暫し、目を閉じて考える。


 エリンジ先生から提示された強くなる為の方法は、魔法生物との契約だった。

 それも、今の僕では契約を持ちかけても鼻で笑われるだけだろう強い魔法生物と、エリンジ先生が仲立ちする事で、契約を成立させてはどうかと言われたのだ。

 例えば空を飛ぶという強力な移動手段を与えてくれる天馬や、蛇体による強烈な締め付けや、魅了の力を備えた、ラミアという血吸いの蛇女との契約を。


 確かに、魔法生物の力を借りれば、僕は手っ取り早く強くなれるだろう。

 魔法生物の力が如何に強力かは、ケットシー達の村で育ち、今もシャムと暮らす僕はよく知っている。

 尚且つ、魔法学校内ではその力を借りなければ、授業で自分の力を持て余す事も、……ないとは言わないが、今と何も変わらない。

 尤も、常に傍らに魔法生物を侍らせないなら、力を借りる為には、契約した相手を自分のところへと引き寄せる魔法を覚える必要はあるけれど、幸いにも、僕は新しい魔法の習得は得意だ。

 エリンジ先生の提案は、学生という立場も考慮された、僕にとって非常に都合の良い、よく考えられたものだった。


 では何故、僕はその提案に対して返事を保留し、今もこうして躊躇っているのか。

 それは色々と理由はあるんだけれど……、やっぱり相手が魔法生物だからだろう。


 僕にとって最も身近な魔法生物は、ケット・シーであるシャムだ。

 他の魔法生物と契約を結んだとして、シャムと同じように接する事ができるかといえば、それは断じて否である。

 同じように接する必要はないのかもしれないけれど、ではどんな関係を構築すれば良いのか、それが僕にはわからなかった。

 まして、エリンジ先生の仲立ちで成立した契約の場合、魔法生物だって、僕に従う事は決して本意ではない。

 互いに遠慮、隔意がある状態で、良い関係が結べるとは、僕にはどうしても思えないから。


 要するに、今の僕には魔法生物との契約は、身の丈に合わない力だった。

 少なくとも、エリンジ先生の仲立ちで成立する契約は、僕はどうしたって持て余す。

 ただ、後々の事を考えた場合、魔法生物との契約は……、今すぐではないにしても、いずれは必要になるだろう。


 なら僕は、一体どういう形なら、魔法生物との契約を受け入れ、納得ができるのか。

 契約を結んだ魔法生物との関係を、積極的に構築できるのか。

 それをずっと、考えている。


「シャムは、どう思う? 魔法生物との契約って」

 僕の中には、もうある程度の考えはあった。

 でもシャムの意見が聞きたくて、僕はそう、彼に問う。


「良い話じゃないの? キリクを強くする為なら、使えないのは連れて来ないだろうし。もしも反抗的な奴だったら、ボクがビシッと言ってやるさ」

 するとシャムは事もなさげにそう答える。

 恐らく彼は、僕よりもずっと契約に関してドライな考え方をしているのだ。

 そうじゃなきゃ、マダム・グローゼルとの契約なんて、黙って勝手に結ばなかっただろうし。


 けれども、ビシッといってやるは、ちょっと面白い。

 なんというか、シャムらしくて、とても頼もしい返事だった。

 だったら僕も、これ以上迷う必要はない。


「なら、シャムがビシッと言ってくれるなら、契約はエリンジ先生に頼らずに、僕とシャムでやろうよ。今すぐじゃなくて、高等部に上がった、一年後の今頃にでも」

 これが僕の結論だ。

 エリンジ先生の仲立ちで成立する契約は、与えられた力だとしか僕には思えない。

 しかし、その仲立ちがエリンジ先生ではなくシャムだったなら、僕は共に手に入れた力、僕達の力だって思えるだろう。


 魔法生物との関係も、僕と、シャムと、その魔法生物の三人……、いや一人と二匹?で築いていける。

 これが僕にとって、一番納得できる形だった。

 僕には、契約に関する知識が足りなさ過ぎるから、今すぐって訳にはいかないけれど、どのみち引き寄せの魔法や、契約をする魔法生物に関して詳しく学ぶ必要はあったのだ。

 それが一年先になったとしても、少し大きな誤差でしかない。


 まぁ、水銀科に入ってすぐに研究室を得るって目標の他に、魔法生物との契約もって欲張るなら、この一年は準備で本当に忙しくなるけれど、それは元より覚悟の上だし。

 僕が納得のいく道を選ぶ為なら、多少の……、いや、それが一杯の苦労でも、仕方ないと受け入れよう。


「ふぅん、まぁ、別にいいけど……。キリクは物好きだね」

 シャムは呆れた風に、小さく息を吐いて、ベッドの上で丸くなる。

 言いたい事を口にした僕も、思わず大きな欠伸をしてしまう。

 さて、このまま眠気に負けてしまう前に、さっさと風呂に入ろうか。



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― 新着の感想 ―
[一言] >今の僕には魔法生物との契約は、身の丈に合わない力 シャムは呆れたみたいだけど、キリクのこういう所に共感する。 自分の、自分たちの力で契約したいって思えるのがすごいなぁ それがきっと出来て…
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