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私と、私達に責任がある。
実にややこしい言葉だけれど、エリンジ先生は事細かに、その意味を話してくれた。
一つ目の私は、スカウトをしたという責任。
エリンジ先生にスカウトされなければ僕とシャムは魔法学校に来なかったし、怪我を負う事なんてなかっただろう。
更に襲撃者であるベーゼルも、元々はエリンジ先生にスカウトされて魔法学校に来た当たり枠だ。
両者が揃ったのは、エリンジ先生の働きによるものだと言われれば、まぁ、間違いじゃない。
二つ目の私達というのは、エリンジ先生も所属する『影靴』って名前の部隊が、襲撃を予測して防げなかった事に対する責任だという。
影靴は、影を歩く靴って意味らしくて、生徒に知識や魔法を教える事が役割の教師たちを表とするなら、裏を担う存在だ。
尤もエリンジ先生を始めとして幾人かは、表と裏の両方に所属してるらしい。
その活動内容は、情報収集やスパイ活動等の諜報や、口には出させない色々で、魔法学校を守っている。
長期休暇で生徒が実家に帰って過ごせるのも、彼らがウィルダージェスト同盟に属する国の中から、敵対勢力を排除しているからだった。
新たな生徒のスカウトも、各地を動きまわる影靴の仕事になるんだとか。
但し彼らの手の長さも無限じゃないから、どうしても取りこぼしは出てしまう。
その取りこぼしが、ルーゲント公国やサウスバッチ共和国に帰省中の生徒が事件に巻き込まれたって話だったり、……先日のベーゼルの襲撃だったりする訳だ。
「ベーゼル君が死んだとされた件については、我々も調べてはいたんだ。学生の身ではあっても、彼程の実力があればそう簡単に戦場で死ぬ筈がないとね」
幾ら影靴が魔法学校の裏を担うと言っても、大勢が入り乱れて戦う戦場は彼らの管轄外だった。
ベーゼルの死を疑った影靴は、密かに捕虜となった可能性を考えてボンヴィッジ連邦にも調査の手を伸ばしたが、特に成果は得られなかったそうだ。
そりゃあそうだろう。
実際にベーゼルを確保してたのは、ボンヴィッジ連邦じゃなくて、星の灯という宗教組織だったのだから。
一体どういう経緯で、ベーゼルが星の灯に囚われたのかは、未だに判明してない。
「ベーゼル君が生きて敵となったなら、このウィルダージェスト魔法学校への侵入は容易だ。彼は旅の扉の魔法を含めて、幾つかの移動の魔法が使えたからね」
まぁ実際には、そんなに簡単な話じゃない筈だ。
旅の扉の魔法で移動できるのは、定められた場所に対してのみ。
移動してすぐに、姿を見られてしまう可能性は、決して低くなかっただろう。
実際、僕とシャムが、エリンジ先生に連れられて旅の扉の魔法で移動した時は、すぐにシールロット先輩と遭遇したし。
但し長期休暇の間だけは、魔法学校に滞在してる人数、出入りする人数が共に大きく減るから、その隙が狙われた。
それはきっと、魔法学校の内情に詳しくなければ、出てこないだろう発想だ。
つまりベーゼルが、魔法学校に侵入する時期を自身で決めた可能性が高い。
捕まって洗脳されたのか、それとも自ら星の灯に加わったのかは定かでないが、自ら襲撃計画を練れる立場にあると思われる。
「それを見逃してしまったのは、私達のミスとしか言いようがない。本当に君達にはすまない事をしてしまった」
エリンジ先生はそう言って、僕らに深々と頭を下げた。
正直、もう今更な気はするし、他の誰かならともかく、彼にはこんな事で頭を下げて欲しくはないんだけれど……。
だけどそれで、エリンジ先生の気が済むのなら、その謝罪は受け入れよう。
実際のところ、戦場で行方不明になったベーゼルの行動なんて、予測する方が無理ってものだ。
もうこれ以上、あの事件を引っ張る心算はない。
本当なら、二度とベーゼルが魔法学校に侵入できないようにして欲しいのだけれど……、それが難しい事もわかってた。
「あぁ、登録された生徒の抹消は、我々教師にも不可能だ。過去に科同士の争いが激しかった時代に、自分の出身の科を有利にする為、他の科の生徒を除籍しようとした愚か者がいたらしくてね。生徒の登録はできても、学籍の削除はできないように、強固な封が幾重にも施されてしまっている」
故に魔法学校の防衛機能は、ベーゼルに対しては殆どが効果を発揮しないままである。
外敵に対しては強固な守りも、一度内側に入れてしまった相手に対しては、効果が薄い。
なんというか、魔法学校が積み重ねてきた歴史の重さと、それによって生じた歪みって印象だ。
そこまで話して、エリンジ先生は、大きな息を吐く。
次の言葉を舌に乗せる準備をするように。
「もしも星の灯が、キリク君が星の知識の保有者であると知ったなら、決して害さず、捕らえて自分達の下に招こうとしただろうね。彼らの教義は、星の彼方にある、理想の世界の再現だそうだから。なんでも、その世界では王を民が選ぶらしいね?」
そして一呼吸を置いてから放たれた言葉は、中々に意外で、だけどよくよく考えてみると、納得のいくものだった。
星の灯という宗教を創設したグリースターは、星の知識の持ち主だったという。
ならば同じ星の知識の保有者を特別視するのは、そんなにおかしな話じゃない。
またグリースターが、記憶の中に在る前世の世界を、この世界よりも素晴らしい物だと思っていたなら、それを再現したいと考えるのも、……もしかしたら当然なのかもしれなかった。
しかし、それにしても、民が王を選ぶって、もしかして民主主義の事を言ってるんだろうか。
アレは別に王を選ぶ訳じゃないし、そもそも民の一人一人にある程度の知識と考える力がなければ、成り立たないものだと思うのだけれども。
民が主となり国を動かすと言えば聞こえは良いが、その民に国を動かせるだけの力がなければ、待っているのは滅びでしかない。
今のこの世界に、民主主義を持ち込めば、聞こえが良い分だけ盛大に、混乱を撒き散らす結果になるだろう。
「その理想の世界の実現には、魔法使いなんて存在は邪魔なんだそうだ。彼等も、奇跡と称して神秘の力は使うのだがね。自分達は特別らしい。もっと早く、星の灯が大きくなる前に手を打てていれば、良かったのだろうけれど……」
苦々し気に顔を歪めるエリンジ先生。
つまりその頃の、星の灯が大きく成長している時期のウィルダージェスト魔法学校は、魔法使いを否定する宗教組織の対処よりも、内輪での争い、科と科の対立に忙しかったという訳だ。
或いはその魔法学校の、魔法学校を卒業した魔法使い達の態度が、彼らを否定する星の灯の拡大に、一役買ってすらいたのかもしれない。
本当に、昔の魔法学校で行われていたという科の対立は、多くの禍根を残していた。
もしも先代校長のハーダス先生が居なければ、それが今も続いていたのかと思うと、心底ゾッとする。
「話が逸れたけれど、もし仮にキリク君が魔法使いにならなかったとしても、星の知識の保有者であると知られれば、結局は星の灯に狙われる事となる。だから私は、君には強くなって貰いたい。誰がキリク君を狙おうと、自身でその身を守れるくらいに」
どうやら、それがエリンジ先生が、僕とシャムをこの部屋に呼んだ本題らしい。
ケット・シーの村に引き籠って一切出ないならともかく、今の友人達との関係を保ち続けるなら、星の灯や、他の何かに狙われる可能性は消えないだろう。
そもそも自身が狙われなかったとしても、友人の身に危険が及ぶようなら、僕に知らないフリはできないし……。
だったら確かに、僕は強くなる必要がある。
今すぐにって訳じゃなくても、この魔法学校で守られている間に、可能な限り。
そしてその為の方法は、エリンジ先生が提示してくれるようだった。





