黒服の男
翔
11月の中旬。
眩しい。
目を開けたら、光が差し込んできた。手で目を覆いながら僕は座り上がった。目の前には川がある。いつもの場所だ。
またあの夢を見た。真っ白の満月の下、僕は壁の影から道路を見ている。その道路には大きな血溜まりが二つある。血溜まりは徐々に広がり、やがて血溜まりの端と端が会う。そして、二つだった血溜まりは一つの血溜まりになってゆく…
お腹が鳴った。もう3日間も食べていない。死にそうだ。もう空腹と寒さで死んでしまうかもしれない。金もない僕には、食べ物は買えない。
空腹で腹が痛い。僕はただ堤防にもたれかかり、ただ川を見つめた。
その時だった。ほぼ全身黒服を着た男が目の前に現れた。その人は黒いワイシャツに漆黒のネクタイを締めて、オリーブ色のファー付きコートを羽織っていた。
「翔。」知らないその人に名前を呼ばれて、僕は驚いた。
男はふっと笑って、
「当たりか。」と言った。
そして、コートの内ポケットから何かを取り出した。拳銃だ。
僕はヒィッと思わず声を出し、座ったまま後ずさった。だけど、後ろは壁だ。
「死ぬのが怖いか?」彼は笑いながら言った。「心配するな、一瞬で終わる。」
恐怖で声が出ないまま、僕は銃口が僕の方に向くのをただ見ていた。狙われる心当たりもなく、頭の中はただ混乱と恐怖で満たされていた。
そして、男は引き金を引いた。
僕は死んだっと思った。だけど、目を開いたら、目の前には止まった弾丸と男の驚いた顔が見える。
「何これ…。」僕はつぶやいた。
「なぜだ⁈まだこいつの特殊能力は発動しないんじゃ…!」男が怒鳴った。「おい、出て来い!」
すると、建物の影から銃を持った人が出てきた。僕はその人たちに囲まれた。
「撃て!」
あたりに銃声が鳴り響いた。だけど、弾丸が全て当たらずに僕の前でただ浮いた。時間が経つとその弾丸は力を全て使い切ったかのように落ちていった。
「チッ‼︎今回は逃がしてやる。だが、ボスの命令はお前を殺すこと。次はないからな。」男はそう言って、去っていった。銃を持った人たちも彼の後を追った。
「助かった…?」僕は掠れた声で自分に言った。
ほんの一瞬で全てが起こった。展開が早すぎて、僕は今だに何が起きているかわからない。
「お前はそう思っただろうな。」突然横にまたあの男の声がした。
僕は咄嗟に横を見ると、あの男がいつの間にか真横に座っていた。
拓也
「敏美さーん、俺この仕事やりたくなーい!人探しなんて僕の分野じゃないよー!」
「わがまま言ってないで、早く行ってきなさい。」
「やーだー!」
「まったく、いつまで子供やってるの。そのままじゃクビにするわよ。さあ、早く涼平と仕事済ましてきなさい。」
本当に敏美さんは頑固なんだから。敏美さんは僕たちの上司だ。何を言っても、この人が決めたことは変えられない。だから、今回の人探しも引き受けなければならない。なんて、面倒くさいことだ。
その時後ろで書類を整理していた、背が高い黒髪の人が立った。彼は振り返り、俺を鋭い目で見た。
「さあ、仕事に行くぞ。」
彼は涼平、22歳だ。真面目で、脳内は仕事のことだけだ。顔たちはいいが、俺ほどではない。
俺はため息をついて、涼平について行った。
俺たちはしばらく歩いた。
「俺たち今どんな人探してるのー?」
「拓也、お前敏美さんからもらった資料見なかったのか。」
「俺が見るわけないじゃーん。」
涼平はため息をつきながら、俺に写真を一枚渡した。俺はその写真を見て、不思議に思った。
その写真には、一人の少年が写っていた。13歳ぐらいだ。彼は痩せ細く、無表情だった。まるで、人形の失敗作のようだ。
「俺たちなんでこいつを探してるの?俺たちは孤児院じゃないでしょ。」
「スカウトだ。」
涼平が言った。
「はぁ?こんな弱っちいやつスカウトしてどうすんだよ!こんなヒョロヒョロなやつに何ができんだよ!」
「お前も随分ヒョロヒョロだ。」
「あ゛ぁ?喧嘩売ってんのか?」
「落ち着け、拓也。こいつは身体が弱くても、力を持ってる。敏美さんがそう言ってる。」
俺はため息をついた。敏美さんがスカウトするということは実力は間違いなくすごいものなのだろう。だけど、こいつに俺らみたいな力があったとして、こんな気力のなさそうな奴が何をできるというのか。まあ、だけど敏美さんがスカウトするほどということことは相当「いい」力を持っているのだろう。
「いたぞ。」
突然の涼平の声に俺は驚いた。涼平の見ている方向を見ると、俺は目を丸くしてさらに驚いた。
あの写真の少年が銃を向けられている。先を越されたらしい。




