㉟リリの成長
治癒の才能に必要なのは、医療と肉体構造に関する知識だ。
ただ治そうとすると、対象のすべてを治癒してしまうから、体力を過剰に消費して気を失う。対象の損傷個所を的確に把握することで、ピンポイントで治癒することができ、体力の消費を抑えることができる。
これまでリリは、かすり傷一つ治癒しただけで、気を失ていたのだろう。
今考えると対策は意外とシンプルだった。知識はすぐに身につけることができる。筋トレとは違ってね。
「でも正直前回で案は出尽くした感があるよねぇ~。治癒の才能は鍛えるのが難しいのかなぁ。」
前回は才能自体を伸ばす方法ばかりを考えていた。視点を間違えていたから解決策も出ないわけだ。
「今回は視点を変えてみない?リリは治癒する時に何か考えたりしてる?」
「ん~いつも、治って!ってお願いしてるかな。治癒している間はちょっとずつ力が抜けて、最後に気を失っちゃう...」
「なるほどね。治癒が終わった瞬間じゃなくて、徐々に抜けていく感じなんだ?」
「うん。治癒が終わるタイミングもよく分からなくて...。あたしは、気を失うから治癒が終わったって思っているの。」
全身を治癒していくから、気を失うまで体力を失い続けるのだろう。これまで治癒してきた相手は、治癒される前よりも元気になっているはずだ。
「どんな怪我でもぉ、治癒したら気を失うってやっぱり変だよねぇ~。エミの才能は起こす風の強さで使う体力の量が変わるもん。」
エミリーは相変わらず鋭い。
「確かに。僕の才能も一緒だよ。だとしたら治す怪我の大きさで、体力の消費量が変わらないとおかしいよね。」
少しずつ整理しながら、結論へと導く。
「あたしも変な気がしてきた...。なんで気を失うまで体力を使っちゃうんだろう。」
「じゃあさぁ、小さい怪我を治すイメージで治癒してみるとかはどうかなぁ~?それなら少しの体力消費で済みそ~。」
いいアドバイスだエミリー。大事なのは具体的なイメージ。それができれば変わるはず。
「イメージか...。あたし頑張ってみるよ!」
そうと決まれば傷を作らないとな。
俺は自分の爪で、自分の指先を切った。指先から血が流れだす。
「よし。そうと決まればやってみようか。リリ、僕の指先を治癒してくれる?」
「ちょっ、ゼルノくん!?急に何してるの!?自分で指切るなんて...。」
「...エミもびっくりしたよぉ。ゼルノくん大丈夫ぅ?」
...まずったか。
だが後には引けない。
「ごめんね急に。試すなら早い方がいいかと思って...。小さな傷だから痛くないし大丈夫だよ。とりあえずやってみようよ。リリ、小さい傷を治すイメージはできた?」
「わかった...。ありがとうねゼルノくん。....よしっ!」
そういった後、彼女の柔らかな手が俺の手を包み込んだ。
「...役得だねぇゼルノくん。そういう狙いだったのかなぁ~?」
エミリーがニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。そんな訳ないじゃないか。全く心外だな。
「冗談はよしてくれよエミリー。大事な瞬間なんだからさ。」
エミリーはペロッと舌を出して反省の色がない。そしてぎゅっと目を閉じているリリは集中しているのか反応がない。手のぬくもりだけが伝わってくる。
徐々に傷口が温かくなってきた。いや傷口だけじゃない。全身でぬくもりを感じる。リリの額には汗が浮かび始めた。まだ目はぎゅっと閉じたままだ。
このままじゃまずいな...。名残惜しいが、俺は強引に手を引き離した。
「リリ、大丈夫かい!?」
「はっ!?ゼッ、ゼルノくん...。あたし....やっぱり駄目だったのかな...?」
肩で息をしながら、リリは落ち込んだように小さく息をついた。
「そんなことないんじゃないかなぁ?だって、リリちゃん気を失ってないじゃん!これは成長なんじゃない!?」
そうだ。そして俺は彼女の前に指先を掲げた。
「ほらリリ。僕の指先の傷、治ってるよ。ありがとう、そしてやったねリリ。」
「えっ...!?うそ...なんで!?」
リリは大きな目をさらに大きく広げて驚いている。きっと途中までは、傷口を治すことに集中できていたはずだ。ただ、治癒が終わったことに気づいていなかった。きっと目を閉じていたからだろう。そしてそのままこれまで通り全身を治癒し始めていた。そこで俺が強引に治癒を止めたから、気を失わずに済んだ。
まとめるとそんなところだろう。
次からは、傷口を見て治癒することで完全にリリ自身で才能を制御できるようになるはずだ。
「やっぱりエミリーの言ってた通りイメージが大事だったんだね。あとは目を閉じないで傷口を見ながら治癒すると、イメージもしやすくなるだろうし、傷が治癒されたことも確認できると思うな。」
「そっか...そっか。あたし気を失わないで治癒の才能を使えたんだ...。二人とも、本当にありがとう!」
リリのその満面の笑みを見ることができただけで、それだけですべてどうでもいいように感じた。
だが、ここは通過点。目標達成に向けて、次のステップへと進まなければ。




