⑳作戦会議
「アンタのお手並み拝見、ってとこかしら?楽しみにしてるわ。」
ニヤニヤしながら言ったアイナのその一言に、俺は心の中でしかめっ面をした。
「アイナにも協力してもらうつもりで、声をかけてたんだけど。そこまでちゃんと分かってるよね?」
「うんうん、分かってるわ。変えてやろう、って話でしょ。」
放課後、誰もいない教室に俺はアイナとジャックを、作戦会議と題して集めた。
面子を見たアイナは、俺が説明する前に何となく内容を察した様で、終始ニヤニヤしている。腹立たしい。
元々、俺はこの件には一切関わるつもりは無かったが、少々状況が変わり、目立っても大丈夫な駒が必要になった。
それにこれはジャックにとっても悪い話じゃない。上手く行けば、ニックのパシリという現状から、抜け出すことが出来るだろう。
「あ、あの....作戦会議って、なに、するの...?」
ここまで一言も発していなかったジャックが、ようやく声を出した。居心地が悪いのか、体をモジモジさせながら、視線をあちらこちらに向けていて、落ち着きがない。
「ジャック、君は、今の学園生活に満足しているのかい?」
「え....?...僕は...満足、してないかな...」
「それはどうして?」
「自分の弱さが....情けなくて.....」
ジャックはあくまで自分がダメだと思っているようだが、それは違う。悪いのは100%ジャックの弱さにつけ込む方だ。ただ一方で、弱肉強食はこの世の真理でもある。いつまでも弱いままでは、一生食い物にされ続けるだろう。
ジャックのような、未来のある人間には、少しでも強さを身につけて欲しい。俺はジャックを駒として使おうとしているが、そういう気持ちも無い訳では無い。だから、ジャックを駒に選んだのだ。
そういった気持ちをアイナに見透かされているのは、少し気に入らないが、まあ気にしないでおこう。
「ジャック、アンタはどうしてそんなにモジモジゴニョニョ、自信なさげなの!?もっと堂々胸張って前見なさいよ!」
そんな矢先にアイナが、我慢しきれないと言った感じでぶち込んできた。もっと言い方はある気がするが、アイナらしいと言えばアイナらしいな。
「ひぇっ.....ご、ごめんなさい....僕、昔っからこうで、よく注意もされるんだけど....なかなか治らなくて....」
「なるほどね、昔からという事は、大方、もっと自信をもて!シャキッとしろ!、みたいな感じで注意されていたんでしょうね。いい?自信って言うのは、持つものじゃなくて自然とつくものなの!自分が行った経験や行動が、自分に自信をつけてくれるの。」
アイナの持論に俺も頷く。全くもってその通りだ。
「持つもの、じゃなくて自然とつくもの....経験と行動....」
「そうだねジャック。アイナの言い方は少しキツかったけど、内容は的を射ている。これまで何かに挑戦する事なんて無かったんじゃないか?自信が無いから、なんて言ってさ。」
まずはジャックの考え方から変えていく必要がある。アイナにはまだ何も説明していなかったが、上手くぶち込んでくれた。脳筋タイプに見えて、意外と考えることが出来るのだ。
「確かに...僕は、自信が無い事を言い訳に、逃げてばっかりだったかも....本当は、挑戦して初めて自信が付くはずなのに。僕は、順序が逆だったのか...」
分かってくれたみたいだ。ジャックは、きっと心の底では分かっていたのだろう。その底にあった考えを、アイナは強引に引き上げてくれた。アイナに声をかけて良かったな。
「そうよ。アンタ、分かってんじゃない。ってことで、作戦会議かなんだか知らないけど、ゼルノ、ジャックの自信に繋がる挑戦すべき課題を提示してくれるんでしょ?」
「そうだね。さすがアイナ。お見通しだったかな。」
「このくらい当然よ。で、何しようって訳?」
「うん。まず、これから話す内容は、3人の秘密にしておいて欲しい。それでもいいかい?」
これは絶対条件だ。俺は自身が目立たないことを最優先で考えている。ここから先の話に、俺が関わっている事は誰にも知られてはいけない。エルレイナに俺の存在を知られるリスクを極力減らすためだ。
「もちろん。」
「うん....!どんな事でも挑戦するつもりだよ!」
2人とも肯定してくれたことを確認して、話を続ける。
「いいねジャック。やる気があるのはいい事だ。だけど、少し危険を伴うことを理解しておいて欲しい。それを踏まえた上で、ジャック、君には、最近出没している不審者を捕まえてもらう。」
「....なるほどね。そう来たか。」
「.....え?....むむむむむむむ無理だよぉ!!!」
目をかっぴろげて驚いているジャックの姿はは少しおもろしろかった。それと比較してあまり驚いていないアイナの、探るのような視線は少し気になるが、とりあえず話を進める。
「ジャック、挑戦した後に自信はついてくる、だよね?」
「ででででも、思ってたのと全然違うというか!自信ある人でもやらない気がするけど!?」
「ジャック、大きい声でハキハキと話せるじゃないか。いい調子だぞ?」
「え?そうかな....じゃなくて!」
「じゃあ、やめる?それならそれでいいよ。ほら、そこのドアから廊下に出て、寮まで帰りな?それで明日からも何も変わらない、今まで通りの日常を過ごせばいいさ。」
ここであえて突き放すような言い方をする。ジャックの覚悟を、試すためだ。そしてきっと、ジャックは帰らない。ここまで来て、元に戻ることなんて出来ないだろう。
「................やる、よ。僕、やるよ!」
「今のジャックなら、そう言うと思ってた!もう既に、変わり始めてるんだよ。」
「そうね。この教室に来たばかりのアンタとはもう違う。きっと変わることが出来るわ。」
「ありがとう。2人とも、こんな僕のために....」
駒は無事、手に入れることが出来た。後は、どう使うかだ。そして、どう変わるかだな。




