⑲ジャック
父さんは立派な人です。
貴族階級こそ高くないものの、立派な志を持って、日々、王国のために働いています。
それに比べて僕は....
「おいジャック、これ、ちゃんと実習棟まで運んどけよ。」
「あ、僕達の分もよろしく。」
今日も、また、捕まってしまった....
本当はやだけど、そんな事言えないし、上位貴族であるニックに逆らったら、父さんにだって迷惑がかかるかもしれない。
だから今日も、従うしかないのです。
「はい....運んでおきます。」
次は実習棟で授業がある為、みんな授業に必要なものを持って移動しなければなりません。
1人分の荷物であれば、大した重さじゃないですが、ニック、そしてその取り巻きの、バンジとベイムの荷物を合わせたら、非力な僕にとってはそこそこの重さになります。
実習棟へ移動する途中に、何度もこの荷物を投げ捨ててやろうかと、それが出来ればどれだけ気持ちがいいかと、そんなことを考えていました。
でも僕には出来るはずもなく、やがてなんで学園に入学したのか、なんで僕なのか、なんでこんな事をしているのか、なんで、なんで、気付いたら、そんなことばかり考えている自分がいました。
「ジャック、それ半分持つよ。」
急に後ろから声をかけられて、びっくりした僕はつんのめって転びかけました。
「ご、ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ、大丈夫かい?」
「あ...ゼルノ君...だ、大丈夫。」
「それじゃあほら、よっと。」
そう言って、後ろから急に現れたゼルノ君は、ニック達の荷物を半分持ってくれました。
「....な、なんで?」
「ん?特に理由はないけど、なんか転びそうで危なっかしかったからさ。もっとも、僕が声をかけたせいで、転びかけたけどね。」
彼は爽やかな笑顔で、そう言いました。
「ありがとう....」
「いいんだよ、気にしなくて。」
それから少しの間無言出歩いたあと、再び彼は僕に声をかけてきました。
「....ジャックは、今のままでいいのかい?」
何が?なんて野暮な事は言いません。それは僕が一番思っている事だからです。でも、実際に口を衝いて出た言葉は、とっても情けないものでした。
「....いいんだよ、これで。僕が全部受け入れたら、それで丸く収まるから....だから....」
「そっか、ジャックは色々なものを背負っているんだね。」
入学してからこれまで、数回しか言葉を交わしていないゼルノ君だけど、なぜか全てを見透かされてるような気がしました。
クラスでの彼は、誰に対しても人当たりが良く、明るくて、非の打ち所が無いような人間です。
こんな僕にまで優しくしてくれるなんて....
「...でもさ、いいわけないだろ、って目、してるよ?」
「えっ!?」
急にそんなことを言われて、僕は思わず目を逸らしてしまいました。
なんで?本当に、そんな目をしていたのだろうか。それとも、僕の心でも見えているのだろうか、そういう才能?でも確かゼルノ君は...
「今日、放課後時間あるかい?」
動揺している僕を置いて、ゼルノ君は話を先に進めようとしています。僕には友達がいないから放課後に予定が入ることもありません。
「あ、あるけど....なにするの?」
目を逸らし、伏せていた顔を少し上げて、彼の目を見ながら僕は尋ねました。
「作戦会議だ。」
作戦会議。
全然意味が分からないその言葉に、僕は自分の胸が高鳴っているのを確かに感じました。