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三十路から始める撞球道  作者: 想々
第二章、B級アマナイン編
38/52

アマナイン3回戦 VS真嶋君①


 対戦表を持ってテーブルに向かう、対戦相手は真嶋さんと言う人らしいけど・・


「いや、真嶋君かな?」


 テーブルでこちらを待っていた対戦相手を見てまず思ったのはそれだった。


 若い。


 身長は160cm有るかどうか、童顔で華奢な体格のため高校生と言われても違和感が無い。


 何よりその雰囲気。


 角刈りに近い茶髪に、眉は細く加工されている。紫のシャツに上下とも黒のベストとスラックスなのだが、幼い顔立ちと相まって丁度ベストの丈が「短ラン」みたいに見える、そうなって来ると膝の辺りが膨らんでいて、足首にかけて細くなるようなデザインのスラックスは「ボンタン」にしか見えない。


「中学の時、学年に何人かはこんな感じのヤンチャな奴いたよね」と、懐かしい気分になるような・・


 一言でいうと昭和の香り漂う不良?


20年位前の少年マガジンあたりに出てきそうだ。


 まあとりあえず声を掛ける。


「お待たせしました、よろしくお願いします」


 真嶋君はこっちを振り向くと、意外にも人懐っこい笑顔で


「シャス!!」


 と、挨拶を返して来る、う~んヤッパリそれ系な感じだな。学生の頃だったらそう言った不良っぽい同級生は怖かったけど、この年になると返って微笑ましいというか、あまり怖さを感じなくなるから不思議なものだ。

思わず生温かい目で見てしまいそうになるが、気を引き締める。


バンキングは真嶋君の勝ち、小さな体ながらダイナミックな体重以上でかなりハードにブレイクして来る。


 実際に発言している訳では無いが「オラぁ!!」とか言う声が聞こえてきそうだ。



 3番、6番の2球がポケット、取り出しの1番は見えているし穴にも近い、しかし距離が遠くて振りが無い、2番の位置からしても所謂「入れられるけど出せない」配置である。


 しかし真嶋君はひと呼吸おいた後、気合の入った様子でショットに入る、かなりのハードショットにもかかわらず、体のブレは無い。この辺は体格の小ささがかえってプラスに働いているのかもしれない。


 そして何とロングの1番を強烈に叩き込んだ手球は、いまだ勢いを失わないバックスピンによって、ほぼ同じラインを真っ直ぐ戻ってきて、2番にポジションされる。


挿絵(By みてみん)


ショット後の配置を見て「チッ、、引きすぎた」とか言ってる真嶋君の声が聞こえて来るけど。


「いやいやいや、その距離を引くのかよ!」


 と言わざるを得ない。


 どんだけキュー切れるんだよ、しかも左右のブレがほとんど無いって事は、厚みも撞点もこの上なく正確だって事だ。文章で言うだけなら「ほとんど真っ直ぐの1番を入れてバックスピンで戻した」と言うだけなんだけど、このショットの異常性はある程度実際にビリヤードをやっている人には信じられないくらいだ。


 ともあれ相手のカードが1枚捲れた、入れられるけど出せない様なボールは、ある程度力技で何とかされてしまう可能性が有るので、甘いセーフティーは厳禁って事だ。全く有難くない情報だけど・・


 このままこのセットは取り切られるかと覚悟したが、引きすぎた事により2番への振りが無くなった。

 真嶋君は前クッションから強引に3番に出しに行くも2番がポケットに嫌われてミス、残りの配置は以下の通り、5番を狙えるポケットが下側サイドしかないので4番には厚く出したい。2番の振り的に、球なりに回していくのは旨くない、最悪隠れてしまうだろう。


挿絵(By みてみん)


しかしこの配置なら自分にも使える力技が有る。


「さっきは凄い引き球に驚かされたけれど、押しと捻りなら負けない」


 TADの切れを信じて撞点を決める。手球右上一杯の撞点から的球の厚みの中心に向けて、抉り込む様に撞くべし!


 この時手球のスピードは出来るだけ抑える!

 2番をポケットした後の手球ははクッションを噛んだ瞬間その効果を発揮する。

 

 通常なら斜めにクッションに入ったボールは、入射角に近い角度で逆側に跳ね返っていくものだ、しかし、その手球はまるで物理法則に逆らっている様な不思議な方向に跳ねた、別に魔法でも超能力でも特殊スキルでもない、全てはサイドスピンの強さ、クッションへ入る角度とスピード・・テーブルの上での物理法則の結果であり、それを操るのがビリヤードの面白さだろう。


挿絵(By みてみん)


ギュンギュンにスピンをかけた、やや強引ともいえるショットで4番へのポジショニングを成功させた自分に掛けられた「ナイスショー!」と言う声は真嶋君のものだ、その顔には「中々やるじゃねぇか」とでも言いたげな、挑発的な笑顔が張り付いている、自分も負けずにドヤ顔で返す(笑)


 自分はもっと堅実な取り方が好きだけど、他に選択肢が無いようならこう言う球を撞く事だってやぶさかではない。先に見せられた「鬼引き」に対する対抗心みたいなものも有ったかもしれないけど。


 相手のペースに乗せられるのはあまり良い事では無いんだけど、「やってやるぜ」みたいな思いが沸いてくる、でもそれは全く嫌じゃなかった。


「このゲーム、お互いに多少難しくても攻撃しあう、荒れた展開になるかもしれない・・」


 4番をほぼストップでポケットして、5番をサイドへ丁度良く取れる位置に出た所で、このセットは形になった。残りのボールをいつも通り地味に取り切りつつ、そんな事が頭に浮かんだ。




そろそろ少し派手な球とかも出していこうと思います、ただし実際に使える範囲で。魔球は出ません(笑)

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